第11話 ゾンビ男になったゲロ男
ハロウィンと言えば仮装。ここ近年の仮装はアニメのキャラやら派手なコスプレが増えてきたがやはり定番として外せないのはホラー系だ。つまりゾ・ン・ビ♪
「早く歌うわよ、はる……きゃあ!?」
「うわキモッ! 何こいつ超キモッ!」
俺と同い年くらいの高校生カップルがこちらを見てめちゃくちゃビビっている。そりゃそうだろうさ、今の俺は……ゾンビだ!
トイレに籠ること数分。ドーランで顔面を不健康な白に染め、その上から傷シールを貼る。母さんから拝借した化粧道具のアイシャドウで目元をくぼませて、パーティー用の血のりで口から血を吐いたように演出。完成したのはゾンビ男。俺個人の変顔も相まってグロさとキモさは抜群。おめでとう、俺はゲロ男からゾンビ男に進化した!
ではなぜ俺が仮装にゾンビを選んだか。それにはちゃんとした理由があーるっ。久奈は笑わない。そこから論点をズラして考えると、久奈は笑わないというより表情に変化がないのだ。
ならば、まずは無表情を崩してやることが始めるべきではないか。笑いではなく別のリアクションを求め、思いついたのは驚かせるという発想。
「クソキメェなお前。お前とうんこ、どちらか直視しろと言われたら俺はうんこを見てうんこをお前に投げるわ」
カップルの男の方が口悪く俺をディスるが気にしないでおこう。ゾンビメイクは良好なことに気を良くした俺は意気揚々とパーティールームの扉の前に立ち、ゆっくり息を吐く。
久奈は昔から怖いものが苦手だった。先程もミイラ男を見てビクッとしていたし。ゾンビの俺が突如乱入して襲いかかれば久奈は間違いなく驚く。つまり、久奈の表情が変わるってことだ! それは久奈を笑わせることへ繋がる一歩だと思う!
「よし、行くぜ……」
十分に深呼吸し、覚悟を決めて俺は勢いよくドアを開けた。
「うおおおおおぉ……!」
この時の為にバイハザシリーズで研究してきたゾンビっぽい呻き声。
「きゃあああ!?」
「久土君がゾンビになってる!」
「中々のクオリティでキモイ!」
入口近くにいた奴らはもれなく全員のけ反り、女子は悲鳴をあげる。いいぞいいぞ~、驚きやがれ。さあ久奈はどこにいるかな~?
お、いたいた。久奈は自分の席から動いておらず、その周りには数人の男子が囲んでいた。金城もいる。あそこだな、よーし!
「うおおおぉぉ! ぐごごごごごごごぺろぺろにゅふふふぅ!」
ベットリと血のりをつけた手を前へ突き出して久奈の方へ突撃。感情の込めるのも手を抜かない。本気で襲い肉を食らう気持ちで徹底的にゾンビになりきる!
久奈を囲んでいた男子達は驚き慄いて逃げていく。テーブル席に残ったのは久奈と呆れ顔の金城。いよいよだ、久しぶりに久奈のリアクションが見られる!
「ぷりゅりゅりゅこぴこぴぬはは~ん!」
嬉しくて奇声が出ちゃうビクンビクン。久奈のリアクションを見るのはいつ以来だろうな~。ホントお前ったら顔に出ないよね。嫌になるぜっ。
さあさあ、良い反応を期待してまっ…………え
「なお君……」
久奈は泣いていた。ボロボロと瞳から溢れ、頬を伝い、足元へ落ちていく透明の滴。
「え、ひ、久奈?」
いつもと変わらない無表情の顔。でも、分かった。俺は分かった。久奈が……怯えていることに。涙は止まらない、零れていく。何度も何滴も。
久奈は立ち上がると俺の方へ来た。ポスン、と自身の頭を俺の胸へつけると声にならない声で泣く。思わず体が硬直して動けない。
「うぅ……っ」
「ちょ、ど、どうした!?」
「お前がどうしたあぁ!」
「えいだ!?」
久奈の横から飛び出してきたミニスカポリスこと、金城による強烈な跳び蹴りが俺の顔面を襲った。たまらず奇声をあげ、俺の体は後方へ吹き飛んでいく。
き、金城ぉ、それマジ蹴り……がふっ。