エピローグ
3年前、普通の高校生だった俺は異世界に召還された。
剣と魔法のロマン溢れる冒険を期待する俺を待っていたのは、物語にある夢のような世界……ではなかった。そして、そんな世界で俺はたった1人の大切な妹を失ってしまった。
……3年が経ち、成長した俺は自堕落な生活を送っていた。
適当に働き、適当に過ごし、適当に生きる。
そんなある日、友人のアトラからとある依頼が俺の元に訪れた。
それが、俺の人生の大きな転換期になったんだと思う。
皆が俺に、「変わったな」なんて言ってくるけど、それは違う。俺はただ「戻った」だけだ。剣と魔法のロマン溢れる冒険を、期待していたあの頃に……
「兄さん、手を繋ぎませんか?」
「師匠! 早く来ないと置いて行くよー!」
最近出会った、2人の少女の声が聞こえた。
ミリィは俺の傍で手を取り、ニーナは先を歩きながら手を振ってくる。
誰かと一緒に道を歩くことなんて、ほとんどなかった俺にはその光景が……ひどく輝いて見えた。
だからだろうか……
「2人とも、ありがとうな」
俺の口から漏れたのは、真っ直ぐな感謝だった。本当に、思わずといった風に出てきてしまったのだ。
俺の突然の感謝に、2人は首をかしげて口を開く。
「兄さん、いきなりどうしたんですか?」
「師匠、お金がないからって道端で悪いもの食べたらいけないよ?」
「別に悪いもの食っておかしなこと言ってるわけじゃねえよ!」
確かに、少し急すぎたかも知れないな。
だけど、いいんだ。こういうのは言える時に言っておかないと。
俺は澪に……言葉を残してやることが出来なかったから……
「今度は黙りこんじゃったよ。ねえミリィ、今日の師匠はヘンじゃない?」
「兄さんが変なのはいつものことだけど……今日はちょっと様子が違うね」
「……おい、聞こえてるぞ。2人とも」
やれやれ、本当に口の減らないやつらだよ。
俺は改めて、2人の少女に視線を送る。
ミリィは出会った頃に比べて元気になったな。本当に良かった。
ニーナは少し、表情から影が消えたな。何か吹っ切れたのかもしれない。
右手をミリィに握られ、左手をニーナに引っ張られながら、俺は自分自身のことを思う。
俺は今度こそ、ちゃんと守れるのだろうか……この地獄のような世界で……
「兄さん」
俺の不安げな様子を察してか、ミリィが少し強めに手を握ってくる。
そこにある温もりを、確かに感じる。
「私は兄さんのことが好きです……だから、兄さんが苦しいときは傍にいてあげますからね」
そう言って微笑むミリィ。
『傍にいる』……それは、いつか俺がミリィに言った言葉だ。
「師匠」
今度は反対側、ニーナが腕を引っ張りながら口を開く。
そこにある温もりを、確かに感じる。
「ボクは師匠のことが好きだよ……だから、師匠が苦しんでるときはボクが守ってあげる」
そう言ってニカッと笑うニーナ。
『守ってやる』……それは、いつか俺がニーナに言った言葉だ。
2人の言葉を受けて……俺はそのとき、気付いたのだ。
俺は2人を助けたんじゃない。本当は……2人に助けられていたんじゃないかって。
だったら、『守ってやる』なんてことは考えなくてもいいのかもしれない。
2人の前に出て守ってやるのではなく、2人と並んで『寄り添えばいい』のだ。
そしてそういう関係を、きっと……『家族』と、そう呼ぶのだ。
「あ、あれっ!?」
「師匠泣いてる!?」
「な、泣いてねぇよぉっ!」
「「めっちゃ鼻声じゃん!?」」
俺は……幸せ者かもしれない。
この地獄のような異世界で、見つけることが出来たのだから。
澪……ありがとう。『生きろ』と俺に、言ってくれて。
その言葉がなければ、俺は再び立ち上がることが出来なかっただろう。
俺はかつての家族に思いをはせて、前を向く。
俺は歩いていくよ……新しく出来た、『家族』と共に。
きっとこの先、多くの困難が俺達を待っているだろう。
それでも、俺はもう迷ったりしない。
もう二度と失いたくない、大切なものができちまったんだから。
「ミリィ、ニーナ……本当に、ありがとう」
俺の言葉に、2人は嬉しそうに微笑んだ。
俺達は笑いあいながら歩き続ける。
いつまでも、いつまでも…………
どうも、秋野錦です。
今回が初投稿となった本作ですが、予想以上に多くの方に見ていただけて非常に嬉しかったです!
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。また、どこかの作品でお会いしましょう。




