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放課後怪談  作者: RAIN
"第朝夜:"死神"から"彼"へと続く物語"
30/31

もう1人の元死神

戦闘が終わり…

Side:???


「…………!?」

 "彼"が再び意識を取り戻したのは、"彼"が動きを止めてから数時間後のことだった。 

 その頃には日は完全に落ちて、河原は動物と虫の鳴き声しかない静寂と先の見えない暗闇に包まれていた。

 

 "彼"の目は、明かりが無くても問題なく物を見る事が出来るため、意識を取り戻してから直ぐに周囲を見回したが、既にあの2人の姿は何処にもなかった。

 念のため、自らの手足や他の感覚などに異常がないかどうか調べてみたが、どれも正常に機能していることは確認出来た。


 その時点で、彼らは自分に止めを刺さずに立ち去ったのだろうと"彼"は結論付けた。


 だとすれば、やはりまた彼らの前へと行かなければならないと思い、思わず手に握る大鎌に力が入る。



「ふむ…その行動はやめておいた方が良い、と忠告をしておこう」

 すると"彼"の背後から突然、男性とも女性ともとれる様な中性的な声の持ち主から声を掛けられた。

 

 その声に"彼"は思わず振り向く。

 

 声の主は"彼"と同じ様な全身を覆う長さの黒い外套に身を包んでいたが、顔を確認することは出来た。 

 

 日に焼けた様子の無い白粉を塗ったかの様に白く綺麗な肌で、無表情ではあったが顔の造りは芸術品の様に整っていた。

 東洋風の顔をしているが瞳は青く、背丈は170cm程あり、外套の腰辺りには髑髏の仮面がぶら下がっていた。

 また、艶のある黒髪を首にかからない辺りで切り揃えていることから恐らく男だろうと思われる。

 そして、目の前の人物は"彼"と同じ身長程の大きさがありそうな大鎌を背負っていたが、"彼"とは違い重さを感じていないのか平然とした様子で立っていた。


「…………!」

 突如現れた謎の人物に対して"彼"……"死神さん"は何かを言いたげだったが、言葉として発することはなかった。


「こうして実際に会うのは初めてだが、少なくとも死神(・・)だった頃は無口ではなく、積極的に人間を助けようとする酔狂な死神だったと記憶しているのだが……それとも死神で無くなったことで何か喋れない理由でも出来たのだろうか?」


「……!?」

 目の前の存在は独り言の様に呟いたのだが、どうやらその声は"死神さん"にも聞こえたらしく明らかに動揺を隠せない様子だった。


「ああ、そういえば普通の死神同士ならばまず会うことはないから気にしなかったが、こういう場合は自己紹介をした方が話が進むと聞いたことがあったな…。 改めて、私はアナタより後に生まれた死神で、人と話す時には陽炎(かげろう)という名前を使っている。 喋れないならそれでも構わないが、アナタには名前はあるのだろうか?」

 一向に表情を変えないまま、陽炎と名乗る死神は簡潔に自己紹介をするのだった。

 


「……………いや、話すことは出来る。 ただ、私は最後まで自分の名前を持たずに生きて来たので、誰かに名乗れるような名前はないだけだ……」

 そう言って"死神さん"は顔を隠していたフードを取った。


 その姿は陽炎と同じく整った顔に青い瞳をしており、髪は肩まで伸ばした暗く光る様な色をした金髪だった。

 そして、振り絞る様に声を出した"死神さん"の声は暗く何処か悲壮な雰囲気を醸し出していた。


「ふむ……では"名無し"からとって"ナナシ"という名前ではどうだろうか?」

「……………」

「あるいは、進んで人に関わって行っていた酔狂者から"進行"という名前も良いと思うが?」

「……………」

 「良いと思うがと言われても…」と抗議する様な視線を陽炎に向けてぶつけるが、陽炎は気にした様子はなかった。

 最終的には、この場では"ナナシ"という名前で話をすることになった。


「…それで、私の行動を何故止めようとするんだ?」

「……何のことだ?」

「…………」

 マイペース過ぎる陽炎の発言にナナシは再び黙り込む。


「……冗談だ。 止めた理由だが、彼らを再び襲撃しようとしたところでキミの目的(・・)を果たすことは出来ないと考えたからだ」

「………!? 一体何処まで知っている!」

 陽炎の言葉にナナシは驚きを隠せない様子だった。


「ふむ……それは、彼らを襲撃することが無意味だと言った理由か? それとも、私がキミの目的(・・)を知っていた理由のことか?」

「…どっちもだ」

 表情を変えずに尋ねる陽炎にナナシは返答する。


「まずキミの目的を知っっていた理由だが、きっかけはキミがあの神社で彼らを襲撃した時からだった。 直前まで気配すら感じさせずに彼らを襲撃したキミが、いざ戦闘になると執拗に彼女だけを狙い、その上で隙の多い動きばかりを繰り返していた不自然さがあった。 先程までの場合ならば分かるが、神社での際には明らかに狙いやすい存在は『冬亜』と呼ばれていた元死神である彼の方だったはずなのにだ」

「……私が彼女に対して恨みや何かしらの使命を持って彼女を狙っていたとは考えなかったのか?」

 陽炎の話を遮る様にナナシが疑問を投げかける。


「勿論その可能性も考えて、遠巻きながら彼女が命を狩る対象であるかどうか視てみた。 しかし、彼女は全く問題がなかった……いや、問題がなさ過ぎると言うべきだろうが今は関係ない。 あの時のキミは、まるで何かを待ちわびているかの様だった。 そして結果として元死神である彼が死神としての力の一端を取り戻したことでキミの最初の目的が達成された。 彼が死神としての力を一端だけでも取り戻した瞬間、私はその場から引き離されたため、その後キミがどの様な行動を取ったかまでは知らないが」

「なっ………!!」

 陽炎の言葉にナナシは驚きの表情を浮かべた。


「本来ならば、死神が同じ時間同じ場所で会うことはないと知識として知っていたが、ああなるとは思わなかった。 そして、今現在死神である私がキミを前にしても何も起こらない。 それはつまり、キミは死神でもなければ、人間でもない"ナニカ"であるということになる。 キミがどのような過程を経て死神で無くなったのか、どうして彼らのことを知ったのかは興味は無いがな」

 そう話す陽炎の表情は、本当にナナシの抱える事情に対して興味が無いかの様に見えた。


「………」

 陽炎の語った推測に対してナナシは沈黙を続ける。


「そして次に、キミが何故、冬亜(かれ)に死神としての力を取り戻させる必要があったのかが問題となる。 そこで私はキミの正体について死神としての知識の中に該当するものがないかどうか調べてみた」

「………なっ!?」

「結果だけ言えば、キミの正体に辿り着くことはなかったが、非常に興味深(おもしろ)いことが分かった。 それは、死神の力や死神の持つ得物には人間の命を狩るだけではなく、物の怪や怪異などといった人間以外の存在にも有効であるということだった」

 残念ながらこれまでに怪異の様な存在に会ったことはないが、と陽炎は言葉を付け加えた。


「そして、キミの今までの行動を改めて振り返ってみた。 キミが彼らに何か怨恨を抱いているのか、死神では無くなったキミの使命なのか、キミよりも上位の存在が居てそれがキミに指示したのかなど色々憶測を交えて考えてみたが、どれも違う様な気がした。 そして、キミの一連の不自然な行動や死神としての知ることの出来る知識から、キミは彼らをを害することが目的なのではなく、隙を見せた上で自然な形で彼らにキミの事を(ころ)して欲しかったのではないかという結論を出した」

 違うだろうか?と尋ねる様に陽炎がナナシに視線を移すが、ナナシは返答をしなかった。


 だが、ナナシの表情は陽炎の推測が間違っていないことを現していた。


「戦闘中に自然な形で彼らにキミが倒されれば、彼らが罪悪感を抱くことがないとでも考えたのだろう。 もしそれでも彼らがキミを倒さなければ致命傷にならない程度に彼女を傷付け、彼を怒らせた上で倒され様としたのかもしれないがな。 まあ、死神では無い者の得物が人間にどれ程効果があるのかは分からないが、あるいはそのまま彼女を殺めてしまう可能性もあったかもしれないだろうが。 だが、人間はそう簡単に忘れる者ではないと思うぞ? ……幾星霜の時を超えても私のことを覚えていた(しょうじょ)がいたようにな…」

 最後まで聞き取ることは出来なかったが、陽炎は何処か悲しそうな表情を浮かべていた。


「それに、キミが彼らを襲撃することが無意味だと言った理由だが非常にシンプルだ。 今の彼は死神としての力を完全に消失している。 まあ、だからと言って完全に人間になった訳でもないが…。 その証拠に、今も彼の持つ大鎌は欠けたまま手元に残っているが、あくまで残っているだけで死神どころか人間すら傷付けることも出来ない位に弱くなっている」

「それはどういうことだ!?」

 陽炎の話を聞いたナナシは驚きを隠せずに陽炎に詰め寄った。


「そもそも冬亜(かれ)は、不完全な状態で死神としての力を取り戻した影響で存在自体が不安定になっていた。 それを先程の戦闘で死神としての力を完全に使い切った結果、彼もキミと同様に死神でも人間でもない存在(ナニカ)になった訳だが……恐らく彼女はそんな彼でも受け入れるのだろうがな」

「そんな………」

 陽炎の発言にショックを受けている様子のナナシだったが、陽炎は更に衝撃の事実を打ち明ける。


「それに、もし彼が何かのきっかけで再び死神としての力を取り戻したとしても、彼らは今後別の死神に命を狙われ続ける可能性が出た訳だが…」

「何だと!?それはどういう意味だ!!」

 ナナシの慌てたような様子に陽炎はやや驚いた様な表情を浮かべながらも話を続ける。


「死神全体に通達された情報なのだが、彼らを命を狩る対象とは別に狩るべき脅威だという結論が出たようだ。 恐らくは、彼の傍にいる彼女が原因だろうな」

 陽炎は淡々と言葉を続ける。


「彼女は、死神の得物によって一度は生死の境を彷徨いながらも無事に生還。 彼女自身は命を狩るべき対象ではないものの、その後も元死神である彼と共にいたせいか、彼女自身も徐々に人でも死神でもないものになりつつあるということだ……まあ、私が彼女を見た限りでは、今後そうなる可能性は万に一つもないのだが、それでも他の死神にとっては見逃せない事態なのだろうがな」

 私としてはそのまま彼らには無理に関わらない方が良いのだと思うのだが、と愚痴をこぼす。


「 他の死神達(かれら)にとっては彼女の存在はキミや彼の様な元死神(イレギュラー)とは異なり、死神(システム)にとって見過ごすことの出来ない異常(バグ)の様に写っているのだろうな…」

 あくまで推測の域を出ないがと陽炎は付け加える。


(とあ)と言う存在があって彼女(あきら)が前に進み続ける決心をした様に、彼女(あきら)という存在があってこそ(とあ)は死神としての自分を肯定することが出来たのだろう。 もし、彼が彼女を失うことがあれば、その時こそ彼は死神としての力を取り戻す可能性は完全になくなるだろうな。 もしキミが(ころ)されることを願っているのならば、彼らの歩みを邪魔をすることは止めた方が良いだろう」

 そして陽炎は尚も話し続ける。


「それに私も含めてだが、他の死神たちがキミのことを(ころ)すことはほぼ無いだろうな。私みたいな変わり者を除けば、今いる死神の殆どは自らの職務に関わりのない他の存在に干渉はしてこないだろうからな…」

 だからこそ他の死神が晶と冬亜の周りの者たちを巻き込むような行為をすることはないだろうがな、と話の最後に付け加える。



「どうしてそこまでして彼らを守ろうとする様なことを私に教えるのだ?」

 ナナシは疑問に思ったことを陽炎に尋ねる。

 何故死神である陽炎が、ここまでしてあの2人を守るのかが気になったからだ。


「それは………私はあくまで彼らの敵ではないからだろうか。 それに、私が死神である以上はいつまでも彼らのことを見守ることも出来ないだろうし、他の死神が近付いても彼らの許に駆け付けることの出来る者が少しでも多くいれば良いだろうと考えたからだろうか…」

 首を傾げる様な仕草をしながら陽炎はナナシの質問に答える。 


「それは私に彼らを他の死神から守れと言うことなのか?」

 ナナシは思い切って陽炎に尋ねる。


「そう思って貰っても構わない」

 陽炎は短く答える。


「…!?私がそれをすることに何の意味があるんだ!」

 ナナシは再び声を荒げる。

 彼にとって何故そんなことをする必要があるのか、理解することが出来なかったがからだ。


「意味か……例えば、彼らが他の死神に狙われた時に彼らを庇って自らを消滅させること機会を得ることも出来るだろうな。 ……だが、私としては彼らを通して元死神(キミ)が自らを(ころ)す以外の生きる道を見つけて欲しいという思いもある。 キミが救われる様な道があれば良いとな…」

「まるで自分に言い聞かせている様な言葉だな」

 皮肉を込めてナナシは言い返す。


「まあ、そう言えなくはないだろうな……手の届く者に手を伸ばさなかったことで、後悔した死神(わたし)としてはな……だからこそ、元死神(キミ)には色々な可能性(みち)を知って欲しいと思っている」

 そう言って悲しそうな顔をしながらも陽炎は本心からそう答える。


 陽炎の話を聞いたナナシは少しの間考えた後、改めて口を開いた。




「それで…アナタはこれからどうするおつもりなのですか?」

 突然、雰囲気と言葉遣いを改めたナナシは、陽炎にそう尋ねる。


「私は折を見て、彼らにも今後訪れるかもしれない危険位は教えるつもりだ。 少なくとも、私はこれからも私が私である限りは、死神としての職務を全うし続けるだろうから、いつでも傍に居れる訳ではないからな…。 それよりも、急に雰囲気や言葉遣いが変わったがどういう風の吹き回しだ?」

 今度は陽炎の方がナナシへと質問をする。


「それはまあ……私にとっての一種の決心の様なものですよ。 今はまだ、私は彼らのことを陰ながら助けるつもりも、かといって彼らを襲うつもりもありませんが、彼らを……見定め、見極めるためにも感情的になる訳にはいきませんので、そのためには自分自身の姿勢(かんじょう)すらも(おさ)えた次第なのです」

 そう言ってナナシは、道化の様なわざとらしい笑みを浮かべてみせた。


「なるほど……それが死神(・・)だった頃にキミが人と接するときにとっていたスタンスという訳か……。 キミの考えを否定するつもりないが、自らの本心を出さずに、感情を押し殺していたのは大変だったのではないか…?」

 道化の様な笑みの裏で何かを決意した様な表情のナナシに、陽炎はそれ以上彼が抱えていた事情について追究することはなかった。


「それで改めて尋ねるが、キミにこれから彼らのことを見守り続けることを頼んでも大丈夫か?」

 陽炎がナナシにそう尋ねる。


「ええ……お受け致しますよ…それが私に出来ることならば…」

 そう言ってナナシは陽炎からの要請を受けるのだった。

 

「少なくとも、今の私の心情としてはこのまま消え去りたいという思いを抱いたままですが…アナタの本心から出た提案を断るのは、少々勿体無い様な気がしますからね…。 ただ、私がアナタの提案を断って消え去ることも出来ない日々を過ごす道を選んでいたら…アナタはどうするつもりだったのですか?」

 そう言ってナナシは意地悪そうな笑顔を浮かべながら陽炎へと顔を向ける。


「……さあな。 それこそ人間や元死神が知る由もない神のみぞ知る未来…なのかもしれないな」

 含みのある言葉を残して陽炎は静かにその場から去って行くのだった。


「死を与える現象であり、死神(システム)である彼なり自虐(こうかい)……なのでしょうかね?」

 ナナシはそう呟きながら、暗闇に紛れるかの様にその場から去って行くのだった。

~Unknown Episode~

ー"彼"は1つだけ嘘を付いていた…

ー"彼"には名があり…

ーかつて"彼"の名を呼ぶ者がいた…

ーその者との思い出を"彼"は一度も忘れたことがなかった…

ーだからだろうか…

ー"彼"はその提案を受け入れた…

ー"彼"が手に入れることの出来なかった…

ー在り得たかもしれない幸せな未来を見届けるために…

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