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第125話 反撃

 学園祭実行委員会が発足して数日が経った。

 ウチの高校の学園祭は二日目がなく一日で終わるし準備期間も短い。故に放課後は毎日居残って準備に明け暮れる。

 俺はクラスの模擬店の管理を一人で、さらには嫌がらせで増えた本部の仕事と、ノルマが過酷になりつつあった。


「広報部、進行度はどんな感じかな?」

「ホームページは完成しました。ポスターのレイアウトも決まって予定より早く本書きに入り、掲示箇所の交渉も同時進行で進めています。パンフレットの構成案は先生に提出済みです」

「……順調で何よりだ。もっと早く完成させてくれ」


 水流崎先輩は片目の端をピクピクとさせて微笑む。

 実に分かりやすい質問と態度だ。もし行き詰まっていたらチャンスとばかりに俺を叱責するつもりだったのだろう。あらら俺ってば嫌われてる。

 だーがしかーし、仕事は完璧である。あなたに押しつけられた雑務もこなして広報での作業も全力で取り組み、怒られる点は一つとしてない。


「先生からパンフレットの添削が返ってきたら実行委員長にも目を通してほしいのですが」

「いや、俺は忙しい。勝手にやってくれ」


 んなこと言って仕事を押しつけるつもりだろ。そのくせミスしたら全員の前で注意するつもりなのも分かっている。

 分かった上で俺は「分かりました!」と頷く。ぜってーにミスはしない。


「ち……。そうだ柊木、当日のプログラムの書き方を教えるよ。こっちに来て」


 水流崎先輩は椅子を引いて久奈を呼ぶ。もしあそこに久奈が座れば二人の距離は近すぎる。

 許してたまるか。ビビッていては守れない!

 俺は大きな音を立ててプリントを水流崎先輩の前に叩きつける。


「当日プログラムが決定しているなら丁度良かったです。早速パンフレットに記載しますので教えてください」

「……今は忙しいんだ」

「副委員長に書き方を教える前にこちらが優先だと思います。早く完成させてくれ、とおっしゃいましたよね?」

「……」


 邪魔をするな、ともおっしゃっていますね。注文が多いですこと。

 ……俺は揺るがないからな。こちとら寝る間も惜しんでアホな頭を必死に使って齷齪と人一倍働いている。お前に、文句を言わせない為にだ。


「どうしました水流崎実行委員長?」

「……ああ、ごめん。プログラムはまだ決まっていないんだ。だから君には他の仕事を頼むよ。体育館倉庫からアーチを持ってきてくれ」

「アーチ……? 正門に立てかけるアレですか」

「ああ。見て色々と参考にする。人手が足りないから一人で頼む」


 意地汚い微笑みも、この人の容姿が良いせいで映える。

 ……正門のアーチを今ここに持ってくる意味が分からない。広報部の仕事ではないし、ましてや一人でなんて不可能だ。


「はい、分かりました」


 でも俺は了承する。

 すぐに会議室を出て携帯を鳴らす。






「邪魔者はいなくなった」

「……水流崎先輩、近いです」

「はは、そんなことないよ。あ、ごめん、消しゴムがスカートのうえに落ちたね。今拾うから……」

「持ってきました!」


 俺はアーチのパーツを抱えて会議室に飛び込む。

 職員室で鍵を借りて倉庫から取ってきて、おおよそ七分。良いタイムだ。

 水流崎先輩はぎょっと目を見開くも、唇を広げて元の笑顔に戻る。


「持ってきたのは一部分だけか? 困るな、全部持ってこないと」


 驚いた顔を隠しているところ失礼、すぐに剥がしてあげます。

 俺の後ろには、残りのアーチを軽々と持ち上げた二人がいる。麺太と勅使河原さんだ。


「なっ……!?」


 正門アーチは分解されて保管されており、一人で一つを運ぶだけでも相当に大変だった。常人ならね。

 後ろの二人、その一人はアホ麺の体力馬鹿、もう一人は学年一の怪力娘だ。

 この二人に頼んで正解だったよ。おかげで水流崎先輩の鼻を明かしてやった。


「参考にするんですよね? あいあいどうぞ、ん? 久奈、スカートの上に消しゴムが落ちてるぞ」

「なお君取って」

「あいあい」


 消しゴムを拾って麺太と勅使河原さんにお礼を言う。二人はニッコリ笑顔だ。


「ちっ……自分の作業に戻ってくれ。そうだ、アーチより今の正門の状態が気になるな。確認は大事だ。柊木、一緒に見に行くよ」

「私は作業があるので行きません」

「……後で俺が一緒に手伝うよ。いいから来て。俺の、実行委員長の指示だ。さあ」

「「久奈ちゃんっ」」


 水流崎先輩と久奈の間に割って入る、元一年二組のトップカースト女子。金城と関さんだ。


「手伝いに来たよ~。一緒にやろやろ~!」

「水流崎先輩、二年の関です。正門の確認はお一人で十分だと思いますっ。久奈ちゃんは女子の意見も分かる副委員長なのでこっちを手伝ってもらいまーす」

「な、何を」


 と言って水流崎先輩が狼狽えたところでもう遅い。

 金城と関さんは久奈を連れて、女子達が固まっているテーブルに移動した。一年生から三年生まで全学年の女子メンバーが揃っている。

 うーし、追撃だ。俺は書類を持って水流崎先輩の前に立つ。


「一生懸命運んできたアーチですんで、時間を有効に使う為にも早く正門の確認をしに行った方が良いと思いますよ。あと当日プログラムの作成とポスターのチェックもお願いします、実行委員長の確認がないと先生に何か言われるので。ホームページに質問メールが何件か届いているので、実行委員長が責任持って答えてください」

「……アーチ以外にも看板も持ってきてほしかったね。これじゃあ参考にならない」


 指示していないくせになんつー言い分だよ。


「でしたら」


 だーがしかーしパート2なり。残念、通用しませんよ。

 俺が言うと同時に長宗我部が看板を持って現れた。


「正門の壁に立てかける看板を持ってきました」

「お疲れさん長宗我部。実行委員長、こんなこともあろうかと友達に頼んでおきました」

「……」


 水流崎先輩は完全に黙った。

 口を開いて、閉じて、表向きの颯爽と晴れやかな笑顔は剥がれ落ちた。偽るべき場で隠しもせずイライラを全面に出した水流崎先輩は床を蹴りつけるようにして一人会議室から出ていく。

 と、俺の中で悪魔と天使が『もっとやれ』と囁いた。遊園地で見た悪態カップルの彼氏のヘラヘラした顔が脳裏に浮かぶ。


「俺は七分でアーチを持ってきたんで実行委員長もそれくらいの時間で戻ってきてくださいよー。十分を過ぎたらうんこかなと思っちゃいますよぉー」


 廊下に出たあの人に聞こえたかは定かではないにしろ気分は清々しく、スカッと日本。

 ……作戦は大成功。全ては、みんなが協力してくれたから。


「金城、ありがとう」

「いいってことよー」


 水流崎先輩を放置すれば久奈に危険が及ぶ。

 正直、俺が一人で抗っても限界がある。出来ないことがある。

 そこで俺が相談したのは、金城。

 二つ返事で了承してくれた金城は、水流崎先輩と久奈を分断させるには女子メンバーを味方にすべきだよ、と提案して金城と関さんが女子達に働きかけてくれた。三年生は水流崎先輩の悪い噂を一番知っているのですぐに協力の意を示し、一年生と二年生は金城のカリスマ性であっという間に掌握したそうな。


「あたしも水流崎って人の嫌な噂は知ってたからね~。あーゆーのは少しの隙を狙ってくる。こっちもすぐに対策を考えて迎え撃つべしっ、なのだーっ」


 曰く、水流崎先輩のような人は短期決戦を好む。時間をかけて落とすのではない、下手すれば一日で襲いかかるところまで関係を持っていく手腕とトークスキルがあるらしい。何それ、超モテ男かよ。

 が、思い通りにはさせない。

 これからは常に久奈の周りを女子で囲む。二人きりになんて絶対にさせない!

 実行委員長の権限を使えば簡単に事が運ぶ、と思っていたんだろうな。こちらサイドは味方だらけでございます!


「長宗我部と勅使河原さんもありがとうな」

「問題ない。囲碁部は学園祭で何もしないし、久土を手伝ってやる」


 長宗我部と勅使河原さんは鷹揚に微笑んで、麺太もアホ面で笑う。


「クラスの模擬店は僕と金城さんが最強のお店にするよ!」

「そだよ~。向日葵君が究極ウザイけど頑張る~」

「究極? 金城さん今、究極って言った!?」


 金城もケラケラ笑って、関さんが「二年の指揮は任せてっ」と言って笑顔とピースサイン。

 みんなが協力してくれる。みんなが笑って手を貸してくれる。

 俺、良い友達に恵まれていたんだな。なんかいつも振り回されているから気づかなかったわ!

 うん……みんな、ありがとう。


 っし、最後まで全身全霊で戦ってやる。あの薄っぺらいクソ微笑みには負けない!

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