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放課後怪談  作者: RAIN
"第朝夜:"死神"から"彼"へと続く物語"
29/31

晶の答え

次話は???での視点です。

(=゜ω゜)ノ

 日は暮れて風も吹いて来た。

 寒空の下、周囲は非常に暗く、辺り一面に小石が敷き詰められた足場の悪い河原では3つの影がせわしなく動いていた。

 

 死神は園断神社で晶を襲おうとした時よりも、隙の無い動きで晶と冬亜に襲い掛かって来た。

 その様子はまるで、園断神社での襲撃は小手調べだったとでも言える程の苛烈さだった。

 

 死神が大鎌を縦に鋭く振り下ろせば、晶が大鎌の軌道上から素早く横へと回避する。


 冬亜が死神に牽制を掛けようと攻撃をしようとすれば、死神は晶に注意を向けつつも冬亜の攻撃を大鎌で防ぐ。


 冬亜の攻撃を防いだ流れで今度は大鎌を横に薙ぎ払えば、晶は後方に大きく移動して見事に回避する。


 冬亜が晶から死神を引き離そうとしても、死神はなおも晶に狙いを付けつつ、大鎌の柄で冬亜のほとんど刃の無い大鎌の攻撃を防ぐ。


 そんなやりとりが先程から幾度となく続けられた。 

 死神が振るう大鎌の刃に一度でも触れれば、命を狩られてしまうという緊迫した状況の中で冬亜と晶は奮闘していた。


「大丈夫、晶ちゃん!?」

「はぁ…はぁ……ああ、大丈夫だ! 心配すんな、とあちゃん!!」

 あの時とは違い、冬亜が死神の大鎌を振るう動きを度々邪魔しているためか、多少の息切れはあるものの晶の動きにはまだまだ余裕があった。


「…………」

 死神の方はと言うと、疲れとは無縁の存在なのかフードで表情こそ窺うことが出来ないが、息が乱れると言ったような疲れた様子はないようだった。

 そして、冬亜も死神と同様に疲れた様子はなかったが、こちらは晶を守り切ることに対しての緊張感からか、息は乱れてはいないものの額には若干の汗が流れていた。


 晶と冬亜、死神による2対1の手に汗握る攻防はなおも続いた。


 途中で何度も晶が危ない目に遭う場面もあったが、その度に冬亜が死神の追撃を邪魔するかのように引きつけて、致命的な一撃に至ることはなかった。



 決定打の無い状況がひたすら続き、このままではいずれは死神の大鎌が晶に振り下ろされる時が来てしまうのではないかと思われた時、何処からともなくその声が聞こえて来た。



―誰にも理解されることのない生き方でも満足だったのか?



「誰だ……?」

 死神の大鎌を避け続ける晶の耳に聞こえてきたのは、酷く無機質で男性とも女性とも分からないような機械的な声だった。

 声の主の言葉の意図すらも分からない質問に晶は思わずと言った風に、姿の見えない声の主に聞き返した。


「どうしたの、晶ちゃん!?」

 突然、何かに気を取られた様子になった晶に冬亜は死神の動きを妨害しつつも声を掛けた。

 冬亜のその様子から、どうやら彼には今の声が聞こえてなかったようだ。


「もしかして、アンタなのかよ……"死神さん"?」

 まさかと思いながらも、尚も大鎌を振り回す目の前の死神に晶は声を掛ける。


「………?」

 しかし、目の前の死神もどうやら今の声は聞こえなかった様子で、一瞬何か別の勢力が現れたのかを確認するかの様に周囲を見回したが、誰もいないことを確認し終わるとすぐさま攻撃を再開した。


「じゃあ一体、誰なんだよ今の声は……!?」

「一体何が聞こえたの、晶ちゃん!?」

 冬亜がそう尋ねると同時にまたその声は聞こえて来た。



―誰にも理解されることのない生き方でも満足だったのか?



 それは先程と一言一句違わない内容であり、一切の感情を排した様な声だった。


 再びその声を聞いた晶は、この声は自分に向けて発せられているものだと悟った。

 それと同時に、自分自身の生き方を見ず知らずの声の主にどうこう言われることに対して憤りを感じた。


 だからこそ、死神の猛攻を避けながらも晶は姿の見えない声の主に聞こえる様な大きな声で叫ぶ。


「さっきから俺に声を掛けてくるアンタは何様のつもりだ!? 誰も理解していないなんて何でアンタが分かんだよ? 少なくとも、とあちゃんに会えたことで俺は自分の生き方に満足はしているぞ!! 勝手に決めつけるな! それに生きてりゃ誰だって辛いことも悲しいこともあるだろ! それにどう立ち向かっていくのかが大事だろうが!」

 かつて、死神であった冬亜が消滅する際に聞いた声に対して晶はそう答える。


「晶ちゃん…もしかして?」

 突如、晶が怒鳴る様な言葉を放ったことに驚きはしたものの、冬亜は晶が放ったその言葉を聞いて何かに気付いた様子だった。


 そして、死神の攻撃はなおも止むことなく晶を襲い続ける。


 どうやら、晶に聞こえた謎の声は死神と冬亜には聞こえない様だったが、晶が返答をしたことで繰り返し聞こえていた言葉が聞こえなくなったようだった。

 途中、晶が河原の石に足を取られそうになりながらも死神の攻撃を避けたり、死神の大鎌が冬亜に当たりそうになることもあったが、尚も死神の猛攻を凌ぎきっていた。


 だが、再び聞き覚えのある声が晶の耳に聞こえて来た。



―歩んできた道に間違いは無かったか?



「またかよ……!?」

「晶ちゃん…!!」

 先程とは違う言葉が聞こえて来たようだった。


 その声に晶は一瞬気を取られたものの、運よく死神の大鎌による攻撃を避けることには成功し、冬亜が晶の援護に回るかの様に前に出る。


 その間に晶は声の主に喧嘩でも売るかの様に叫ぶ。


「さっきから誰なんだ! それに、俺の人生が間違いしかなかったとしても、俺は自分が正しいと思って歩んだ道を信じているだけだ! 文句あんのか!!」

 その回答は、冬亜が答えたものとは違うものではあったが結論は同じだった。


 自らの歩んだ道が間違いだったか正しいかどうかはその人物の考え方次第で大きく変わるもので、自分の決断を信じることが出来るかどうかが大事であるかのように…。

 


「………!?」

 間近で晶の言葉を聞いた死神は、突如として大鎌を振るうのを止めた。


 その様子はまるで、晶の言葉にその死神が何か深い衝撃を受けたかの様だった。



「………!!!」

 だが、死神が動きを止めたのはほんの僅かな間だけだった。


 死神はすぐさま気持ちを切り替えたのか、再度晶を大鎌で狙い始めた。

 しかし、その動きはどこか力の入り過ぎた動きとなり、先程までの動きと比べて明らかに精彩さを欠いていた。

 急に動きに隙が出来始めた死神の様子に、晶と冬亜は不思議に思いながらも油断無く攻撃を躱し続ける。



 死神が振るう大鎌の攻撃を幾度か躱していると、再びあの声が聞こえて来た。



―2人の内どちらか一方しか生きられないとしたらどうする?



 その言葉を聞いた晶は、死神と命懸けの攻防をしている状況であることも忘れて思わず反射的に叫ぶ。


「ふざけんな!! そんな後ろ向きな未来なんか知るかよ! 俺は…俺は、とあちゃんと俺の2人ともが生きられる未来を探すんだ!」

 冬亜に守られ続けるのではなく、かといって晶自身が冬亜を守り続けるのではない。


 2人が共に守り、共に助け合うことの出来る未来を切り開くことを晶は心の底から叫ぶ。

 それは人間(いきもの)死神(げんしょう)、寿命のある者と寿命の無い者、生きる者と命を狩る者という相反する存在という障害を乗り越えて行くことを覚悟した者の言葉だった。

 


「………!!」

 すると不思議なことに、晶の心からの叫びを聞いた死神は今度こそ完全に動きを止めたのだった。


 もちろん、機械の様に急停止した訳ではなく、フードで顔こそ隠れてはいるが衝撃を受けたような様子で手に持っていた大鎌を河原の上に落としたのだった…。




「一体どうしたんだ…?」

「僕にも分からないよ、晶ちゃん…」

 晶と冬亜も、目の前の死神に起きた突然の出来事に訳が分からず首を傾げるしかなかった。



「それよりも晶ちゃん…どうするの…?」

 冬亜は晶の目を見てそう尋ねた。

 

 今は動きを止めて戦闘を続行する意思の無いように見える死神だが、このまま放置しておけばいつかまた晶に襲い掛かってくるかもしれない。

 だからこそ、ここで決着を付けなければ危ないのではないかという思いが冬亜にはあった。

 そして、巻き込まれた当事者である晶に冬亜はその判断を委ねようと考えた。


 もし、ここで決着を付けるのならば自分が目の前の死神に止めを刺すという言葉を口にすることなく…。

 

 冬亜の決意を感じ取った晶は、少しの間黙り込む。

 

 




「とあちゃん……俺はーーー」

 そして、冬亜の問いに晶は自分の考えを口にする。






 ちょうどその時、河原に強い風が吹いたのだった…。

~Unknown Episode~

ー"彼"の心は既に壊れていたのだろう…

ーだからこそ"彼"には心からの叫びなど届かない…

ーもし、"彼"に声が届くことがあるとすれば…

ーそれは"彼"が求めて止まなかった答えなのかも知れない…

ーだが、その時の"彼"が望んだ結末(すくい)は唯一つ…

ー"彼"を終わらせることだけだった…

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