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第103話 麺太VS久奈

「最近、久土と柊木さん一緒にいないよな」

「別れたのか?」

「いや元から付き合っていない。そんで今は喧嘩しているっぽい」

「それはつまり」

「チャンスだ」

「柊木さんと仲良くなれるチャンス!?」

「誰が射止めても恨みっこなしだ!」


 男子達が盛り上がっている。朝から元気ですね。

 俺が教室に入り、続けて久奈も入る。男子達の笑顔が、数フレームの速さで真顔になった。


「え、喧嘩してたんじゃ……」

「いつも通りじゃん」

「寧ろ距離近くない?」

「柊木さん思いきり久土の手を握ってるよ」

「今までは袖掴みだったはず……」

「うぅ、幼馴染って羨ましい」

「久土死ねよ」


 床へ崩れる者、嘆き泣く者、俺に舌打ちや殺意を向ける者、とにかく負の感情ばかり。え、ええ? 先程までの活気は何処へ?

 あと久奈、そろそろ手を離してください。隙あらば指を絡めようとするのはやめてくださいキュンキュンがオーバーフローしそうです。






 昼休み、いつものようにパンを口へ放り込んでいると麺太が勢いよく教室に入ってきた。


「みんな聞いて! 今日は午前中で学校終わりだよ!」


 ピタッ……一瞬だけ静まり返った後に教室は歓喜の渦に包み込まれた。中にはガッツポーズをする奴がいれば、隣のクラスに確認しに行く奴、涙を流して天に感謝を捧げる奴もいる。


「ふっ、貴重な情報を掴んできた僕を讃えるがいい」


 ドヤ顔している麺太に誰一人として注目していない。みんな喜ぶのに夢中で大騒ぎ。週末のサイゼのようだ。


「ちゅおーい!? 僕を褒めてよ!」


 叫ぶが勿論誰も反応せず。こういう時に慰める言葉がある。せーのっ、ドンマイ☆


「誰も僕を褒めてくれにゃいぃ」

「ちなみにどうやってその情報を得たんだ?」

「ラーメンの出前を頼んだのがバレて職員室で説教されたついでに担任から教えてもらった」

「さりげなく何とんでもないことやってんの」


 学校に出前はヤバイでしょ。ヤンチャな奴がピザの宅配を頼むのと同レベルだ。

 ここ近年ではSNSで自慢するまでがワンセット。より多くのリツイートを獲得することがステータスとなっている現代社会では珍妙で面白い出来事を起こす必要があり、って、肩を揺するな。


「出前が失敗した以上、今から中華屋に向かう。直弥も行こう」

「えー」

「午後から休みなんだしええじゃないか」


 ねえ行こうよねえってば、としつこい。俺がパンを咀嚼しているのが見えないのか。

 やれやれ、先週はすげー助けてもらったことだしたまには付き合ってやろう。パンの袋をくしゃりと丸めてニヤッと笑う。


「じゃあ奢ってくれよな」

「任せて。大盛りラーメンに炒飯餃子セットもつけてあげようっ」

「おっ、豪勢だ」


 出前は失敗しても気前は良い麺太。なんだかんだ俺らノリが合うんだよね。二人して目を合わせてニヤッと微笑む。

 んじゃ行くべ行くべ、と鞄を持って立ち上がる。

 と、その前に立ち塞がったのは久奈。俺を見て、そりゃもうじぃ~と見つめてくる。


「なお君、遊園地行きたい」

「遊園地?」

「ん」

「あー、すまんな。今から麺太と中華屋に行く」

「……」


 久奈はすぐさまに麺太の前に移動、麺太を見つめる。

 対する麺少年は「うほっ!?」と頬を赤らめてなぜか湯切りの動き。恐らくこいつなりの喜びを表すポーズだ。


「向日葵君」

「えへへ、柊木さんから僕に話しかけるなんて初めてだ。直弥より僕の方がイケメンって気づいた?」

「私の幼馴染を馬鹿にしちゃ駄目だよ。なお君は向日葵君の九十二兆倍カッコイイ」


 どんな計算で九十二兆倍なんだろ。麺太と対比されて困る一方、久奈からカッコイイと言ってもらえるのは嬉しい。普段からもっと言ってよ、クリスマスの時みたく言ってよ~。


「そっか……。で、僕に何か用かいウォッチ」

「なお君返して」

「へ? 直弥を?」

「なお君返して」


 久奈は麺太を見つめ、麺太は困ったように俺を見る。

 俺はもう察した。麺太よ、久奈はお前がイエスと言うまで延々と今の台詞を言い続けるぞ。久奈の十八番、無限ループだ。


「なお君返して。なお君と遊びたい」

「困るなぁ柊木さん。僕が先に誘ったんだ。直弥は渡さない!」


 しかし麺太も強者。久奈に言われて折れる輩じゃない。それどころか俺の腕に抱きつい……て、やめろ馬鹿あああ!


「離れろクソ麺! 斬首するぞ!」

「咄嗟に斬首を思いつく直弥すごいね。嫌だ、僕は離さない!」


 ぐあああぁやめろ俺に触んな! 男に抱きつかれるだけで不快なのにその相手が麺太だなんて最悪過ぎる!

 渾身の力で引き剥がそうとするも麺太のフィジカルは学年屈指、凄まじい力で一切動かない。こ、この野郎!


「お前に本気で苛立ったのは去年の夏以来だよ。真夏日、激熱担担麺を食わせてきた時だぁ!」

「直弥が僕を噛み殺す勢いだった時だね、うんうん。あれに関しては僕も反省しているが今回は譲らない! なんで嫌がるのさ、僕ら親友でしょ!」


 仮に親友だとしても男に抱きつかれるのは半端じゃなく嫌なんじゃああぁ!


「離れろぉ」

「嫌だねぇ」

「誰かノコギリ持ってきて。この腕切り落としてやる!」

「己の腕を捨てる程に離れたいの? ぐすん、僕は悲しい」


 お前に抱きつかれるくらいなら隻腕になった方がマシだ。

 いい加減にし、うおっ……久奈がジト目で睨んでいた。


「向日葵君、なお君から離れて」

「そいつぁ無理な相談だね。柊木さんが直弥の代わりに僕とデートに付き合ってくれるなら考えるよ」

「それは絶対に嫌」


 久奈即答。


「うん知ってた。では交渉決裂なり」

「待って。代わりに可愛い子紹介する」

「ほう?」

「だからなお君返して」


 しばらく考えていた麺太はゆっくりと俺の腕を離してくれた。

 た、助かった。俺の腕大丈夫? タタリ神的な呪い受けてないよね? 麺を食べたくて疼く右腕になったらどうしよう。


「解放したよ。さあ可愛い子を呼ーんでっ」

「ん。来て、舞花ちゃん」

「どーもっ、可愛い子の舞花ちゃんです☆」


 金城はウインクし終えるとすぐに黒い笑みを浮かべて指を鳴らす。途端に女子達が集まって麺太を包囲した。


「久奈ちゃんの邪魔をするアホは誰かな~」

「ひぎ!? 酷いよ柊木さんっ、僕を騙したね!」


 麺太の叫びはここまで。囲んだ女子が金城の合図と共に麺太へ向けて一斉に罵声を……あ、あぁ、隙間から麺太の泣きじゃくる顔が見えて……南無。


「酷いのは向日葵君の方。なお君の腕が臭くなった」


 久奈は俺の腕を何度も叩く。服の汚れを落とそうとするお母さんみたいだ。


「大丈夫?」

「なんとか。臭いはそのうち落ちるでしょ」

「駄目。今すぐ悪臭を消す」


 つっても一体どうするおつもりで。

 首をかしげる俺を久奈はチラッと上目遣いで見た後、深く呼吸をして目を閉じた。まるで何か意を決したような面持ちで、え?


「んっ」


 ……久奈が俺の腕に抱きついた。先程まで麺太がしがみついていた腕だ。

 あ、ちょ、え、うひぇ!? ななななななな何しちぇんの。


「み、みんなが見てるって」

「上書きしてるから暴れないで」

「はへぇ!?」

「ん、私の匂いになったと思う」


 抱きつかれること数分、久奈は離れると満足そうにピースサインを掲げた。

 周りからは様々な声が響く。女子は久奈に向けてキャーキャー叫んで盛り上がり、男子は俺に向けて全力の舌打ちを放ってくる。


「何してんだよ……」

「私だって向日葵君の臭いに触るの嫌だった。でも我慢した。……まだ臭う」

「も、もういいって」


 俺の制止を振り切って再び抱きつく久奈。その体勢のまま「行こ」と促してきた。当然、女子からは歓声があがって男子からは呪詛が飛び交う。


「久土死ね」

「久土は死ね」

「出来る限りの痛みを受けて死ね」


 怖いよあいつら。FFF団じゃないんだから……。


「早く。遊園地。ゴー」

「わ、分かったから離れて。まさかこのまま廊下に出るのか!?」

「当然。遊園地。ゴー」

「顔が赤くなりゅうぅううぅ」


 廊下に出ても久奈は離れることなく俺の腕に抱きついて頬をすりすり。となれば「当然。男子。俺を睨む」になりましたとさ。

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