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第109話 ビデオ通話

 リビングでソファーに座って唸る。俺は超考えている。超真剣に超思考中だ。

 実はさ、気づいてしまったんだよ。久奈は……


「うんうんうるさいわアホしばくぞ」

「ぎゃう!?」


 思いきり突き飛ばされた。ソファーから床へ叩き落されぎゃう!

 なんだおいと見上げた先には、ソファーを独占しどっしり座ってぬれおかきを食らう母さんがケタケタ笑ってドラマ鑑賞。

 一般の家庭なら母親に突き飛ばされた時点で大問題だろう。久土家では歯磨き程度の日常さ。麻痺してる感はある。


「やっぱガッキー美人や。若い頃の私にそっくり」

「だからふざけんなよ? ドーラがシータを見た時のような台詞を言うな」

「あ? アンタの世話してるん誰やと思てんねん。一人じゃ生きていけないガキがいちびんなや」


 ぐうの音も出ない最強のド正論を即座に放ちやがったよこのおばさん。

 それは親が子供との口喧嘩で最終的に言う切り札であって普通の会話で使用されるものじゃない。そして今のが普通の会話だと思っている俺はやはり麻痺ってる。


「悩む息子を無下にするなよ」

「野グソ愚息虫のことなんてどうでもええ」

「母さん、さすがに野グソ愚息虫はネグレクトが過ぎるよ……」

「悩むなら自分の部屋でしぃや。あ、その前に食器洗え」

「家事やってねぇじゃん!」

「たまには主婦の手を休ませーや。邪神が住んでるんやぞ」

「それ前回も聞いたぞ! 何それ流行ってるの!?」


 まともな料理は作らないし皿洗いは息子任せ。何が世話してるだ! してねーだろ! 母の愛情は何処へ!?


「はー、母さんとはいつも喧々してるなぁ」


 食器を洗い終えた後、自分の部屋に戻ってベッドに沈み込む。

 母さんとの会話で荒んだ心を癒してもらおう。携帯を手に取って写真フォルダを開く。


「あぁん、久奈かーわーうぃーうぃ~」


 キモイ声が出ちゃうのは致し方なし。だって俺の幼馴染可愛いもんっ。

 遊園地で撮った写真の数々。二人並んで場内を歩く姿や、ピースしたり、久奈が俺の胸元に抱きついている写真をスワイプし眺めていく。

 うむ、やはり久奈は可愛い。超可愛い。

 孫は目に入れても痛くないと言われるが俺もそんな気持ちだ。久奈なら目に入れても平気、寧ろ積極的に収納したいくら


「あでっ」


 手から携帯が滑り落ちて眼球に直撃。

 ぐぬへっ、これ痛い! 携帯は目に入れたら痛い! 寝ながら携帯見るのは危ないから気をつけようね!


「おおおぉ……!」


 目を押さえて悶え転げる間も、悩み事だけは消えず頭の中を駆け巡る。

 悩みというか、気になることがあるんだ。

 正直ね、気づいていますよ。俺は馬鹿でアホだけど鈍感ではない。


「……俺が見逃しているだけで、久奈は笑っているんじゃなかろうか」


 あいつが俺の腕や胸元に抱きついて顔を隠すのは笑っているからだと思う。思うというか確実にそうだよね、あの子隠れて笑っているよね!?

 そうなると次に気になるのは久奈が笑う理由について。

 例えば前回の遊園地、アイスを食べた時やキーホルダーを買った時も顔を隠していた。


「気づかなっただけで俺は久奈を笑わせる行為をしていたのだろう」


 しかしそれがいくら考えても分からない。アイスもキーホルダーも普通のことだ。特別なイベントではない。じゃあなぜ笑ったのか……?

 分からないがとりあえず状況を再現してみよう。もう一度やる価値はある!


「もしもーし」

『何?』


 久奈はすぐに電話に出てくれた。画面に久奈の顔が映る。そう、ビデオ通話だ。

 これなら笑った顔をバッチリ拝める。久奈の笑顔をゲットだぜいえいえいえいえいえいえー!


『どうしてビデオ電話なの?』

「え?」


 あ、ヤバ、あなたを笑わせる為とは言えない。

 えーと、そうだな、


「久奈の顔が見たくなったんだ」

『……』


 画面から久奈が消える。ん? どしたのさ?

 戸惑っていると久奈の代わりににゅっと現れたのは栗色の髪、小麦色の肌、金城だった。


『やほー』

「金城も一緒だったか。久奈はどうした?」

『え、今の無意識? まぁ久土らしいね』


 俺らしいって何だろう。これか?と頭を振って髪の毛を揺らす。サラサラの~、久土ヘア~。


『いやそれじゃないし』

「だったら触ろうとするな」


 画面の金城が指を伸ばしてナデナデしてくる。君は普通の通話だけじゃなくビデオ電話でもあざといんだね。


『久奈ちゃん大丈夫? まだ顔出せない感じ?』

「おい久奈に何があった。何があったんだ!?」

『うるさーい。久奈ちゃんが復活するまであたしとお喋りしましょ~』

「なんでお前と」

『あたし達は今お買い物中でぇ~す。どうどう? これ可愛いっしょ』


 ビデオ通話を存分に活用して金城が帽子を見せてきた。


『ブランド物なの~。でわ舞花ちゃんが被ってみようと思いますっ』

「俺は何を見せられているんだ」

『じゃじゃーん。これ高かったんだぞー』

「知らねーわ……。つーか金城って帽子好きだろ」

『そうだけど。なんで分かったの?』

「以前も帽子買っていただろ。確かに可愛いよ、金城は帽子が似合うな」

『……』


 金城? なぜ黙って帽子を深く被ったんだ。


『これが久奈ちゃんの言ってた久土の不意打ちってやつね……』


 は、はい? 何を言っているんですかい。


『で、久土の用件は何よ。また久奈ちゃんを笑わせようと画策してんの?』

「的は射ている。久奈は本当は笑っていて、それは俺が何かしているからだと思うんだ」

『え、気づくの遅っ』


 う、うるさいっ。遅くて悪かったな!

 画面に映る金城は指を顎に当てて「んー」と考えている。そしてニパッと笑みを浮かべた。


『久土は深く考えなくていいし』

「いや考えるわ。もれなく長考するわ。久奈が笑うファクターを俺が起こしている。ならばその時の状況を再現してみようと考えついたんだよ」

『あらら野暮なことしちゃって』

「ほっとけ」

『なるほ。アイスをあーんした時やお揃いのキーホルダーを買った時を再現しようってことね』


 ぬぁにぃい? なんで金城が遊園地での状況を知っているんだ。

 俺が腑に落ちない顔をしていたのだろう。金城はカメラを撫でてニシシと笑う。笑い方が多彩だね。


『当然久奈ちゃんから聞いたよ。いやー、いつも惚気話を聞かされるあたしの身にもなれし。楽しいからいいけどさ~』


 は、はあ、よく分からんが金城も大変なんすね。


「じゃあ話は早い。今から再現するから久奈と代わってくれ」

『ちょっと待ってね……どう久奈ちゃん、イケる? 実は久土がごにょごにょ』


 金城の姿も消えて画面にはどこかショッピングモールの看板が映り、微かに聞こえる久奈と金城の会話。

 しばしの待ち。久奈が顔を出した。いつもの無表情。


「おお、久奈。どうして画面の外にいたんだ?」

『教えない』

「え、教えてよ」

『永遠の闇』


 ど、どういうことだよ。意味不明だ。Ⅸのラスボスじゃないんだからさ……。

 まあいいさ。ようやく作戦開始だ。久奈が笑っただろう状況を再現して再び笑わせーる!


「この前の遊園地で一緒にアイスを食べただろ?」

『そうだね』

「アイス美味しかったねぇ、味が鮮明に思い出せるよね。久奈、あーんっ」


 しっかりと味を思い出させた後、俺は久奈に向けてあーんの動きをする。

 どうだっ、これで笑顔になっ……全然笑ってない。


『……』

「え、えっと、これ見て! 一緒に買ったキーホルダーだ」


 慌てて次の作戦へ。キーホルダーをヒラヒラと見せる。


『そうだね』


 だが久奈の表情は崩れない。真顔で俺と同じキーホルダーを掲げる、それのみ。

 ……あれぇ? おかしい。

 遊園地の時と同じシチュエーションのはず。俺のアプローチは間違っていないはずなのにどうして笑ってくれないんだ。藤原カイジ風に言えば、どうじで笑っでぐれないんだよお゛お゛ぉ゛!


『終わり?』

「へ? あ、う、うん」

『お買い物の途中だから切るね。バイバイなお君』

「待っ」

『やほほ~。うーん、久土はズレてるねっ。アホだ~!』


 ブツン! 最後は金城に煽られて通話は切れた。

 携帯は画面が真っ暗になり、ズルリと手の平から落ちて、


「あべしっ」


 俺の眼球に落下した。

 ぐおおおおぉ、まさかの二発目! あががが!


「な、何がズレているんだ。何が違う゛ん゛だよ゛お゛ぉ゛ぉ゛!」

「ぎゃあぎゃあうるさいわアホが」


 開いた扉の隙間から母さんが放屁してきた。臭っ!? 出たよ獣臭!

 驚異的な激臭と眼球の痛み、その二つに悶え苦しみ俺は気絶した。がくっ。











「やれやれ、久土は頑張るとこが変だねー」

「ん。でもそこがなお君の良いところ。この前もね、一緒に寄り道して……」

「また惚気話かー……あたしそろそろ砂糖吐きそう」

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