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狂った世界――The crazy world  作者: 足利義光
Episode 10
333/613

白い箱庭

 

 そこに足を踏み入れるのは二年振り。

 建物の大半はそのまま残っている。

 オレの焔はそこにいた”生き物”だけを灼いたのだから当然だ。


 壁を眺めればそこには人の影らしきものが焼き付いてる。視線を巡らせば多分こンなのはもっと沢山見つかるンだろうさ。


 だがまるで昨日のコトみたいに色々なコトを鮮明に思い出す。


 まぁ、大半の記憶は最低なモノだけど、な。


 物心ついた時からオレはここの実験体として色々な実験をやらされた。

 まるで息を吸うかのように極々当たり前に焔を操り、それを操作する実験の繰り返し。

 これだけならまだマシだ。だけど違う。オレは数日置きに実験という名目の殺し合いを見せつけられる。

 最悪だったのは、オレはそれを目の当たりにしても何も思わなかったコトだ。


 人と人が殺し合うだなンて最悪な状況にも関わらず当時のオレは眉一つ動かさず、眺めていた。眉一つ、とは言ったが何も感じなかったワケじゃない。食い入るように見ていた、というのが正しい表現だろうか。


 そんなコトの繰り返しの中で、命をやり取りするってコトの重みを知らないままに、オレはただ言われた通りに目の前の誰かを灼いた。

 思えばソレは当時のオレにとってある種のゲームのようなモノだったのかも知れない。

 毎日毎日色んな能力を持った奴が互いの生存をかけて戦う様を普通の家庭の子供が特撮ヒーローものの番組を見てワクワクするのと同じレベルでオレは戦い、そして灼いた。


 気付けばオレは少しずつ、繰り返されるその行為を楽しんでいた。善悪の判断などよく分からない。いや、全く分からない。だってそうさ。オレはそういった情操教育・・・・ってのを受けたコトなンざ一度もないンだから。オレが知るのは他人を灼く方法だけ。ただそれだけの為に存在していたのだから。


「…………」


 耳を澄ませど聞こえるのはオレの足音だけ。当然だ。今、ここにはオレしかいない。

 かつてはそれなりの人数がいて、意外と人通りだけは多かった通路も二年前を最後に静寂が支配する場所になった。


 しばらく歩くと目に入るのは図書室。オレは退屈しのぎによくここに来て色々な本を読み漁ったっけ。本棚は一つとて立っていなくて倒れてる。そして棚にあった本は当然のコトながら無残に飛び散ってる。そういや探偵小説を読み終えてなかったなンてコトを今更思い出す。


(ケリが付いたら何冊か持って帰るってのもいいかもな)


 そンなくだらねェコトを考える余裕があるってのが、……果たして今のオレにとっていいコトなのかワルいコトなのか。


「…………」


 自然とオレは黙していた。だが当然だ。

 オレがこのクソったれで忌々しい場所に足を運んだのは懐かしい、だとかましてやピクニックで来たンじゃねェ。

 ここに来たのはドラミのヤツを九頭龍に連れ帰るのと、それからあのクソハゲサングラスをブッ飛ばす為だ。


 そう、自分の意思じゃまずココには来ない、来れなかっただろう。


「へっ、何だかンだで覚えてるモンだな」


 目をつむっていても大まかになら何処に何があるのかもオレには分かる。分かる、というよりはこの身体が知ってる。

 ココは勝手知ったるオレの住処、オレの世界、オレの庭であり、オレという存在が育って場所なのだから。


 例えばこの先のT字になってる通路だけど、右には会議室がある。

 左に曲がればまず目に付くのは第十医務室。この研究施設の特徴の一つだが医療設備がかなり充実している。それも恐らく下手な大病院よりも。ま、オレは病院の世話になったコトがねェから断言し切れはしないけどな。

 理由は単純で、ここでの実験での負傷率の高さが最大の原因だ。


 考えれば当然だとも言える。

 何せココじゃ日常的に殺し合いやら何やらで数百人の”同類マイノリティ”が日々傷ついていた。その中にゃ単なる消耗品・・・扱いのヤツもいれば存在自体が機密・・のオレみたいなヤツだっている。そういったヤツの実験には多額の金やら何やらが裏にあって、ヘタを打ったりすれば自分テメェがヤバい。だから不測の事態に対する備え、として増設されていったのをオレは見てきた。


 この第十医務室もそんな思惑で作られた場所の一つ。

 何度となく色んな連中が運ばれるのを目の当たりにした。

 何となしに医務室のドアを開いてみる。ギイッ、と軋みこそあげたものの、ドアはキチンと開き、オレは中に入ってみるコトにした。


 部屋に入ってまず目に付いたのはベッドだ。これが普通のベッドとは違うのは左右上下に拘束具が備え付けられている点だ。マイノリティが治療中に暴れるコトを想定していたのだろう。それから部屋の奥にはもう一室あるのだが、ここには”噴射”やら”電流”とかかれた何やら物騒な響きボタンのついたパネルがあって、向こうからは奥は見えず、こちらからは向こうの様子が丸わかりなマジックミラーになってる点から鑑みるに、いざという時の為の”対処しまつ”の為の場所だろう。


「イヤな気分だぜ」


 ココに来てからずっとこうだ。何て言えばいいのか、とにかく痛い。

 歩いてるだけでズキンと何かが軋みをあげ、意味もなく吐き気を感じる。全く自分がイヤになる。こンなにもオレってヤツは脆いのか、って思う。


「…………」


 余計なコトは考えないように務めながら通路を歩く。時間はまだある。これなら遅刻するっていう事態だけは避けられそうだな。

 この施設はとかくだだっ広い。そして外から見る分には気付かないが地上こそ三階しかないものの、地下へ目を向ければその階層は十階にも及ぶ。


 オレが目指すは地下十階。最下層部にある部屋だ。


 この施設は地図上では、案内されてるのは地上三階、地下五階まで。


 表向きの教育機関、天才児育成施設、という肩書きを一般の来客に見せるのが地下三階部分。

 裏社会向けの人材育成、つまりは殺し屋やらテロリスト育成を地下一階二階で。

 三階と四階が機密事項扱いの極秘実験設備で五階が見せ物としての”殺し合い”を見せる演習室。


 この先、六階から下からはここに所属する研究者でも権限がなければ入るコトすら許されない領域となる。そしてそこにいたのが、より正確にはそこで育ったのがオレ。No.02と呼称された個体ってワケだ。

 オレ以外にもそういった”特別待遇”のヤツは何人かいた。どンな連中だったかは思い出せねェけども共通するのは”ナンバー”だ。

 オレがNo.02、って呼ばれてはいたがそれはオレが二番目、ってワケじゃない。オレ以外にも実験動物はいた。ただソイツらのナンバーは三桁やら四桁ばかり。一桁、もしくは二桁はいなかった。

 で、六階から下にいた連中はナンバーが一桁ないし二桁だった。


 つまりはナンバーの桁数が実験の極秘度に比例してる、ってコトなのだろうよ。


 実際、オレは他の連中からほぼ隔離されてたワケだし。

 オレにとって初めての友達、いや仲間はNo.09こと士藤要、要兄ちゃんしかいなかった。


 カンカンカン、金属製の螺旋階段はすっかり錆び付いてて少しばかり臭い。

 ここの地下へは階段しか使えない。エレベーターは権限のあるヤツ専用だからだ。


「────」


 暗い。本当に暗い階段だ。照明などついてないこの階段はまるで昔のオレそのものみたいに思える。本物の光なンて知る由もなかった、人生ってのに冷めてたオレそのものみたいだ。

 だけど、今は違う。オレはもう知ってる。世界には光が溢れてるって。そうして階毎に移動しながら階段を降りていく。

 目指す十階まであと少し。残り一階降りれば目的地だ。


「よう、武藤零二ぃ」


 だが流石にそうはいかねェらしい。

 九階についたオレを待っているヤツがいた。

 まるで蛇のような雰囲気を漂わせる男。

「待ってたぜ、オメェをぶっ殺せるのをよ」

 ソイツはそう言うと心底から楽しそうに舌なめずりをするのだった。




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