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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 12
405/613

クレイジーサマーエンディングザディ(Crazy summer ending the day)その5

 


「で、何が分かったワケ?」

「んー、そうだねぇ」

「勿体ぶってンじゃねェよ」


 零二は拷問趣向者の仕事・・が終わるのを待っていた。下村老人には「やめとけ」とは言われたものの、隣室にて静かに待っていた。


「それにしたって、三時間もよく待ってたね」

 トーチャーもまた、仕事が終わり、部屋を出たら零二が壁に寄りかかっていたのには正直驚いた。大抵の人間は、仕事中に発せられるを聞くと震え上がり、怖気が走り、そして嫌悪を抱く。良心の呵責とまではいかないにせよ、倫理観にもとる行為を直視出来ない。

「てっきり君はさっさと出て行くとばかり思ってたけどもね」

 缶コーヒーを飲み干し、横目で名目上のリーダーを観察する。

(正直もっとヘタレかと思ってたよ)

 偽らざる本音だった。確かに強い、自分などとは違い、直接的な戦闘能力を保持し、暴走してしまえば辺り一面を灰燼と化す程の焔を己の内側に飼っている。

(だけど内面はそうでもない)

 圧倒的な能力の反面、暴走した事を未だに引きずっており、自分自身を忌み嫌っているように思える。荒事を為すのを受け入れる一方で、その事に対する良心の呵責に思い悩む。そんな人物であると判断。実際、それで間違いないと確信を抱いてもいる。

「てっきり、電話で呼び出さなきゃいけないって思ってたよ」

「面倒な手間を省いてやったンだよ、感謝しな」

 零二は心底からウンザリしたらしい。素っ気なく言葉を返すと、首を動かし、話を促す。

 トーチャーもまた、一ヶ月前の件で零二を恐れており、これ以上話を長引かせれば自分にとって望ましくはない結果をもたらす事を知っている。

「了解だよ、リーダー」

 だからこそ心にもない呼称こそすれども、聞き出した情報を口にした。


「結論から言うと、このお兄さんは大した情報は持っちゃいないよ」

「は?」

「いやいやホントホント。何も知らされてない雑魚ザコ。まさしく使いっぱしり」

「オイオイ、あの会合ってのは一応九頭龍ここいらのWDの主だった連中が顔合わせと意見を交換する場、だったンだよな?」

「そうだね」

「なのに、使いっぱしりを寄越したってのか?」

「そ、まさしくね」

「おい、それって…………何でだ?」

「……………………はぁ」


 それはトーチャーの心からの嘆息。前々から何となく理解していたが、今まさに確信した。


(こいつ馬鹿だ)


 思わず口に出しそうなのを辛うじてこらえ、遠回しに訊ねてみる事にする。


「あのさ、会合に本人が来る事にもメリットとデメリットがあるんだよ」

「メリットは簡単だ。ツラを見せるコトで互いの顔を知るコトになり、信頼関係が築ける」

「ま、そうだよね、じゃデメリットは?」

「お前、バカにしてンのか? 簡単じゃねェか、標的マトにされちまう可能性がある。そういうこったろ?」

「ああ、そうだよ」

「そういった意味じゃまさにオレみたく懸賞金がかけられた場合、フツーは出ない。得体の知れない場所に出向いて、四方八方から狙われちゃ危険だからな、…………そういうこったろ?」

「まぁ、そうだけど」

 トーチャーは今度は押し黙る。馬鹿だと思っていた相手が思って以上に冷静に、淡々とした口調で正論を言う。何よりも驚いたのは、武藤零二じぶんという存在を理解していた点。無論自分に懸賞金がかかってるのは知っていただろう。これまで幾度も刺客に狙われていたのだから。

(てっきり襲撃上等。何時でもこいや、位にしか考えちゃいないって思ってたけど……)

 認識を改める必要があるな、と思いながら話を続ける事にする。


「とにかく、だ。あのお兄さんは使いっぱしりもいいとこ。つい最近になってWDの一員になったそうだよ」

「で、誰の下についてるンだよ?」

「そこが分からなかったのさ。要は、何も教えられちゃいない。ただ命令されて、あの店にいったそうだ。どうせ大した情報などないだろうけどって、仲間が言ってたらしい」

「フーン」

「何だよ? 不満そうだな」

「そりゃ当然だ。情報収集の専門家と見込んで頼ンだってのに、何の収穫もないって言われちゃな」

 まるで小馬鹿にするよう物言いを受け、緑髪の少年は苛立ちを覚える。

「ば、おれをバカにするなよ。確かにあのお兄さんは情報を知っちゃいないさ。だけどね、あのお兄さん自体には利用価値・・・・がある。そうだろ?」

 まくしたてるようにそう言うと、零二に背を向け、ツカツカと隣室へ、さっきまでお楽しみ・・・・だった部屋のドアを乱暴に開ける。

「言っとくけどな、一切傷はつけちゃいない。治療するには手間がかかるし、流血の後始末をするにはここは準備がなさすぎる」

 拷問趣向者たる少年の言葉の通り、ガレージには一切の流血の後はない。

 中央に据え置かれ、コンクリートに打ち付けられ固定された椅子に、あの男が力なく座っているだけ。脈動している事から生きているのも事実だった。

「こいつを使えば少しは繋がる、そうだろ?」

「へっ、何だ。上等じゃねェかよお前」

 零二は獰猛に歯を剥いて笑った。



 かくて零二達もまた動き出す。

 だが彼らはまだ知らない。様々な思惑がこの一件の裏で蠢き出している事を。


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