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第105話 遊園地デート

 久奈に腕に抱きつかれ手を握られたまま歩いて電車に揺られてやって来ました遊園地。この時点で俺の幸せ指数はオーバーフロー。


「平日でも人が多いな」


 大人気のテーマパークだけあって場内は人でいっぱい。


「ところでなぜに遊園地なんだ」

「制服で来たかった」

「制服○ィ○○ー的な? ああいうのって高校を卒業した人がやるものじゃなかった?」


 高校を卒業した自称『中身はおっさん』達が失った若さを取り戻すため夢の国へ赴き、イベント終了後はSNSに集団でジャンプしている画像を載せることが義務化されている、だっけ? 対義語は寝間着深夜コンビニらしい。センス○。

 つまり制服で来るという価値は現役高校生の俺らには寄与されないと思うんだが、


「楽しみ。わくわく」


 まあ久奈が楽しそうなので良しとします。こまけぇことはいいんだよ。


「……それに遊園地で制服デートするの夢だった」

「なんか言ったか?」

「んーん、行こ」


 チケットを購入してゲートを通る。

 やはり人が多い。家族連れや遠足の子供もいる中、特に目立つのはカップル。この感じはイブの日を思い出す。リア充の匂いがプンプン。


「なお君なお君」

「なお君ですよ」


 某冒険者みたいな返事をして視線を久奈と同じ方向へ向ければメリーゴーランドが見えた。


「あれ乗りたい」

「久奈さんや、あれは子供が嬉々として乗るやつです。俺らが乗るのは些か……」

「あれ乗りたい」

「はぁい了解でぇす」


 久土直弥、学習能力は高い。抵抗は意味を成さないと理解しているので深く頷いてイエスマンになる。

 やはりメリーゴーランドに乗る人は大半が子供だった。少数ながら若いカップルもいるが彼らはふざけて乗っているに過ぎない。

 で、俺らは二人用の馬車に乗り込んだ。


「狭くね!?」

「丁度良い」

「いや狭いから!」


 二人用とはいえ本来は小さな子供が乗るサイズで、そこに高校生が入ると満足なスペースはありませんわよギチギチ状態ですわよ!?

 後部座席に四人乗っているみたいな感覚! 何それ定員外乗車違反?


「くっ、恥ずかしい。くっはず!」

「恥ずかしくない。堂々と胸張って」

「胸を張るゆとりもない程に窮屈なんだが! そして久奈は張るお胸が……」

「余計な一言」

「あでで肘を食い込ませないでぇ!」


 とかやっているうちに動きだした。

 軽快でメルヘンな音楽と共にメリーゴーランドは回り、馬車は緩やかに上下へ揺れる。

 あぁ、どこか懐かしい気持ちに浸ってしまうのは幼少の頃、母さんがまだ慈しみ深かった頃を思い出しているのかな。昔の母さんは優しくミルミルを飲ませてくれたなぁ。


「……いや感傷に浸る暇すらねぇ! やっぱ狭いし周りから見られるしぃ!?」


 今の俺らは大人がゲーセンのポップコーン製造機で遊んでいるようなもの。周りから奇異な目で見られて当然だ。ただの公開羞恥プレイ!

 恥ずかしさのあまり両手で顔を覆いたくなる。しかし手を動かすことも叶わない程に狭い。


「びゃ!? ひ、久奈、太ももの上に手を置かないで」

「狭いから仕方ない」

「くすぐったい、あひっ!? 太ももをモミモミしにゃいでぇ!」

「なお君の反応面白い」


 ぎゅうぎゅう詰めで悶え死にそうだったのに加えて久奈がくすぐってさあ大変。

 メリーゴーランドが終わる頃には俺の精神はぐったりグロッキー、ビクンビクンと女騎士みたく震えていた。くっはず!


「あひぇ、しゅごかった……」

「なお君は太ももが弱点。新たな発見」

「な、なんて奴だ」

「行こ。次はあれ乗る」


 俺の幼馴染はスパルタっす。休ませてくれない。

 続いて乗るのはコーヒーカップ。食器のコーヒーカップをモチーフとした遊園地定番の遊具、ハンドルを回すことで乗車しているカップの回転速度を上げることが可能。回しすぎて酔ってダウンする経験が男子なら一度はあるんじゃないだろうか。


「あまり回しちゃ駄目だよ。なお君はすぐに吐くから」

「おっしゃる通りで」


 メロディが流れてスタート。床がメリーゴーランドのように動いてカップ自体もゆるーく回る。

 が、俺と久奈はハンドルには一切触れず、他の乗客から聞こえる楽しげな悲鳴とは無縁の穏やかな乗り心地を満喫する。


「……」

「……」

「なあ、これ楽しい?」

「正直微妙」

「だよな」


 気狂ったようにハンドルを回さなくちゃ盛り上がらない。しかし回せば俺が吐く。彼方を立てれば此方が立たずってやつ。俺のせいですいません。

 結局そのままコーヒーカップは終了。普通に降りて普通に立つ。傍らでは子供がフラフラと覚束ない足取りでベンチに倒れ込んだ。昔の俺みたい。


「俺のせいで面白くなくてすまぬ、済まぬ」

「んーん、なお君と乗れただけで楽しい」

「……心をくすぐる言葉をサラッと言わないでください」

「? くすぐったらいいの?」

「太もも触らにゃいでぇええぇ」


 その後も様々なアトラクションに乗る。久奈はジェットコースター乗れる系女子なので普通に絶叫系も楽しむ。

 ジェットコースター乗れない奴は遊園地に来る意味がない、とか言っちゃうと炎上するぞっ。

 いいんだよ、楽しみ方は人それぞれだ。乗れない奴は損してるとか他人に決めつけられたくない。俺今とても良いことを言った。誰かいいね押して。連打して。


「なお君、あーんして」

「さも当然のようにあーんを要求するんだな」

「……火藤さんにはしたくせに」

「あわわ!? ムスッとしないでよ、は、はいあーんっ」

「ん」


 スプーンでアイスクリームを掬って運ぶ。

 久奈は小さな口を開いてアイスを食べるとすぐに後ろを向いた。え、何?


「見ないでね」

「なんで? 食べてるだけじゃん」

「見ちゃ駄目」


 んー、こういったことが前にもあったような。食べている姿を見せたくないのか?

 小休止の後は再び場内を歩く。ゲームコーナーで遊んだりグッズショップでキーホルダーを買ったりエトセトラ。


「キーホルダーお揃いだね」

「だな。まるでカップルみたいだ」

「……」

「なんで俺の腕に顔をうずめるの?」

「見ちゃ駄目」

「今日それ多いっすね」


 久奈が抱きついた状態で自身の手を俺の手に合わせる。学校では手を繋ぐだけだったのが今は互いの指と指を絡めて、まるで恋人繋ぎ。はい俺の心臓バックバク。

 マジでカップルみたい。……恋人、か。

 ヤバ、そう思うだけで顔がニヤけてくる。頬が上がっちゃう。


「っと、そろそろ時間だな」

「え……もう終わり?」

「せっかくなら晩飯も食べていきたいし、アトラクションは次で最後にした方がいいかなと」

「なお君とディナー……ん、それは外せない」


 しょんぼりしていたが納得してくれたようです。良かった。

 久奈は顔を上げると空いた手で前を指す。その先にあるのは観覧車。最後はあれに乗ろうってことですね。

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