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第115話 猫ランジェリー

 GW! イッツァゴールデンウィーク。二日目です。

 部屋でのんびりゲーム。ムジュラが面白い。前作の歌が登場するのが良いね。


「あはは手が止まらなってぃ。今日はひたすらプレイしまっせ~」

「なお君」

「あひゃぁ!?」


 ベッドの上でゴロンゴロン寝転がる俺を見下ろしていたのは久奈。

 音も気配もなかった。石コロの仮面かな!?


「ま、また勝手に入ってきたのかっ」

「ん」

「いや得意げに肯定されても……。まだ八時だぞ」

「ん、もう八時」


 俺と久奈では時間の認識が違うらしい。グラスに半分ワインが残っているのを見てまだ半分もあると思うのか、もう半分しかないと思うのか、的な?


「起きて」

「はいはい。で、今日もお外ですか?」

「んーん。今日はお部屋」


 久奈は上着を脱ぐと座布団の上にちょこんと座る。

 女の子座りだ。女の子座りとは女の子限定の座り方。以前、俺が挑戦したら太ももが悲鳴をあげた。


「部屋で何するんだよ」

「のんびりしよ」

「のんびり?」

「ん。勝手にくつろぐからなお君も好きなことしていいよ」


 そう言って久奈はマイダーツを取り出し、布でバレルを拭く。手入れは大事。

 俺も好きなようにすればいいんだよな。分かりました。英語で言うとアンダースタン。


「RLYRLYで時の逆さ歌~」


 てなわけで~。ベッドの上に倒れこんでゴロンゴロン、ゴロン族~。スリープ状態だったゲーム機を開いて再びタルミナの世界へ。


「グレートベイの神殿はヤバそうだ。詰む予感がする」

「……」

「水の神殿もそうだったし俺は水系ダンジョンが苦手なのかも」

「……」

「ロマニーってどう見てもマロン……ん?」


 俺の視界にはリンクが奔走している姿が映っている。その視界の端で、久奈が動いているのが見えた。

 何をや……え……?


「……」


 久奈が上着を脱いだ状態からさらにTシャツを脱ぎ捨てた。

 露わになったのは、久奈の肌。匂やかで白く透き通っており、それに映える黒の肌着。ただただ美し……い、いや待って。待って、おかしい。

 ……久奈が上半身だけ下着姿になっていた。


「え、あ、い、お?」


 たちまち俺の脳は混乱。母音しか声に出せない程に窮する。え、え、え、え、え、えええぇ!?

 しかも、胸元が空いている。それはもしや以前ブームになった、猫ランジェリーというやつでは!?


「あ、え、う、う、い?」


 いや俺はいつまで母音ばかり出してるのぉ!?

 ツッコもうよ! この子サラッととんでもない格好になっているんだぞ。いとも容易くR15の壁に手をかけたぞ!


「あの、何をやっているんでひゅか」

「暑い」


 久奈は一言返してちょこんと座ったまま俺を見つめる。

 そっか。五月だもんね。暑くなってきたよね。うんうん。


「すー、はー」


 息を吸って、吐いて。

 みんなー、いくよー。せーのっ、


「それでも下着姿は駄目だよ!?」


 駄! 目! だ! よ!?


「馬鹿っ。早く着ろって」

「これでいいの」

「良くない! 全然良くない!」


 何をしているんだ君は。淫乱なの? これが淫乱ってやつ? イズディス淫乱!?

 ヤバイ。ポッカリ開いた胸元や腰とお腹、見慣れない部分の白い肌をどうしても目で追ってしまう。

 脳がオーバーヒートしそうだ。ツッコミを入れて誤魔化そうとしても視界に映る光景にクラクラと眩暈が……っ。

 トドメの一撃は猫型の空いたスペース。本来そこには女性らしさを象徴とする深い谷間が見えて、キュートな猫の形をハッキリと作り出す、それこそが猫ランジェリー最大の魅力だったはずだ。

 だが、久奈はお胸が控えめ系女子なので、うん、その……スカスカなのだ。猫が歪んで悲壮感が出ている。ぺたーんって音がどこかから聞こえてきそう。




 それが可愛い! そこが良い!

 控えめ系、だからこそ敢えて言おう、猫ランジェリー最高っっっ!


『へへっ、やっちまおうぜ』


 オラァ!


『な、殴るなよ』


 悪魔は引っ込んでろ! 絶対に出てくるな! ガチで殺すぞ!


『こ、怖っ……わ、分かったよ……』


 悪魔が消えて俺は再び悶え苦しむ。

 あぁあぁ久奈の猫ランジェリー姿はヤバイ。猫ランジェリーの良さを一切引き出していないことが逆にヤバイ。俺にとってはありがたい膨らみなんです!

 だが、手放しで喜べない。少しでも気を抜いたら理性が……っ。


「なお君」


 そもそも下着の時点で理性は半壊した。久奈のお腹やおへそを見るのは小学生以来。

 俺が理性を保てているのは奇跡だ。それ程に、雪のように白い肌の露出は圧倒的破壊力を誇っていた。


「ねえなお君」


 見ては駄目だと言い聞かせても眼球は命令に従ってくれない。瞼も全力で働いて一瞬として閉じようとせず、見れば見るほど俺の体温は上昇していって心臓は暴れ狂って止まらない。

 っ、だ、駄目だぞ直弥。欲情に負けるな。相手は幼馴


「なお君」

「ふぬへ!?」


 ベッドの上。久奈は俺の上に跨っていた。イツノマニ!?


「だから服を」

「これでも、駄目?」

「に、にゃにが?」

「私……魅力ない……?」


 あるに決まってるだろ! 魅力しかねーよ!

 これだけ脳内でツッコミを炸裂させ吠えまくっても、実際の俺の口は弱々しく動くだけでろくな言葉を発せられない。

 間違いなく、完全に、俺は久奈のエロさに魅入られていた。


「なお君……」


 その呼び方にも色気を感じる。久奈が発する言葉、吐息、機微たる一挙手一投足が俺の理性を削り取っていく。

 久奈はぐっと近づき、枕元に両手をついた。ブカブカの胸元の布が浮く。っ~!?

 角度を変えれば完全に見えてしまいそうなその穴、その隙間に手を突っ込みたくなる衝動が一気に脳を揺らす。


「恥ずかしいけどなお君には見せても……っ」


 露出された肌にばかり奪われていた俺の目は改めて久奈の顔を捉える。

 久奈の無表情は、いつもとは全く違う大人の妖艶さで溢れていて……俺の中で何かが壊れた。


「久奈……」


 壊れた心から剥き出しの想いが飛び出した。欲望のままに襲いかかれ、と。

 俺は手を伸ばす。成長した久奈の、初めて見る小さな膨らみに向けて手を……











『駄目ですよ直弥。こういうのは正式に付き合ってからです』






「せい!」

「っ、なお君?」


 俺は久奈を抱きしめて自分の胸元に押さえ込むと布団を被る。


「ぶははは! どーだ、これで何も見なくて済む!」


 抱きしめた状態の上から布団! 久奈の肌は全く見えません。

 よくやった、よくやった俺ぇ。人生最高のナイスプレー。

 サンキュー天使! 寸前で理性が蘇った。ギリ間に合ったよ!


「……んー」


 もぞもぞ、と胸元から久奈が顔を出す。

 その顔は不服そうなしかめ面……あ、無表情じゃなくなっている。


「なお君のビビリ」

「な、なんとでも言いやがれ」

「……頑張ったのに」

「頑張りすぎ。あと少しで本能の赴くままにルートだったぞ」

「んんー……!」


 久奈は不満でならないらしい。頬をいっぱい膨らませて俺を睨みつける。

 拗ねた表情でも俺にとってはすっげー嬉しい。

 ……本当に嬉しいよ。でもな、今はまだこんなことしちゃ駄目なんだ。


「久奈は可愛いよ。可愛くて魅力的だ」

「だったら……」

「はい良い子良い子。今日はのんびりするんだろ? じゃあ今日はずっとこのままだ」


 俺は思いきり抱きしめる。おでこをくっつけて吐息が重なり溶け合う。

 ……嬉しかったよ。だから、もう少し待っていてくれ。

 いつか必ず告げる。お前を笑顔にさせて、大好きだと伝えてみせるよ。


「んん」

「不満げな顔をやめさない。ほら、いつもみたいに無表情になれ」

「なお君痛い……」

「じゃあ少しだけ緩める。でも離さないからな」

「ん、少しだけ。離さないでね」


 良かった、久奈の機嫌は直ったみたい。俺の視界いっぱいには見慣れた無表情が映っていた。

 ベッドの中、布団に包まれ、俺と久奈は抱き合う。






 でも…………やっぱり、もったいなかったかな。人生最大のナイスプレーどころか最悪の失敗だった?

 あれビッグチャンスだったよね? あのまま欲望のまま、襲いかかれば……っ、な、ななな何を後悔しているんだ。これでいいんだよ!



 ……あぁ、ビビッてんじゃねーよ俺ええぇぇえ。

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