~第2夜:プロローグ~
とりあえず、第2夜:プロローグだけ…。
人間が人生を過ごす上で、後から後悔をすることはいくらでもある…。
些細だと思っていた過去が、後から大きく影響してくることもある…。
過去の栄光や後悔に縛られ、前に進めなくなるときもある…。
では、彼ら彼女は今も前に進めているだろうか…?
………
……
「うおおぉぉーー!!遅刻だーー!!」
5月のゴールデンウィークが終わった初日の登校日。
1人の少女が学校に向けて、今日も元気に通学路を走り抜けて行く。
「何で今日に限って、とあちゃんは起こしに来てくれねえんだよーー!」
普段は朝から一緒に登校している、愛しい少じょ…少年は残念ながら用事のため、一足先に学校に行ってしまっていた。
朝から通学路を走る少女-九曜晶-は、視界の先に自分の通っている高校の年老いた警備員の男が、遅刻者を無情に選別する扉-校門の入口-を閉めようとしているのを捉えた。
「おっさん!!その校門を閉めるのはちょっと待てーーー!!」
晶は有らん限りの声を張り上げながら、さらに加速した。
しかし、校門の入口まで残り100mを切った辺りで、晶は突如横断歩道の前で足を止めるのだった。
「…!?なんだこれ、足に力が入らねえ…!?」
自分が意図しない形で止まったのに転ばなかったことも不思議だが、それ以上に現在進行形で遅刻をしそうになっていることの方が、晶にとっては重要なことだった。
「くそっ!?ピクリとも動かねえ…って俺の目の前で校門を閉めるなーー!!」
そして、すぐ目の前にゴールが見える状況で足を止めてしまったことで、晶の遅刻は決定的になるのだった。春の暖かさが残る5月の校門の前では、晶の空しい叫びが木霊するのだった。
「大変だったんだね、晶ちゃん」
「とあちゃん、何で今日に限って俺を起こしに来てくれなかったんだよ?!」
普段から大雑把な晶ではあるが、(冬亜のおかげで)1度も遅刻をしたことが無かった彼女の自信は脆くも崩れ去るのだった。
「ごめんね、晶ちゃん!今日だけはどうしても外せない用事があったから、晶ちゃんを起こしに行けなかったの!」
そう言って冬亜は、非常に申し訳なさそうな顔をするのだった。
「…まあ、そもそも俺が寝坊しなきゃ良かった話だしな…。すまねえ、とあちゃん!俺が間違ってた!」
冬亜の言葉を聞いて冷静になった晶は、冬亜にそう謝るのだった。
「ううん、僕は気にしてないよ!それより怪我は無かった、晶ちゃん?」
「ああ、不思議なんだよな?軽自動車並みの速さで走ってた時に止まったのに、転ぶことも無いなんてよ?」
「晶ちゃん…あえて確認するよ、自転車並みの速さでだよね?」
「安心しろ、とあちゃん!流石に軽自動車並みに速さになったのは、校門200m手前位からだぜ?」
「全然安心出来ないよ!?自分を大切にしてね、晶ちゃん!?」
不安の残る晶の発言に、冬亜は心配の声を上げるのだった。
「話を戻すけど、晶ちゃんが急に動けなくなったのは校門付近の横断歩道で何だね?」
「おう、そうだぜ!それで間違いないぜ!」
胸を張って、言い切る晶であった。
「だとすると、多分『金縛りの横断歩道』のことだと思うよ?」
「『悲し針の横断補導』?」
「…晶ちゃん、多分違う意味で言ったでしょ?」
苦笑いを浮かべた冬亜は、黒板に正しい漢字で書くのだった。
「あのね、この『金縛りの横断歩道』はこの学校にある怪談の1つで、学校の周辺にある横断歩道の何処かに走っている人が金縛りになっちゃうんだってさ?」
「ふうん?じゃあ、俺が遅刻したのは、その怪談の横断歩道が原因なんだな…とあちゃん、ちょっと用具倉庫から地面を削れるようなものを借りて来る…」
「待って、晶ちゃん!?何をするか、僕にもだいたい分かったからそれはやめて!?」
そう言って、冬亜は晶を止めようと、必死に抱き着くのだった。
必死の攻防の末(とは言っても冬亜が抱き着いた時点で晶は動くのは止めた)、説得に成功した冬亜は今日の放課後にその横断歩道に行くことを晶に約束するのだった。
「仕方ねえな、とあちゃんの頼みなら断れねえしな」
「ありがとう、晶ちゃん!」
「じゃあ、早速問題の交差点に行こうぜ!」
「落ち着いて、晶ちゃん!?まだ今日の授業は残っているよ!?」
……多分…いや、おそらく放課後に行くのだと信じたい。
今日も、彼ら彼女らは新たな怪談に出会うために放課後を待つのだった。
~第日夜:金縛りの横断歩道…continue~