第120話 男子が決まり、三人の女子は手を挙げる
俺が実行委員、だと……!?
「いや最悪だこれ! 不運にも程がある!」
あのクソ担任んんん。ノリで決めるんじゃねぇ!
しかも来てすぐに出ていった。様子見の短さたるよ。アサガオの観察でももう少し眺めるわ! You○ubeの広告でももう少し見るわ!
「みんな待とう! 俺のこと知らないの? あの究極完全態グレートアホゲロ男の久土直弥だぜ?」
そんな俺がみんなをまとめる存在になっていいのか。プレッシャーのあまり容易く嘔吐するよ? 究極完全態グレートアホゲロ男だぜ!?
「実行委員なんて無理に決まってますやん」
「きっと久土なら出来るってー。さあファイト~」
「うわぁもうテキトーになってる……」
元を辿れば金城のせいだぞ。君が前に行けと言わなければ俺が選ばれることはなかった……運命の歯車さぁん……。
たまらず教卓に突っ伏してしまう、そんな俺の背中をバシンバシンと叩くのは火藤さん。どうやら復活したらしい。
「シャキッとしてください! 工藤君がみんなを引っ張らないといけないんですからね!」
「うへー……」
やる気が起きません。実行委員は面倒くさい。
責任を押しつけられてミーティングや会議に出席して書類を提出、パッと思いつくだけで嫌な仕事内容だ。
「リーダーになれるのにどうして嫌がるんですか! 意味が分からないです」
「ディスイズ価値観の相違」
「とにかく決定です! 一緒に頑張りましょう!」
そう言って火藤さんは黒板に『実行委員男子 工藤君』と書く。
「せやから俺は工藤じゃなくて久土や言うとるやんけ」
「工藤ですよね?」
「く、ど」
「クドー君!」
「ゲドー君みたいに言うな!」
嘘だろ? まさかの実行委員だよ。自分はならないと思っていたのに……。
「ったく……えー、俺が実行委員で良いと思う人は拍手してください」
問うと疎らながらもパチパチと拍手が送られた。
俺で、いい、のね? 何その微妙な感じ、俺はやらなくてもいいんだからね!?
「賛成多数で可決ですっ。工藤君おめでとうごぞいます」
「君の目と耳はどうなってんの!?」
すごく、すんごく、すーごーく嫌だが、決まってしまった以上どうしようもない。
ここで拒絶したら空気が悪くなる。んだよ久土の奴空気を読めよ、と非難の嵐が巻き起こるだろう。
……はぁ、今回は俺が頑張りますよ。
「嫌々ですがぁ、俺に決まりました。それで、女子からも一人決めないといけません」
実行委員は各クラスから男女一名ずつ。男子は俺で、女子からも選出しなくてはならない。
「やってもいいよって人はいますか?」
また時間がかかるんだろうなぁ……嫌だなぁ、げんなりだなぁ。
「ん」
「はーいっ」
「はい」
「ほほほーい!」
四人が手を挙げた。順に久奈、金城、火藤さん、そして麺太。
「おいテメェ、女子だっつってんだろ」
「あたち、向日葵麺子」
「結局キラキラネームか」
「麺子はポピュラーでしょ! 索子とか筒子とかあるじゃん!」
「麻雀牌だろうがよ!」
いいから黙ってろ! お前が入ると話し合いが長引くんだよ。これじゃあ麺が伸びちゃう、て馬鹿野郎!
「麺子は論外として、君ら三人は急にどしたの」
久奈、金城、火藤さん、手を挙げて俺を見つめる三名。
さっきまで手を挙げなかったくせになぜこのタイミングで立候補したんだ。
「あたしも少しは責任感じているんだよー」
謝意を込めつつテヘペロと舌出す金城。
一応申し訳ないって気持ちはあったんだね。じゃあ許すよ。俺チョロイ!
「久奈はなんで?」
「それ聞くのは野暮だよ~」
久奈の代わりに金城が答えた。
え、野暮なの? 久奈黙ってるし……。
「分かったよ。じゃあこの二人から決めようか」
「クドー君! 私もいます!」
隣でキンキンと響く声に耳覆いたくなる。耳キーンだ。鼓膜破れる。誰か高級耳栓のスキルが付加される装備持ってきて。
「火藤さんは学級委員長だ。実行委員と兼任は大変だという配慮でっせ」
「だ、大丈夫です」
「と言われてもなあ……」
配慮とは建前。本音を言うと、この子はポンコツだから実行委員になられても困るのです。
確実に俺の負担が増えるよね? 凄惨たる未来が容易に描ける。
「ふんっ、工藤君だと頼りないから私が面倒みてあげます」
わーお、ザ・上から目線。
「この私に任せてくださいっ」
「あたしはまあどっちでもいいかな~」
「なお君」
誰かやってくれないかなーと思っていたら、まさかの三人のうち一人を選出という事態。
さてどうやって決めようか。
『火藤さんが良いですよ』
『久奈さんが良いですよ』
『金城エロイぜ』
選択肢みたいのが浮かんできたけどこれ天使と悪魔の仕業だろ。分かってんだよ、出てこいや。
『ういーす』
気さくなノリで挨拶してくる悪魔。こいつが『金城エロイぜ』の選択肢を作ったのはすぐ分かった。
エロイから何? エロさで学園祭実行委員を選出するのはおかしい。
『とか言いつつ金城がエロイのは否定しないんだなぁ?』
うるさい。そこを指摘すな。金城のスラッとした足や小麦色の肌、平均以上のサイズのアレがエロイとか思っていないから!
……本当ダヨ? 嘘ジャナイヨ?
『ふふっ、ムッツリですね』
天使さぁ、お前なんなの? お前は善の心だろ? 追撃してくるんじゃない。お前に助けられたこと一度しかないからな。家賃払え。
「工藤君聞いていますか!?」
「鼓膜が破れる。え、何」
「久土が決めたらいいと思うよーって話してたじゃん」
不良(ヤンキーって意味)悪魔と不良(粗悪品って意味)天使を追い払い、真面目モードになって考察しよう。
火藤さんは真面目でやる気があるけどポンコツ。フォローが必須、心的ストレスが半端ない。
金城は優秀でも俺をイジる傾向にある。心的ストレスではないから構わないけど、悪魔の意見に従うみたいでなんか嫌。
「じゃあ、久奈がいい」
久奈を選ぶ。消去法じゃない。仕事の優秀さ云々は顧慮せず、単純に久奈が良い。一番やりやすいだろうし。
『ヤりやすい? おいおい~、何するつもりだよ~?』
『ムッツリスケベですね』
お前ら二度と出てくるな!
「久奈、いいか?」
「んっ」
いつもの「ん」より元気だった気がする。
良かった、やっと決まりましたわ。
他の二人は、まあ予想してた反応だな。
「あたしは二人のサポート頑張るよ~」
「どうして私じゃないんですか!」
ニコニコ笑う金城と憤慨する火藤さん。
「もうっ、どうしてあたちを選んでくれないのよっ、直弥ひどいよっ」
麺子、お前は教室から出ていけ。




