~第1夜:プロローグ~
前話への要望が無かったようなので、例の怪談は後に回すことになりました...。
ここは何処だろうか…?
私の目の前の空間は白く塗り潰されていた。
その光景を不思議に思い、周囲を見回そうとするが体が動かない。
拳を思いっきり振り抜くイメージで動かそうとしても全く動かない。
これは夢なのだろうか?私はそう考えた。
ならばどうすれば目覚めるのだろうか…。
少しの間考えたが、どうにも良い方法が思いつかない。
何も出来ることがないかと思い始めた直後、私の足下が光ったような気がした。
その様子が気になった私は、足下に意識を集中してみた。
すると、その光景を見ることが出来るようになった。
そこには、川の近くで小さな子供を囲むように3人の人間がいた。
その内の2人は、今は亡き私の両親だった。
両親が交互に小さな子供に対して必死に心臓マッサージと人工呼吸をしている光景が広がっていた。
あの子供は、幼い頃の私だ。そう本能的に理解出来た。
しかし、何故両親はあんなに悲しい顔をしているのだろう?
何故子供の頃の自分の全身があんなに濡れているのだろうか?
何故子供の頃の私のすぐ傍で、古びたマントを顔まで深く被った人物がマントの端から涙をこぼしているのだろう?
そう疑問に思った直後、何処からか声が聞こえて来る気がした…。
「…ちゃん…らちゃん!」
どうやら私は寝ていたようだ…。
しかし、不思議なことに目の前には天使がいた。しっとりとした黒髪に澄んだ青い瞳で、自分と同じ私立櫂耀高等学校の制服に身を包んだ天使だ。
「目の前に天使がいる…。ここは天国か?」
「何を言っているの、晶ちゃん!?よく見て僕だよ!」
目の前の天使は頬を赤くしながら、甘く幼い声でそう叫んだ。
「…?ああ、美少女か」
「何だか凄く失礼な言い方だった気がするよ!?」
見た目は美少女の…男子高校生、火影冬亜は高い声でそう言った。
「そもそも、高校3年生にもなって身長160cm未満で、去年の学園祭のミスコンでも2連覇を果たした美少女様が言ってもなあ?」
「あれは、晶ちゃんが僕をダマして2年連続無理やり出場させたからでしょう!?」
「安心しろ。生徒会長公認のお墨付きも貰っていたし、当時の担任の先生もノリノリで参加していたんだぞ?」
「どこにも安心出来る要素が無いのだけれど!?」
小さい身長ながらも必死に晶に抗議する姿は、傍から見ている生徒たちにとってまさしくクラスのマスコットのような可愛さだった。
「もう…。僕はミスコンには晶ちゃんに出て欲しかったのに…」
「そうかぁ?俺はこんな性格だからか事前審査の段階で落とされたぞ?」
「晶ちゃんもエントリーはしていたんだね…」
そう言って冬亜は、改めて彼女の全身に目を向けた。彼女、九曜晶は女子高生にしては背が高く170cm近くある。髪は短く切った明るい茶髪で、胸も大きすぎず十分に魅力的なサイズである。制服は普段から着崩し、スカートの下にはスパッツを履いている。
見た目だけならば、活動的な可愛い女子という印象だが、普段の口調と行いが災いして可愛いというよりも格好良いという印象が強かった。
「そういえば、晶ちゃん。ミスコンと同時に開催されていたイケメンコンテストで審査員特別賞を貰っていたよね…」
「あれは、俺にとっての黒歴史だ…」
そう言って、晶は遠い目になるのだった…。
「それはともかくよ、次の授業は無いのか?」
「そうだ忘れてた!晶ちゃん、今日の授業はもう終わったんだよ?」
「何だって!?さっきお昼ごはんを食ったばかりだろう!?」
「晶ちゃん…その段階から寝ていたんだね…」
そう言って溜め息を吐く冬亜だった。
「そういえば、担任の電車はどうしたんだ?」
「晶ちゃん…。あれも寝惚けてやっていたんだね…」
「どういうことだ…?」
「その質問には私が答えよう!」
突如、2人の会話を遮るように大きな声が上がった。
「そもそも、晶君!君はさっき自分がしでかしたことを覚えていないのかい!」
「げっ…!ムッツリ委員長!」
「相変わらず失礼だね!?君は!」
神経質そうな顔で自分の眼鏡越しに晶を睨み付けたのは、晶や冬亜と同じクラスの学級委員長、月見洋太だった。皺1つない制服に身を包んだ委員長は、一旦自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。
「急に怒鳴って済まなかった、晶君。結論だけ言うと、担任の鉄道先生はたった今保健室に運んできたところだ」
「またあの電車が?」
「…!君は、もうすぐ5月になるのに自分の担任の桂木鉄道先生の名前を覚えていないのかい!?」
「うんにゃ?名前を覚えてはいるけど、こっちの方がなんか面白そうだし?」
「なんか面白そうだと…?!はあ、そういえばあの事件のときも君はそういう性格だったね…」
そう呟くと急に疲れた顔になる委員長であった。
「どうしたんだ委員長?疲れているのか?」
「ああ、君と話をする直前までは私は元気だったよ…」
「…やっぱりムッツリか?」
「どういう意味だい、それは!?」
「あの、委員長さん…!晶ちゃんがいつも迷惑を掛けちゃってごめんなさい!」
「いやいや、冬亜君が謝る必要はないさ。私も大人気ない態度だったね」
「何だよ2人とも?俺が子供だって言いたいのかよ?」
そう言って晶は抗議の声を上げるのだった。
「話が逸れてしまったね。鉄道先生は、さっきまで寝惚けていた晶君に、綺麗なボディーブローを喰らってノックアウトされたまま、保健室に運ばれていったのだよ」
「げっ!?電車は大丈夫だったのか?」
「…君も悪いことをしたという自覚はあるのだね」
「晶ちゃんの場合、これ以上先生からの評価が悪くなるのが怖いのもあると思うよ…?」
若干、辛辣な評価をする相棒であった…。
「それはともかく、先生はまだ保健室にいると思うから必ず謝りに行くように、以上だ!」
「了解。もう少ししたら先生のところに行くぜ!」
「そのまま帰らないようするのだぞ?」
「安心して下さい、委員長さん!僕も一緒に行きますから!」
「お前ら、そんなに俺のことを信用していないのかよ!?」
若干、涙目になりつつある晶であった。
「そういえば、晶ちゃん!前に晶ちゃんが言っていた、この学校の怪談話だけどいくつか調べてきたよ!」
「おお!調べてきてくれたんだな、流石とあちゃん!愛しているぜ!」
「えっ、愛しているって…嬉しいなぁ!」
花の咲くような笑顔を浮かべる冬亜だった。
「…ふぁぁ。あなたたち、また何か変わったことでも調べようとしているの?」
眠たげな声が冬亜の後ろから聞こえるのだった。
「あっ、生徒会長さん!」
その声を聞き、冬亜は振り返った。そこには眠たげな瞳だが、それを除けば気品のある佇まいで艶のある黒髪を肩まで伸ばした女子生徒が立っていた。彼女は私立櫂耀高等学校の生徒会長、清水千紅だった。
彼女も、先程の委員長と同様に、晶たちと共にある事件に巻き込まれた仲間であった。普段から儚げで眠たげな表情の彼女は、「線香少女」や「眠ったままの獅子」という良く分からないあだ名が付けられていた。
「…なんだか失礼な紹介をされたような気がする」
「…まあいいわ。あなたたち、好奇心があるのはいいけど、それが必ずしも良い結果につながる訳じゃないって分かっている?」
「えっと、その…」
そう言われて、冬亜は言葉を詰まらせるのだった。
「…まあ、退屈する日常も困ったものだからね」
「あの時みたいに、自分の言動にちゃんと責任を持った上で周りに迷惑を掛けなければ、ある程度は自由にしてもいいわ…ふぁぁ」
「ありがとうございます、生徒会長さん!」
「ありがとよ、会長さん!」
「…まあ、迷惑が掛かったら生徒会の面倒な雑用を全部あなたたちに押し付けるだけだし…」
「僕たち、絶対に問題は起こしません!!」
「俺も誓うぜ!!」
そう言って去って行く生徒会長に心の底から訴えかける2人であった…。
「やっぱり怖いな、ウチの生徒会長…」
「そうだね…。晶ちゃん、とりあえず迷惑が掛からないような怪談から調べる?」
「そうだな。でもよ、そんな怪談ってあるのか?」
「うーん…。これなんてどう?『幻の転校生』っていう噂があったんだけど…」
「『幻の転校生』?どんな怪談なんだ?」
冬亜の発言に、晶はそう疑問を投げかけるのだった。
「あのね、十数年位前からある噂らしくてね?昔、この学校に入る前に亡くなった転校生がいてね?その生徒が夜な夜なその生徒のためだけに作られた教室に登校してくるって噂らしいよ?」
「亡くなった生徒が通う教室か。見当がつかねえな…」
「そうだね…」
2人ともお手上げのようだった…。
「そもそも、そんな場所を知っている奴が他にもいるのか?」
「うーん…僕は学校の周辺の人に聞いた話だから、同じ世代の高校生だとあんまり知らないかもしれないね」
「だとしたら、他に校内で調べられそうな情報はねえかな?」
「あとね、晶ちゃん…。そろそろ、鉄道先生のお見舞いにも行かないとマズイと思うよ?」
「あっ!そういや、そんなこと忘れてたな」
そして、自分の興味を最優先する彼女であった…。
「実はね?さっきから委員長さんの顔が般若のようになっているのが、凄く怖いんだけど…」
「眼鏡般若か…。何だか面白そうだな!」
「面白くないよ、晶ちゃん!?お願いだから、そろそろ鉄道先生のところに行こうよ!」
「仕方ねえな、怪談は後で調べるか…。行くぞ!とあちゃん!」
「待ってよ!晶ちゃん!僕を置いて行かないで…!?」
こうして、2人は自分のクラスの担任のお見舞いのために、保健室へと向かうのだった…。
~第日夜:幻の転校生…continue~
オマケ:
晶「…ZZZ」
鉄「おい、晶!また寝ているのか?」
晶「ZZZ…うっせぇ…ヒュン(←綺麗なパンチを放つ音)」
鉄「ぐはぁ…!!?」
皆「「「先生!?」」」
洋「どうしたんだい晶君!?みんな、晶君を押さえてくれないか!」
千「…むにゃ?委員長、取りあえず先生は保健室に運んでおこう…?」
冬「晶ちゃん!起きてよ!晶ちゃん!」
(※こんな裏話がありました)