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放課後怪談  作者: RAIN
~第日夜:日常の怪談~
10/31

~第3夜:プロローグ~

 唐突ではあるが、晶たちが通う私立櫂耀高等学校は、ごく普通の高校である。

 もし、他の高校と違いがあるとすればある特殊な制度がある位であろう。


 その制度とは、十数年に一度、櫂耀高校を受験した新入生の首席が生徒会長を必ず3年間務めなければならないというものだ。


 その代に生徒会長を務めることになった新入生には、学校運営における幅広い特権と副会長以下のメンバーの選出の権利、生徒会顧問の手厚いサポートが与えられる。

 その代わり、普通の高校で働く事務員並みの仕事量と各種学校行事の運営準備等を行わなければならなくなる。


 本来ならばこんな制度が正常に機能することなどない筈である。しかし、今までに一度としてこの制度が破綻することが無かったため、現在まで廃止されることなく続いている。


 そして、今代の生徒会長である清水千紅もこの制度で嫌々生徒会長になった人物である。

 ただし、今までに首席で生徒会長になったと唯一違う点は、彼女は試験時間の半分以上は眠っていたにも関わらず全教科満点を取れるほどの優秀さを兼ね備えていることである…。


 台風が晶たちの住む町に接近して来ている放課後の私立櫂耀高等学校。

 外は厚い雲が空一面を覆いつくし、風と雨は先程から徐々に勢力を強め始めている。

 おそらく、夜中には晶たちの住む町に最接近し猛威を振るうことが予想される。


 最大級の台風が近づく中、多くの生徒は既に帰宅し、現在校内に残っている生徒は4人のみである。 

 そんな4人の生徒が集まっている場所は、櫂耀高校生徒会室の中……約2人は、机に突っ伏していた…。


「し…死ぬ…」

 その内の1人である、九曜晶は沢山の書類と格闘するも早々にリタイアし、現在は頭からは湯気が出そうな勢いであった。


「晶ちゃん…大丈夫…?」

 そんな晶を心配するように、火影冬亜は自分が担当している分の書類を書く手を止めて声を掛けるのだった。


「うう…天使が…いや美少女の姿が…癒されるぜ」

「晶ちゃん!!何度も言うけど、僕はお・と・こ・の・こ・だよ!!」

 いつも通りの返事がきたことが冬亜も安心したように、応答(ツッコミ)を返すのだった。


「おい…手前ら、漫才する暇があったら、目の前のブツをさっさと片付けたらどうだ…?」

 2人の漫才(やりとり)を遮るように、地の底から響くような重い声が生徒会室に響いた。


「あぅ…ごめんなさい、副生徒会長さん」

 そう言って冬亜が謝る先には、冬亜たちが片付けようとしている量の数倍の書類を既に片付けている三白眼の不良のような男がいた。


 彼の名前は、逆馬(さかば)(とう)()

 副生徒会長である彼は、生徒会長である清水千紅とは幼馴染である。

 右頬に切り傷あり、目つきの悪さも相まってワイルド系という言葉が似合う容姿である。

 制服は着崩し、身長は180cmを超えており喧嘩も強く、常に相手に威圧感を与える雰囲気を纏っている。

 また、彼自身は昔から努力家であるため不良という見た目に反して、清水千紅に次ぐ成績を誇る優等生である。


「たくっ…なんでアイツはこいつ等を手伝いに指名したんだか…。会計や書記の奴らもこの台風で先に家に帰しちまうし…」

 刀真はそう愚痴を零しながら、生徒会長の席に目を向けた。そこには、もう1人の机に突っ伏している人物、生徒会長の清水千紅が眠っていた。

 目にはアイマスクを着けており、アイマスクには大きな文字で「寝てませんよ?」と書かれており、それが尚更刀真の神経を逆撫でしていた。

 しかも、彼女の担当分の書類の書類は刀真のさらに倍近くあったはずなのだが、既に全て終わっているため、無理に起こすことが躊躇われた。


「ホントにマトモな奴が1人もいねぇな…」

 自分も含めて真っ当な人物がいない現状に、刀真は溜め息を吐いていた。


 ちなみに、晶と冬亜の2人が生徒会の仕事の手伝いをしている理由は、晶の数々の無茶な行動に対する罰則的な意味合いがある。そして、その晶に付き添う形で冬亜は生徒会の手伝いに参加をしていた。


 そんな混沌とした生徒会室であったが、書類整理等も遂には終盤に差し掛かっていた。


「くぅ…すぅ…むにゃ……みんなそろそろ終わった?」

 刀真を含む3人の作業が終わりに近づく頃に、眠そうな声が生徒会長の席からあがった。


 そこにはアイマスクを外し、未だに眠たげな瞳をこすりながらも、気品ある佇まいで艶のある黒髪を肩まで伸ばし、均整の整ったスタイルに儚さを備えた大和撫子のような美少女、清水千紅がいた。


「ああ、俺も含めて概ね作業は終わったはずだ」

「…そう、分かったわ。念のために皆の分の書類も見てもいい?」

「ああ、多分問題ないと思うぞ?」

 そう言って刀真は、千紅に今までに終わった分の百枚近くになる分厚い書類の束を手渡した。


 その書類の束を受け取った千紅は、すぐさま束ごとぱらぱらとめくり、1分とかからずに全ての書類に目を通す。そして、おもむろに書類の束の中から数枚の書類を取り出すのだった。


「…この予算に関する書類は、数値の合計が書かれていない箇所があるわ…こっちの警備会社に関する書類は、必要な判子が押されていない箇所があったわ…」

 そう言って千紅は、刀真にそれらの書類を渡すのだった。


「まじかよ…(わり)いすぐ直すわ。相変わらず手前(てめぇ)は仕事が(はえ)えな」

 そう言って刀真は、感心とも呆れともとれる声を上げながらも自分の席に戻り、間違いの指摘された箇所の修正を行うのだった。


 そんな千紅と刀真のやり取りを見ていた、晶と冬亜も自分の担当分の作業を終えるのだった。

「生徒会長さんと副生徒会長さんって本当に仲が良いね」

「そうか?さっきも副会長の方が会長さんの悪口を言ってたぞ?」

「だってね?副生徒会長さんが生徒会長さんの話をするときも、生徒会長さんが副生徒会長さんに書類を返すときも2人共、本当に嬉しそうな顔をしていたんだよ」

 2人は声を潜めながら、そんな話をするのだった。


 そんなやり取りがあったものの、辺りが暗くなりさらに風と雨が本格的になる少し前位には無事作業も終了し、それぞれが帰宅の準備をする時間になった。


 晶たちは、生徒会の2人よりも一足先に生徒会室を出て、昇降口に向けて歩きだすのだった。

「この学校って本当に生徒会に対する業務って多いよな?」

「そうだね、晶ちゃん。その分、生徒会に対する権限が多いみたいだけど…」

「どっちにしても、この台風の中で警備をする警備員の人は大変だな~」

「あのね、晶ちゃん?夜は無人で警備しているんだよ?」

「んっ?それってどういうことなんだ?」

 冬亜の言葉を聞いた晶はそう聞き返すのだった。


 そして、昇降口まで晶と冬亜が辿り着くまでの間に、冬亜は校内の警備体制について簡単に話すのだった。

 冬亜の話によれば、普段は警備会社の遠隔監視システムによって、24時間体制で校内に不審者などがいないか監視を行っており、カバー出来ない箇所などを警備員が昼間に巡回する体制になっているようだ。

 加えて、万が一異常が発見されればすぐさま警備会社に連絡が行き、警備員が駆け付けるシステムになっているようだ。

 ちなみに、警備に関する決定権なども何故か生徒会がその裁量権と責任者を担っているため、いよいよこの制度も問題だらけであると言わざるを得ないだろう。


「そういえば、この学校に夜中に警備する人が現れる怪談があるらしいよ?」

「それってどんな怪談なんだ?」

 昇降口に着いた2人は、上履きから靴に履き替えながらそんな話をするのだった。


「あのね、この学校に夜中に無断で入ると校内を歩いている用務員に捕まって、そのまま行方不明になっちゃうって話らしいよ?」

「何か怖えな…まてよ、行方不明になるんなら、なんで遭ったのが用務員だなんて分かるんだ?」

 ふと、晶は疑問に思ったことをそのまま口にした。

 よくある作り話のように、目撃者が死んだり、行方不明になってしまった場合、その話を目撃したのが誰であるのかが問題になる。


「う~ん、気になるな…だけど普段だと夜は学校に入ってもばれるしな…」

「晶ちゃん?なんだかものすごく嫌な予感がするんだけれど…」

 そんな冬亜の不安を表すかのように、建物の外では雨風に加えて、ゴロゴロと雷の音が鳴り始めていた。


「よし、決めた!今夜、校内で噂の検証をしようぜ!」

「ええっ!?晶ちゃん、絶対にそれはダメだよ!?」

 案の定、冬亜の不安は的中し、晶の迷惑な思い付きが実行されようとするのだった。


「安心しろよ、とあちゃん?校内をぱっとみたらすぐに帰るからよ?」

「全然安心出来ないよ、晶ちゃん!?むしろそれこそがアウトだと思うよ!?」

 今回ばかりは涙目になりながらも必死に説得し、止めようとする冬亜だった。


 しかし、そんな2人のやりとりの様子を影から見る存在がいることに晶と冬亜は気付かなかった…。


~第日夜:真夜中の用務員…continue~

千「この書類も間違っているわ…」

晶「んっ?俺の書いたやつか?」

千「書類の最後の確認のサインが『火影晶』になってるわ…」

冬「晶ちゃん!?一体何をやってんの!?」

晶「んっ?だって、将来現実になるだろ?」

逆「手前ら本当に仲が良いな……」

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