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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 12
416/613

クレイジーサマーエンディングザディ(Crazy summer ending the day)その16

 


(何てコトはねェ、何か仕掛けるつもりだってのは分かってる)


 零二は相手が捌幡真一が何かを狙っているのを見抜いていた。

 根拠など何もない。単なる直感。

 ただ目を見れば分かる。大まかとは言え、敵がどういう意図・・を持っているのかを。


(ああいう目なら何度も見たコトがある、アレは死ぬのを受け入れた目だ。何をするつもりかは知らねェけどな)


 なら、どうすべきかは単純だ。

 相手が何か仕掛ける、という前提で、こちらも対応する。より具体的に云えば、自分の周囲の蒸気をいつでも焔に変換、相手の攻撃自体を・・・・・灼き尽くせばいい・・・・・・・

 それは焔の壁、ではなく例えるなら焔のあぎととでも云えばいいだろうか。


(さぁ、何でもこい)


 拳を構えつつ、確実に相手を倒すべく間合いを詰めていく。油断などなく、確実に。

 だからこそ、だった。零二は気付くのが遅れた。

 パス、という何かを撃ち抜いたような音が聞こえ、その瞬間に肩へと何かが命中。

 その直後に捌幡真一が爆散。

 零二は焔でそれを喰らおうと試みるも、失敗。そのまま迫るガラス片の嵐のただ中へと巻き込まるのだった。


(な、に?)


 全身から噴き上げる、夥しいまでの鮮血を呆然と見ながら零二は倒れる。


 そう、零二は気付く間もなかった。教室の窓を貫通したモノの正体に。

 だが無理もない。それを為したのは目の前の兄弟とは全く別の意図を持った、第三者の手による狙撃・・だったのだから。



 ◆



 零二が倒れた直後。


 小学校を見渡せるとあるマンションの屋上。

 そこに零二と捌幡悠、真一兄弟の対決を観察している何者かがいた。


「うん、どうやら間に合ったね。いやぁ、良かったね、お見事な腕前だよ」

 一人は子供。一見すれば笑みをたたえた無邪気そうなその面持ちを見れば、無力で無害に思えるだろう。彼の異名はパペット。九頭龍で起きる様々なイレギュラー犯罪に関わる町の暗部とも云える存在である。

「情報提供には感謝してる。何せこっちとしちゃ依頼が失敗じゃなくなったんだからな」

 もう一人はライダースーツにヘルメット姿。今朝方、桜音次歌音とやり合ったあの狙撃手である。この夜遅く、誰の気配もなければ光と言えばポツンポツンと点在する街灯に家々の光以外には何もないこの状況下でヘルメットを外さないのは、このヘルメット自体に様々な機能を搭載していて、暗視装着ナイトビジョンによって昼間と変わらない光景が見えるのと、何よりも横にいる人形・・に自身の顔を見せたくないから。


「しかし、話には聞いてたけど、完成していたんだね【魔弾】は」

「耳が早いな」

「そりゃそうだよ。何せ魔弾とはイレギュラーを無効化・・・してしまうマイノリティ殺し・・・・・・・・の秘密兵器なんだろ? そんな凄い代物知ってなきゃコーディネーター失格だよ」

 パペットは口元を歪ませ、心底楽しそうに笑う。だが表情こそ笑っているが、その目は身震いする程に冷ややかで、何か腹に一物抱えているのは明白だった。

「お前、どこまで知ってるんだ?」

 狙撃手の問いかけは、どうして魔弾の存在を横にいる人形が知っていたか、について。

 魔弾は彼の依頼主が極秘裏に開発を進めていたモノ。情報統制は万全だったはず。開発に参加する研究者の一人一人に至るまで徹底的に身元を洗い、万が一の情報流出など起きないように対策を打ったはずだった。


(にも関わらず、……何故だ?)


 狙撃手は困惑を強める。何せその開発には彼自身もまた関わっているのだ。相手が何処まで情報を知っているか、その程度によってはこうして見せないようにしている己の身元すら、ある程度把握されているかも知れないのだから。


「ああ、心配はいらない。僕が知ってるのはあくまでも魔弾、という玩具おもちゃについてのみだ」

 人形はそうした狙撃手の思惑などお見通しとでも言わんばかりに、くく、と笑う。

「しかし、魔弾の効力は知ってたつもりだけど、あの貫通力は…………ああ、そうか。

 君自身のイレギュラーでそれを為したんだね」

 人形の読みは当たっていた。

 狙撃手のイレギュラーは”空力操作”。特定の物、方向の気流を操作。この場合なら魔弾の周囲の空気抵抗を低下、その速度を加速。しかも空気抵抗の操作に伴い、音自体を下げた。結果、遠距離からの狙撃であったのも手伝い、零二は迫る魔弾を感知出来なかった。

「まぁ何にしたって魔弾は効力を発揮、クリムゾンゼロは窮地に陥った、という訳だね」

 またも笑うパペットを尻目に、狙撃手は向こう側の状況を把握しようと、スナイパーライフルのスコープ越しに視線を送る。

 すると見えたのは。

「パペット、……あれはどういう事だ?」

 思わず息を飲む。

「あれ? どれの事だい?」

 少年、つまりはパペットはおどけるような声で訊ね返す。

「俺の依頼主があんたに頼んだのは例の楽園パラダイスを融通しろ、って事だけだ」

 そもそも何故この犯罪コーディネーターはこの件にこうして首を突っ込むのか?

 彼の仕事は、春先でのパラダイスの一件で既に終わったのに。

「そうだね」

 狙撃手は直感した。つまりスコープ越しに見えた光景に、この人形は関わっているのだと。だから問うた。

「なら、あれはどういう事だ?」

「どうって、見たままじゃないかな」

「あの少年は既にフリークだったはずだ。なのに、何故改めてフリーク化・・・・・・・・している?」

 ライダースーツの狙撃手が見たのは、暴走したマイノリティに特有の光景、つまりは怪物フリーク化する実験体の少年の姿。

「フリーク化は一度だけのはずだ、何故なら」

「そうだね。フリーク化とはつまりは抑えきれなくなったイレギュラーの暴走だ。

 だけどね、こうは思わないか? 本当にそれだけ・・・・なのかって?」

「なに?」

 狙撃手は人形が何を言おうとしているのかが分からない。

 そもそもこの子供が一体何者なのかすらよく分からない。

 曰わく、九頭龍で起きる様々なイレギュラー犯罪の半分に関わっている、と噂される犯罪コーディネーター。

 曰わく、様々なイレギュラーに関わる薬品を入手、流通させるディーラー。

(こいつは一体何者だ?)

 余計な詮索はする気などさらさらなかったが、ここに来て狙撃手は横にいる子供の姿をしたナニカに興味を惹かれた。

「うん? 興味津々って感じだね」

 そしてパペットはヘルメット越しにも関わらず、相手が関心を抱いていると看破する。

「いいから言ってみろ」

 狙撃手は声を低くして、威圧するような口調でそう告げるも、人形という異名を持つ少年は一切動じない。

「オッケー。なら話をしよう。一般的にフリークとは理性を喪失したマイノリティの成れの果てだと考えられている。もはやケモノ同然、まともにコミュニケーションなど取れやしないからってね。でもね、その状態でも個体差こそあるけど、一定のコミュニケーション能力を保持する場合もある。

 だからね、僕は思うんだよ。フリークとはその暴走の果ての成れの果て、終わりではないんじゃないかってね」

「何を言ってる?」

「まぁ聞いてよ、確かにフリーク化に伴い、大多数のケースで正常な思考能力は低下するのは事実だよ。だけど、そうじゃない場合も確かに存在する。一定水準の知性を保つ例だって報告されてもいる。こうした場合をも加味して判断するのであればこうなるんじゃないか?

 フリーク化とは暴走、変化に伴った上の、ある種の安定状態じゃないかってね?

 実際、フリークを軍事利用する動きは世界中の様々な機関で検討されてるし、某国では実戦投入されているとも言う。

 で、思うんだよ。俗に言うフリーク化とは暴走する能力、急激な変化に対しての一定レベルでの適応・・した姿なんじゃないかって。

 そして適応したと言うのなら、まだその先・・・もあるんじゃないか、ってね」

「お前──」

 狙撃手はゾクリとした悪寒を隠せない。

 人形という異名を持つ相手の異様な目を見てしまった。

「ふふ、その実験・・をこうして目にする事が出来る。ああ、僕は何て幸せ者なんだろうねぇ」

 子供としか思えない、好奇心の入り混じった声音を。

 彼には目の前の相手こそフリークにしか見えなかった。


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