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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 14
467/613

狂信者(Fanatic)その8

 

「それで、ミラーカ。何故この街に滞在するんだ?」

 パペットは単刀直入に訊ねる。

 目の前の相手は、人形、それも意思を持つそれ、という異形の自身から見ても異質な存在だ。

 彼女こそWDの上部階層、最高権力を持つ一人。

 それに値する条件ばかりたった一つ、真性の怪物(最強の存在)である事のみ。

 単に強い弱い、といった尺度など意味を為さない、そういった相手なのだから。

「なに、気になるの?」

 対してミラーカはおどけるような口調で人形を横目で見る。ただそれだけ、視線を送っただけにも関わらず、パペットの作り物の身体がカタカタ、と震える。

 人形、というだけあり、彼に恐怖といった感情はない。事象としては知っているが、喜怒哀楽、というモノを表現する事は出来ない。何故ならあくまでも人形、作り物でしかないから。

 ではこの震えの正体は、何だというのか?

 答えはいつの間にかパペットを抑えつけている赤い人形。

 パペットと瓜二つの背格好をしたそれはミラーカが作り出したモノ。赤い人形、が震えていて、その振動が伝わった結果である。

「そもそもだ。ただボクを拘束して楽しいかい?」

「そうね。そこそこには、という所でしょうかね」

「ボクは君には刃向かわない。そう言ったと思うのだけど」

「ええ、分かってるわ」

 常日頃であれば、基本的に他者をあざ笑うのが己の役回り。分不相応な高望みを抱く愚か者を甘い言葉で釣り上げ、良いように踊らせる。愚か者は自分の意思で行動しているつもりで、実のところ、パペットの思惑通りに動いているに過ぎない。

「なら、ボクを遊ばせておくのは勿体ないと思わないのかい?」

「ええ。貴方は分かっているでしょ?」

「…………ッ」

 だがそれも誰にでも通じる訳ではない。

 少なくともあの九条羽鳥、目の前にいるミラーカに対してはいつも後手を踏まされる。

 感情があれば唇を噛むなり、拳を握るなり、といった感情表現をしている所だろうが、人形であるパペットに感情はない。感情など無駄な要素でしかない以上、ここでそのような行動に出るよりも、この状況で出来る限りの事──情報収集に今は徹するべきだと判断した。

「ワタシには時間を惜しむ理由がないのよ。少なくとも今は、ね」

 紫色の髪をかき乱し、首を振る。たったそれだけの仕草で、この場にいるのが感情を持たない人形でなければ、ここにいるのが男であれば心を乱されたに違いない。

「本当につまらないわね。愛玩道具にもならない」

「ボクは人形だ。人間とは違う」

「ふふ、そうね。まぁいいわ。さっきの質問だけど答えてあげるわね」

 ミラーカはベッドから腰を上げ、ゆっくりとした足取りで窓へと向かう。ハァ、と吐息を窓にかけて白く染める。

「ワタシがここにいるのは【ネフィリム】の為。貴方を確保したのもその一環」

 毒の花を思わせる紫色の髪をした可憐な少女は、銀色の目で人形を見る。

「貴方、いえ、貴方の親が余計な事をしてくれたおかげで遠回りになってしまったわ。けどね、結果的には良かった。

 ネフィリムの()()はまだ確保はしていないけど、目途はついた。それに、面白そうな子も何人かいるわ。

 貴方もそれを観察したいからこそ、九頭龍(ここ)に留まっていたのでしょう?」

「…………」

「その沈黙はイエスね。それに、ワタシ自身が見てみたかったのよ。この九頭龍という街をね。

 あの九条羽鳥(ピースメーカー)が色々と手を回していた場所、藤原一族という古き血脈が()()してきた土地をね」

 ふふ、と笑う少女の手にはいつの間にか赤い液体が注がれたグラス。カラン、と氷がグラスにぶつかる音。

「こんなに混沌とした街はなかなかないわ。だから、折角だからワタシも楽しませてもらおうと思っているの」

 ミラーカはグラスに口をつけると、赤い液体を少しだけ飲み込む。

「勿論、ワタシ自身が直接何かはしないわよ。それじゃすぐに終わっちゃう、つまらないものね」

 赤い液体を、一気に飲み干していく。

「だからね、ワタシはこの街にお気に入りの玩具を連れてきたのよ。本能に、ワタシに忠実な玩具を、ね」

 すす、とグラスに残った液体を啜る。

「ネフィリムの件は時間の問題。それまでの退屈しのぎではあるけど、この街をせいぜいかき乱してあげる」

 紫色の唇に残った赤いモノを舌で舐めとる。

「ワタシはここから観ていてあげる。だから、()()()()()。ワタシを存分に楽しませなさい」

 窓の下に見える夜景を眺めつつ、ミラーカは嗤った。


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