6.その先に立ち塞がるのは飛竜の王
「いいか、黙って奴らが通り過ぎるのを待っているんだ」
「何故奴らを見逃す? 飛竜は人間の脅威になる生物だ。今ここで倒しておかなければ大勢の人々の命を脅かすじゃないか」
「そうにゃそうにゃ」
「ばか、大声出すんじゃねぇよ。
つーか、お前さんの正義は人間の都合で他の生物の命を簡単に奪ってもいいものなのか?
飛竜にも飛竜の都合があるだろう?」
「そう、だな。僕たちの都合で勝手に飛竜の命を奪っていいわけが無いな」
シェスパの言葉を聞いて今にも飛び出していきそうだったスティードは考え直し大人しくその場に座り込んだ。
それに倣い猫人のミュウミュウも大人しくしていた。
シェスパは思わず安堵の溜息を吐く。
スティードの実力ははっきり確かめたわけじゃないが、無駄な戦闘は出来る限りしない方がいい。
そう判断し魔の荒野と抜け飛竜の渓谷では戦闘を回避する為ひたすら魔物を発見してはその都度隠れているのだ。
幸いと言うか、これまでの盗賊人生で生き物の気配を探る事、魔力を探ることに長けていたので魔物に見つからずにやり過ごすことが出来ていた。
だがスティードは人間の脅威の排除として飛竜を倒そうとして飛び出そうとするので抑えるのに一苦労していた。
シェスパは上手く口車でスティードを説得し、岩陰で騎獣ギルドでレンタルした走竜と共に隠れて自分たちの先ほどまでいた上空を飛竜が通り過ぎるのを待っているわけだ。
(はぁ、こんなんで竜の巣の火竜なんか狩れんのかよ・・・
何かものすごい貧乏くじを引いた気がするぜ・・・)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
デュオたちは王都エレミアの中央に存在する王城エレクシア付近に存在する転移魔法陣施設にいた。
この施設はこの王都エレミアと遠く離れた水の都市ウエストヨルパを繋ぐ転移魔法陣を管理する施設だ。
普通に水の都市へ向かえば馬でも6日は掛かる距離だが、転移魔法陣であれば一瞬で済む。
その為、かつて繁栄を誇っていたセントラル王国王都セントラルの跡地である遺跡を探索する者や、プレミアム共和国の首都であるミレニアムに赴くためにこの転移魔法陣を利用する冒険者や商人が大勢いるのだ。
転移魔法陣の施設はそれなりの大きさで一軒家ほどもある。
流石に馬車や走竜車などの移動車は転移魔法陣の大きさに合わず転移は不可能だが、騎獣等は転移が可能なため施設の入り口はかなり大きめになっていた。
デュオたちは転移魔法陣施設の受付員に話しかけて転移手続を行う。
騎獣を引き連れているのは美刃とアリアードの2人だ。
美刃は八脚馬の繚嵐を、アリアードは走竜のヨイチの手綱を握って大人しくさせていた。
転移魔法陣の使用許可が下りたのでデュオたちは順番にそれぞれ対となる水の都市の転移魔法陣施設へと転移した。
「さて、竜の巣へ向かうためには騎獣を借りてこなきゃね。
美刃さんとアリアードは騎獣がいるから4匹分のレンタルだね」
「おい、それはいいが、スティードの奴ら本当に竜の巣へ向かったのか? これで別の場所に向かっていたらシャレにならないぞ?」
デュオは竜の巣への移動手段確保の為に騎獣ギルドへと向かおうとしたが、そこへウィルの何気ない疑問が飛んできた。
「ウエストヨルパへ向かったのはシフィルの情報で間違いないけど、確かにそこからは確認が取れてないわね。
普通なら火竜と言えば竜の巣なんだけど・・・」
「あいつの事だから斜め上の行動をしていても驚かないぞ、俺は」
「むむむ・・・」
流石に迷惑正義なだけあってスティードの行動はことごとくデュオたちの斜め上を行くことが多かったのだ。
ここでシフィルが居ればすぐさま水の都市の盗賊ギルドでスティードの行動を把握できるのだが、残念ながら彼女は王都でのスティードの噂の火消しに回っている。
そして自分たちで盗賊ギルドを探して情報を貰おうとしても、盗賊でないデュオたちには探そうにも探しきれないのだ。
「・・・ん、一応案内人ギルドで確認してみる?」
スティードの行方の情報をどうやって調べようかと悩んでいるところに、美刃が案内人ギルドはどうかと提案してくる。
「ああそうか。スティード達はこの辺の土地勘は全くないもんな。
基本通りに動くとすれば案内人を雇うのが普通だからな」
まったく知らない土地や迷宮に潜る場合は地上案内人や迷宮案内人を雇うのが基本だが、案内料をケチってそのまま帰らぬ人となった冒険者も大勢いる。
その為、クラン『月下』ではなるべく案内人又は盗賊をパーティーに入れるように指導しているのだ。
アルフレッドの言う通りスティードが基本通りに動くのであれば案内人ギルドを訪ねているはずと言う事だ。
「あいつが基本通りに動くのか・・・?」
「ここはスティードの冒険者としての行動を信じてみましょ。
ウィルは案内人ギルドに行ってスティードが案内人を雇っていないか確認してきて。
案内人を雇っていなくても何かと目立つ彼の事だから何か案内人ギルドで情報がつかめるかもしれないわ」
「了解」
ここでウィルが案内人ギルドへ向かい、残りのデュオたちは騎獣ギルドへと向かった。
騎獣で主に使われているのは馬だが、やなりパワー・スピードに優れた走竜は需要が高い。
とは言え走竜は分類上魔物となっているため、育成・調教は馬の何倍もの労力がかかっている。
その為騎獣としての数はそれほど多くはなく、当然騎獣ギルドでもそれなりに数を揃えるのは困難でレンタル費用も高額になったりする。
しかしこの水の都市の騎獣ギルドは、近くのサンオウの森に走竜の群れが住んでいるのを確保しているのでかなりの走竜を揃えて居ることで有名だ。
もっとも卵から育てるよりも捕獲しての調教する方の数が多いので気性が荒い走竜が多かったりするが。
デュオたちは少々気性が荒い走竜を4頭レンタルして、騎獣ギルドの前でウィルが戻ってくるのを待つ。
暫くするとやや苦笑いしたウィルが戻ってきた。
「どうだった?」
「ああ、あいつらちゃんと基本通りに案内人ギルドで案内人を雇っていたよ」
「その割には何か浮かないような顔をしてるけど?」
「そりゃあ、こんな顔にもなるさ。
D級冒険者にも拘らず竜の巣へ向かうだなんて流石A級クランなだけありますね。なんてあいつの実力が勘違いされていたらなぁ」
ウィルの言葉を聞いて全員何とも言えない顔をしていた。
なまじ有名なクランに所属していたせいでスティードの実力が勘違いされてしまっていたのだ。
おまけにギルド内でのスティードの態度は堂々としたもので、それが一層勘違いに拍車をかけていたらしい。
「まぁ、竜の巣に向かったのは間違いが無いから急いで追いかけましょ。
このままスティード達が竜の巣に突入したら彼らの命の危険性が増すからね」
「ああ、そのことだけど一緒に付いて行った案内人は元盗賊のシェスパだって話だ。
元盗賊なら身の危険を一番察知してくれるだろうから危なくなったらすぐ引き返してくれると思うぜ」
普通の案内人であれば戦闘能力は皆無となっている。
道案内に徹する代わりに雇い主から守ってもらうのだ。
だがウィルの言う通り、元盗賊であればそれなりに戦闘経験があるため危険度も判断しやすく引き際を心得ているのだ。
「仮にも竜の巣へ連れて行ける案内人だもの。それくらいは出来てくれなきゃ困るわよ。
一番心配なのはスティードの独断専行ね」
「あり得そうだな・・・」
その様子が目に浮かぶようでウィルはげんなりする。
「・・・ん、準備が出来たなら行くよ」
他のメンバーの準備が整ったのを確認して、ギルドマスターである美刃が先頭を切って移動する。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
デュオたち一行は水の都市に南に広がる魔の荒野を騎獣に乗って爆走していた。
竜の巣へ繋がる飛龍の渓谷を目指して一直線に魔の荒野を駆け抜けているのだ。
そう、一直線に駆け抜け、エンカウントする魔物は吹き飛ばしながら進んでいた。
美刃の気配探知で、デュオの魔力探知で前方を探知しながら先手を取って。
「グラスブレイザー!」
「・・・ん、居合一文字」
狙いを定めずにデュオの放つ無属性魔法のエネルギー波が魔物を吹き飛ばし、進路上に辛うじて生き残った魔物を美刃の刀戦技によって屠られていく。
吹き飛ばされた魔物は進路から外れていた為、相手をせずにそのまま放置していた。
デュオたちの目的は魔の荒野の魔物を狩ることではなく、一刻も早く竜の巣をめざスティード達を確保することだからだ。
「わぉ、流石に『月下』のナンバー1と2だな。
C級の魔物なんかは相手にもなってねぇな」
「凄いですね! 私、美刃さんのマジで戦闘しているところを見るの初めてかも」
「あれ、そうなんだ? 侍と僧侶だからよく組んでいるんだと思ったけど」
「そうなんだよねー。でもお互い時間が合わなかったりして今まで一緒のパーティーで行動したことなかったんだよ」
そう話すのは異世界組のアルフレッドとティラミスだ。
美刃も異世界人であるためお互いがこの天と地を支える世界に訪れる時間が違ったりする。
その為お互い会う事は出来るのだが、一緒にパーティーを組んで狩りに赴いたことが無かったりする。
「そんなことよりいいのか、これ?」
「あー、確かに散らかりっぱなしな感じですね」
ウィルの言葉に同意して後方に置き去りにしている魔物どもを一瞥しながら心配そうにアリアードは呟いた。
急いでいるとはいえ、吹き飛ばした魔物をそのまま置きっぱなしにしてしまっているのだ。
手負いの魔物もだが、縄張りを荒らされた魔物も殺気だっている。
そんな状況を作り出しておきながら放置してもいいのだろうか、と今後のクランの批判を心配しているのだ。
「・・・ん、大丈夫。
魔の荒野を横断するならまだしも魔物を狩るだけなら他の冒険者には迷惑にはならない」
「そうね。高々殺気立ってる魔物に後れを取るようじゃ冒険者はやってられないわよ。
後は、まぁ魔の荒野を横断するような人はそう居ないからそこまでは心配いらないわよ」
進路上の魔物を蹴散らしながら美刃とデュオは後ろで心配しているクランメンバー達に声を掛ける。
確かに魔の荒野を横断しているデュオたちが通り過ぎた後は魔物が殺気立っているが、それも半日程度と言ったところだ。
仮に魔の荒野を横断するような冒険者が居たとすれば、目的地は飛竜の渓谷又は竜の巣だ。
そこを目指す冒険者にしてみればC級の魔物が殺気立ってたくらいさほど影響は無かったりする。
クランのトップが言う言葉に安心したメンバーは黙って2人の後を付いて行く。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数時間かけて魔の荒野を抜けたデュオたちは飛竜の渓谷の前で足跡を確認していた。
スティード達が飛竜の渓谷を抜けたのであれば走竜の足跡が残っているはずである。
もっともデュオたちのパーティーの中に足跡追跡が出来る盗賊がいないが、元狩人であるアリアードは足跡追跡が出来たので現在走竜から降りて確認していた。
「走竜の足跡が3つ、渓谷の中に向かってますね」
「スティード達に間違いなさそうだな。
しっかし、飛竜の渓谷まで追いつかないってどれだけ先に進んでんだか」
「そうね、これでも大分魔の荒野の時間を短縮したと思ったんだけど、スティード達の行動の方が早いみたいね」
魔の荒野を一直線に抜ける荒業を使ったにも拘らず、スティード達の尻尾を掴むのがやっとだった。
呆れるウィルをしり目にデュオは思いのほか行動を起こしているスティードに半ば呆れながらも感心していた。
「さぁ、先へ進むわよ。出来れば日が暮れる前に渓谷を抜けたいわ。
もしかしたらスティード達も渓谷を抜けた先で野営しているかもしれないしね」
デュオの合図とともにパーティーメンバー達は騎獣に乗って飛竜の渓谷を駆け抜けていく。
飛竜の渓谷は魔の荒野とは違い、無差別に襲い掛かる飛竜はそういなかった。
だが全くいないわけではない。
気性の荒い飛竜や、デュオたちを格下と舐めている飛竜が襲い掛かってくる。
「ウインドランス!」
「GUGYAAAAAAA!」
アルフレッドの放つ風属性魔法の風の槍が襲い来る飛竜の翼を貫き地面へと叩き落とす。
そこへ美刃とウィルの戦技が放たれる。
「・・・ん、桜花一閃!」
「スタブソード!」
「GAAAA・・・」
美刃の刀戦技が飛竜の顔を斬り裂き、ウィルの剣戦技の突きが心臓を貫く。
止めを刺された飛竜はそのまま息の根を止めて地面へ横たわる。
魔の荒野とは違い飛竜の渓谷では美刃とデュオの2人だけではなく、パーティーメンバーと連携を取り飛竜へと当たっていた。
「ふぅ。デュオ、後始末頼む」
本来であれば飛竜程の魔物であればドランに劣るとはいえ素材はかなりの金額になる。
鱗、翼、角、牙などどれをとっても使えるものばかりだ。
だが今は急いでいるため剥ぎ取りをせずに焼却して残った骨は土に埋めていた。
「しっかし、空からの相手は剣が届かないからやりにくいな。
空にも攻撃が出来る魔法が羨ましいよ」
「いやいや、剣を持って竜に接近戦が出来るそっちの方が凄いよ。
俺にはとても真似が出来ないよ。
まぁだからこそ魔導師の道を選んだんだけどな」
ウィルが魔法を使えるアルフレッドたちを羨ましがれば、アルフレッドは魔物相手に接近戦が出来るウィルたちを羨ましがる。
お互い無い物ねだりなので隣の芝生は青かったりするのだが。
「飛竜が1匹接近中・・・だけど、何かちょっと他の飛竜と違うみたい」
飛竜の後始末をし終わるころに、アリアードが一番最初に気が付いた。
遅れて美刃、デュオがそれぞれ気配探知と魔力探知に引っかかる。
アリアードの言葉通り探知に引っかかった飛竜は明らかに毛色が違っていた。
他の飛竜よりも気配も魔力も桁違いに大きいのだ。
「・・・ん、各種戦闘準備!」
瞬く間にデュオたちの前にその飛竜が降り立つ。
「GOAAAAAAAAAAAAAAAAA――――!!!!」
飛竜の雄叫びに身を竦ませながらそれぞれが各々の武器を構える。
「飛竜の王・・・!」
「マジかよ、リアルリ○レウスじゃねぇか・・・」
目の前の飛竜を目にしてデュオは驚きながら呟いた。
飛竜を総べる王とも言うべき目の前の飛竜は、アルフレッドが呟いた通り異世界で流行っている狩人のゲームに出てくる竜に似ていた。
逞しい足に空を覆うような翼、全てを噛み砕く牙に赤黒い刃を通さない鱗。
全てに於いて他の飛竜と違っていた。
この飛竜の王は下手をすれば明らかに竜の巣に居るドラゴンよりも強敵だったりするのだ。
「・・・ん、問題ない。飛竜の王と言ってもただの空飛ぶトカゲ。
火竜の丁度いい前哨戦」
「うわー、頼もしいお言葉で」
美刃の大したことない発言に、ウィルは半ばやけくそ気味に剣を構える。
前線で飛竜の王の攻撃を引き付けるのは美刃とウィルの2人だけだ。
美刃にとっては大したことが無い相手だが、ウィルにとってはA級としての同格の相手なのだ。
飛竜の王は目標をデュオたちに定め、大きく息を吸い込んで火炎ブレスの予備動作をする。
火炎ブレスの動作を見せたにも拘らず、美刃とウィルはまっすぐに飛竜の王へと駆け出す。
「GURAAAAAAA――――!!!」
飛竜の王より特大の火炎球が吐き出され美刃たちに迫るも、次の瞬間光の盾によって書防がれた。
「マテリアルシールド!」
ティラミスの繰り出した無属性魔法の光の盾は全ての物理属性攻撃を防ぐことが可能だ。
火炎球を光の盾によって防がれ、辺り一面は衝撃によって煙が舞い上がる。
その煙に紛れて美刃とウィルは左右に分かれ飛竜の王目がけて斬りかかる。
「ん、五月雨!」
「スラッシュストライク!」
2人の放つ戦技が飛竜の王の鱗を斬り裂く。
飛竜の王の意識が2人に向いた隙に、今だ収まらぬ煙の向こうから魔法が飛んでくる。
「アイシクルジャベリン!」
「ストーンジャベリン!」
アルフレッドの放つ氷属性魔法の氷の槍と、デュオの放つ土属性魔法の石の槍は飛竜の王の翼を目がけて突き刺さる。
これまでの飛竜同様、まずは翼を貫いて空を飛べなくしようとしたのだ。
だが氷の槍と石の槍は翼を突き破ることはせず、飛竜の王が翼をはためかせるだけで弾き返されてしまった。
「なっ!?」
アルフレッドの驚きの声と共に飛竜の王の意識がそちらの方へと向く。
飛竜の王はデュオたちを目がけて突進してくる。
四足歩行のドラゴンとは違い二足歩行である飛竜ではあるが、その逞しい足により繰り出される突進はドラゴンのそれと何ら見劣りはしない。
「GAAAAAAAAAA―――!!」
アルフレッドたちは向かって来る飛竜の王から慌てて左右に散って躱す。
だがデュオだけはその場に留まり飛竜の王を見据えていた。
「ちょっ、デュオ! 何やっているんだ!? 避けろ!!」
ウィルの叫び声に大丈夫だと答えるように、デュオは認証呪文で唱えていた2つの魔法を解き放つ。
「ストーンウォール!」
デュオの目の前に巨大な石の壁が現れるも、飛竜の王は邪魔だと言わんばかりに突進しあっさり砕け散る。
飛竜の王はそのまま石の壁の向こうのデュオへとなだれ込もうとしたが、続けて放たれた魔法によって一瞬目の前が暗転する。
「ストーンウォール!」
今度の石の壁の魔法は正方形の壁ではなく、形状を変えた円錐状の先の尖った石柱だ。
それをタイミングを見計らって、飛竜の王の顎を目がけて地面から突き出したのだ。
デュオは初めから只の石の壁で飛竜の王を止められるとは思ってはいなかった。
なので石の壁で一瞬視界を塞ぎつつ突進の勢いを殺して、次に放つ変形石壁のタイミングを見計らったのだ。
「後衛! 一斉攻撃!」
デュオの合図とともにアルフレッド、アリアード、ティラミスの3人による攻撃が飛竜の王へと降り注ぐ。
「サンダーブラスト!」
「スパイラルアロー!」
「ホーリーブラスト!」
雷属性魔法、弓戦技、聖属性魔法のそれぞれが飛竜の王へと襲い掛かった。
飛竜の王は攻撃から逃れる為翼をはためかせ空へと飛び上がる。
空へと逃れた飛竜の王はその場で旋回し、自分へと攻撃を仕掛けたデュオたちに怒りを見せて鉤爪による攻撃を行おうと滑空してくる。
だが空に居るはずの飛竜の王の目の前に美刃が存在した。
「ん、五月雨!」
美刃の放つ刀戦技の一振りにより、5本の剣閃が飛竜の王の頭に叩き付けられた。
飛竜の王は空に存在しないはずの美刃の姿を見ながらそのまま地上へと落ちていく。
美刃が空に居た理由は至って単純だ。
ジャンプ戦技による多段ジャンプにより空へと駆け上ったのだ。
ジャンプの果てしない修練の果てに空を蹴り上げ再びジャンプする戦技を得られる。
それ故、ジャンプには戦技が存在することを知る者は少ない。
地上へと叩き付けられた飛竜の王へ向かって待ち構えていたウィルが再び剣戦技を放つ。
「バスターブレイカー!!」
剣戦技の最高峰とも言われる最強の戦技であり、ウィルはついこの間やっとの事で会得したばかりの戦技だ。
「GUAAAA!」
ウィルの剣は飛竜の王の体を大きく切り裂く。
明らかに今までの攻撃とは違いダメージがあったようだ。
但し大技を使ったせいでウィルは魔力を使い果たし、一時的に虚脱感にも似た眩暈を起こしてふらついた。
飛竜の王は思いがけない大ダメージにより大きく身体を振るわせた。その隙を逃さずに再び後衛陣で止めの攻撃を仕掛ける。
魔法・弓戦技の荒れ狂う中、流石になりふりを構っていられなくなった飛竜の王は火炎ブレスを連続で吐き出す。
「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――!!!」
「マテリアルシールド!」
「サンクチュアリ!」
デュオは慌てて無属性魔法の巨大な光の盾をみんなの前に展開し、ティラミスは聖属性魔法の結界魔法でみんなを防御する。
連続で放たれた無数の火炎球により辺り一面が粉塵で覆われる。
粉塵の中からの攻撃を警戒したデュオたちだが、一向に飛竜の王からの追加の攻撃は襲ってこない。
「ウインドブレス!」
強風を巻き起こす風属性魔法をアルフレッドが放ち、粉塵を撒き散らすとそこには飛竜の王は存在しなかった。
「・・・まさか逃げた?」
「そう、みたいだな」
流石に王とも呼ばれている存在が逃げたとは思わずデュオは警戒をしたが、ウィルの視線を受けて空を見上げると遥か彼方へ飛んでいく飛竜の王が見えた。
「何だよ、それでも空の王者かよ」
「あら、アルフレッドはまだ飛竜の王との戦いをお望みみたいね? なんなら追いかけて行ってもいいのよ?」
「あ、いや、まぁこれくらいで許してやってもいいんじゃないかな?」
何とか撃退した飛竜の王に対し軽口を叩くアルフレッドだったが、ティラミスに突っ込みを入れられて口篭もっていた。
今回飛竜の王が逃げたのはひとえに美刃とデュオが居たからだ。
空を駆け上がる美刃に、低級魔法を工夫して解き放つデュオ。
しかもその2人は全力で戦ったわけではなかったりする。
飛竜の王はそれを本能的に感じ取って今回は逃げに回ったのだ。
それを2人除きで追いかけろと言われてもアルフレッドにはとてもじゃないが無理なので当然しどろもどろになってしまう。
「・・・ん、逃げたのは残念だけど、撃退したので良しとしましょ」
次回更新は1/3になります。