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第1話 笑わない幼馴染

 十月の中旬。やや肌寒い朝の空気を吸って空気に触れて、緊張で高鳴る気持ちを整える。

 マンション七階の通路、俺はチュンチュンと鳴く小鳥に対して鷹揚に手で挨拶を返すと、Tシャツを脱いで半裸になる。爽やかな日差しの下、さあ今日も一日が始まるぜと清々しい気持ちで洗濯バサミを己の両乳首に装着。激痛が両乳首を駆け抜けるが我慢。

 準備は完了した痛い痛い。あとは目の前の扉からあいつが出てくるのを待つのみ痛い痛い予想以上に洗濯バサミ痛い。


「行ってき……なお君?」


 ガチャ、と扉が開いて出てきたのは一人の少女。その顔は無表情。

 艶やかなセミロングの黒髪の毛先は左右へちょんとカーブを描き、愁いを帯びた大きな瞳は円らでパッチリ、小さく小さく結ばれた唇が可愛らしく愛おしく、パッと見て分かる色白の美しさが際立つ透明感ある肌と薄桜色のほっぺた。

 この子の名前は柊木久奈(ひいらぎひさな)。俺の幼馴染だ痛い乳首マジ痛い。


「おはよう久奈! 見てろよ、今からとっておきの一発芸を」

「おはよう。私、先行くね」

「ちょ!? ま、待って、すぐ始めるからすぐ終わるから!」


 半裸の俺をスルーする久奈はスタスタと歩いてエレベーターへと向かっていく。このままでは準備してきたのが台無しだ。

 俺は慌ててしゃがみ込むとスイッチを手に取る。ボタンを押すだけの簡単な装置はペットボトルロケットと繋がっており、さらにそのペットボトルロケットに結ばれた糸の先には、今も俺の乳首を千切ろうと猛威振るう洗濯バサミ。


 覚悟を決め、ボタンを押す。ぷしゃあああぁ!と勢いよく噴出される水の圧を推進力にペットボトルは華麗に、一直線、宙を飛ぶ。

 ペットボトルが発射されると繋がった糸は引っ張られて、最後は二つの洗濯バサミを引っ張ろうとして……っ!?


「い、痛いいいいいいいいいいぃ!?」


 ぐおおおおおぉ!? これまた想像絶する痛みが乳首を襲う。ぐっ、うぅ、これ乳首取れたんじゃね? それくらい痛い。いやマジこれ乳首ポロリだろ、物理的にポロリだよ涙もポロリだよ!


「で、でもこれは絶対に面白いはず。なあ久奈?」


 涙を流しながら期待を込めて前を向けば、エレベーターに乗る久奈の姿。ドアが閉まり、久奈は表情崩さないまま俺に向けて手を振る。……いやいや、


「バイバイ」

「見てねぇのかよ!?」


 こっちはバイバイ乳首の思いで決行したのにお前は普通にバイバイかよっ。俺の乳首報われねぇし、つーか乳首むくれているし!?

 どこ行った乳首、乳首は何処へ? そして俺は一話だけで何回乳首って言うつもり!? 一話ってなんだよ何言ってんだ俺。

 ……ホント、何やってんだろ俺。朝っぱらから上半身裸になってペットボトルロケット乳首やって、


「それでも、あいつは笑わなかった」


 俺の幼馴染、柊木久奈。物柔らかで常にクール、淡く儚く美しく落ち着いた佇まいの美少女。

 そして、俺の前では決して笑わない。何をしても、何を語っても。


「……ふんっ! だからって諦めねーぞ。絶対に笑わせてやるわ!」


 必ず笑わせてやる。絶対に、あいつを笑顔にしてやるんだ。

 爽やかな朝の日差しに包まれた中、決心した俺はとりあえず激痛に耐えきれずビチャビチャに濡れた床で悶え苦しむことにしました痛い痛い!

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