表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 13
460/613

覚醒

 

 或いはずっと前から、知っていたのかもな。

 オレは何かがおかしい、って。

 ま、傍目にゃ分からないだろうさ。ソイツは見た目だとか、持ってる力、とかじゃなくて、もっと根本的、根源的なモノ。つまりはオレ自身の()()の話だからな。


 ソイツを一層強く認識させられたのは、京都の一件。

 あの時、オレの中には他人が、より正確にゃ他人だったモノの残骸、幽霊みたいなモノが入り込んでたって知らされた。

 笑えるよな、何年間も誰だか知らねェ赤の他人に、オレの中身を覗かれてたンだ。ストーカーとかそんなレベルの話じゃねェ、心底気持ち悪い話だ。

 だがそんな幽霊でさえ、結局オレの内側には入り込めなかったんだそうだ。防壁、だとか何だとか色々言ってたような気もしたが、多分ソレは()()ってオレは半ば確信していた。



 漠然とした不安はずっとあった。

 オレは何なんだっていう疑問がふとしたキッカケで浮かんでくる。

 たまに思う。オレは果たしてオレなのか、って。

 理由は分からねェ。ただ不安になる。このオレ、武藤零二ってのは間違いなく()()()()()のかって。

 バカな話だ。ンなモン決まってるじゃねェか。オレは間違いなく正真正銘武藤零二。それ以外に何があるって、な。


 だけど、どうもその不安は当たらずも遠からず、ってヤツだったみてェだった。


 オレの中に得体の知れないナニカがいる。

 ソイツを知らされたのは、あのクソッタレな藤原新敷と決着を付けた時だった。

 オレはハッキリと見た。見ちまった。

 あの()()()を。

 全く見に覚えがない色をしたソレ。なのに思っちまった。何だか()()()()って。

 分かっちまった。コレはオレの知らないナニカが持っていた焔で、ソイツは、ソイツこそがオレの内側にいた防壁、ってヤツなんだって。

 誰にも話せるワケがねェ。こんな話を一体誰が取り合う?

 良くて疲れてる、悪けりゃ何かの病気だって思われても不思議じゃねェ。

 京都、そして藤原新敷との決着。

 それらを経て、オレには得体の知れない、だけど懐かしいナニカがいるってわかった。

 同時にオレの中で焔に対する認識が変化した。

 これまではただ燃やし、蒸発させるだけだった焔には様々な遣い方があるんだって理解した。

 その結果が、さっき使った焔を用いた鳥の巣であり、あの藤原新敷を倒した蒼い焔だろう。

 オレが蒼い焔に気付いたのは、実のところこの数日だ。

 どうやってあのクソッタレをブッ倒したのか、どうにも記憶が曖昧で思い出せなかったけど、秀じいとの手合わせで、追い込まれた時に発現。あの秀じいが、初めて後ろに飛び退いたのをハッキリと目にした。そして険しい顔でこう聞いた。


 ──若、それを使いこなしているのですか?


 初めてだった。秀じいのあんな顔、そして苦しそうな声は。

 オレは戸惑いつつも、いいや、気付いたらこうなってた、と正直に答える。


 ──若。その焔は使わぬ方がよいでしょう。その焔は危険です。


 どうして、というオレの問いかけに秀じいは答えなかった。


 多分、秀じいは知ってたんだろうな。

 この焔が何なのかを。この焔の()()()を。少なくともオレじゃねェってコトだけは分かる。


 多分、コイツがオレの中にある違和感の正体だ。

 蒼い焔はオレの中にあって、オレじゃないモノ。使いこなせれば強くなるってのは分かってっけど、多分、ソイツはムリだろうな。だって、コイツは────。



 ◆◆◆



 目の前を光が包み込む。

 次いで炎と衝撃波、破壊がオレへと迫るのが分かる。

 だけどオレは一歩も動かない。動こうにも動けない。今のオレは文字通り燃料切れで、息を吸うのも精一杯。死にかけの状態なんだから。

 ああ、くっそ。イヤでも分かっちまう。コイツはヤバいって。ちょっとやそっとの炎だとか、熱なら立っていてもオレなら耐えられる。何せこの身体はそういったモノには抵抗力があるからな。

 でもそれだって程度ってモノがある。

 この光はヤバい。万全の状態なら耐えられただろうけど、今のオレじゃムリだ。

 粉々、いや、塵一つ残らずに消し飛んじまうだろう。そうなったら当然だけどオダブツだ。

 ああ、チクショウ。ムカつくぜ。


 …………分かってるよ、このままじゃオレは死ぬしかねェ。

 選択肢は他にはないってのはよ。

 取るべき手段は一つだけってのもな。

 だがよ、それをやったらオレはどうなるか分からねェ。

 もしかして何ともないまま、ってコトだってあるかも知れねェ。まぁ、まず有り得ないだろうけどよ。


 わかった、分かったって。

 そうだよな。オレは死ねねェ。こンな場所でワケも分かンねェままに消えちまうってのは願い下げだ。


 何が何でも、どんな事があったって生きていく。

 それがオレがあの人に、士藤要に誓った約束なんだから。


 ああ、やるよ。くれてやる。だがその前に言わせろ。


 苦しくたって前を見ろ、歯ァ食い縛って前を、この手を伸ばせ──まだ、オレは生きてる。そうだろ武藤零二?


 今の叫びに意味なんかあるのか、って? いやねェよ。ただ思ったコトを思ったままに口にしただけだ。

 あとは好きにしろよ。今のオレじゃどうにもならない。ここからはオマエが何とかしろよ。


 あーあ。どうなっちまうのかな、オレ。

 このまま、いなくなるのだけは勘弁だ。だって、オレにゃやりたいコトが山ほどあるンだ。


 そうして消える僅かな一瞬だった、と思う。

 オレの脳裏には色んなコトが浮かび、巡っていく。


 秀じいに、皐月に武藤の家の連中、オレを育ててくれてサンキューな。

 マスター、アンタもうちょい愛想良くした方がいいぜ。いや、あの厳つい悪人面じゃ逆効果か、へっ。

 巫女、オマエの歌、やっぱスゲェと思うぜ。一緒に暮らして、何ていうか、妹ってのがいるならお前みたいなのを云うんだろうな。

 クソ兄貴、アンタにゃ具体的に世話になった覚えはねェけど、でもま、アンタなら何があっても生き延びそうだな。


 …………どうしてだか知らねェが、最後に浮かぶのがお前だってのは妙だよな。

 お前とも白黒付けてない。ったく、イヤになるぜ。なぁ、怒羅美影。


 “────“


 オレの中のナニカ、いや誰かが出て来るのが分かる。口じゃ上手く説明出来ねェが、何かが入れ替わるべく奥底から上がってくる感じ、か。

 ああ、分かる。一体いつからなのか。こんな異物がずっとオレの中に潜んでいたら、そりゃもう他人がどうこうする余地なンざ皆無だわな。


 “○◆▼@◆&○“


 何を言ってっか全く分からねェけど、とにかく代われ、って言ってるように思える。ああ、わーったよ。代わるよ、好きにしろ。


 ブツン、という何かを断ち切られたような音がした。

 まるでそう。電源スイッチをONOFFするみたいな感じ。


 ブクブク、って海の底にゆっくりゆっくりと沈んでいくような感覚、オレ、っていうモノが遠くなっていく感覚。微かな光が遠退いていき、代わりに真っ暗な闇が全てを覆っていくような感覚。何とも薄気味悪くて、気持ち悪い。


 ったく、死にたくないけど、このまま、っては勘弁だぜ。


 そんなコトを考えながら、オレの世界は閉じた。



 ◆◆◆



 閃光と爆風、それがもたらすのはまさしく破壊だった。

 本来であれば、そこには何も残らずに粉々になり、いや、跡形もなくなり、生存者などいないはずだった。


 試作品だったとは言え、()()は予定通りに起動。標的諸共に消し飛ばしたはずであった。


 なのに、そこに彼はいた。


「コールウェル大佐ッッッッ」

 オペレーターの声は恐怖に満ちている。

 一旦途絶した衛星からの映像が回復。有り得ないモノが、光景がそこにあったからだ。

「クリムゾンゼロは健在、生きています」

 全てを消し飛ばしたはずなのにも関わらず、そこに零二は立っていたのだから。



(数分後)



「…………」

 視線を巡らせば、室内にいる隊員達はこの状況に動揺の色を隠せないらしく、いつもより仕事が遅い。

(仕方ないか)

 嘆息しつつ、足元に残った血痕を一瞥する。

(予定が早まったな、もう少し手回しすべきだった)

 司令官の暴走を放置すれば、部隊に更なる損害が出るばかりか、存在を察知される可能性があった。

(止むを得ない、そう理解してはいるはずだ)

 そうでなければ、隊員達は仕事をしてはいない。

 彼らとて理解してはいるのだ、あの司令官なら自分達を平気で捨て駒にするだろう、と。

(まぁ、少しずつ解決していけばいい)

 そう考えつつ、モニターに映る相手に視線を向ける。

「どうやら、真性のバケモノという訳か……」

 コールウェルは苦笑して、計画の練り直しをせねば、と誰に言うでもなく一人呟いた。



 ◆◆◆



 もうもうと立ち上る煙は、爆発に起因するモノではない。

 激しい閃光と衝撃は周囲の建物、学舎などを跡形もなく消し飛ばすはずだったが、全くの無傷。

 それどころか、あの爆発自体、何の被害も出していない。

 理由はただ一つ。

「────」

 そこに立つ少年が未然に防いだから、だ。

「…………」

 少年はゆっくりと周囲を見回す。

 彼にとって目の前の景色は初めてのものだ。

 正確には見てはいたが、例えるならばその景色はテレビカメラでの中継映像のような物。ライブではあったが、あくまでも撮影された映像をモニター越しに観ているような物だった。

 スゥ、と小さく息を吸う。

 手足を動かし、そしてハァ、と息を吐く。

 こんな当たり前の事が彼には嬉しかった。

 何故なら、彼はずっと奥底から観ている事しか出来なかったのだから。

「うん、これが外の世界か」

 その言葉遣いは少年を知る者なら大多数は驚くに違いない。

「やっと出れた」

 穏やかな口調に、優しげな微笑を浮かべる様は、知り合いが見ても思わず目を擦るだろう。

「さて、どうしようかな」

 少年──つまり武藤零二はゆっくりと歩き出す。

 背中から、肩から()()()を揺らめかせて歩き出すのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ