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歩み寄るモノ──ウォーカーpart1

 

 零二が悪意の主、または牛頭天皇を打破した事を確認した者達がいた。

 その中の幾人かは零二とは過去、そして未来に渡ります何の関わりも持たない″観測者″だったり、そもそも零二とは違う次元に住まう者である。


 だがその中には零二の今後に大きく関わる者も存在するし、その人生に介入を試みようとする者もいる。


 魔術師我楽多、はこの事態に際してそういった介入を試みようとする者の一人であった。


「クはははっっ。素晴らしい、実に素晴らしい」


 赤一色の魔術師は歓喜する。

 それも当然であろうか。

 何せ想像以上のモノを彼は目の当たりにしたから。


 今回の一連の推移は彼にとって、決して満足のいくモノではなかった。

 当初の計画通りであるならば、予定通りであったのは、己が傀儡にするつもりの藤原右京が、目下の障害であった兄の三条左京を破滅させた事くらいだ。

 本来の計画通りであるならば、三条の名跡は今頃は右京が継いでいたはず。

 如何にその名声が凋落したとて、少なくともここ京都に限れば三条の影響力は未だ強い。

 何せ京都にいる防人に退魔師達一〇〇〇人以上の異能者達の実質的な頭目なのだから。絶大な権力だと言える。


 その権力を隠れ蓑にして、様々な魔術の為の実験を行う予定だった。

 そうしてゆくゆくはその力を活用すべく目を付けていたのが八坂神社にあった牛頭天皇であった。

 その力の指向性には問題があったが、魔術師である自分ならばそれでも活用方法はある。

 そのための依代こそがオオグチ、であった。

 あれは洗脳する事で如何ようにも操れる使役生物。

 ある程度の餌を喰らわせ、力を付けたオオグチを媒介に京都に眠る呪詛怨念の主を操る事が出来るなら、もはや彼は教団などに関わる理由もなくなる。


 彼に限らず教団に協力している魔術師の大半は彼らの信奉する″神″になど興味はない。

 ただ単にその神への興味や、または協力の見返りとして、教団が長年の伝手で確保してくる無数の捧げ物の一部を融通してもらえたり、という利点があるからである。


 魔術師の大半は己の力を高める事に興味を抱く。

 我楽多、もそうした目的を持っていた。

 だからこそ牛頭天皇、なる存在には興味があった。

 指向性の問題はあるので、直接的な接触や召喚は厳禁だったが、その力をコントロール出来る術に見通しはあった。


「ダがもうそんなのはどうでもいい」


 そう、それが魔術師我楽多の偽りない本心だった。


 赤一色の魔術師は目を惹かれ、心を奪われた。


 仮にも″神″といっても差し支えない絶大な力を持ったアレを消し去ったあの焔に。


「アれだけのモノならば私にとってどれだけの成果を生み出すだろうねぇ」


 もはや教団などどうでも良かった。

 武藤零二、という一人の少年さえ手にすればわざらわしい些事など無用。

 しかも相手は今、力を使い切っているらしい。


「フうむ、今なら手に入れるも簡単だ。だがその前に────邪魔者を殺さねばね」


 差し当たっての障害者である、何者か。

 そちらへと関心を向けるのであった。



 ◆



「さて、そろそろか」


 一方、同時刻。

 春日歩はハーレーを駆りながら、″気配″を辿り、京都の北部へと向かっていた。

 南、つまりは八坂神社の方角から目映い光が上がったのはついぞさっき目視した。

 弟、つまりは零二の″気配″は途絶えてはいない。

 だから結果はそういう事なのだろう、と判断している。


「ま、実際のとこあいつの焔が【アレ】なら負ける訳もないんだろうさ」


 歩自身、子供の頃に己が一族、武藤家、つまりはその本流である藤原家の話を聞かされたから知っている。古来、いつの頃かは定かではないが藤原一族には往々にして異能者が生まれるようになった。


 その最初の一人。

 その人物が持っていた能力こそが一族の運命を大きく変えた。その人物が持っていた異能こそが恐らくは零二と同じ″焔″。


 国に仇を為した魑魅魍魎の悉くを打破せしめ、一族の繁栄に大きく貢献した、そう言われている。


 藤原一族からはその後も、焔を担う者が度々生まれるようになった。

 彼らは一様に強い、強過ぎる力で強大な敵を屠った後、自滅したという。


 歴史が巡り、時代は変わっていく。

 藤原一族もまたその時々で、表舞台に出たり、または裏方に徹する事で常に勝者の傍に存在し続け、権勢を誇った。


 だがいつの頃からか、一族から焔を担う者が生まれなくなった。

 藤原一族の幾人かの長老格はそれを凶兆だと考えるようになり、そこからの脱却を考えた結果。計画は始まったのだという。

 以来、一族はその″焔″を持つ者を生み出す事が至上の命題となった。

 それは様々な″異能者″の血族との交配から始まり、異能者をこれまで以上に輩出する事に繋がり、藤原一族はますます力を高めた。

 だが、長老格は満足しなかった。

 彼らにとっては求める存在はただ一つ。

 ″始原の異能者″ただ一人なのだから。


 そうして一族は飽くなき研究を重ね、やがて設立したのが″白い箱庭″と呼ばれる研究施設である。


 表向きは次世代を担う優秀な子供の育成を謳いながら、裏では強力無比な異能者を育成する為の非合法な実験を繰り返す悪魔の住む場所。


 実験そのものはWDに委託しながらも、藤原一族はそこを使って長年の悲願を達成しようと目論み、そうして残ったのが″02″つまりは零二である。


 零二こそが藤原一族の長年の悲願、宿願を担う者。


 それがどのような犠牲の下に成り立っているのかを知った歩は吐き気を飛び越えて怖気を覚えたものだった。


 だから、というのもあったのもあるのだろうか。

 歩は、02こと零二が外の世界に出てから二年もの間会わなかった。


 家族、それもたった一人の、血を分けた存在だのに。


 そう、歩には他に家族はいない。


 名字である春日の家は娘を死なせた武藤、いや藤原一族を許さない、と公言し、武藤の家から出た歩にも名字の名乗りこそ認めたがそれ以上は期待するな、とばかりに突き放した。


 もっとも歩にとって、それは歓迎すべき事でもあった。


 五年前に彼が家を出たのは、自分が長ずるに従って浮かび上がる両親の死に際しての事の推移に疑念が膨らんだから。

 母は名もなき子供、零二を産んだ際に瀕死の重傷を負い、更には精神を病み、そのまま入院を余儀なくされた末、五年前に死んだ。

 父はその前、一〇年前に出張の為に乗った飛行機事故で消息不明。飛行機は跡形もなく粉々となった為、生存者ゼロとして片付けられた。


 一人にはなったが、歩は家の執事である加藤秀二を始めとする家人達によって何不自由なく育てられた。

 だから決して不幸だと思った事は一度もない。


(まぁ、だからだろうさ。俺がアイツに会うのが怖かったのは、そうさ。俺は怖かった。弟に会うのが怖かったんだ)


 自分が知らない所でどれほどの責め苦に喘いだ事か、資料の一端だけとは言え知ってしまったから、会うのが怖かった。


 景色にはもう完全に人気などない。

 そして感じる、強まるのは強烈な気配。


 目的地、であろう場所はまだ少し先なのだが、この不快感と怖気は一層高まるばかり。


「……これ以上はコイツには乗らない方がいいか」


 歩は肌で感じていた。何者かに見られている、と。

 相手は間違いなくあの我楽多、という魔術師。

 つまりは既に相手の結界内にいる、のであろう。

 ハーレーを止め、徒歩に切り替える。



 すると、気配は一気に強まった。


 《オやおやもっと盛大に出迎えようと思ったのに、わざわざ徒歩かちを選ぶとは……思った以上に慎重なのですね》

「そりゃ慎重にもなるさ。外法の輩に会いに行くんだ、……どんな罠があってもちっともおかしくない。バカ正直に向かいはしないさ。それにあのハーレーはカスタムに結構な金がかかっててね、修理とかはゴメンなのさ」

 《ハはは、なかなかにユニークだ。それで君は誰なのですか? 殺す前に是非とも聞いておきたいです》

「いいぜ。春日歩、だ。魔術師さん」

 《ナる程、歩君ですか。一応訊ねますが何しに来たのですか?》

「そんなの決まってんだろ。アンタを殺しに」


 歩の表情、言葉に一切の迷いはない。


 《クくく、いいでしょう。では来るといい。来れるのでしらね》


 そこで声は途切れる。


 そして周囲の雰囲気は一変。

 何かが向かって来るのが分かる。


「ま、そうだよな。メインディッシュの前には前菜だな」


 歩はにわかにその表情を引き締めると、迫る何者かへ向けて飛び出すのであった。


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