79.その紡がれし絆は奇跡を呼ぶ
「・・・面白くなってきた、と言いたいところだが今はそんな暇はねぇ。
さっきの一撃をどうやって防いだか知らねぇが、てめぇが油断ならねぇ相手だってことはよぉく分かった。
遠慮なく全力で行かせてもらう」
自身の最強の一撃を防がれたブルブレイヴは、それを防いだデュオを最大限に警戒し己の持てる全てを解放してこの場を収める事にした。
勇猛神としての極限にまで鍛え上げた力。
The Chariotとしての無限武器生成召喚による無数の武器の召喚。及び、装甲武装による鉄壁の防御。
The Starとしての七星の全開放。
輝きの一番星:彗星による速さの上昇。
瞬きの二番星:衛星による軍隊としての兵力。
連なる三番星:星座による様々な特殊能力。
狙い撃つ四番星:流星による命中率の上昇。
荒れ狂う五番星:夜星による野性の力。
撒き裂く六番星:星屑による全てを弾丸に変える遠距離攻撃。
爆ぜる七番星:超新星による一撃必殺の最強の攻撃力。
これらを同時に使用すればブルブレイヴに勝てるものは1人としていやしない。例え八天創造神や七王神、ブルブレイヴの姉である太陽神サンフレアや月神ルナムーンと言えどもだ。
それだけ勇猛神・The Chariot・The Starの組み合わせは凶悪なのだ。
ブルブレイヴはまずは衛星をけしかけデュオの対応を伺い、隙あらば彗星・夜星の機動力で一瞬で間合いを詰め、流星の命中率で超新星を必ず当てるつもりでいた。
新たに生み出された10体の衛星はブルブレイヴの攻撃の隙を作るデュオを四方八方から襲う。
「アポート」
対するデュオは折られたはずの静寂な炎を宿す火竜王を呼び出し、手を翳すことで一瞬で元の状態に復元した。
否、復元ではなく新たに生まれ変わった。
元々赤かった静寂な炎を宿す火竜王はより真紅へ染まり、金と黒の魔法文字によるラインが浮かび上がっていた。
その大杖の名は猛き静寂な炎の火竜神。
デュオの神の力を受けて生まれ変わった伝説級を上回る神幻級の大杖だ。
デュオは猛き静寂な炎の火竜神を剣のように構え、無幻想波流の剣戦技で衛星を斬り飛ばし、続けざまに無詠唱で全ての属性魔法――火属性魔法・水属性魔法・風属性魔法・土属性魔法・氷属性魔法・雷属性魔法・光属性魔法・闇属性魔法・聖属性魔法・魔属性魔法を次々と打ち出し瞬く間に衛星を退けた。
様子を伺っていたブルブレイヴは流石に無傷で凌ぐとは思わなかったので、その表情は驚愕に染まっていた。
今回デュオに向かわせた衛星はこれまでの普通の衛星ではなく、The Chariotの装甲武装で強化した衛星なのだ。
ブルブレイヴのヒヒイロカネ級の強度とはいかないまでもアダマンタイト級の強度まで引き上げられている。
そして無限武器生成召喚で様々な武器を持たせての強化衛星なのだ。
それがほぼ一瞬で全滅。
「何なんだ・・・ありえねぇぞ。昨日までとはまるで別人じゃねぇか。幾らなんでも変わりすぎる。その力まるで・・・まさかっ!!」
まるで俺達のような、そう言いかけ気が付いた。
八天創造神のような異世界人が名乗るだけの神ではなく、七王神のように強さによって呼ばれるようになった神ではなく、自分たちのように神としての力を持った存在に昇華したのだと。
「そう、今のあたしは貴方と同じ神としての強さを手に入れたわ。
敢えて名乗るとしたら天魔神が神化した熾天魔神と言ったところかしら」
「・・・いや、それでもありえねぇ。俺の力は勇猛神としての神の他にThe ChariotとThe Starの2つの神秘界の騎士の力が上乗せされているんだ。
同じ三柱神である姉さんや姉貴すら俺には敵わないんだ。
何故たかが神の力を手に入れたくらいで俺に匹敵する力がある・・・!」
「さぁ? 【神格】の差じゃないのかな?」
「成りたての神の癖に生意気な・・・!
いいだろう。どうやったかは知らねぇがせっかく手に入れたその神の力は俺に及ばないって事を見せてやる」
七星をフルに使った身体能力の上昇兼特殊能力の使用でブルブレイヴはデュオへと襲い掛かる。
デュオもそれを迎え撃ち2人の間には攻撃の余波による衝撃が撒き散らされる。
ブルブレイヴの斬撃をデュオが猛き静寂な炎の火竜神で弾くと同時に火属性魔法と水属性魔法の混合魔法で反撃をする。
装甲武装で強度を上げた身体で強引にデュオの魔法を弾き、新たに生成した手斧でデュオの体を狙う。
無属性魔法の物理絶対防御――マテリアルシールドで手斧を防ぎ猛き静寂な炎の火竜神の頭をブルブレイヴに向けて古式魔法のメギドを拳大まで圧縮して放った。
「メギド・バーストエンド!」
「らぁっ! 超新星!!」
デュオのメギドを七星・爆ぜる七番星の超新星で迎撃し、撒き散らされた爆炎の中からブルブレイヴが反対の拳を携えてデュオに迫る。
「超新星!!」
神の力を手に入れたと言え、流石にこの攻撃が直撃すればデュオもただでは済まない。
至近距離まで迫られたので今からではマテリアルシールドも間に合わない。
なのでデュオは即興でオリジナルの魔法を創造する。
「リフレクション・スプラッシュ!」
ヒットしたブルブレイヴの拳はデュオの魔法によりその威力は反射され周囲に散らされた。
無論周囲に被害は出るが、本来の威力に比べ大分抑えられていた。
「ちっ、超新星をこうも簡単に凌がれるとはな」
「あら、褒めても何も出ないわよ。出来る事なら降伏してもらえると助かるんだけど?」
「はっ、それこそ馬鹿を言うな。この俺に負けはねぇ。それにこんなところでごたついてる暇もねぇんだ」
強がりを言いつつもブルブレイヴは内心超新星を防がれている事に驚愕していた。
この攻撃は間違いなく自身の最強最大の一撃なのだ。
勝てないとは言わないまでも苦戦するのは必至だ。
ならばどうするか。答えは個では互角の戦いなら、個ではない戦いをすればいい。
一方、デュオも大したことは無い風を装いつつも、内心では言葉通りこのままハッタリに騙されて降伏してもらえればと思っていた。
神の力を手に入れたと言っても何でも出来るようになったわけではない。
元々持っていた魔力が神を超える程に神化しただけのただの人間なのだ。
まぁ神の力を使うために体の方もそれに相応しく神化しているが、デュオの戦闘の基本は魔法戦になる。
なので神化魔力で無理やり身体にエンチャントして強化しブルブレイヴと接近戦をしていたのだ。
当然身体に負荷がかかり、気を抜けば倒れてしまいそうになっていた。
「大分焦っているみたいね? もしかして日曜創造神が思いのほかピンチだったりするのかな?」
日曜創造神及びJudgementは現在鈴鹿達が襲撃している。
デュオが目覚めた時には陽菜城に居たのを魔力探知で察知していたが、今は陽菜城にはいないみたいだ。
だが目の前の焦っているブルブレイヴを見れば鈴鹿達は現在も日曜創造神達と戦っているらしい。
ならばデュオ達がすべきことはこの場獣じみたブルブレイヴを引き付け鈴鹿達の元へ行かせない事だ。
デュオも日曜創造神に一撃を入れたいところだが、こうなった以上はその役目は鈴鹿に譲ることにした。
「あいつらがピンチだと? はっ、馬鹿も休み休み言え。そんなタマじゃねぇよ。あいつらは。
とは言え、早く向かいたいことは否めねぇ。不本意だが仕方ねぇな。強引だが決着を着けよう」
そう言って新たに衛星を30体生み出す。
先程デュオを襲ったように無限武器生成召喚で生成された武器を手に持ち、装甲武装でアダマンタイト級まで強化した衛星だ。
「確かにお前は俺と互角の戦いを出来る。だが他の2人はどうかな・・・?」
「ちょっ、まさか!」
「やれ、衛星。オリオン座」
しかも星座の英雄による強化付きだった。
それぞれ15体ずつの英雄衛星に襲われたウィルとローズマリーは迎撃するが、とてもじゃないが1人で凌げるほど安易な相手ではなかった。
ローズマリーは元々盾役として技術が高かったので防御に専念すれば英雄衛星とは言え凌ぐことは出来た。
無論無傷とはいかずに所々クリーンヒットを貰っては何とか持ちこたえていた。
だがそれも時間の問題だった。
絶え間なく続く即死級の攻撃に次第にローズマリーの防御は崩れ去る。
そしてウィルの方は余計に酷かった。
唯一の攻撃手段であるトツカノ剣も複数同時に襲い掛かられては反撃のしようがない。
辛うじて1体倒すことが出来たが、その間に10体以上もの攻撃に晒される。
致命傷が幾つも出来、このままじゃ確実に死んでしまう。
その動揺が出たのか、デュオの動きに精彩が無くなる。
勿論ブルブレイヴはこれを狙っての衛星を襲わせたのだ。
らしくないその手段はデュオの言葉通り、ブルブレイヴは日曜創造神のピンチに焦っていたのだ。
最後にJudgementから連絡を受けた時はそう問題視するまでも無かったが、今気配を探った所、陽菜城には誰も居ない。まさかとは思いつつも事態を確かめるまではと焦りが生まれていた。
「流石に隙が出来たな。星座・双子座」
「「―――これで終いだ!!」」
万全を期すため双子座の力を使い、もう1人の自分を生み出し隙が出たデュオへと襲い掛かる。
間違いなく2人のブルブレイヴが放つ攻撃はデュオに終わりの一撃を与えるはずだった。
辺り一面が光りに包まると同時に現れた1人の狐人の妨害が無ければ。
「危ないところでしたね、マー」
ブルブレイヴの一撃(二撃?)を狐人はデュオのようにマテリアルシールドを展開して防いでいた。
勿論ただのマテリアルシールドなら流石にブルブレイヴの一撃は完全に止めることは出来ない。
この狐人の展開したマテリアルシールドはデュオのように膨大な魔力を注いで絶対度を上げたマテリアルシールドだった。
そう、デュオの目の前に現れた狐人はただの狐人じゃない。
何故なら9本の尾を携えた伝説の妖狐なのだから。
「え・・・? う・うそ・・・クオ、なの?」
「はい、クオです。マー」
「何で・・・浄化には百年以上も掛かるはずじゃ・・・」
「アイさんが、奇跡を起こしてくれました」
「え? アイさんって、鈴鹿達と一緒に居たアイさん・・・? 何でクオがアイさんの事を知っているの?」
「詳しい話は後で。今は目の前の敵を倒すことを優先しましょう」
絶好の機会を防がれたブルブレイヴは忌々しい表情で突如現れたクオを睨みつける。
「「ちっ・・・次から次へと邪魔が入るな。だがこっちの優位は変わらねぇ。ぼさっとしていると仲間が死んじまうぜ?」」
そう言われてデュオはウィルとローズマリーがピンチなのを思い出す。
先程までの様子じゃもって数秒、下手をすればもう既に倒されている可能性もある。
そう思い2人の方を見れば、信じられない光景が広がっていた。
「ふん、勇猛神と言えば武勇を誉とする武人と聞いておったが、随分と地に落ちたものじゃのう。仕える主が屑ならその部下も屑に成り下がるのか?」
クオのようにマテリアルシールドを展開し衛星の攻撃を防ぎながら9本の尾を振り回し攻撃していたもう1人のクオが居た。
穏やかな表情をするのがクオだとすれば、こちらのクオはやや釣り目のキツイ表情をしている。
クオと元々1つの存在であった白面金毛九尾の狐・玉藻の前だった。
クオと一緒に再生水晶に封印され永い時を掛けて浄化し、最終的にはクオの中に取り込まれ元の1つの九尾の狐に戻る予定だったはずの玉藻の前が何故かデュオ達を助けていたのだ。
「え? え? ちょっと、どういう事なの、これ!? クオ!?」
「さっきも言いましたが、奇跡が起きたんですよ」
確かに奇跡だ。かつての禍々しい負の魔力はすっかり消え失せ、クオと同じように神々しい魔力を放っていた。
「妾が助けに来てやったのじゃ。感謝するがよい!」
まぁ性格は前ほど変わらないように見えるが。
「あ、こう見えてもタマモはマーの事を心配してましたよ」
「あ、これいらんことを言うんじゃない!」
クオとの関係もまるで姉妹のようにじゃれ合っているようにも見える。元々同じ1つの存在だったから双子の姉妹と言っても過言ではない。
そして一緒に再生水晶で浄化されていた影響か、玉藻の前――タマモもクオの感情に引っ張られデュオの事を母親のように慕っていた。
「助けに来たのは私達だけじゃないんですよ? ほら、見て下さい。マーのピンチを知って駆け付けてくれたマーの仲間です」
見ればクラン『月下』のメンバーが居た。
『月下』のNo3のピノ、百本刀のハルト、凄腕盗賊のシフィル、弓道士のアリアード、忍者のジャドが。
「何処に居なくなったかと思ったらまさか神秘界に来ていたとは」
「でもって、現在進行形でトラブル満載ってか? 俺達に黙って神秘界に行くから罰が当たったんじゃねぇのか?」
「ハルトっち、それは言い掛かりじゃん。素直に心配してたって言えばいいのに」
「あはは、そうだね。ハルトさんすっごく心配してたじゃん」
「ここに連れて来てくれたアイ殿には感謝でござる。ピンチに拙者らの力を貸すことが出来るのでござる」
フルスペックの衛星には及ばないものの、そこは慣れた連携で1対多に持ち込んで押し返している。
見ればエレガント王国の第三王子達が居た。
カイン第三王子、その専属の近衛騎士イーカナ、何故か水晶騎士団団長のオリーシュ=ベルハーニアまで。
「うむ、こやつらの弱点が見えるぞ。イーカナ! オリーシュ! 今こそデュオ殿に恩を返す時だ! 我の指示に従ってデュオ殿の敵を滅するのだ!」
「ひー! 殿下、前に出ちゃ駄目ッスよ! 危ないッス!」
「うむ、何かと世話になったデュオ殿がピンチと有らば我らは何処にでも駆けつけようぞ。
とカッコいい事を言ったのはいいが、突然呼び出される身としては結構きついものがあるぞ」
カイン王子が使いこなしつつある真実の目で衛星の弱点を見抜き、それをイーカナとオリーシュ水晶騎士団長に指示を出して衛星を排除していた。
護衛のイーカナは戦場に出てしまっているカイン王子に配慮しながらの戦闘に悲鳴を上げ、オリーシュ水晶騎士団長は何故自分が呼ばれたか不思議に思いながらも戦っていた。
見れば行方不明になっていたベルザ達が居た。
大賢神ベルザ、時空神疾風、『最強の正体不明の使徒』ソロ、そしてS級冒険者『古強者』にして8番目の七王神・勇者神謎のジジイが。
「あーー! まんまと日輪陽菜の思惑に嵌まっていたのが悔しー!」
「あれはしょうがない。アイのお蔭で記憶は取り戻したが、ちょっとばっかしデュオがピンチみたいだな。
嘆いてないで助っ人に入るぞ」
「スマン、デュオ。気を付けてはいたんだが、見事日曜創造神にやられてしまったみたいだ・・・今からでも全力で行かせてもらう!」
「記憶改竄とはやっかいだのぅ。まさか儂まで見事に引っかかるとは。とは言え、それもここまでじゃ。アイの力を甘く見過ぎたな。
さて、アイは儂をこちらへ寄越したか。ま、妥当なところじゃのぅ。日輪陽菜やJudgementは厄介じゃが、それ以上にこやつは手に余る化けものじゃ。ここで食い止めねば鈴鹿達にも影響が及ぶからの」
日曜創造神の策に嵌まっていたベルザ達がその鬱憤を晴らすかのように七王神の力で衛星を次々吹き飛ばしていた。
「「一体全体どうなっていやがる。何処から現れたんだあいつら!」」
「言った筈じゃ。奇跡が起きたんじゃよ」
突然現れたデュオ達の助っ人の登場にブルブレイヴは動揺する。
数で勝るはずの戦力に狂いが生じたからだ。
タマモの言う奇跡、それ自体を信じた訳じゃなかったが、現状を見れば明らかに流れはデュオ側にあった。
「ここらで終わりにしませんか? 貴方にはもう勝ち目はないはずです」
「「ハッ、だからと言ってこのまま大人しく引き下がれるか。最後まで諦めない奴が勝利を掴むんだよ!」」
だがブルブレイヴはクオの投降の呼びかけにも応じず、最後までの徹底抗戦を望んだ。
「本当に地に落ちたのぅ。無様な姿を晒すとはそれでも武を司る神か」
「「武を司る神だからだよ!」」
双子座で2人になったままのブルブレイヴがデュオ、クオ、タマモの3人へと最後の抵抗を試みる。
タマモは最後まで諦めないその姿勢に幻滅していたが、デュオはブルブレイヴの気持ちがよく分かった。
自分もどんな状況だろうと最後まで諦めないから。
だから敬意を表してデュオも全力を以ってそれに応える。
2人のブルブレイヴの攻撃をクオとタマモが武器を弾く事で防ぎ、デュオが魔法による一撃をブルブレイヴに叩き込む。
「「まだまだぁっ!!」」
弾かれた武器をそのまま投げ捨て最後には尤も慣れ親しんだスタイル――格闘戦による拳の攻撃でデュオに反撃する。
左右から襲い掛かる2人のブルブレイヴの攻撃をデュオは魔法を放った姿勢から強引にバックステップをし辛うじて躱す。
デュオに躱された所為でブルブレイヴの攻撃は互いの拳を打ち合う事になり、そのまま弾かれたように距離を取った。
「「は、ははははっ! そうか、そう言う攻撃方法もあるのか! 最後まで足掻いてみるものだな。この勝負、勝たせてもらうぜ!!」」
今の攻撃で何かを思いついたのか、ブルブレイヴは高笑いを始め、勝利宣言を行った。
「負け惜しみじゃな」
「「負け惜しみかどうか、見て見ろよ。
――超新星」」
ブルブレイヴは両の拳に超新星を纏わせ、互いに胸の前で打ち付け合う。
互いの超新星のエネルギーがぶつかり合い反発し合い、空間を歪ませる程の超新星のエネルギーがどんどん圧縮される。
「あれは・・・マズイですね」
「むぅ・・・この土壇場でとんでもない攻撃を見つけたのか。下手に煽らない方が良かったのかの」
ブルブレイヴの放とうとしている攻撃は、超一撃必殺の攻撃が無限に膨れ上がるようなものだ。
まともに受ける事すら不可能で、避けるにしても余波だけでも致命傷を負うだろう。
しかも2人のブルブレイヴが放つことによって威力は2倍だ。
クオとタマモはブルブレイヴのその攻撃に戦慄する。
だがデュオだけは何の心配もしていなかった。何故ならここには尤も頼りになる2人の娘が居たからだ。
「大丈夫、あたし達なら勝てるわ」
「マー・・・」
「何の根拠もない自信じゃが・・・不思議と心休まるのぅ」
「クオ、タマモ、あたしに合わせて。向こうが2倍ならあたし達は3倍よ。
あたし達の全てを――力と想いを乗せた攻撃を打ち破れるものならやってみなさいよ!」
そう言ってデュオは幾つもの魔法陣を展開する。
それはかつてクオが放ったことのある全ての属性を融合する魔法陣だった。
それを見たクオとタマモも同様に魔法陣を展開し、デュオに合わせて同調させる。
これなら互いの魔法陣が相乗効果をもたらし、ブルブレイヴの攻撃をも上回るだろうと。
何せこの魔法は元々互いの魔法の親和を高め最大の威力を発揮する魔法だからだ。
「「これで・・・終わりだ!
――大宇宙爆発!!」」
最終的にはサッカーボールほどの大きさまで膨れ上がったエネルギーが2条の螺旋を描きデュオ達に襲い掛かる。
「「「――属性融合魔法陣発動。
天衣無縫!!!」」」
本来であれば天衣無縫は全方位に放たれる魔法だが、デュオ達は指向性を持たせ解き放つ。
3人のセフィロトの樹の様な魔法陣から放たれた天衣無縫は大宇宙爆発にぶつかりそのエネルギーの前にかき消されたように見えたが、3つの光が互いに補い合い、大宇宙爆発そのエネルギーすらも取り込み飲み込んでいく。
そして3つの光は1つの閃光となり、ブルブレイヴを飲み込んだ。
着弾の爆発と光が辺り一面を包み込む。
―――――――――――――――――――――――――――――――ッッ!!!
デュオにはその爆炎がブルブレイヴの声にならない最後の雄叫びのようにも聞こえた。
煙が晴れるとそこには上半身――殆んど頭部と胸、左肩ぐらいしか残っていないブルブレイヴが居た。
「ごほっ・・・まさかこんな結果になろうとはな・・・
てめぇらの、勝ちだ。最終的に負けた原因は、仲間の差だったって訳か・・・
俺も最初から、Judgementと協力して戦っていれば、結果は違ったんだろうな・・・」
「ええ、そうね。もし最初から2人で来てたらあたし達も勝てなかったわ」
「けっ、嘘付け。それでもお前らが勝っていただろうが・・・
まぁいい、戦利品だ。持って行け」
そう言ってブルブレイヴは首にかけていたThe Starとしての緊急脱出口のカードキーを差し出した。
デュオがそれを受け取ると、ブルブレイヴは満足したように息絶えた。
「これで、終わりね・・・」
決して油断してた訳ではなかった。
だが最大の強敵を打倒した安堵感と、慣れない神の力を行使した影響でデュオは集中力を途切れさせた。
クオとタマモも久々の現世に現れた事で、感覚を鈍らせていた。
「ああ、これで終わりだ」
気が付けば背後から迫るブルブレイヴが居た。
拳には大宇宙爆発の力を乗せた。
今倒れたブルブレイヴは双子座によって分れた1人だった。
もう1人のブルブレイヴはカメレオン座の能力で周囲に溶け込んでデュオがもう1人の自分を倒し気を抜いた瞬間を狙っていたのだ。
「マー!!」
「デュオ!!」
クオとタマモもそれに気が付いたが間に合わない。
ブルブレイヴの必殺の一撃がデュオに届こうとした瞬間、1つの影が現れた。
『剣姫一刀流・瞬刃閃牙!』
その影は一瞬にしてブルブレイヴを飲み込み、手にした刀で貫きそのまま建物の壁へと縫い付けた。
「てめぇは・・・!」
『何も油断を狙っていたのは貴方だけじゃない』
デュオを助けたのは一度ブルブレイヴに退けられた巫女スケルトンロードだった。
その姿は何時のフェンリルの幻影ではなく、本来のスケルトンの姿に巫女装束を纏った姿だった。
ただブルブレイヴとの一戦で負傷したのか左肩から先の腕は消失していた。
「くそっったれっ・・・! まさか俺が最後にこんな風に終わるとは」
『マスターの仇よ。貴方はこのまま朽ちなさい』
神木刀ユグドラシルに心臓を貫かれたブルブレイヴは次第に生気を無くし、悪態を付いたまま今度こそ本当に死に絶えた。
「助けてくれてありがとう」
『勘違いしないで。マスターの仇を取っただけ』
デュオがお礼を言うと、巫女スケルトンロードはカタカタと骨を鳴らし念話魔法で語りかける。
「それでもよ。ありがとう」
『・・・お礼はいらないわ。私の望みは貴女との再戦よ。
でも今日の所は引いてあげる。次に会う時までその命預けておくわ』
巫女スケルトンロードはボロボロの姿のままデュオ達の前から立ち去る。
「ああいうのをツンデレって言うんですよね?」
「いや、違うと思うのじゃ・・・」
今度こそ本当に戦いは終わった。
見れば衛星と戦っていた皆もデュオ達の方へと駆け寄ってくる。
ブルブレイヴが本当に倒されたことによりThe Starの七星の力も消失したのだ。
ここでの戦い・・・ブルブレイヴを倒してもまだ肝心の日曜創造神とJudgementが残っている。
ブルブレイヴの言が正しければ、今は鈴鹿達が戦っているはず。
だがデュオは何も心配はしていなかった。
鈴鹿達なら間違いなく勝つだろうと。
寧ろその後にある本当の戦いの方が心配だった。
八天創造神が居なくなったことにより、この神秘界は誰のものでもない自由な世界となる。
デュオ達は天と地を支える世界から神秘界へ移住を勧めなければならないのだ。
それを考えれば今からでも頭が痛くなる思いだ。
「デュオ、やっと終わったな」
「ええ。でもこれからが大変よ? ウィルも当然手伝ってくるわよね?」
「お、おお・・・もちろんだとも」
これは分かってないな、と思いながらもデュオは今後の事に頭を巡らせる。
でもその前に、このブルブレイヴ戦の勝利に酔いしれることにした。
折角の勝利を前に野暮な事は言わないでおこう。
皆で勝利を分かち合うのだ。まずはそれが移住計画の第一歩だろうと。
デュオはブルブレイヴ戦に参加してくれた皆に感謝を伝える。
「みんな、ありがとう!」
次回更新は3/16になります。
次章エピローグ。




