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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 12
407/613

クレイジーサマーエンディングザディ(Crazy summer ending the day)その7

 

「うっしゃああああ」

 気合いと共に零二がドアを蹴り破る。

 ガッシャアン、という音は蹴り破られたドアが店内に置かれたグラスやら酒瓶などを砕き、割った音だろうか。

「ったく、十分経っても何もねェからこうして入ってみたけども…………」

 トーチャーからの連絡が消えた事を訝しんだ零二は目標の店へと突入したのだが。

「うーぬ、とりあえずはフツーの店だな、女装したオッサンがいる以外は」

 店内にいたのはそういった格好をした店員と、数人の客。事前にフィールドを展開したので一般人なら無力化出来たはず。出て行った形跡はなかったので、誰もいないのか、或いは全員がマイノリティか、と判断した上での行動であったのだが。

「ち、どうも既に誰か来てやがったか?」

 店内には気絶した人間だけが残されているのみ。

「仕方ねェな」

 自力で探すか、と呟きながら、零二は店内の照明を落とす。

「さって、と何があっかな?」

 真っ暗となった室内を、熱探知眼で確認してみる。室内には気絶した客などの熱反応、その他に何かしらの熱源がないかを探っていく。


「うーン」

 一見すると店内には何の異常も見受けられない。スタッフの格好こそ気にはなるが、それ以外には特に何も見受けられず、だが却ってそれが零二に確信させる。

(やっぱ、ココで間違いないな)

 何せ、零二は遠目からではあったが弟石がここに入った事を知っている。

 十分間、動かずに待機はしたが、様子は窺っていた。

 熱探知眼で周囲に人の出入りがなかったのは確認済み、そして周囲に人がいるのはこの店のみ。

「つぅコトはだぜ、この店。何か隠れてるワケだな」

 零二が確認するのは、店内ではなく、店の奥。窺っていた際に見えなかった店の裏側、勝手口のある場所の近辺を重点的に。

「ン?」

 するとすぐに奇妙な点に気付く。

 人気のないはずの場所なのにもかかわらず、熱源を感知した。

「壁、の向こう側か? ならッッ──」

 不敵な笑みを浮かべつつ、零二は拳に意識を集中。熱による蒸気を発し、白く輝かせるや否や、「どっせいっっ」何の躊躇もなく壁へと叩き付ける。

 超高熱の塊となった拳は壁をバターでも溶かすかのようにドロリと溶解、瞬時に拳状の穴を穿つと、さらには周囲の壁をも溶かしていく。


「フムフム、壁の奥にまた壁、ね」

 穿った穴から奥の様子を確認。その上で再度拳を叩き付け、今度は溶解ではなく、打ち砕いた。

 ゴロゴロ、と砕かれた鉄の破片が無数に転がっていき、その上でボロボロになった壁へ回し蹴りを叩き込み、完全に砕き尽くす。

「よっし、一丁あがりだぜ」

 上機嫌に中へと足を踏み入れ、表情を一変させる。

 隠し部屋に入るとまず鼻をつくのは鉄の臭い。なんとも生臭い、よく知ってる嫌な臭い。

「…………やっぱりな」

 部屋の奥は血の海だった。倒れているのは囮にしたはずの弟石当人。零二は念の為に脈拍を計り、完全に事切れているのを確認。

「悪いけど、今はアンタにゃ興味ねェンだわ」

 死んでしまったものはどうしようもない、そう判断し、零二は熱探知眼で改めて、周囲を確認してみる。すると奥にある椅子の周囲に熱の残滓が残っているのを確認。そこへ近付こうとして、

「やめた方がいい、と思うよ」

「オイオイ、一体どうした。その有り様は?」

 零二が振り返ると、トーチャーの姿。

「随分と派手なペイントだな」

 着ていたシャツは無残な破け、鮮血に染まっている。

「ちょっとした手違いさ」

 強がってみせるが、疲弊しているのは顔色の悪さを見れば一目瞭然。気を抜けば今にも倒れそうに見える。

「で、誰にやられたよ?」

「さぁ、ね。気付けば腹を裂かれていた、それよりもだ。これを聞くとい、いよ」

 そう言いながらトーチャーがズボンのポケットから取り出したのはスマホ。

「コレがどうかしたか?」

「きみ、は好きじゃないやり方だけど、盗聴させてもらってて、ね。あの囮君に仕込んだ音声を確認してくれる、かな?」

 受け取ったスマホは手についた血で汚れている。

「そ、なえあれ、……憂いなしって、い、うだろ?」

 トーチャーはそれだけ言うとその場に崩れ落ちる。零二はその身体を受け止めこそしないが、倒れた相手を椅子に座らせ、そして。

「正直見直したぜ、お前結構根性あるじゃねェかよ」

 ニヤリと笑うと、自分のスマホを取り出し、下村老人に連絡。迎えに来てもらう事にした。



 およそ二十分後。

 さっきまで待機していたビルの屋上に零二は戻っていた。

 店で気絶していたスタッフや客が目を覚ましたらしく、バタバタと慌てる様子が窺える。

「ま、アンタらの場所をぶっ壊しちまったのは悪いけどさ、勘弁してくれよ」

 誰も見てはいないのだが、居心地悪そうに頭を掻きつつ、血塗れのスマホを操作。イヤホンを耳に装着すると、再生ボタンを押した。



 ◆◆◆



 ──あーあ。派手にやっちゃったわねぇ。どうするのよ後始末は?


 ──どの道ここの場所は割れたと見ていい。放棄すべきだと思う。


 ──あんた簡単に言ってくれるじゃないのよぉ。この店はアタシがようやく作った場所なのよ。それを易々と捨てるなんて真似、出来ると思ってるの?


 ──ああ、できるよ。あんたなら絶対に裏切らないから。


 ──あーあ。本当に口だけは達者なんだから。ま、ここに留まってちゃ危険だってのは分かるわ。だから逃げるとしましょう。それよりも、【お姫様】は回収出来たの?


 ──出来たよ。彼女は確保した。


 ──そう、木岐ちゃん。元気してたのね、良かったわ。


 ──急ごう、誰か向かってくる。



 ◆◆◆



「な、に?」

 零二は困惑を隠せなかった。

「木岐ちゃん、だと?」

 その名前は、今朝方の出来事で出会った少女と同じ。

「まさか、だよな?」

 意味が分からない。何故、ここでそんな名前を聞くのか。

(偶然、の一致ってヤツだ。そうだろ、オイ)

 有り得ない、一日に二度もマイノリティ事件に同じ一般人が関わるなど、まず有り得ない。そんな事例は、知ってる限りで皆無のはずだ。

 嫌な予感がした。そう言えば、家に帰してから、どうなったのかをまだ確認していない事に気付く。

「ったく、…………冗談キツいぜ」

 かぶりを振りつつ、零二は苦笑した。


 数分後、零二はようやく事態を知る。

 添碕木岐、が数時間前から行方不明だという事を。

 あの一度限りのはずだった少女と、またも道が交差するのだと。


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