縁断つ神社
今回は少し短めです。(=゜ω゜)ノ
苔の生えた石の階段を上りきった先には、明かりのない淀んだ空気が漂っていた。
境内の周囲は背の高い木々が生い茂っており、月明りが木々の隙間から僅かに境内を照らしていたが、人がいない夜の神社には不気味な静けさが漂っており、まるで別世界の様な風景だった。
「懐中電灯を持ってきてよかったな!」
「うん、そうだね!」
夜遅い時間に集まるということだったため、晶と冬亜の2人は共に懐中電灯を自宅から持参してきていた。
そして、2人は持ってきた懐中電灯を早速使うのだった。
「うわっ…ゴミが酷いな…」
「そうだね、晶ちゃん…。誰も神社を綺麗にしようとしなかったのかな……?」
2人が懐中電灯を点けると、そこには様々なゴミが広がっていた。
ゴミは境内の中央にある石畳の上だけではなく、その脇の地面や境内を囲む茂みの中にもあり、紙くずや空き缶、お菓子の袋など様々な種類のゴミが捨てられていた。
その光景を目にした2人は、無言で目を合わせるとお互いに頷いた。
「……よしっ!ちょっと掃除するか、とあちゃん!」
「そうだね、晶ちゃん!僕たちに出来る限りのことはしようよ!」
そう言って2人は、懐中電灯の明かりを頼りに境内の隅にあったゴミ箱にゴミを分別して捨て始めるのだった。
それから暫くした後、空も完全に暗くなった頃になると、最初に見た時とは打って変わってゴミの落ちていない綺麗な境内がそこにはあった。
「ふうっ…これぐらいでいいな?」
「うん、最初の時と比べると凄く綺麗になったね!」
晶と冬亜の2人は、やや満足そうな顔をして境内を見回すのだった。
そして、境内を見回す中で2人はある看板を見つけた。
「んっ…?とあちゃん、これって…?」
「…この神社の名前の由来…みたいだね…晶ちゃん」
その看板には、園断神社のことに関する詳しい解説が書かれていた。
「えっとね…この看板によると、園断神社は昔は縁を断つ神社と書いて『縁断神社』って呼ばれていたみたいで、時代の流れと共に今の名前になったみたいだね」
「縁を断つって不吉な神社なんだな……」
自分たちのいる園断神社の不穏な名前の由来を聞いた晶は、不安そうな声でそう言った。
「大丈夫だよ晶ちゃん!この神社が断つ縁は、良い縁じゃなくて悪い縁を断つみたいだよ。どうやら、この神社で悪い縁を切ると、良い縁が結び易くなる言い伝えがあるみたいだよ」
晶の不安な気持ちを振り払うかの様に冬亜は言った。
「あとね、この神社と対の関係になる縁を始める『縁神社』っていう名前の神社があるみたいだね」
「ああ、その神社なら俺も知ってるぜ!田舎にあって、毎年祭りの時期に地方からも観光客が来る位有名な神社だろ!」
自らも行ったことのある神社の名前を聞いた晶は、元気よく返答した。
「それにしても、縁神社の方は有名だとしても、何でこの神社の方はあまり知られてないんだろうな?」
「多分だけど、縁結びの神社と比べると縁切りの神社って、さっきの晶ちゃんみたいに不吉なイメージがあるからみんな敬遠しちゃうんじゃないかな?」
「どうしても切りたい縁がある奴やここをたまり場にする奴ら位しかここに来ないってことなのか」
「それに普段からここを管理している人がいないのかもしれないね」
そして、神社の名前の由来を知った2人は、それから少しの間『死神さん』の噂のことを脇に置いて各々が神社を通して思ったことを話すのだった。
ちなみに作中に出た【縁神社】は、自作『鶴と陽炎』のエピローグと自作『彼岸花の彼女へ』の1話目で出てきた神社のことを指しております。(=゜ω゜)ノ
加えて『鶴と陽炎』では神社の名前が分からないとなっている理由は、【縁神社】という名前も時代の流れと共に呼び名が変化した結果つけられた名前であり、本当の名前ではないということを指しています。