夢の終わりと新たな始まり
物語はまだまだ続きます。(=゜ω゜)ノ
小鳥の囀りが外から聞こえ始める午前6時頃。
朝日が差し込む室内で眠る冬亜はベッドから体を起こした。
「懐かしい夢だったな…」
先程まで見ていた夢の内容を鮮明に覚えていた冬亜は、誰にいう訳でもなく呟くように口にした。あの少女との出会いを経験し、死神としての自身が消滅した後からは色々なことがあった。
中でも、消滅した後に気付いた時には、住居や戸籍を持った”火影冬亜”という1人の人間の男の子として新たな生を持っていたことには大きな衝撃を受けた。
幸い、生活をする上で必要な金銭もあり、死神として存在していた頃の記憶もはっきりとしていたため、日常生活を送る上で必要な知識は全て持っていたため大きな問題は無かった。
だが、残念なことに両親は存在しなかった。不思議なことに、行政などからはそれらのことを追求されることもなく、学校等への入学に関してもいつの間にか手続きがされているという出来事はあった。
しかし、最大の問題は元々死神の頃から中性的な容姿であり、この数年間は身長もほとんど伸びずにいたため、男性という性別を得たにも関わらず女性として幾度も扱われることだった…。
「ううっ…汗でべたべたする…」
就寝中に感じた寝苦しさのためか、冬亜の着ていたパジャマは汗に濡れていた。
汗で濡れたパジャマを脱いで、早く身体を綺麗にしたい衝動に駆られる冬亜はベッドから出て、足早にお風呂へと向かう。
そして、風呂場へ到着した冬亜は足早にパジャマと下着を脱ぎ、脱水機能付きの洗濯機の中に入れてからスイッチを起動する。
洗濯機が動き出したのを確認してから、浴室の中へと入りシャワーの蛇口を開いた。
「冷たい…!?」
出始めたばかりのシャワーの水はまだ冷たく、最近では随分暖かい陽気になったとはいえ、思わず声を出してしまう程の冷たさだった。それでも、徐々に温水へと変わるシャワーで身体の汗を流しながら、冬亜は丁寧に自身の身体を洗うのだった。
「どうしてみんな、僕のことを男の子扱いしてくれないんだろう…?」
浴室に写った自分の姿を見ながら、冬亜はふと呟いた。
黒くしっとりとした艶めきを放つ黒髪。
甘くそれでいて大人をも魅了する響きの声。
シミ1つ無い白雪のような美しさと柔らかさを備えた肌。
丸みを帯びながらも健康的な妖しさを放つ肢体。
誰もが見惚れてしまうような容貌を彩る青い瞳。
どれもが完成されたような美であるが、元死神としての常識を持つ冬亜には残念ながらその自覚はなかった…。
汗を流し終えて目も覚めて来た冬亜は、体を綺麗に拭いた後、一度部屋着に着替えた。
学校に行くまではまだ時間に余裕があるため、制服にはまだ着替える必要がないからだ。
それから、エプロンを付けて朝食の準備に取り掛かる。
慣れた手付きで朝食を作る様子は、まさに家事の出来る美少女そのものだったが、それを指摘したところで顔を赤くして否定するのが関の山だろう。
その後、朝食を済ませた冬亜は食器を片付け、自室にある大切な物などを仕舞っているクローゼットから皴を伸ばした制服などを取り出す。
そのまま流れるような仕草で衣類の一部をアイロン掛けし、冷蔵庫を確認して今晩の夕食に必要な材料をメモするなど学校に行く前に必要なことをある程度済ませるのだった。
「ふう、これで必要なことは全部終わったかな?」
漏れが無いことを確認するように、冬亜は室内を見渡してそう呟くのだった。
「とあちゃーーーん!!もう起きてるかーーー?」
もの凄く聞き覚えのある声が冬亜のいる室内にまで響いた。
下手をすれば、近所から苦情が来るほどの大声だが、幸いなことに近所の住人にとってそれは一日の始まりを告げる朝の恒例の出来事の1つになる程までに習慣化していた。
「もう、晶ちゃんてば!仕方ないなぁ…!」
呆れる様な口調を零しながらも、冬亜の顔には笑みが浮かんでいた。
もしかしたら、あの時出会った彼女とは別人なのかもしれない。
だが、死神で無くなった今の自分には命の灯を見ることは出来ない。
それでも、彼女に会う度に感じるこの胸の高鳴りは本物であることは分かる。
だからこそ、彼女に抱くこの気持ちは恋なのだと思う。
彼女と共に歩むことが、今の自分の望んだ結末であること信じて。
今日も彼女と過ごす1日が楽しいものであることを願い歩き出す。
「晶ちゃん、今行くねー!」
そして、元気な冬亜の声が今日の一日の始まりを告げるのだった。
……。
…。
―ここはどこかの町にあるどこかの学校…―
「ねえ、知ってる?”死神さん”の噂…」
「知ってる!遭うと一週間以内に死んじゃうって噂のやつでしょ…?」
「何でも、隣のクラスの××さんが昨日の帰りに遭っちゃたそうよ…」
「えー、怖い。じゃあ、××さんヤバいんじゃない?」
―人のいる所に噂有り…。
―光があれば影も生まれるように、新たな怪談が幕を開ける…。
―例えそれが彼ら彼女らの運命を変える出来事になろうとも…。
―怪談が無くなることはないだろう…。
~おまけ~
冬「晶ちゃん…何で私服で来たの!?学校に行くんじゃないの!?」
晶「んっ?もちろん行くぞ?ちゃんと、とあちゃん家に予備の制服も置いてあるしな!」
冬「ちょっと待って!?僕、そんな事実初めて知ったよ!?」
晶「安心しろとあちゃん!とあちゃんの下着入れ"は"勝手に弄ってないからよ!」
冬「どこにも安心できる要素がないんだけれど!?」