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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 10
340/613

葛藤

 

 深い深い海の底みたいな場所。

 見上げても何も見えない。

 ただただゆらゆら、と漂うだけしか出来ないアタシはクラゲみたいだな、って一人呟く。

 ここはアタシの世界・・。これまで何度も繰り返し来た場所。

 ペルソナ、に自分の身体を譲り渡して、逃げ込んだ場所だってのに。


 ”…………何よ”


 いつもならすぐに眠ってしまうのにどうして今は眠れないんだろう?


 いつもなら眠ってる間に全部終わってるのに。

 何で今回に限って眠れないのよ。

 どうして自由にならないのよ────!


 そうして唐突に何が起きてるのかが分かってしまう。

 今、外側で何が起きてるのかが断片的でも分かってしまう。


 アタシの眼前にアイツが立っている。


 何なの、アイツ。

 なによ、アイツ。バッカじゃないの?


 この前、いつかは分からないけどこの前散々な目にあったハズなのに何でそこにいるワケ?


 ──○◆☆▷&§♪¥


 何か叫んでるみたいだけど生憎ね、ちっとも聞こえやしない。バカみたいに、ううん間違いなくバカそのもの。

 だって何言ってんのか顔見たら分かっちゃうんだもの。


 なにが、返してもらうよ。バカのくせに。ホント最低ね。


 武藤零二、クリムゾンゼロ、No.02。


 それがアタシから大事なモノを奪ったヤツの呼称だ。


 アタシは二年間ずっと待ち望んでいた。あの時、アタシを助けてくれたあの人との再会を。

 その人の目は何だか酷く冷めたモノだった、と思う。ムリもない。だってあんな最悪な場所でずっと同族殺しをさせられたいるんだもの当然だ。


 だからアタシが助かったのだってホントは単なる気紛れだったのかも知れない。


 ”君はまだ強くなれるよ”


 実際にはあの時かけられた言葉だって今じゃもう曖昧だったりする。だから全然違う言葉だったかも知れない。でもそんなのどうだっていいんだ。

 大事なのはあの時、あの場所で、あの人にアタシは命を助けられた、って事実なんだから。


 いつかもう一度会って、それでお礼を言いたい。助けてくれてアリガトウって。


 分かってる、こんなのは単なる自己満足・・・・でしかないって自分で分かってる。


 だけどこれはアタシが前に進む為に、どうしてもやっておかなければならなかったコト。言い方を変えるならケジメ、ってヤツなんだ。


 でもそれは叶わない。叶えようもない。

 …………だってもういないんだ。アイツが殺した。武藤零二が殺した。

 だから許せない。許さない。何があっても許してなんかやるものか。

 自分でも信じられない位にイヤな感情、黒いモノは日々日々積み重なっていった。

 同じ学校、同じ学年、同じクラスの隣の席にいるアイツの顔を見る度に積み重なる。


 どうしてそんなにヘラヘラ笑えるの、どうしてお前が生き残ってあの人が死んじゃうの?

 お前が死ねば良かったんだ。


 そんな心の中を、隙をあのクソジジイは利用した。


 今のアタシはペルソナ、によって身体を動かされてる。

 ううん、ペルソナだけど何かが違う。同じコトをされてるんだけど分かる。コレは違うって。コレはアタシの知ってるモノじゃないって。


 目の前に映る武藤零二はちょこまかと動き回ってはアタシに言葉を投げかけてくる。


 鬱陶しい、何よコイツ。大人しくここで死ねばいいじゃない。そしたらいくらだって何処にだって帰ってやるわよ。


 いいから、そこで黙って───。



 ◆



「────そんなに戻って欲しいなら、黙って死ねばいいじゃないのよ!」


 声が轟いた。

 さっきまでとはまるで違う声。

 無機質で棒読みで真意など推し量れない声とは真逆の感情に満ち満ちた大声。

 それは紛れもなく彼女の、美影の本当の心からの声。


 おかしな事に声とは裏腹に目の前の少女の表情は無機質なまま。


 だけどそれで充分だった。

 零二にとってみれば充分だった。


「へっ、何だよ。出来ンじゃねェかよ──」


 気付けば零二の顔には笑みが浮かんでいる。いつものような不敵な笑みとは別の、何処か安心したかのような笑みが浮かんでいる。


「なになに言ってるのですか?」

「アンタじゃねェ、ドラミちゃんに言ってるのさ。オレを殺したい? いいぜかかって来なよ。

 でもそれならワケの分かんねェモンにやらせンな。お前自身の手でやれよ。勿論、黙ってやられてやったりはしねェけど」

「うむうむ、理解不能です。クリムゾンゼロ、あなたの言葉からは合理性の欠片も聞き取れません」

「合理性、ね。確かにそうかもな殺すだけならお前でもいいのかも知れねェわな」

「ですです。結果的に怒羅美影の手にかかってしまえば同じ事だと思われますます」

「でもな、やっぱちげェンだよなぁ、ソイツは。

 何でもかンでも割り切れるモンじゃねェってこったよ、なぁ美影」


 零二は全身から焔を揺らめかせ始める。

 淡い赤色のソレはさっきまでのような一瞬だけの現象ではなく、完全に全身を覆い、包み込むように揺らめいている。


「今からオレも全力だ。思いっ切りいかせてもらうぜ。だからよ──くっだらねェヤツに好き勝手させずにお前自身、ありったけ全部でかかってこいってンだよ!!!」


 零二は叫ぶ。目の前の相手の奥底めがけて。そこにいるであろうはずの自分が向き合うべき相手へ。



 ◆



 ば、かじゃないの? 何叫んでるのよコイツ。

 おまけに何くっさいセリフを真顔で言うの? アニメとかの見過ぎなんじゃないの?

 本っっ当にバッカじゃないのコイツ!


 なによ、ありったけ全部とかって。らしくもなくマジメな顔で言っちゃって。

 本当……バカだアイツ。



 そんな時だった。


『美影、』


 え、?


 声が聞こえた。無機質で、それでいて聞き覚えのある懐かしい声が聞こえたように思えた。


 気のせいだ。そんなの有り得ない。


『聞こ……えます、か……美影』


 何で? 変だよこんなの?

 アンタはもういないはずじゃ────。


『美影、美影』


 でも間違いない。この声はペルソナ、だ。

 今、アタシを好きにしてるナニカとは似て非なるモノ。

 プログラムのくせしてお節介で、それでいて優しい友達で恩人。

 でもどうして? だって消えたはずじゃ……。


 そう、ペルソナは消えた。


 忘れもしないあの日。

 道園獲耐の実験の最中で、最後までアタシの代わりに戦い続けて消えたはずなのだ。



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