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第122話 見覚えのある実行委員長

 久奈に引っ張られて辿り着いた教室には、四つの長テーブルがロの字を形成していた。

 椅子に座る生徒は、見慣れた同学年以外にも一年生や三年生がいる。


「お、久奈ちゃんと久土君だー」


 元クラスメイト、今は違うクラスの関さんがひょいひょいと手招きしてきた。

 あ、そっか。実行委員の会議だ。てことは関さんも実行委員ってことね。顔見知りがいるのはちょい嬉しいよ。どんぐりガムが当たった時ぐらい嬉しい。あれ今も販売してるの?


「全員集まったね。学園祭実行委員会を始めようか」


 一人の男子生徒が立ち上がり喋る。

 四つのうち前方のテーブルに座っていたから、位置的に考えてあの人が実行委員長、て……ぁ。


「はじめまして。三年の実行委員長の水流崎章宏(つるざきあきひろ)です」


 爽やかに笑う男子生徒に、俺は見覚えがあった。避難訓練の時、保健室で邪な行為をしていた人だ。

 あの人知ってる。え……あの人が実行委員長!?


「今日から当日まで、実行委員のみんなは大変だろう。自分のクラスの準備で忙しいと思う。けれどみんなで団結して最高の学園祭に」


 ぐりゅりゅりゅりゅ。

 話の途中、俺は手を挙げる。


「二年の久土です。すみません、お腹が痛いので退席していいでしょうか」


 途端に教室中がザワッと揺れる。

 あ、いや、冷やかしの類ではなく本当に痛いの! 俺の顔面を見てよ、アンダマン海みたいに真っ青でしょ?


「うわぁ朝昼夕ゲロ男……」


 関さんが怪訝そうに呟いた。

 ちょ、やめて、ゲロ男と言われたら「じゃあ吐いてもいいかな? いいともーっ」的な思考になって吐きそうになるうっぷ!


「体調が悪いなら仕方ない。いいよ」


 ゲロ男のキモさを知る二年生達から漂う不穏な空気を察したのか、実行委員長は快く許してくれた。

 ひたすらに爽やかで優しい微笑み……が、微かに歪んだ。少し、目をぎょっとさせて俺を睨む。

 ……どうやら俺と同じように向こうも顔を覚えているらしい。ひえぇ、腹がさらに痛くなってきたたた。


「ごめん久奈、後は頼む」

「ん、任せて」


 とりあえず急ごう。下手するとこの場で嘔吐しそうだ。いよいよゲロ男の蔑称が全学年に轟いてしまうで!

 俺は教室を出ると、無理せず且つ急いでトイレへと向かった。






「ところで、君も二年生?」

「あ、はい。二年の柊木です」

「へえ……。では会議を再開する。最初に、副委員長を決めようか」











「あー、激戦だった」


 手を洗いつつ鏡を見ればやや青い自分の顔。せっかくのイケメンが台無しだ。


『何言ってんだ、お前フツメンだろ』


 うるさいぞ悪魔。出てくるなと言ったはずだ。

 洗った手をピッピと振るって、ついでに頭上の悪魔も手で追い払う。ハンカチ? 男は黙って自然乾燥だろ。


「さて急がないと」


 実行委員の会議が行われている教室へと戻る。

 体調不良とはいえ、第一回目の会議でいきなりの退席は悪印象だ。デスゲームに召喚されて、チームで乗り切ろうと言った直後に別行動する一匹狼キャラくらい印象が悪い。そして例えも悪い。


「す、すみませんでしたー」


 遠慮がちに扉を開けて、って、え……。


「スローガンも決まったし、一致団結して頑張ろう」


 教卓の前では実行委員長の水流崎先輩が微笑みを浮かべて喋っている。

 その隣には、久奈が立って……な、なんで?


「戻ってきたか。体調は大丈夫かな?」

「は、はい。あの……」

「では自分の席に座って」


 え、ちょ……どうして久奈が前に立っているのん?

 状況が分からないまま自分の席に座ると、肩をツンツンと突かれた。元クラスメイトの女子、関さんだ。


「久土君がいない間に久奈ちゃんが副実行委員長に選ばれたんだよ」

「マジデカ」

「実行委員長が久奈ちゃんを副委員長にするって言って、そしたらトントンと話が進んでさ」

「マジデカ……」

「ちょっとヤバくない?」


 そう言って関さんは顔をしかめる。俺の耳元でヒソヒソと囁いてくれた。


「水流崎先輩のこと知ってる? あの人、女たらしで有名だよ」


 前方に目をやる。

 長身で、クセが強いながらも良い感じに毛先をはねさせた髪の毛。顔は、俗に言うイケメンってやつだ。俺の脳内で悪魔が『よく見とけ、ああいうのをイケメンって言うんだ』と話しかけてくる。

 確かにイケメンだけど。だけど、あの人は……。


「三年の美人さん全員に声をかけたらしいよ。……手もかけたって。何股もして、悪い噂が絶えないよ」


 俺もその光景を見たことがある。保健室でそういった行為をしていた。これまでにも相当ヤンチャなことをしてきたのだろう。

 何より俺の不安が膨らむ原因は……あの人の喋り方と態度が全く違うということ。

 保健室でバッタリ遭遇した時は冷徹な瞳で俺を見下ろして気の強そうな口調だったのに、今は常に微笑を浮かべて穏やかな話し方。

 俺には、それが好印象を押しつけてくるような、良い人を演じることに徹しているように映った。


 いや、間違いなくそうに違いない。直感が告げている。作りあげた薄い笑顔の仮面、その下に潜むのは……。

 そんな人が、久奈を副委員長に指名した。久奈を自分の隣に置いた。つまり、


「あの先輩、久奈ちゃんのこと狙っているね」

「……」

「ヤバイって。タチが悪いってことでも有名だから……」

「……」

「ちょっと? 黙らないでよ」

「マジデカ……」

「それしか言えないの? 黙って」

「黙るor黙らないどっち!?」


 関さんにチョップされ、たまらずツッコミを入れた際に声を荒げてしまった。

 周りから視線を浴びる。あ、す、すみません。


「そこ、静かに」


 水流崎先輩に注意された。ひいい!


「質問はないかな? じゃあ以上で会議は終わりだ。柊木は俺と一緒に職員室に来てくれ」


 顔の表面に薄いスマイルを貼りつけて、水流崎先輩は久奈の肩に手を置く。待っ、久奈は男が苦手なのに……っ!

 そのまま水流崎先輩は教室を出ていく。久奈を連れて……。


 どうしよう……。久奈が……。

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