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彼女の中

 

≪グ、グガガガガガ≫


 クリメイションサードによりオオグチの腹内が爆ぜた。

 バアアッッ、と腹部が吹き飛び――即座に燃え、蒸発する。

 その身体が無数に千切れ飛び、ボタボタ、と地面へと落ちていく。火葬クリメイション第三撃サードは強力な技だが、激情インテンス初撃ファーストとは違い、その効果範囲が狭いのが欠点だ。


 インテンスファーストが拳をつたい、直に相手の肉体全てを蒸発させるのならば、クリメイションサードは拳伝づたいに白い輝き、つまりは熱を送り込み、それを時間差で炸裂させる技。

 零二が普段からこの第三撃を使わなかったのは、時間差での炸裂という性質の熱操作が難しく、それに単純な破壊力なら相手に直接触れてさえいればいい、インテンスファーストの方が上だからであった。

 零二には現在”三つの技”があるがその内の一つで、現在封印している”拒絶ディクライン第二撃セカンド”はかつて一度、実戦で使って以来、自分自身で使用を禁じた技。二度と使わない、と決めた禁止技である。

 その結果、零二にとって一番使い勝手の良いインテンスファーストが彼の代名詞となっていた訳であった。



 爆発からは逃れたものの、巻き上がった爆風に零二と士華の身体は吹き飛び、地面を転がっていく。

 二人はゴロゴロと幾度も転がり、ようやく止まる。

「う、つっっ」

 零二が軽く呻きながら顔をあげた。ズキンとした鈍痛が襲いかかり、目を細める。

「よいしょ、やれやれ。で、武藤零二?」

 その零二に押し倒された格好で倒れていた士華が隙間からひょい、と顔を出す。

「あ、いつつ、なンだよ?」

 零二は頭痛を堪えながら少女に答える。額には生温い血の流れを感じる事から爆発の際に破片を受けたのかも知れない。

 そんな事を考えている不良少年に、ピンク色の髪をした年上の少女が囁く。

「良いのかな、……乙女の身体にこうも密着しててさ♪」

 フフン、と笑う士華の言葉を冷静に反芻した零二はハッとなる。

 自分が今、どういう状況なのかを。

 同年代の少女に馬乗り状態、しかもその顔と顔が至近距離であるという現状を理解する。しかも、左右の手があったのは……男の子にはない、女の子ならではの二つの小山……いや小山とは云えないソレの上。そのフニフニ、とした感触。平静さを保てなくなる。そこに、だ。

「…………へ・ん・た・い」

 耳元でぼそ、とした囁きがトドメとなり、零二の思考は完全にフリーズ。

 数秒間能面の様な表情であったが、それから一気に顔を真っ赤にすると「あ、ああ。は、はっはは」と大笑。わざとらし過ぎる空笑いをしつつ、慌てて山を握っていた両手を離して、飛び退く。零二の様はまさにネズミの様に素早く、何処か妙であった。

「プ、プフッッッ」

 士華がまるで小動物みたいにビクつく一見不良少年、実際には純情少年の様を見て我慢が出来ず笑い出す。

「ば、バカッ。わ、笑うなよな……ったく」

 少女は、顔を真っ赤にしたままブンブンとかぶりを振る零二の様子を満足そうに見上げている。

「いやぁ、ゴメンゴメン武藤零二。君の反応がイチイチ面白くてさぁ」

 そう言いながら彼女も起き上がると、着衣に付いた砂とかをはらう。これだけ至近距離での爆発であったのにも関わらず、爆風もそれに伴う破片の直撃をも喰らっていないのは奇跡的な確率の事だといえる。いや、それは紛れもなく目の前で顔を真っ赤に染めた少年のお陰であろう。

「そうかよそうかよ」

 ふん、と言いつつ頬を膨らませた零二の様子が堪らなかったのか、士華はまた「アハハハハ」と声をあげて笑うのだった。



 そんな二人の掛け合いをよそに、オオグチは飛び散った破片が、ウゾウゾと地面を這いつつ、寄り集まっていく。


≪お、おのれェェェェ≫


 と怒気を露にする、敵の声を聞くと流石に零二も士華も掛け合いを中断。その表情を引き締める。


「何だよあのバケモノ。しっつこいなぁ。行くよ武藤零二」

 士華は呆れ気味に嘆息すると、身構える。そうして側にいる少年へと声をかけた。

「だな、って言うかさっき気付いたンだけどよ。

 アイツ、その身体毎喰うみたいだ。だからさ、うっかり、その……」

「何だい何だい、歯切れ悪いなぁ。ちゃんと言いなよ」

 もう、と言いながらの士華のマジマジとした視線に零二は思わず目を背ける他無かった。

 意識しない、意識しないぞ、と思ってはいたがその相手が目の前にいる。その顔を見ようと思ってもつい視線に入るのは彼女の二つの小山じゃないけど巨峰とも云えない二つのアレ。あのフニフニ、とした感触が頭を離れない。しかも、だ。彼女は先日自身で言っていたのだが、本当にブラをしていなかった。


「ああ、何だよ何だよ不可抗力だったろ?」

「あ、当たり前だよ。そ、その……」

「もうハッキリしないなぁ、気にするなってのさ!!」


 ばっちん、と勢いよく尻を蹴られた零二は思わず前方へ倒れる。

 ぐえ、と蛙みたいな声を出し顔から地面へと突っ込む不良少年は、即座に起き上がると頬をパンパンと叩く。

「うっしゃあああああああああ」

 気合いを込めた大音声をあげ、すーはー、と荒々しく幾度も呼吸をする。

「よっしゃ、大丈夫、ダイジョーブだ。行くぜシカ」

 そう自分自身に言い聞かせる不良少年をピンク色の髪をした年上の少女が面白そうに眺めている。



≪きっさまらああああああ。ワシを無視するとはいい度胸ぞ≫


 オオグチが激怒した。

 彼からすれば、目の前で何を遊んでいるのか、であろう。

 生死をかけた戦いの場に於ける礼儀作法を完全に無視した行動であった。

 ずずず、と這いずる速度も早くなっている。


 零二と士華も流石に敵が動けば真剣にもなる。

 即座に後方へ飛び退くと、姿勢を低くする。

 士華が零二に尋ねる。

「でさ、さっきの話……何なの?」

「ン、何なのって?」

「あっきれた――」

 そこにオオグチの巨体がのしかかろうと襲い来る。

 二人は左右に別れる形で横っ飛びして躱す。


「もう、さっきあのオオグチについて何か言おうとしただろ?

 それが気になって仕方ないんだよ!!」

 その大声に反応したのか、オオグチは士華へと狙いを定めたらしい。口を大きく開くと、吸引を始める。

「お、わっ、やっばぃ」

 即座にあのオオグチの吸い込み範囲から離れようと試みる。

 だが、巨大化した怪物の間合いは飛躍的に大きくなっていた。

 出だしを押さえられ、士華の速度が落ちる。走る処か、一歩を踏み出すのも困難な状況であった。


「ぜああああああ」

 そこへ零二が動く。

 全身から熱を発し――突進をかける。

 さっきの戦いで理解した事がある。

 まず、あの身体には通常攻撃が効を成さない事が一つ。

 何せインテンスファーストすら耐え抜いたのだ。無論、更に威力を集中させれば効果もあるだろうが。

 だから零二の狙いはオオグチの長大な胴体部ではない。

 相手の胴部に足をめり込ませる。そしてそこから背へ飛び乗る。更に背部を駆け抜け――飛び出すと巨大な口蓋へ蹴りを叩き込む。


≪ぐ、ぼらあああ≫


 力ずくで口蓋が無理矢理閉じられ、士華の動きが元へ戻る。

 勝機を悟った彼女は己の左右の拳を軽く握ると、何を思ったか自身のシャツから露出した胸骨へ叩き付ける。

「哈っっ」

 そのまま拳は体内へ斜め下へとめり込む。それは一見、自傷行為にしか見えない光景だろう。

 だが、違う。次の瞬間であった。

 彼女の体内からまずは左手が抜け出てくる。

 ただ、その手には先程までは無かった”異物”が握り締められているのが分かる。

 ソレには柄がついている。

 ソレは鞘に納められている。

 その鞘から引き抜かれたソレは――銀色に輝く刀身を煌めかせている。

 士華の愛刀である”虎徹”は常に彼女と共にある。

 それはまさしく彼女の血肉と一体になった刀剣にして、彼女にしか扱えぬ妖刀。そこへ彼女が何かをした。

「ハアアアアアッッッ」

 途端、彼女の雰囲気が変わる。

 平時であれ、火急の時であれ彼女の本来の姿は穏やかな少女。

 だが、今の彼女はまるで別人。

 細められたその目は赤く染まり、狼の様な獰猛さを放ち、その所作もまた獣のそれにしか見えない。

 そして――弾丸の如き速度で間合いを詰めると相手の口を斬り上げるのであった。


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