80.その未来は・・・
「もう・・・いや・・・」
神秘界にある木曜都市ローズブロッサム、その中心にある木原城の執務室でデュオは書類の山に埋もれて突っ伏していた。
「遊んでいる暇は無い。早く書類を片付けな。次の会議までこれとこれとこれの資料が必要なの」
「遊んでなんかないわよ! 見て分かるでしょ。どんなに片付けても減らないのよ!
大体何であたしが移住計画の統括責任者なのっ!? ここは計画を持ち上げたお爺ちゃんがソロお兄ちゃんが主導になって進めるべきことでしょ。
何であたしがこんな苦労しなくちゃならないのよぉ~~・・・」
ピノの催促に立ち上がって講義を上げるデュオだが、叫んでいるうちに段々とあまりの理不尽さに沈んでいく。
「文句はあと。叫んだところで書類は減らない。ちゃっちゃとやるの」
そんなデュオに取りあわずにピノは早くしろと度重なる催促をかける。
1mmたりとも取りあわないピノを恨めし気に見つめながらデュオはノロノロと溜まった書類を片付け始めた。
八天創造神を全て倒し終ってから1ヶ月の時が流れた。
神秘界は八天創造神より解放され、緊急避難口を通じて天と地を支える世界との行き来が何時でも可能となった。
それに伴いデュオ達の当初の目的であった天地人の神秘界への移住計画を実行に移すこととなったのだが、当然のことながら一筋縄じゃ行かずにいた。
まずは天と地を支える世界の各国に自分たちが住む世界がが異世界により管理されている所から理解してもらわねばならないし、神秘界に移住するにしても各国の領土問題が付いて回る。
その前に七曜都市周辺以外の神秘界の土地や環境の調査も必要になってくる。
移住計画の問題点を上げればどんどん出てきてキリが無いのだ。
そしてその移住計画の統括責任者が何故かデュオになっているのだ。
デュオの言う通り、本来であれば天と地を支える世界―神秘界間の移住計画を提案したのは謎のジジイなのだが、彼はデュオを統括責任者に任命し行方を眩ましたのだ。
正確にはデュオ達の知らないところでの移住計画の調整作業を行っているのだが、元来の秘密主義が祟ったのかデュオ達や関係者には告げずに世界を飛び回っていた。
お蔭でデュオには謎のジジイは行方を眩ましたように見えた。
謎のジジイが居なければもう1人の首謀者である弟子のソロが居るのだが、彼もまたデュオに責任を押し付け裏方に回っている。
ソロに関しては魔人と言う既に人ではない為に表舞台に出ることが出来ないと言う理由があるのでデュオも強くは出れないが、これだけの忙しさともなれば文句の1つも言いたくはなる。
そんな訳で世界の真実の一端を知るデュオが移住計画の統括責任者となり進める事になったのだ。
勿論サポートに実はエレガント王国の隠された王女だと言う事を明かしたピノことピノワール=プルージュ=レイ=エレガントや、八天創造神の唯一の生き残りの木曜創造神・木原時枝などが付いているので決して一人ではないが、あまりの仕事の量に押しつぶされそうになる。
何せ前代未聞の世界規模の移住計画だ。1年やそこらで完了する訳がない。デュオやピノの見立てではおそらく100年事業になるのではと予想している。
ピノの言う通り幾ら愚痴を言ったところで書類は減らないので、デュオは渋々と移住計画に関する書類を片付けていく。
ようやく今日の仕事を終え、デュオは木曜都市に用意した家へと帰宅する。
「ただいま~~~」
「マー、おかえり!」
「今日もまた随分と疲れておるの」
出迎えてくれたのは狐人の幼女のクオと同じく幼女のタマモの2人だ。
クオは笑顔でデュオに抱き付き、タマモは幼女らしからぬ態度で出迎える。
「そりゃあ、もう、ね。あれで疲れない方がどうかしてると思うよ」
「マー、お疲れ?」
「んー、クオの笑顔を見たら疲れなんて吹っ飛ぶわよ」
「いやいや、気のせいじゃろう。まぁ、気の持ちようとも言うが・・・確実に疲労は堪っておるぞ。疲れはしっかり取るようにした方がよいぞ」
「分かってるわよ。
むぅ、タマモはクオと同じ顔なのに全然可愛くないわね。もっと、こう子供の愛くるしさを出さないと」
「何を言っておるのじゃ。元は九尾の狐なのじゃ。大人の態度でいるのが普通じゃろ。
幼女の姿になったから性格まで変わるのはクオだけじゃ」
八天創造神との戦いの中で再生水晶に封印されていたはずのクオはデュオを助けるために奇跡的に蘇った。
それは一緒に封印されていたタマモ――玉藻の前もだ。
奇跡はただ蘇っただけじゃない。
何十年もの負の魔力の浄化が必要だったのだが、全て綺麗に浄化されていたのだ。
そしてその封印で本来1つの九尾の狐に戻るはずだったクオとタマモはそのままで2人の九尾として蘇りデュオの前に現れ窮地を救った。
デュオはクオとタマモの復活に喜んだが、戦いが終わった後に2人は今の幼女の姿へと変わっていた。
おそらく急激な復活に体が追いつかず、セーフティが働いて省エネ形態の幼女への姿へと変わったのだろう。
今後はゆっくりと元の大人の姿へ戻るとデュオは予想している。
クオは以前のように性格まで幼いものへと変わっていたが、タマモは本来の九尾の狐の主人格だった為か、永い時を生きていた為か、元来の不遜な性格が出ていた。
いや、クオとの接触や浄化された影響か当初会った時よりも物腰が柔らかくなっていた。
「ただいま~って、お? デュオも今帰ったのか」
「ウィル! お帰り。予定よりも早かったね。もう少しかかるかと思っていたけど」
「ウィル、おかえりー」
「お帰りなのじゃ」
玄関でクオ達と戯れていると丁度そこへウィルも帰ってきた。
ウィルはここ数日神秘界を離れ、天と地を支える世界の各国を木原時枝と共に補佐兼護衛として回っていたのだ。
予定ではもう数日掛かるはずだったのだが・・・
デュオは何かトラブルがあったのかと心配になって聞いてみたが、どうやらそれは杞憂のようだった。
「思いのほか順調に進んで了承を貰えたよ。予定の日にちにエレガント王国で最初の首脳会議が開けるよ」
「へぇ、ホント!? よく了承してくれたわね。もう少し難色を示すかと思ったんだけど」
「そこは鈴鹿達のお蔭と言ったところかな? 鈴鹿達のこれまでの旅で協力関係を築けたのは大きいし、この前の戦いも神秘界に来てたからな。ある程度事情を知っているからな。
特に獣人王国と羊王国なんかは協力的だぜ。まぁ、1国だけ非協力的なのがジパン帝国だな。説得するのに苦労したよ」
「ジパン帝国って大国じゃないの。鈴鹿何したのよ・・・」
どちらかと言えばスムーズに事が運んでいるので恨まれる筋合いはないのだが、デュオは鈴鹿がジパン帝国にしたことを恨み頭を悩ませる。
「いつまでも玄関先で話してないで中に入ってしまうのじゃ」
「お、そうだったな」
「そうね、早く夕食の準備をしないと」
「今日も妾とクオとで作っておいたのじゃ」
「クオもつくったよー!」
「あら、悪いわね。いつもいつも。クオもありがとうね」
「ただ、まぁ、ウィルが急に帰って来たんでウィルの分は無いのじゃ」
「え? マジ? 結構腹ペコなんだけど」
「あ~、ウィルの分だけパパッと作るわね」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぃ~、食った食った」
「ごちそうさまでした~」
「ご馳走様なのじゃ」
「はい、ご馳走様」
デュオ達は夕食を終え、まったりとくつろぐ。
そしてふと思い出したように口にする。
「そう言えばトリニティは元気かな」
「トリニティの事だから元気でしょ。と言うか元気でなきゃ鈴鹿は許さないから」
「はは、鈴鹿も責任重大だな。向こうじゃ一夫一妻制なんだろ? トリニティとディープブルーの2人相手にどうするんだろうな」
「さぁ? 鈴鹿がどんな答えを出すのか、あたし達にはもう知る術がないからね。でも、トリニティもディープブルーもどっちも幸せになって欲しいわ」
現在天と地を支える世界及び神秘界はもう異世界との交流は閉ざされていた。
異世界に天と地を支える世界を管理されていることを知っているデュオ達は謎のジジイ、木原時枝、フェンリル達と協議した結果、移住計画を早急に終わらせるために天と地を支える世界の時間の流れを早める事にしたのだ。
異世界と天と地を支える世界の時間対比は1日対3年となっている。
つまり向こうで1日が経てばこちらでは3年の月日が流れるのだ。
向こうで時間が経てば経つほど天と地を支える世界ではどんどんと移住計画が進むことになる。
その為、時間の流れが大きく変わる為にこちらと向こうの行き来が完全に閉ざされることになったのだ。
その為、天と地を支える世界に大勢居た異世界人の全てはは既に異世界へと帰還していた。
そんな中で、トリニティは鈴鹿に付いて行き異世界で暮らすことを決めたのだ。
そう、互いの交流が閉ざされ、時間の流れが違うとなれば、トリニティと永遠の別れになる。
トリニティはそれを承知で鈴鹿を追いかけ異世界に渡ったのだ。
デュオはトリニティとの別れを惜しみつつも、そこまでの覚悟を決めたトリニティを応援していた。
「いつかまた、トリニティと会えるといいな」
「移住計画が早く終われば時間の流れも元に戻すらしいから会えるかもね」
「お、だったらもっと頑張んないとな」
「そうね。あ、そう言えば神秘界の調査の為にこっちでも冒険者ギルドを作る計画だけど、向こうの冒険者ギルドのその辺りの話はした?」
「ああ、エレガント王国の冒険者ギルドには打診はしておいたぜ。取り敢えず首脳会議次第だが、各支部と協議して設置計画の素案を作ってくれるらしいぜ」
「ふむ、それならある程度計画を前倒ししてもいいかもね」
折角家に居るにもかかわらず、ついつい仕事の話をしてしまう2人だった。
そんな2人の様子にクオは不満だった。
「マー! ウィル! もうしごとのはなしはやー!」
「そうじゃ。家に居る時ぐらい休むのじゃ。ったく、さっき言ってたことをもう忘れたのか?」
「あー、ごめんごめん。クオも機嫌を直して」
「じゃあ、クオ、マーのマッサージする!」
「あ、お願いしようかしら」
クオは喜んでデュオの後ろに回り肩や背中をマッサージし始める。
トリニティとは二度と会えないかもしれないが、もしトリニティが神秘界に来れることがあれば生まれ変わった神秘界を見せてあげたい。
デュオはそう思い、これからの移住計画に向けて意欲を搔き立てる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―――千年後の遥かなる大地―――
「えー、約束された地だなんてただのおとぎ話だよ」
「うん、そうだよ。何でも願いが叶うなんて、あるわけないよ」
利発そうな小さな男の子が少し大人しめのもう1人の男の子と一緒に活発な女の子に向かって否定の言葉を浴びせる。
「そんなことないよ! だってあたしの叔父さんが見たって言ったんだもん!」
「叔父さんって冒険者だっけ? 何級?」
「・・・・・・D級」
「D級って、漸く1人前だって聞いたけど?」
利発そうな男の子は如何にも馬鹿にしたように言う。
それを見た活発な女の子は声を荒げる。
「でも、見たって言ったんだもん! 七曜都市から約束された地に行ったんだもん!」
「・・・それこそおとぎ話だよ。七曜都市なんて大昔のデュオレスト帝国に存在したと言われる首都でしょ? デュオレスト帝国の首都はクオンタムだって聞いたよ?」
大人しめの男の子に言われ活発な女の子は口を噤む。
「・・・だったらいいよ。あたしが証明してあげる! あたしが冒険者になって約束された地を証明してあげるわ!!」
「あはは、無理無理。トリィには無理だよ」
「そうだよ。トリィには向いてないよ」
「ふん! 後でほえ面をかかせて上げるわ! その時になって泣いて頼まれたって約束された地に連れてってあげないんだから!!」
……To Be Continued?




