表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 15
497/613

もう一人の自分(The other me)その9

 

「テメー、いつからそこにいやがった?」

「そうだな。君がここの人間を全滅させる少し前からだったかな」

「ふざけてんのか?」

「至って真面目なつもりだけどな」


 殺し屋は目の前にいる相手に対し、ふつふつとした苛立ちを募らせていく。

 そして同時に疑念が深まるのを感じている。

「何だって今まで何もしてこなかった?」

「?」

「とぼけてんじゃねー。何故俺を攻撃しなかった?」

「ああ、そういう事か。理由は単純だ、君を倒すなんてのはいつでも出来るからさ」

「テメッッ」

 殺し屋は理解した。相手が自分の事など全く眼中にないのだと。それを肯定するかのように零二? は告げる。

「それに、社会のゴミ掃除をわざわざ実行してくれてる奇特な人を殺すのにも、若干気が引けてね」

 一切表情を変える事もなく淡々とした口振り。殺し屋の背筋にゾクリとした悪寒が走る。

 以前に零二を見た事のある彼は目の前の相手に対して違和感を禁じ得ない。

「テメー、誰だ?」

 彼が見た武藤零二は、まさしく炎だった。燃え盛り、噴き上がる激情のままに敵を粉砕する様は圧倒的だった。

 だが今、目の前にいる相手からは感じるのは真逆。

 炎のような感情のほとばしりなど全くない、冷淡極まりない目は機械のようですらある。

「どうするんだい? 逃げたいなら止めやしないけど」

 淡々とした言葉は殺し屋にとって侮辱以外の何物でもなく、

「ふざけやがって」

 湧き上がる殺意を剥き出しとして襲いかかった。


(数秒後)


「か、バカな」

 殺し屋は自分が何をされたのかすら分からずに、ただ全身に穿かれた無数の穴から、じわりと血が滲み出す様を呆然と見ている。

「な、にを……」

 攻撃したのは自分だったはずだ。

 殺し屋のイレギュラーは“光の矢(アローオブライト)“。

 光を収束して放つ一撃。日光や月光は当然、室内の照明に至るまで光源さえあれば放てる能力。道具など必要なく、光を目から放つ。普通の人間なら何をされたかも分からぬままに殺害可能。マイノリティであっても先手さえ打てればそうそう後れを取る事などない。

「が、はっっっ」

 それが一体どうした訳か。口から吐血し、床に這いつくばっているのは武藤零二ではない。攻撃をしかけた側の自分がどうして全身を射抜かれているのか?

(これは、まるで俺の……)

 この傷は光の矢によるものとしか思えない。

「お、まえ、は?」

 顔を上げ、武藤零二を睨もうとするが、もう視界すら曖昧。まるで靄でもかかったかのようにうっすらとぼやけて、見えない。

「く、そ──」

 それが最期の言葉となる。

 殺し屋は力なく、顔を床に打ち付けてそのまま絶命する。


「…………」

 零二? はただ冷たい目のまま部屋を出て、しばらくの後に下村老人に電話を入れる。

「すみません。後始末をお願いします、場所は──」

 それだけ伝えると、静かにマンションへと戻っていく。その背中から何処か悲壮感を漂わせながら。



 ◆◆◆



 同時刻。

 九頭龍中心部に程近いある民家。

 深夜だという事で室内は真っ暗。

 誰もが寝入っていて、静かなもの、──ではなかった。

 そこにいたのは、微かな光と「おうおうおうおう」という野卑な声。

「何だよあのバカ。反応が消えちまったぞ」

 スマホの液晶を見ながら、どん、と傍にある椅子を蹴飛ばす。

 液晶には幾つかの光点が点滅しており、それらは僅かだが動いている。

「故障じゃないよな?」

「それはないな」

 そこにもう一人、何者かの声。野卑な声の男が訊ねる。

「リーダーか。じゃあやっぱり殺られたって事でいいのか?」

「ああ残念ながら。彼のイレギュラーはなかなかに強力だった。そこいらの相手ではまず勝てない」

「んなこたぁ知ってるよ、だから誰が殺ったんだ?」

 野卑な声の男は苛立ちを隠すつもりもないのか、今度は壁に穴を開ける。

「周辺での目撃情報から判断するなら、クリムゾンゼロだろう」

「ケッ、何だよ。九条のクソババァの愛玩動物ペットかよ。そんなヤツに殺られるなんざ、あの根暗もその程度だって事だな」

 野卑な声の男はひゃはは、と品性を疑う笑い声をあげる。だが、それも僅かな時間の事。唐突に笑いを止めると、

「で、どうするんだ。クリムゾンゼロは?」

 と一転して理性的に訪ねる。

「我々の狙いはあくまでも別だ。だが、万が一クリムゾンゼロに邪魔立てされては面倒だ。

 足止めとして、ルサンチマンを当たらせる」

「ああ、あのクソッタレなら丁度いいな、じゃあ俺は予定通りでいいのか?」

「当然だ。お前には明日、計画通りに標的を始末してもらう」

「オーケーだ。じゃあ、俺は帰らせてもらうぜ」

 そこで野卑な声の男はドスドスと足音を立てて、立ち去っていく。

 リーダーと呼ばれた男はやれやれと、呆れた調子で呟く。

「扱いにくい男だ。無関係の人間を殺すのは別に構わないが、後始末位はしておけ」

 そう言うと、何か液体をこぼすと民家を後にする。

 それから数分後。

 民家は根こそぎ焼け落ちる。中にいた住人は痕跡も残さずに消え去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ