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正体不明

 

 あー、うっさい。

 さっきから何よアンタ?

 あーだこーだってアタシにうるさいわね。

 誰だが知んないケドさ、あんまりうるさいなら灰になっても仕方がないわよ。


 さっきからずっとこの調子。

 ”誰か”がずっとアタシの近くにいる。

 さっきから何かをこっちに話しかけてるみたいなんだけどその声が何を言っているのかが聴こえて来ない。

 その姿形も分からない。だってここは何も視えないのだから。

 でもそれはここが真っ暗だからじゃない。寧ろ逆でここは明るい、それも物凄く明るい。

 その明るさの元凶がさっきからアタシに何事かを話しかけてくる。

 目映い光に目が眩む。そしてこの肌にひりつく感じは熱気であり、また冷気。

 つまりは矛盾しているとは思うけど、アタシが感じるのは炎と氷。熱気と冷気というコトになる。

 何がおかしいのかって?

 考えてみなよ、夏と冬が同じ場所で同時に存在できるのかをさ。

 つまりはそういうコトよ。

 相反する矛盾した二つの季節、事象が今、肌を通してアタシに伝わっているというコト。


 ”¥℃♂☆♀%〇〇@¥”


 まただ、また何かを言ってるみたい。

 何よアンタ? ったく一体何が言いたいのよ。

 でも少しだけど好転してきたコトもあるわ。

 声の主が朧気だけど視える様になった。

 相手はどうやら男の人みたいね。

 でも、それ以上はダメね。どうしても視るコトが出来ないわ。

 何よ、手招きなんかして、もっと近付いて来いっていうの?


 ”よ、う……く聴こ……たか?”


 え? 何。

 さっきまで何を言ってるのか全く分からなかったのに。

 途切れ途切れだけど聴こえた。

 アンタ誰よ? で、ここはドコよ?


 ”ここが何処……はかんけ……ない。大事……のはお前……俺の【器】だと……う事だ。

 意識を集中……させろ。炎を手繰る……うに”


 集中しろっていうの? 炎を操る様に?

 分かったわよ。

 ほら、……これでいいワケ?

 と、そう尋ねた次の瞬間だった。


 ”うむ、上々だ。お前、なかなかいい器じゃねぇか。

 しかも、女子か。ええとミカゲね…………いいね、いいねぇ”


 いきなり聴こえてきたのは何て言えばいいのか、若い男の声。ただし品性の欠片もない誰かの声だった。

 何よアンタ、誰なのよ? 人の事を呼び捨てにする前に名乗りなさいよ――!!


 ”ああ、そうだな。俺の名は【〇〇〇〇】だ。覚えとけ”


 え? 何よ、聴こえないわよ。


 ”ン? ああ、そっか。お前さん正式な【器】とは違うみてェだな。ならムリもないか。

 にしたって、ミカゲ。お前さんすげェな。【繋がり】もない女子が俺と繋がるたぁよ”


 あ、そう。よく分かんないけど、アタシがスゴいってのは同感。


 ”でもよ、お前さん死ぬかもだぜ? 今にも”


 へ、何言ってんのよ? アタシが死ぬって? まだ見ての通りにピンピンしてるわよ。


 ”お前さんの精神なかみはな。そうじゃなくてよ、【からだ】が壊されるぞ。このままじゃ、さ”


 そう言うと彼はツカツカと近付く。そして何を思ったのか無遠慮にアタシの肩に手を置いた。

 何すんのよ――――って、あれ?

 するとどうしたコトだろうか?

 不意に頭の中にイメージが浮かんで来る。

 これは、そう……森だ。見覚えのある森。

 生き物が全くいない、存在しない、死の世界。

 あ、――――ここは。


 ”よし、理解したみてぇだな。そう、お前さんの器が今、いる場所だよ。ここは、……そうだな。概念の違う場所っていうか、ま、そんな場所だ。

 ともかく、このままほっとくとお前さんの器は壊されるぞ。

 あの薄気味の悪いゲテモンにさ。ほら、集中しろ。分かるだろ? 妙なモノが観えるハズだぜ”


 その声に意識をまた森へと向ける。

 すると、森の中に何かが蠢くのが分かる。

 まるでそれはナメクジみたいなモノ。ただしその色は真っ黒、まるでずりずりと地面を這いずるヘドロの様な姿に思えた。


 ”いいか、そいつはお前さんの敵の精神なかみだ。正確には精神のイメージってヤツだな、うん。

 ソイツがどういう生き方をしてきたのかっていうイメージを具現化したモノって言えばいいかな。

 とにかくお前さんの敵はろくでなしの外道ってコトだな。

 ソイツもどうもミカゲの器が欲しいらしいなぁ”


 冗談、こんなキモいヤツお断りよ。

 それにさっきから何、器とかなんとかって?


 ”そっか。ミカゲは知らず知らずに器になった、……いや待て。ちょっと待て”


 そう言いながら〇〇〇〇は肩に置いた手をアタシの頭にポン、と置く。そして、少し考え込む様な仕草。


 ”なーるほどなぁ。こりゃあ、何ともだな。

 お前さん、どうやら【無関係】なワケだ。それを無理矢理に、…………なーるほどなぁ。これじゃ俺と意思の疎通に齟齬があっても不思議はないな、うん”


 ちょ、いつまで頭に手を置いたままなのよアンタ。

 ったく、……で、何が不思議はないな、なのよ?


 ”いやいや、コイツは由々しき問題ってヤツだな。

 だが、まぁ…………いいかぁ。だってミカゲは現に俺と接触してるワケだし。

 まぁ、かいつまんで言うとお前は本当は俺と会えるハズがないってこった。俺に会えるのは俺と同じで〇〇〇〇だけ。

 お前さんはどうもかなりヤバイ方法で接触出来る様になったってトコだ。いやいや、ビックリだな。

 しかし、その話は置いておく。

 折角久々の客人、しかもかなり、いや俺の好みのいい女子と来れば死なすには惜しい。だから、さっさと戻れ”


 は? 何よ戻れって?


 ”言ったままだ。早く戻れよ。死んじまうぞお前さん。

 それとも何か、諦めるのか?”


 は、冗談。何を諦めろってのよ。でもさ、戻るってどうやってよ?


 ”やれやれだ、手間のかかる女子だよな。なら戻してやろう、感謝しろよ、……ったく”


 そうアイツが言った途端だった。いきなり目の前の世界が暗転して、そして何もかもが真っ暗になった。いきなり光は失われ、視界を失ってアタシは気分が悪くなる。そして身体が何処かに飛んでいく様な感覚。まるでそれは自分が光にでもなったのか、と言わんばかりの加速で、意識は遠退き、そこで途切れた。



 ◆◆◆



 ん、? 誰かが何かを騒いでいるの? うるさいわね。

 そう思いながら目を開けると、目の前に何かが降り注ごうとしていた。

 それは一見すると雨粒にも思えた。

 でも違う。見ただけだけど分かる、これは雨粒なんかじゃないって。これら一粒一粒が、まるでそう、あのヘドロの様な真っ黒なナニカだ。

 不思議な感覚だった。

 雨粒がこっちに降り注ぐのがゆっくりに感じる。

 アタシの世界がゆっくりに感じる。

 一瞬を細かく細切れにして、それを一個ずつパラパラとめくっていくような感覚。


 分かってる、絶対絶命なのは。

 これはあの魔術師とかいう気味の悪いヤツの仕業に違いない。

 だとするなら、絶対にこの真っ暗な雨粒には触れてはいけない。

 炎だ、全てを焼き尽くす。

 そう思って、右手に炎を生成。不思議なコトに一瞬、ほんの一コマで炎は発現。なのに、まだ雨粒は降り注がない。

 何かがおかしい。

 所謂”ゾーン”なら幾度か熱操作中に実感したコトもある。

 確かに物事がゆっくりに感じたのも覚えている。

 でも、これはそうじゃない。何かが明らかにおかしい。


 ”お、いいじゃねェか。な、諦めなくて良かったろ?

 ってか、俺の力を貸したんだ。負けるはずがねぇさ”


 その声は間違いなく、アイツだ。

 じゃ、さっきのは夢とかじゃないってコトなの?


 ”たりめぇだ。いいから思う存分ブッ飛ばせよ、ミカゲ”


 はは、何だか良く分からないケド。

 上等よ、それじゃ遠慮なく力を貸してもらうわ。

 言っとくけどお礼なんかしないからね。



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