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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 10
342/613

目覚め

 

 美影に起きつつある変化を零二は見逃さない。

 僅かな異変、たった一瞬だけとは言え自分へと向けられた相手本来の感情の吐露。

 だけどそれで充分。零二には充分過ぎる判断材料。

 自分自身にも覚えのある体験とを重ね合わせ、そう確信した。


 だからだろう、自然と不敵な笑みを浮かべて偽りの相手へ問いかける。


「オイオイ何だか状況が変わってきたみてェだなぁ」

「?」

「分からねェってツラしてるから教えてやるよ。多分もうすぐお前は終わるぜ」

「よくよく意味が分かりません。終わる、とは何がですか?」


 コントローラーに支配された美影は表情こそ訝しむがその声は依然として淡々としたもの。

 コントローラー、は気付いていなかった。一瞬の乱れを。

 支配し、奥底へ追いやったはずの器の主が表に干渉したのを。


「うむうむ、不快ですです」


 戦闘補助プログラムとして余分なモノを排除されたはずのコントローラーは目の前で笑う少年の姿に違和感を感じ取る。


「なぜなぜ不可解。あなたにとってこの対峙は自身の罪の意識を強く意識させられる、云わば最悪の事態のはず」

「そうかもな。オレはドラミちゃんには少しばかり負い目があるのかも知れねェ。でもよぉ」


 不意に零二はふらり、と身を前に倒したかと思わせた次の瞬間にはコントローラーの目前に迫り──拳を輝かせ、振るってくる。

 だがその拳はガン、と分厚い壁により遮られる。目の前にあるのは透明の、氷の壁。


「やっぱし厄介だな──」


 零二が即座に後ろへ飛び退くと、すんでの所で狙いすましたかのように壁から無数の氷柱が剣山のように飛び出す。


「なぜなぜ攻撃出来るのですです? あなたは彼女に負い目を感じているはずです」


 コントローラーには事態が把握出来ない。

 先日の、昨日とはまるで違う事態。

 そもそもコントローラー、が美影の中に入ったのも、それが彼を作り出した道園獲耐の望みであったのと、そしてこの中が一番安全だと考えられたから、である。

 結果としてコントローラーは自身の創造主たる老研究者を裏切って藤原新敷に寝返ったのも、変動していく様々な情報をまとめた上での判断。

 そして藤原新敷とはあくまでも一時的な共闘関係・・・・でしかなく、場合によってはすぐにでも敵対関係になっても何もおかしくない。

 そうなった際に、もっとも安全なのがこの怒羅美影、という少女。

 本来ならばペルソナ、つまりはコントローラーのプログラムをインストールするには受け入れる側に下準備・・・が必要である。それはいざという時に戦闘補助プログラムが器を自在に扱えなければ意味がない、という理由で器となる対象に心的外傷による自暴自棄に追い込む、というモノ。そこへの道筋は色々あるのだが、とにかく器となる対象の精神面を弱めておかねばならない。そして準備を整えた所でインストール、そしてプログラムによる肉体の制御に時間がかかる。

 なので本来ならばそう易々と行えないのがネックであったのだが。

 そうした諸々の問題は美影、については一切生じない。

 何故なら彼女には数年前の実験により既にペルソナ、が組み込まれていたから。

 最初期からの実験対象にして、当初から完成品・・・となるべくして道園獲耐によって調整を受け続けた彼女にはペルソナ、そして未完成でこそあったがコントローラーの基礎データも組み込まれており、だからこそスムーズに肉体を器として乗っ取れた。

 そしてもっとも重要なのは美影、の秘めたる可能性・・・。まだまだそのイレギュラー、より正確には器の秘めたる容量リミットには謎があり、それを完全に扱えれば、その能力はまさしく絶大。藤原新敷とて、それを考慮すればこそ迂闊に敵対しないはず。

 だからこそ、その為にもこの場にて武藤零二を殺す。それこそがこの器の性能テストにして奥に控える禿頭の大男への牽制になるはずだった。


「このこの身体、No.13と呼ばれた少女にあなたは後ろめたさを感じているはずですです」


 予想だにしない状況にコントローラーの演算は狂い始めていた。

 単に防御に徹するだけなら予想の範疇だったが、反撃してくるとなれば話は全く別。

 未だに完全に能力を引き出せてはいない美影じぶんに対して目の前の零二の現在の戦闘能力を比較すると結果はかなり危険。

(あのあの焔を受けるのはかなり危険ですです)

 文字通り一撃必殺になりかねない零二の焔を前に、如何にして勝利を得るかをコントローラーは急速に再演算を進めていく。


「後ろめたさならあるかもな。ただしお前じゃねェ」

「なになに、意味が分かりません」

「お前バカだろ。オレが引け目を感じてンのは怒羅美影個人であってワケの分かンねェプログラムだか何だかじゃねェっつうコトだよ」


 零二はへっ、と相手を鼻で笑うと一気に加速。

 再度拳を振るい、膝を突き出し、コントローラーへ襲いかかる。

 確かに依然としてコントローラーは美影の身体の主導権こそ掌握したままである。

 だが、そのコントロールに異常が生じつつあるのを自覚しつつある。


「く、はっ」


 目の前を拳がよぎる。零二の右フックが鼻先をかすめていく。反撃しようにもさっきまで問題なく動いていたはずの手足の制御が上手く出来ない。隙だらけの相手が振り切ってから踏み込んで左のショートアッパーを放たんとしている。

(分かっている、分かっているのに対応が────)

 向かってくる左拳を上半身から氷の盾を出現させる事で対応。バキン、と鈍い音と共に拳は氷に包まれるのだが────。

「あ、あああああああッッッ」

 零二は左拳に焔を発生。包み込んでいる氷を一気に溶かし、そのまま拳を突き上げて氷を粉砕。

 後ろへと飛び退くコントローラーへ追撃をかけていく。

「どうしたどうしたどうしたっっっっ」

 左右の拳を輝かせ、向かっていくツンツン頭の不良少年に対して、コントローラーは完全に受けに回らざるを得ない。

「いい加減、コッチに来やがれ。オレに文句があるっつーンなら自分で言え、かかってこい。

 オレは逃げも隠れもしねェからさ────!」

「はがっ」

 勢いよく放たれた一撃を前に、躱きしれずに拳がコントローラーの顔を直撃。大きくのけぞって倒れる。

 だが零二はそこで攻撃を中断、起き上がる相手に対して何もする事なく真っ直ぐに見据える。


「もう一回だけ言うぜ。いいか、さっさと戻って来やがれこのバカ」


 それは目の前にいるプログラムにではなく、その奥に、深い奥底にいるはずの少女に向けられた言葉だった。


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