表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 16
531/613

悪徳の街(The city of vices)その12

 

「何じゃとッッッ、おのれらは何をやっとったんじゃあ」

 ドン、と机に拳を叩きつけ、怒声を飛ばす。

 その怒りを前に、室内にいた全員が無言で立ち尽くす。

「あんボンボンを二週間位預かって、あとは傘下の組に送る。たったそんだけの事もおのれらは出来んちゅうことか、ああん」

 今度は机に置かれていた灰皿を床に投げつける。ガラス製の灰皿は粉々に砕け散り、破片が撒き散った。

 ふーふー、と怒りが収まらない男は机の引き出しから自動拳銃を取り出し、安全装置を外すのを見て取り、ようやく傍に控えていた側近らしき黄色のスーツの男が止めに入る。

「オヤジ、そんくらいにしてください。ハジキはやり過ぎですわ」

「じゃかあしいわボケ。このアホ共にゃ愛想が尽きた。ガキのお守りもでけん奴がどうなるんか、教えてやらにゃあかんのじゃ」

「それはそうですが、ハジキはあきまへん。音が外に聞こえたらサツがガサ入れに来る口実になってまいます」

「…………ち、それもそうや」

 黄色スーツの男の言葉に男はようやく冷静になったか、ふう、と息を吐くと拳銃を机に投げ出し、椅子にどっかと腰を降ろす。

 この男の名は帯白(おびしろ)(こう)。有り体に言えばヤクザの組長。

 いくつかの切り傷が顔には刻まれており、他の組員同様に、街中を歩かば一目で筋者だと理解出来る。

 帯白が座った事で空気が僅かに弛緩した。それを見計らって黄色スーツの男が指示を飛ばす。

「お前ら、さっさと預かり物を捜してこい、行けやホラ」

 その言葉を渡りに船、と見たか組員達は一斉に部屋を飛び出していく。


「おう、古在(こざい)ちょっと来い」

「はい、オヤジ何でっしゃろか?」

 黄色スーツの男こと古在は組の若頭筆頭であり、帯白の右腕。組が九頭龍に進出するに当たり、彼が様々な根回しを取り仕切った事で現在の地位を手に入れた。

「で、ボンボンはどうなったんや?」

「それでしたら、連れ立ったガキってのが厄介でしてね」

「誰や?」

 訝しむ帯白に、古在は一枚の写真を提示する。

「何やこのガキは? 生意気そうな面構えしくさりよってからに」

「へぇ、このガキは武藤零二。あの()()の跡取りなんですわ」

「何やとッッッ」

 ガタンと席を立つ帯白の表情は真っ青になっていた。

 仮にこの場に他の組員達がいたら、組長の様子に大いに動揺したのは間違いなかっただろう。

「何で武藤がしゃしゃり出て来た? 武藤の連中の邪魔はしてえんはずやで?」

「まぁ落ち着いてくだはれ。とりあえず探ってみたんですが、武藤の跡取りは家業を継いではいないそうなんですわ。どうも、よぉ分からん連中と組んで悪さしてるっちゅう事です」

「何やそれ? どういう悪さしてるんや?」

「詳しい話は分からんのですが、どうもサツにも手に負えん事件に関わってるっちゅう話でして……」

「つまりはよぉ分からんって事か」

「へぇ、残念ですが」

 右腕たる古在にも分からない事を帯白は追及しようとは思わなくなっていた。

 詳しい経歴こそ不明な黄色スーツの男だが、この男の言うとおりにして間違った事は今まで一度とてない。大体の物事はこの男に任せおけばそれで万事上手くいく。

「まぁええわ。武藤とやり合うのだけはあかん」

「へぇ。とは言え、例のボンボンについて何もせぇへんっちゅうのも向こうさんに悪いんで、適当な奴を見繕って、やらせますけど大丈夫でしょうか?」

「そいつは辿られてもワシらに繋がったりはせぇへんやろうな? だったら、ええわ」

「そこら辺は大丈夫ですわ。口は堅いし、仕事もこなせますんで」

「ならそいつにさせぇや。ワシは少し寝る」

 古在の提案に満足したらしく、帯白はあくびを入れながら部屋を後にした。

「…………」

 一人部屋に残された黄色スーツの男は、はぁ、と一息入れると今まで帯白が座っていた椅子にどっかと腰を降ろす。

 そしてスマホを取り出すと電話をかける。

 ──もしもし。

「おう、ワシや」

 ──古在か。ワシや、って相変わらず似合わない挨拶だ。

「はは、そうだな。()もそう思います」

 ──どこぞの組を手駒にするって言ってからどの位経ったかな?

「そうだな。半年位でしょうか」

 ──首尾はどうなんだ?

「上出来でしょうか。組長も最近では僕に任せてくれる事が多くなりました」

 ──ならそろそろいいんじゃないか?

「ええ。もう少し手回ししたらそうするつもりです」

 ──それで、そんな報告をする為にわざわざ電話してきた訳じゃないだろう?

「ええ、どうにも厄介な奴が()()()()()()()みたいなので一応警告しておこうかと思いまして」

 ──誰なんだ?

「クリムゾンゼロこと武藤零二です」

 ──そいつは本当に厄介だな。理由は?

「どうも先日の一件絡みのようでして」

 ──例の探偵とクリムゾンゼロに関わりはないはずだが。

「ええ。ですが探偵の妹が街に来ていて、それと奴が接触した模様でして」

 ──そいつは本当に厄介だ。どうする?

「こちらとしても依頼は片付けないと、今後の活動にも支障が出ます」

 ──だな。分かった。情報は随時送ってくれ。任せたぞ。

「はい、…………」

 そこで通話を切った古在は、今度は組員に電話を入れる。

「おうワシや。今から指示を出すから言う通りにせぇ、……大丈夫や。オヤジにはワシの方から口利きしといたるさかい、おのれらはワシの言う通りにしとけば何も問題ないんや」

 ピ、と通話を終えた古在は嗤う。

「ま、せいぜい僕達の為に頑張ってくださいね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ