幕間
次の月曜日、俺は登校したが、みのりは休んでいた。
まだ帰ってねーのかな。今日の帰り、様子を見に行った方がいいかもしんない。一度家に帰ってから――とか考えながら授業の準備をしてたら、空いてるみのりの席に誰かが座った。
すみれちゃんだった。
「おっはよー、藤沢君」
「おー」
なんだろう。俺はちょっとそわそわした。みのりの休みの原因に俺が関わっていることは知られていないはずだけど、なんか落ち着かない。
すみれちゃんは俺をまっすぐに見て、まっすぐな言い方で聞いた。
「みのりになんて言ったの? 先週の帰り」
周囲が静まり返った。みんなが聞きたくて聞きたくて、そのタイミングをうかがっていたのには気づいていた。しかし直球だなすみれちゃん。頼もしい人材だ。
「土日に何度もメールしたんだけど、返事がなくてさ。今朝やっとメールが来たのね、週末、発作が起きて病院行ってて、やっと見られたんだって」
「あ。……そーなんだ」
思わず反応してしまった。そっか、帰ってきてんのか。
いやでも千絵子がしばらく動けなかったのだから、みのりも同様だろう。わき腹えぐられた俺が元気だったのは、たぶんあのとき覆い被さってくれたリオノスが、何かしてくれたんだろうと思うけど……いやいや、それならみのりにだって何かしてやっていいはずじゃね? そう簡単なもんでもねーのかな。
「うん、でもね、藤沢君の話がなんだったのかについては、書いてなかったんだよね」
すみれちゃんが続きを話している。俺は相づちを打った。
「へー」
「なんの話だったの、藤沢君。発作で苦しい時にあんまりせっつくのも悪いから、もう藤沢君から聞いちゃえ、って。ねね、つきあうことになったの?」
「あのな、悪いけど、そんな話じゃなかったんだ」
はっきりと大きな声で、言う。周囲が騒然となった。
「はー?」「なんでだよ」「なにがだよ」「うっそー」「口実でしょ」「ふられたんだやっぱ」
口々にわいわい言いたてる切れ切れの言葉を、全部納得させる嘘ってのは。
俺は苦笑して、声を潜めた。人垣がぐっと寄る。
「ここだけの話なんだけど……み」あぶねえ!「んなに言われると困るんだけど。うちの親父がだ、もう引退してんだけど、たまに、まだ運営のこととか、意見聞きにくる役員の人がいて、アドバイスくらいのことはやってるわけな」
俺の親父がどんな会社を経営していたか、ということは、周知の事実になっている。ギャラリーが納得し出すのを俺は肌で感じた。あー違う世界の話なのか、と思い始めてくれている、ようだ。
「で、親父は、そういう人に、俺の卒業アルバムとか見せたりするんだよ」孫みたいな年の末っ子だからな。これは嘘じゃない、恐ろしいことに。「で、役員の人が福田の写真見て、この子を是非我が社のCMに! って話になったみたいで」
あー、とギャラリーが納得の声を上げる。
「根回しを頼まれたんだけど、なかなか話ができなくてさ。ギャラの話まででるから、人前だと頼みにくいし。親父にせっつかれてて、ついあんな風に呼び出しちまったんだけど。あの後、あっさり断られておしまい」
すみれちゃんはまじまじと俺を見ていた。
ややして、とてもトゲのある声で言った。
「……なああーんだ」
いや、なんだよその不満そうな顔。俺がみのりに一刀両断されるのがそんなに楽しみだったってわけか? 悪趣味だろそれ、って、前にも思ったなこれ。誰にだっけ。
「悪かったね、期待してたような話じゃなくてさ」
言うとすみれちゃんは、
「ほんとに悪いよ! えーい!」
ふざけた調子で俺をどついた。
でも結構痛かった。なんか恨みがこもってる気がするのは、気のせいだろうか。
短かったので、もう一話更新します。




