微弱――フィーブル
今回は一人称で話を進めています。
予めご了承を。
ぼくは駒繋喜楽里。
今年で七歳。九頭龍学園の初等部。
身長は一三〇で体重は二十五キロ。
好きなアニメは──ってそんなことはどうでもいいか。
ぼくは少し前から変な事が出来るようになった。
何て言えばいいのかな、……ある頃から家のテレビを見ていると、なぜかよく番組が映らなくなるんだ。なんていうか、ほらテレビの画面一杯にぴりり、と線が写りこむんだ。
故障だと思った父さんと母さんが新しいテレビを買ってきたけどやっぱりそのテレビも同じでよく見えない。
でも、不思議なことに夜になるとテレビは何ともなく映るらしくて、電気屋さんに来てもらったりしてたけど、結局理由が分からないって言っていた。
でもある日、ぼくは気付いたんだ。
その日、ぼくは居間で転んだ。とっさに何かに捕まろうと、近くにあったテレビの画面に手が触れた。
その時にピリッ、とした何かが見えたんだ。
すると、それまで何とも無かったテレビがいきなりプツン、と切れた。
電気屋さんを呼んだらテレビが壊れた、って言っていた。
理由は分からないけど、どうもかいろが焼き切れたみたいだとか、まるでテレビの回路に直接電流を流したみたいだとか……。
もう分かったんだ。
あのとき、ぼくは雷みたいな物を指先から出した。
よく分からないけど、きっとあれが原因なんだ。
それからぼくはいろんな所であの雷みたいなのを出せないかと、一人で確かめた。
でもなかなかうまくいかない。
そんなある日。
喉がかわいたぼくは、自販機でジュースを買おうとした。
小銭をポケットから出してコーラを買おうとした。
ゴトン。
「え?」
ぼくは小銭をまだ出していない。なのに、コーラが出てきた。
飲んでみたけどいつも通りのコーラ。
凄く得した気分だった。
それから何回かぼくはジュースを自販機から貰った。
ぼくが飲みたい物が出て来るのはおもしろかった。
ほかには、そうだなぁ。
ぼくが触るとリモコンが動くんだ。でんちが切れたから使えないとか言っていたのに。
びっくりすることも一杯あったけども、楽しかった。
そんなある日の事だった。
学園のぼくの下駄箱に手紙がはいっていたんだ。
そこにはこう書いてあった。
『初めまして駒繋喜楽里君。
君には特別な力がある事を私は知っています。
君の持つその力をもっとよく使える様にしてみたくはないかい?
君にその気があるのなら、今日の放課後に放送室に来るといい。
では、いい返事を待っているよ。
君の友人より』
ほんとうにびっくりしたんだ。
だって、この手紙の人はぼくのことを知っているんだよ?
そして、ぼくの雷みたいなあれの使い方をおしえてくれるんだ。
ひょっとしたら、ぼく、正義のみかたになれるのかも知れない。
それで放課後。
ぼくは手紙の通りに放送室の前にまできた。
周りを見ていると、放送室のドアの前に紙がはってあった。
『君の力を使って、鍵を開けて中に入って』
紙にはそう書いてあった。
放送室は鍵がかかっている。以前ここにドロボーさんが来たのが原因だって聞いたことがある。
ふつうの鍵じゃなくて、電車の定期みたいなカードだった。
それを通して中に入るのを見たことがある。
鍵もないのに中に入れないよ。
でも、中に入らないと。だからぼくはドアの前に手を置いた。
そして思った、どうか開いてくださいって。
すると、バチッ、という音がしてぼくの手のひらから雷みたいな光が流れる。そしたら、ガチャリ、って音がきこえて、ドアが開いて中に入れた。
びっくりしたよ。だって鍵がかかっていたのに中に入れたんだ。
スゴいな、スゴいよぼく。
「お、来たのかボウズ」
中には一人のおじさんがいたんだ。
電気屋さんみたいな服を着ているそのおじさんは笑っていた。
「俺の名前は立居久喜っていうんだ。お前の名前は駒繋喜楽里だったよな?」
その問いかけにぼくは「うん」と答えた。
するとおじさんは笑いはじめた。何がそんなにおもしろいんだろう? よく分からないや。
「いいか、よく見とけよ」
立居のおじさんはそう言うと手を部屋にあるテレビの液晶に置いた。
バチッ、という音。そしてぼくと同じで雷が走って、テレビがついた。
「ぼくと同じだ」
「そうだな、正確には違うかもだが、大まかに似たようなもんかもな、ほら次はお前さんだ」
今度はぼくの番だ。今度はテレビの画面を消す。
(消えろ、……消えろっっ)
目を閉じてそう思う。
「そうだな、もっと意識をそのテレビに向けて見ろ」
立居のおじさんの声が聞こえた。その声の通りにしてみる。
もっと、もっとまるで、寝ちゃうみたいな気分になってきた。
するとその時、
バチッ、という音。
電気が走って、視たんだ。目を閉じているのに、視たんだ。
テレビの中身が視える。
なんていうか、理科室においてある……そう”じんたいもけい”みたいな感じ。テレビの中身がいろんな部品が視えるんだ。
パチ、パチッ。
ぼくの手の先から雷みたいなあれが流れる。
その都度、テレビのチャンネルが切り替わるみたいで、聞こえる声が全然ちがう。
そして……最後には。
数分後。
「あー、やっちまったな」
「ごめんなさい」
ぼくはテレビを壊した。
いろいろと視ながら雷を流している内に中身を壊したみたいだ。
立居のおじさんは別に怒ってはいない。逆に笑っていた。
「ま、最初はこんなもんだ。まだ慣れていないんだしな。後始末はやっとくから、お前はもう今日は帰れ」
「ごめんなさい、だからまた」
「ああ、明日も来い」
おじさんは笑った。ぼくも笑った。
それからは何日も、ぼくは立居のおじさんからいろんな事を教えてもらった。テレビを動かしてみて、パソコンを付けてみて、それから車のエンジンを付けてみて。
まるで理科の”じっけん”みたいだった。
楽しかった。
ぼくって意外にたくさんの事ができるって分かったし。
でも、たのしい時間はいつまでも続かないんだ。
「今日で最後だ」
立居のおじさんはそう言った。
「何で、ぼくもっと色々知りたいよ?」
ぼくはおじさんに向かって叫ぶ。
「まあ、こっちも仕事があるんだ。でもな、これを渡すぜ」
おじさんはそう言うとぼくに携帯電話を渡す。
「この電話からお前に電話がたまに入る。そしたらまた【遊んでいい】ってことだ。ちなみに……」
途端、電話が鳴った。
おじさんを見ると頷く。
だから出てみると、
──こんにちは、駒繋喜楽里君。
知らない人の声だ。
「だれですか?」
──ああ、これは悪かった。名乗らないとな、でも本当の名前は勘弁してくれ。これでも有名人なんだよこっちもね。
皆にはこう言っている【指揮官】とね。
そこにいる立居さんを君に合わせたのは、君たちの力が似通っているからだ。先生には同じような力の持ち主同士の方がいいからね。
ぼくは立居さんを見る。おじさんは大きくかぶりを振る。
──でも、もう大丈夫だ。立居さんからは君は自分だけで力を操れる、と聞いたよ。だからこれからは私が君の面倒を見よう。
「そうなの? 次は何処にいけばいいの?」
──待ってくれ。それなんだが私は外を出歩く事が難しいんだ。仕事が忙しくてね。だから、直接は会えないんだよ。
「そうなんだ……」
──でも大丈夫だ。私が電話で君に教える場所なら私にも問題はない。安全も確認出来るしね。だからこう言おう、……これから宜しく。
「うん、宜しくコマンダーさん」
これがぼくとコマンダーさんとの出会い、かな。
それからはコマンダーさんの電話でいろんなところに行った。
ATMからお金を引き出したりした。
ドロボーみたいだな、って言うと。
──大丈夫、そのお金の持ち主は凄く悪い人だ。君がやっているのは悪い人からお金を取り返す事だ。だから君は正義の味方さ。
嬉しかった。ぼくが正義の味方なんだ。
だから頑張ったよ、イッパイイッパイ。
たくさんお金を動かして、たくさんの人を助ける。
でも遂にぼくは”悪のそしき”に見つかったんだ。
自販機を操作していた時だ。
コマンダーさんからはぼくの力を操るくんれんに自販機のお金を動かすのがいい、って聞いた。だから同じ自販機で何回も同じ事をしてみた。その自販機はコマンダーさんの持ち物らしいからお金は好きにしていいって言われた。
紙幣を出したり、戻したりを何度も繰り返した。
「やった、上手くいった」
嬉しそうに顔を綻ばせるぼくはふと気付く。
いつの間にかだれかがすぐ近くにいる、と。
「よう、ボウズ。ガキのくせしてドロボーたぁな」
振り返るとそこにいたのは不敵に笑うこわい人。
「な、何だよ?」
薄暗い場所に顔を出したのはとっても怖い顔。ぜったいに悪い人だ、そう思った。
だから、ぼくは”ていこう”した。
立居さんから教えてもらった。
両手をパチンと重ねる。その瞬間両手から電気がピカッって光る。カメラの光みたいな眩しい光。
思った通り、悪い人が怯む。
今だ、ぼくは全力で”ちんちん”を膝で蹴っていた。
ミシッ、という嫌な感触。
膝を付いた悪い人にぼくは「バーーーカ、そこで死んでろ」と思いきり声をかけ、この場からタタタ、と走り去っていく。
「お、おのれクソカキッッッッ」
悪い人が吠える。怖い、すごく怖い。
ぜったいに逃げてやる。だって、ぼくは正義の味方なんだから。