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第10話 作戦始動

 安心してほしい、今のは吐瀉物ではない。口に含んだ醤油スープを吐き捨てただけだ。嘔吐オアトリートじゃない、お菓子をくれなきゃゲロしちゃうぞじゃないです。いくら吐き慣れてきた俺とはいえそこまで喉ガバガバではありませんことよ!


「ミイラゲームっ」


 再びステージに上がった金城のコールと共に、何人かがトイレットペーパーを取り出して叫んでいる。盛り上がりすぎだろ、ワールドカップ初ゴールか。

 今からするのはハロウィン限定の余興らしい。皆さん楽しそうなゲーム知っているんですね。二人の男子が体にトイレットペーパーを巻かれていく様を、俺は椅子に座ってぼんやり眺める。


「なお君、あれ何?」

「二つのチームに分かれて制限時間内にどちらのチームが綺麗に且つ多くのトイレットペーパーを巻けるか競うゲーム」

「楽しそう。なお君も参加してみて」

「俺はゲロ男なんでね。ミイラ男にジョブチェンジはしない」


 隣に座る久奈も俺と同様に盛り上がるステージを見ながらジュースを飲んでいる。あらやだ俺ら冷めすぎ?

 ちなみに久奈は普通の服装だ。ハロウィンパーティーと言われても仮装はしない系女子なのだよ~。もこもこニットは可愛らしく、濃いネイビー色のプリーツスカーチョは久奈の清楚さを抜群に引き出していた。仮装していないのに男子達の注目を集めているよ。


「ねえ柊木さん、俺とデュエットしない? AM11:00歌おうよ」

「ごめんなさい。知らない曲です」


 当然、男子が誘ってくる。だが久奈は間を開けずに断る。ドンマイ南大田原君。


「じゃあどの曲歌いたい? 俺合わせるよっ」


 しょんぼり去っていく南大田原君と入れ替わりでやって来たのは西大路橋君。南大田原君の失敗を活かしてか、優しさを見せつつ断りにくい提案をしてきた。というかウチのクラスの名字どうした。クセが強い。


「カラオケ苦手だから歌わないです」


 久奈は断る。が、それでも西大路橋君は折れずに誘ってくる。


「え~、何か歌おうよ。ほら少しでいいからさ」

「……なお君」


 久奈が俺の方へ身を寄せて俯いてしまった。あ、これ困っているやーつだ。俺の服の裾ぎゅっと掴む。男子がドキッとするアクションのランキング上位のやーつ。ドキッとするからやめなさい。

 ……俺がなんとかすればいいんでしょ。やれやれ。


「あー、すまん西大路橋君。久奈は昨日から喉の調子が悪いらしいんだ。そっとしてあげてくんね?」

「え? でもさっき金城さんと歌ってたけど」

「あれで喉死んだの。久奈はもう歌えないの。四月は君の嘘なの」

「それはピアノ」

「ああもういいから金城を誘いなされ!」


 西大路橋君の方を向き、今すぐ吐いてやるぞと言わんばかりに指を口へ突っ込む! 西大路橋君はぎょっと顔をしかめると、諦めてステージにいる金城の方へと向かっていった。ふぅ、なんとか追い払えた。

 久奈は男子が苦手だ。話す相手は女子ばかり。以前理由を聞いたら、男子は迫ってくる人がいるから怖いんだってさ。ちなみに俺は平気らしい。幼馴染パワーのおかげである。


「ありがと」

「はいはい。つーか金城と歌ってたのかよ。言い訳失敗しそうで焦ったわ」

「なお君がスープを飲んで咽ている時に歌った。歌で頑張れってエール送った」

「歌じゃなくてシンプルに背中をさすれよ」

「歌で応援してた」

「頑なにそれしか言わないのな」

「舞花ちゃんと歌いたかった」

「本音言っちゃったよ!」


 などと喋っているうちにミイラゲームは終わった。グルグルに巻かれた男子生徒が「うおおぉ……」と低い唸り声を出している。ノリノリか。

 と、すぐ横でビクッと震えたのを感じる。久奈だ。無表情ながらも、ミイラ男を見てビックリしている。

 ……これだこれ。やはり俺の読みは正しかった。足元に置いたリュックに手を置き、ニヤリと笑みがこぼれる。


「じゃあ続いて、仮装コレクション~!」


 金城のコールと共に男子達が野太い声を上げる。君ら金城のことアイドルと思ってない? 君らクラスメイトやで?

 仮装コレクションと言われて仮装している奴らがステージの前に集合する。品評会的なことをするつもりらしい。まあ盛大にノッていてくれ。

 そろそろ準備を始めるとしよう。裾を掴む久奈に手を離すよう頼み、俺は立ち上がるとリュックを持つ。


「帰るの? じゃあ私も帰る」

「いや帰らんよ。ちょっとトイレ」

「リュックを持って?」

「あー、あれだ、あれだよあれ」

「あれって何?」


 ええい、しつこい。最後の問いには答えずリュックを背負ってパーティールームから出る。


「うし、やったるぜ」


 目指すはトイレ。待ってろよ久奈~。そのクールな面、崩してやるぜ!

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