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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 14
483/613

狂信者(Fanatic)その23

 

「グアアアアアアアア」

 破壊者の脳内にあるのはただただ解放。愚かな連中の悉くを解放し、偉大なる指導者へと捧げる事のみ。

 本能に忠実な怪物と化した今であっても、彼の脳内にあるのはそれのみ。

 それ程までに破壊者にとって指導者たる彼は偉大であり、絶対であった。

 彼が望むのであれば自分はどんな事も厭わず実行してみせよう。そう、彼は自分にこう言ったのだ。


 ”君の行った行為は決して殺人ではない。それは解放だ。

 君が行った行為は、この世界に閉じ込められた哀れな魂をより素晴らしい世界へ導く行為。それはとても意義のある事だ”


 血に塗れたこの手を、彼は顔色一つ変える事なく掴んだ。

 それはずっとずっと、まだ破壊者足り得ぬ少年が欲しかったモノ。

 それを偉大なる指導者は与えてくださった。


「ナレバコソオオオオオ」

 なればこそ、だ。彼の言葉こそまさしく天啓。神の言葉であり、その言葉の前では他の誰の言葉も意味など為さぬ。

 迷いなど必要ない。何故なら指導者こそが正しい。

 何を躊躇する必要があろう。何故なら指導者の言葉は絶対。

 故に破壊者はフリーク化しようとも何の変化もない。

 彼はあの祖国、地獄のようなあの場所で指導者に出会ったその時からとっくに変わったのだから(狂ったのだから)

「オマエオマエヲ、カイホウウウウウウウ」

 破壊者を覆っていた、あの白い外套は指導者から賜った品。

 それを脱ぎ捨てるのは、ありのままの自分をさらけ出す行為に他ならず。

「タマシイヲカイホウサセロッッッッ」

 外套を脱ぎ捨てた今、この姿こそが本来の自分自身なのだ。

 絶叫、怒号、咆哮。

 破壊の一撃は紛れもなく破城槌そのもの。重機の如き一撃。ビルが大きく揺れ、フロアにはまるで爆発の後の様なクレーターが生じる。柱に壁、天井に至るまで無数の亀裂が生じ、このままではビル自体が保たないのは明白。

「オ、ウガアアアアア」

 破壊者はただ解放せんと破壊の腕を振り下ろす。

 これで何度目かの絶対の事実を叩き付ける。

 なのに、それなのに。

「ハァ、ハァ」

 小さく息を切らして、美影は土煙の中を動いている。

「オマエ、オマエエエエエエ」

 破壊者の一撃は、確実に獲物を仕留めるはずの一撃は。直撃するに能わず。虚しく床を粉砕するのみ。

「ミエテルミエテルノニイイイイイ」

 そう。確かに獲物の動きは把握していた。筋肉に骨格の一挙手一投足その全てを完全に把握していた、のに。

 相手の動ける範囲をすら読み切って、攻撃を加えたはず。逃げようとも逃げる事など叶わないはずなのに。

 理性の大半を指導者への敬愛へ塗り潰し、残りはただ目の前の相手を解放せんという教えに注ぎ込んだ破壊者、指導者曰わく解放者にとって目の前の事態は決してあってはならぬ出来事。

「オマエエエエエエ」という怒号と共に左腕を振り下ろす。今度こそは確実に獲物を叩き潰せる、はずの一撃。されども、それをすら美影は直撃せずに回避。

「バカナアアアアア」

 苛立ちの極地に陥った破壊者は叩き付けた左腕を瞬時に変化。まるで空気の抜けた風船のようにし、同時に右腕を一気に肥大化。超強化するや否や槍のように前方へ突き出す。

 回避など不可能、腹部へと突き刺さるはずの鋭く素早い一撃。しかしそれをすら美影は躱してみせた。

 怪物、フリークと化しても本能、欲求に忠実とは言えど、いや、本能に忠実なればこそ。

「カイホウウウウウウウ」

 デモリッションはあの華奢な、触れただけでも砕けちってしまいそうな黒髪の少女に得体の知れぬ、恐怖を感じ始めていた。

 恐怖は焦りを生み、それは破壊者の攻撃にも影響を及ぼす。

 さっきまでの圧倒的な破壊、死の匂いを漂わせた剣呑な攻撃が変化する。まるで破城槌を思わせた一撃は気が急いた事から手打ちのような中途半端な突きへ。踏み込みも、加重も足りない一撃は彼女からすれば、待望の機会。

「――今だ」

 スイッチにより、相手の攻撃の軌道を完全に見切っていた美影は、守勢から転じ攻撃へ。後ろへ横ではなく、前へ踏み込む。

 とは言え破壊者の攻撃は美影にとっては、かすっただけでも致命傷たり得る。決して油断などせず、その左右の手に氷炎を浮かび上がらせ対応する。

「は、アッッ」気合と共に突き出された腕を氷の手甲で覆った左腕を用いて捌き、そのまま懐へ。

「く、らえ」

 そして懐へ入り込むと同時に右手を突き出して溜めていた炎を解放。解き放つ。

「ウ、ヌウウウウウウ」

 だがデモリッションに与えられた眼はその動きを予期。膝を突き上げて迎撃を図る。今度こそ完璧だった。結果として拙速から生じた好機。方法は分からないがさっきまでは回避に専念していたからこそ躱せたに違いない。炎が放たれようがそれがどうした? 先に膝を叩き込めば終わりだ。

 なのに、だ。不意にデモリッションの身体は大きくぐらつく。

「!!」

 視線を巡らせば、足元の床が崩れているではないか。それも自分の足元だけ。ほんの数十センチ前にいる少女は何の不自由もなく迫っているのに。

 スル、と床の下を赤いモノが蠢く。よく馴染みのあるソレは血液。

「へへ。さ、美影ちゃん」

 自身の血で妨害をした歩が、まるで悪戯っ子のように笑いながら「行け」と呟く。

「オ、ウガアアアアア」

 逃げようにも膝を突き上げている、ましてや足元を崩されたデモリッションに取れる動きはない。

「悪いね」

 さらに歩は足元から血を槍を生じさせる。地面から生えた血の槍はそのままデモリッションを貫き通す。

「オノレエエエエエエエエ」怒号をあげながら、デモリッションの眼は美影の右手から生じた淡い炎を視ている。ただの炎ではなく、すんでのところで弾け、まるで散弾のように飛び散った炎は破壊者の肉体を直撃。本来なれば小さな散弾など今の破壊者の肉体を動じさせる効果などないのだが。歩の血に貫かれ、穴だらけとなった今、炎の散弾は容赦なく傷口から肉体を襲う。

「ァガァァァァ」

 呻くデモリッションの体内を炎が焼き、そして貫く。

 まさしく内側から炎で炙られたような、凄まじい痛み。さっきも美影に燃やされたが、今度は比較にならない程の凄まじい激痛にデモリッションは理性を引き戻される。

「ば、かな」

 そして傷口を目にしてその痛みの原因が単なる炎などではない事を知る。

 傷口は()()()()()()()()燃やされた、とばかり思っていたが、実際の所は真逆。

 血の雨で射抜かれた傷口は赤黒く、いや紫がかった色になっている。これは凍傷。そして全身を焼くような鋭く、強烈な痛みの原因は体内を急速に冷却された為。

「悪いけど」そして美影は氷ではなく、今度こそ真っ赤に燃え盛る炎を叩き付けんと左手を叩き付けんとばかりに繰り出す。

「ぐ、うっ」デモリッションにも美影の動きは視えた。確かにダメージはあるが、回避だけなら問題はない。そう思い、足を動かそうとして気付く。全身、手や足の先端の感覚がない事を。美影の()()()で負わされた攻撃の狙いが、自分の動きを奪う為だった事を。

 さらに、だ。

「悪いね、便乗させてもらうぜ」

 まさに音もなく、歩が姿をさらし、パチンと指を打ち鳴らす。同時に上下左右から無数の赤い刃が地面を天井を壁を突き破って全身を貫き──刃同士で結び付き、柱のようになりデモリッションの身体を固定。

激怒の槍(レイジスピア)──」

 燃える槍は破壊者の身体をトドメとばかりに突き刺した。



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