幻の転校生(3)
今後は、時間があれば投稿致します。
現在は、「金縛りの通学路」「真夜中の用務員」などというタイトルのオリジナル怪談があります。
その後、改めて桂木先生に謝罪をした2人は保健室を後にするのだった。
養護教諭の現世の話を聞いた2人はしばらくの間、無言で通学路を歩いていた。
「…とあちゃん」
「…なあに、晶ちゃん?」
そして、重々しい空気を払うかのように晶は冬亜に声を掛けるのだった。
「会長が言ってたよな。『好奇心があるのはいいけど、それが必ずしも良い結果につながるわけじゃない』って…」
「そうだね…」
「俺たちが話を聞いたことで、魔女先生が悲しそうな顔になっちまったな…」
「うん、そうだったね…。でもね、千代子先生の話を聞いたことで、僕たちにも何か出来ることがあるんじゃないかと思うよ?」
「”何か”…?」
冬亜の言葉を聞いて、晶は足を止めるのだった。
「それに晶ちゃんは、いつも自分の行動に必ず責任を持って動いていると思うよ?晶ちゃんのおかげで救われた人だっているんだし!」
冬亜は必死の身振り手振りで、晶に自分の気持ちを伝えるのだった。
「とあちゃん…!」
冬亜のその言葉を聞いた晶は、思わず冬亜を抱きしめるのだった。
「晶ちゃん!?あの…凄く嬉しいし、このまま続けていても欲しいけど、皆が見ているよ!」
冬亜は若干恥ずかしそうな顔をしながらも、自分からは決して離れようとはせず晶が抱きしめるのを止めるように説得するのだった。
「…っと。ごめんな、とあちゃん!つい嬉しくてな」
「あっ…僕も嬉しかったけど、いきなりだからビックリしちゃった!」
晶が離れたことで、若干残念そうな顔になる冬亜だった。
「あのね、晶ちゃん。ちょっと気になったことがあるんだけれど…」
「どうした、とあちゃん?」
「保健室で先生から聞いた、怪談の内容が変わっていたことだけどね?」
「ああ、電車先生が昔と違う内容だって言っていたやつだな?」
「うん。あの怪談で大きく変わっていたのは『生徒が亡くなっていることの追加』、『転校生になっていたこと』『教室の説明が追加されていること』だったよね?」
「確かにそうだったな」
晶は大きくうなずくのだった。
「それで思ったんだけどね、もしかして誰かがこの怪談を知ってもらいたくて内容を変えたんじゃないのかな?」
「どういうことだ?」
「ええとね、先生が知っていた怪談はそもそも怖くない普通の話だったんだよね?」
「まあ、そうだな」
「それでね、もし元々の話を知っていた人が怖くなった怪談を聞いたら、何で変わったのか不思議に思う人もいると思うんだ?」
「あー、まあそうなのか?」
「それに、元々この怪談を知らなかった僕たちも、今回調べることになったよね?」
「まあ、そうだな」
「それでね、もし古い怪談のことを学校の中で聞こうとしたら、古くからこの学校のことを知っている先生に聞きに行くんじゃないかと思うんだ?」
「つまり、魔女先生がこの噂を流していたって言いたいのか?」
冬亜の言葉を受けて、晶は自分が感じた疑問を口に出した。
「ううん、僕は違うと思うの。実はね、僕があの怪談を聞いた人たちは、校門にいた警備員さんや廊下を歩いていた用務員さんなんだよ」
晶の疑問に対して、冬亜は頭を横に振るのだった。
「何でそれが違うと思う理由なんだ?」
「えっとね、その警備員さんも用務員さんも、どっちも最近新しく入ってきた人みたいでね。あんまり千代子先生と会ったことはなくてね、あの怪談も仕事中に他の生徒から聞いたって言っていたんだ…」
冬亜は自分の聞いた事実を、晶にそう告げるのだった。
「つまり、とあちゃんは魔女先生がわざわざ回りくどいことをやっていないって言いたいんだな?」
「うん…」
冬亜は自信なく頷くのだった。
「よし決めた!誰が噂を流したかなんてウジウジ考えるのはもうやめだ!とあちゃんが言ってた通り、俺たちが出来ることを何か考えようぜ!」
「晶ちゃん…!そうだね、僕たちで出来ることを考えようね!」
「ああ、つっても今の俺たちに出来ることって、アレしか思いつかねえんだよな…」
「晶ちゃん、アレって何…?」
「ああ、アレってのはな…」
そう言って晶の提案を聞いた冬亜は、早速明日から実行に移すことを決めるのだった…。
………。
……。
翌日の私立櫂耀高等学校では、2人はあることを実現するために多くの人を巻き込んで動き出すのだった…。
朝から自分たちが出来る限りのことをした晶と冬亜は、再び保健室を訪れるのだった。
「あら、いらっしゃい?2人とも怪我でもしたの?」
保健室を訪れた2人をそう言って出迎えたのは、やはり養護教諭の現世だった。
そして、いつも通り室内は片付いている様子だった。昨日と違う点と言えば、担任の桂木がいないことと日差しが強いためかカーテンを閉めている位だった。
「いいや、違うぜ?今日は魔女先生を泣かせに来たぜ!」
「晶ちゃん!?絶対に誤解しか生まれない発言はやめようよ!?」
「うふふ、それで私をどうやって泣かせるのかしらぁぁ…?」
晶の発言を聞いた現世は、若干声色を変えて2人に聞き返すのだった。
「ひゃぅ…!?ちがうんです、ちよこせんせい…」
現世の背後に巨大な注射器を構えた髑髏を幻視した晶と冬亜は、恐怖に震えながらも必死に弁明するのだった。
「おっ…おう。魔女先生、誤解だ!誤解!物理的に泣かせようとした訳じゃねえ!?」
「あきらちゃん!?それもごかいをうんじゃうよ!?」
「うふふぅ…?へぇ、じゃあ言葉の暴力で私を泣かせに来たのかしらぁぁ…?」
現世が言葉を発する度に、保健室の温度が下がり背後の髑髏が徐々に実体化するようだった…。
「そうじゃねえ、違うんだ魔女先生!?取りあえず保健室から外に出てみてくれ!」
晶はそう言って、現世の横を通り過ぎて外へと続く扉を開けに向かうのだった。
なお、現世の横を通り過ぎる際に、現世の背後に見えた髑髏が晶に向けて手を振っていたように見えたが、2人は必死に気のせいであると自分に言い聞かせた…。
「これは…?」
保健室から外へと続く光景を見て、現世は目を見開いた。
目の前に広がっていたのは、多くの生徒や晶たちのクラス担任の桂木などが、花壇にあった雑草の除去や新しく色とりどりの花や苗などを忙しそうに植えている光景だった。
「えっ、これって一体どういうことなの…?」
現世は困惑した様子で、そう呟くのだった…。
「魔女先生、あれは俺たちが提案した校内美化の成果の一環なんだぜ?」
そんな現世の疑問に答えたのは、意外にも晶だった。
「校内美化?」
対して、現世は晶の言葉を繰り返すのが精一杯だった。
「えっとね、千代子先生。晶ちゃんが今日の朝、生徒会長さんにお願いして、生徒会で校内美化の強化週間を提案してもらうようにお願いしたんです。それと、僕たちのクラスの委員長さんにもお願いして、放課後にみんなで花壇の手入れをすることを提案してもらったんです」
言葉足らずな晶の発言を、現世の背後から冬亜が補足するのだった。
「それに、俺たち以外にもあの花壇が気になっていたやつらは結構いたようだぜ?」
「千代子先生、みんな自分が参加するきっかけが欲しかったみたいですよ?」
そう言って、2人は花壇にいる人たちを改めて指差した。
そこには、晶たちのクラス以外の生徒や生徒会のメンバーもおり(約1名、寝ながら作業しているようだったが)、何処から聞きつけたのか用務員の人や校長らしき人物の姿もあった。そんな、思わぬ助っ人の登場に担任の桂木は、すぐ隣で非常に緊張している様子だった。
「さてと、俺たちもそろそろ手伝いに行かなくちゃな!」
「そうだね、晶ちゃん!みんなにばっかり任せちゃ悪いものね!」
「そうだぜ!それにムッツリ委員長も後でうるさいだろうしよ!」
「晶ちゃん!?委員長さんが物凄い形相でこっちを睨み始めたよ!?」
賑やかに会話をしながらも、2人はみんなが作業している花壇に手伝いに行くのだった。
「ふふっ…確かに晶ちゃんたちに泣かせられちゃったわね…」
そう呟く現世の頬を、光る筋が通り過ぎる。自分1人の力では何も出来ないと諦めかけていた現世は、2人の諦めようとしなかった姿勢に昔の自分の姿を重ね合わせるのだった。
「さてと、私もみんなの手伝いくらいはしないとね!」
そう言って現世は、頬に残る光を拭ってから花壇へと向かうのだった…。
結果として、保健室の前にあった花壇の雑草はほとんど取り除かれ、耕した土の中には多くの花の球根や苗が植えられるのだった。
そして、作業を終えた多くの生徒や先生たちに対して、現世は多くの感謝の言葉を伝えた。その言葉をきっかけに今日の活動は終了するのだった。
みんなが帰った保健室には、晶と冬亜と現世の3人が残っているのだった。
「どうだ、魔女先生?泣かせることが出来たか?」
「ふふっ、そうね。みんなのおかげで嬉し涙がでたわね」
「千代子先生に喜んで貰えて、僕たちもうれしいです!」
「ふふっ、久しぶりのあの子と花壇の手入れをしていた頃を思い出せたわ」
そう言って、花が咲くような笑顔を2人に向けるのだった。
「そういえば、そいつって一体どんな奴だったんだ?」
晶はふと疑問に思ったことを口にするのだった。
「ふふふ、そうね。一言で言えばあの子は、友達を欲しがる甘えん坊だったわね」
「それに、男の子だったのだけれど、母親からもらった簪をいつも髪に挿していたわね」
「冬亜か…」
「ねえ、晶ちゃん!?今失礼な意味で言ったでしょう!?」
「気のせいだぜ、冬亜ちゃん?」
「晶ちゃん、本音が隠せてないよ!?」
「うふふ、ホントに理想のカップルね?」
「えっ…あぅ、凄く嬉しいけど恥ずかしいです…」
現世の言葉に頬を赤くする冬亜であった。
そんなやり取りはあったが、日も暮れてきたこともあり2人は現世に挨拶をしてから保健室を後にするのだった…。
「魔女先生、嬉しそうだったな」
「千代子先生、喜んでいたね!」
保健室から昇降口に向け、自分たち以外には誰もいない廊下で晶と冬亜は、話しながら歩いていた。
「ああ、俺たちに出来ることって言ったら、あれが精一杯だったからな」
「これからも、花壇の手入れは続けて行こうね、晶ちゃん!」
「そうだな、とあちゃん!他にも俺たちで出来ることがあれば良かったんだが…」
自分に出来ることが他にもあったのではないかと、若干の後悔を口にする晶だった。
―ううん、凄く嬉しいよ!みんな本当にありがとう!
そんな声が2人の背後から聞こえてきた。
「聞こえたか、とあちゃん?」
「うん、僕にも聞こえたよ…」
2人がお互いに顔を合わせ、確認し合いながら静かに振り返るのだった。
しかし、声の主は誰もおらず、相変わらず廊下には2人以外には誰もいなかった。
「やっぱり、誰もいないな…。もしかして、あの噂を流していたのは噂の生徒だったのか?」
「分からない…。でもね、さっき聞こえた声は凄く嬉しそうだったよ」
「ああもう、ウダウダ考えるのは面倒くせぇ!魔女先生が笑顔だっただけで十分だ!」
「そうだね、晶ちゃん!きっと千代子先生が笑顔になったことで、その生徒も嬉しいんだよ!」
晶の言葉を受けて、冬亜はそう結論付けるのだった。
「そうだな、とあちゃん!そういえば、生徒会長が花壇の手入れが終わった後に、『この貸しは明日取り立てるわ』って言って来たんだが、意味分かるか?」
「晶ちゃん…多分それ、『明日は生徒会の雑用を手伝うように』という意味だと思うよ?」
冬亜の言葉を聞き、晶は若干テンションが下がったようだったが、それでも晴れ晴れとした顔でしているのだった。
後日譚だが、翌日の私立櫂耀高等学校では朝から生徒会の雑用のために、校内を奔走する2人の姿が確認された。それでも、嫌々やっている素振りはなく非常に生き生きとした姿は、朝から多くの生徒に元気を与えるのだった。
そして、雑用の途中で偶然あった仕事中の用務員さんから、怪談の話を自分にした生徒は非常に珍しい男子生徒だったということを聞いた。その生徒は、日に当たっていないかのように肌が白く、制服の胸ポケットに赤い花の簪を挿した男の子だったそうだ。
もしかしたら、本当に亡くなったはずの生徒が保健室の先生の笑顔のために、噂を流してのかもしれない。真相は分からないが、その話を聞いた晶と冬亜は非常に満足そうな顔をしていたと言う…。
~第日夜:幻の転校生…Fin~
おまけ:
~2人で大量の荷物を持ちながら~
晶「なあ、とあちゃん?」
冬「どうしたの、晶ちゃん?」
晶「この生徒会の雑用って、後どれだけあるんだ?」
冬「う~ん、生徒会長さん自身もいつもは寝ているけれども、本当は優秀だし、他の人役員の人たちも頑張っているからこれでも少ないんだと思うよ?」
晶「じゃあさ、これも生徒会の仕事に必要なものなのか?」
(そう言って、荷物の中から2冊の本を取り出す)
冬「『自分勝手な子供の躾け方100選』と『目指せ!気遣いの出来る女子への道』……」
晶「一体何に使うんだろうな、とあちゃん?」
冬「……そうだね、ボクニハヨクワカラナイカナ?」