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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 17
605/613

魂と尊厳(Soul and dignity)その35

 

 零二と解体者の対決が決着したのと時を同じくして、事の成り行きを眺めている一つの目があった。

「あーあ。死んじまったかぁ。もっと粘ってくれよ」

 まるでおちょくるような、小馬鹿にした言葉。紙パックのコーヒーを一気に飲み切って、無造作に手で潰すと車の窓口から投げ捨てる。

「本当ならクリムゾンゼロを連れて来れたら最高だなんだが、まぁ釣りの餌としちゃこれでも上出来だろうさ」

 その視線の先には巫女の姿、手足は拘束され、気を失っている。

「何にせよ今日の裏家業(バイト)はこれでお終いだ。さっさと先方に引き渡しに行くとするか」

 くく、と笑いをこぼしつつ、暗躍者は車を走らせ、去っていった。



 ◆◆◆



 たたたた、と誰もいない廊下を駆け抜け、階段を駆け上り、辿り着いた院長室と名札が置かれた部屋の扉を「うっらあッッ」とかけ声と共に零二が蹴り壊す。

 するといとも容易く壊れ、砕けた扉の向こうで見えたのは、ベッドの上で眠る相棒役の少女の姿。

「オイ、無事か?」

 と駆け寄らんとした零二だが、すぐに別の気配に気付き、後ろへ飛び退く。

「誰だ?」

「誰とは心外ね」

 声と共に部屋の窓を覆っていたカーテンが開け放たれ、月明かりに姿を見せたのは拝見沙友理。全身のボディラインが明確なぴっちりとした黒のライダースーツ姿に見覚えがあった零二は構えた拳を引いて、戦意のない事を示す。

「お久しぶり、電話では話したからそうは思えないでしょうけど」

 そう言いながらゆっくりと歩き出す拝見だが、足音は全くせず、それどころか気配も感じない事に零二は警戒心を隠せない。構えこそ解きはしたものの、万が一の可能性も鑑みて、全身に熱を巡らせると、すす、と足を動かす。

 その零二の様子を受けたのか、拝見は不意に歩みを止めると「待ちなさい。戦う気はないわ」と言いながら両手を上げて降参の意志を示す。

「本当かよ?」

「そうじゃなければ、彼女を助けはしなかったと思わない?」

「────あの藪医者は?」

「あれなら、外に放り出したわ」

「へェ、殺したってワケじゃないンだな」

「私の事を疑う気持ちは理解するけど、今は一刻の猶予もないの。分かるでしょ?」

 そう言って拝見沙友理が外を指差すと、零二の表情は一気に険しくなる。それはつまり()()()()()()()()事を示していたからだ。瞬間、押さえ込もうとしていた怒気が蒸気という形で表れた。

 だが拝見はその様子に一切動じる様子もなく、「敵じゃないわ」と肩を竦めてみせた。まるで挑発されているかのような仕草を前に、零二は「じゃあ何で外で問題が起きてるって知ってる?」と問い直す。返答次第では拳を叩き込む、そう云わんばかりに強く握り締める。

「言っておくけど、私の情報源は明らかには出来ない」

「それでも信用しろってのか?」

「ええ。それ以外にあなたには他に選択肢はないもの」

「…………チッ」

 舌打ちしつつ、零二は蒸気を解除、戦う意志のないのを示すように、手を下へ下ろす。

「で、情報は?」

「それなら、大丈夫」

「──!」

 不意に拝見の姿が消えた。違う、そうではない。咄嗟に背後を振り向く。

「いい勘ね。いいえ、違うわね。ああ、そう。()()()()()()()のか」

「?」

 零二にはライダースーツの女が何を言わんとしているかは分からない。そんな事は今はどうだっていい。そんなツンツン頭の不良少年の心の中などお見通しとばかりに、「情報ならそこの相棒さんに預けたから。あと彼女だけど数分もすれば目を覚ますからそのままに」とだけ告げると窓から飛び降り、音もなく着地。そのまま姿を消した。

「────ったく」

 窓の下を確認するも、文字通り姿は見えない。まるで煙に包まれたような、例えるなら九条羽鳥と対面している際に感じるような感覚だった。

「油断ならねェな」

 それは偽りない彼の本音。彼女(九条)とは違う相手なのは分かっている。なのに、どうにも気を抜けない。

(それに、だ)

 あの継ぎ接ぎだらけの男とは違う意味で動きが見えなかった。単に動きが早いだとかそういった次元とは違った。

(多分、()()()()()()だとは思うけど)

 得体の知れない相手がまた一人増えた事に苦笑しつつ、相棒役の少女の目覚めを待つべく、傍に置かれた椅子に腰掛けて呼吸を整えるのだった。



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