64.その集いは新たな絆の調べ
デュオ、The Towerに攫われる。
デュオ、金曜都市に捕らわれる。
デュオ、七王神・大検神ベルザと会う。
デュオ、Justiceと戦う。
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「ここが木曜都市ローズブロッサムね」
ようやく木曜都市に到着したデュオは走竜の上から周囲を見渡して人心地をついた。
神秘界唯一のクラン『AliveOut』の本拠地である木曜都市にはフレンダ達のパーティーと偶然出会った七王神が1人・戦女神ローズマリーと共に訪れるはずだったが、途中で神秘界の騎士のThe Towerの妨害に遭ってしまい、バラバラに各地へ散ってしまったのだ。
そして人数は減ったものの、漸く当初の目的地である木曜都市に着く事が出来たのだ。
「八天創造神に支配されている割には金曜都市とは違って住人達の表情は明るいわね」
そう言って周囲を見渡すのは金髪のセミロングの女性だ。衣装から魔法系の物と思われる。
彼女こそローズマリーと並ぶ七王神の1人、大賢神ベルザだ。
「あー、それは後々分かるわ。今はまずクランマスターに会いに行きましょう。
デュオの妹たちやそのお仲間も『AliveOut』に来ているみたいよ」
「え? トリニティ達が!? それは今すぐにでも会いに行きましょう!」
デュオに急かされアイリスは苦笑しながらもデュオとベルザを伴ってミュリアリアと共に『AliveOut』の拠点である屋敷を目指す。
デュオは屋敷に向かう間も住人であるアルカディア人を見るが、ベルザの言う通りその表情は晴れやかなもので、金曜創造神に支配されていた金曜都市の住人とは雲泥の差だった。
デュオはつい昨日までの金曜都市での出来事を思い馳せる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
The Towerから各地に散ったデュオは偶然にもベルザと出会った。
もっともそれは牢獄での話だが。
デュオはアイリスとミュリアリアの3人で金曜都市に飛ばされたのだが、気が付いた時には既に金曜創造神に捕まってしまい、先に捕まっていたベルザと共に地下牢へと捕らわれの身となっていた。
金曜都市を支配していたのは金曜創造神だが、その支配は神秘界の騎士Justice・ジャクスの能力に因るものだった。
デュオはジャクスの能力を力ではなく説得により破り、見事金曜創造神を捕縛する事に成功した。
そして尋問の最中、口封じの為に金曜創造神を殺したのは日曜創造神の刺客である神秘界の騎士The Hermitだった。
「我は神秘界の騎士・The Hermit。日曜創造神・日輪陽菜様の影にして日輪陽菜様の邪魔者を刈る者」
その姿は漆黒のコートを身に纏い、その漆黒のコートから見える内側にある衣装もまた漆黒と言う全身黒ずくめの暗殺者とも言うべきものであった。
手には先ほど金曜創造神を刺殺した剣――蛇腹剣が握られている。
顔はフードを目深に被って見ることが出来ないが、体型や声からして女性であることが伺える。
尤も声は口元を覆った黒い布に遮られ、くぐもって聞こえるから一概にもそうだとは言えないが。
「迂闊だったわ。協力関係が既に終わっているのなら八天創造神同士は今は敵対関係にあってもおかしくは無い。なら自分の情報を持つ創造神を放っておくはずがない事も考えれば分かっていたはずなのに」
「いや~、さっきの今でそこまでの考えに辿り着ければエスパーか何かだと思うけど?
だからこれは不可抗力だと思いますよ」
ベルザが自分の迂闊さを呪えば、アイリスはそれは不可抗力だと言う。
だがデュオはそんな事よりもThe Hermitが持っている蛇腹剣に目が行っていた。
「貴女、その蛇腹剣をどこで手に入れたのかしら? あたしの目が曇ってなければそれはトリニティが、あたしの妹が持っていた蛇腹剣のはず」
「答える必要は無い」
答えの代わりにThe Hermitは蛇腹剣を振るう。
鞭状に伸びた蛇腹剣をデュオはベルザ達を襲うが、警戒態勢でいたデュオ達には当たらない。と思いきや、限界まで伸びきっていたと思われた蛇腹剣は更に伸び続けまるで蛇のように切っ先がデュオ達を襲う。
間違いなくこれはトリニティの蛇腹剣だった。
デュオがソードテイルスネーク亜種の尾を素材とし、トリニティにプレゼントした蛇腹剣のギミックの一つ、無限刃モードだ。
「ホーミングボルト!」
動揺するデュオに変わりベルザが無属性魔法の自動追跡弾を伸び続ける蛇腹剣に当ててその軌道をずらす。
それと同時にミュリアリアも本体であるThe Hermitを狙う。
「スネークボルト!」
地を這う雷の蛇がThe Hermitを捉えようと迫るが、彼女は懐から飛苦無を放ち雷の蛇を絡め取りその場をやり過ごす。
そして蛇腹剣を剣状に戻しながらすかさず呪文を唱えデュオ達に向けて解き放つ。
「――ブラックニードル。
――ダークミスト」
輪唱呪文での詠唱で魔法を2つ放つ。どちらも闇属性魔法だ。
1つ目は影の針がデュオ達を襲う。
針と言っても太さ1cm、長さ10cmの針だが。
2つ目は闇の霧がThe Hermitを覆う。
針で牽制しつつ霧で姿を眩ましそのまま逃げる算段だ。
そうはさせまいとデュオは動揺から立ち直りThe Hermitに向かって風属性魔法のトルネードを放った。
まだ周囲には観客がいるものの、デュオは巧みにトルネードを調整操作し闇の霧を吹き飛ばしながらThe Hermitへと向けたが、そこには既に暗殺者の姿は無かった。
「逃げられた!?」
周囲の魔力を探って見るものの、この場から遠ざかる魔力は感じない。
同じように気配を探っていたアイリスもThe Hermitの気配を見つけることが出来なかった。
「こっちも駄目。まるで初めから居なかったような感じよ」
そう言われてみれば不意打ちとは言え、これだけの面子相手に気配や魔力を悟られずにいたのはおかしいと言わざるを得ない。
何かカラクリがあるのだろう。
ジャクスの正義の書の様に神秘界の騎士の特殊能力の可能性もある。
最後には予想外の妨害もあったが、取り敢えず金曜都市を解放できたのでデュオ達は後始末に入る。
金曜都市はジャクスの特殊能力に因る正義の書の支配に覆われていた為、『AliveOut』のメンバーが潜り込む余地が無かった。
なので都市内部ではなく、都市郊外に隠れ家を用意し金曜都市の観察をしていたのだ。
早速郊外の『AliveOut』のメンバーと連絡を取り合い、金曜都市の秩序を回復していく手筈を整える。
金曜都市の住人もやっと正義の書の支配を逃れられたことを喜び、進んで『AliveOut』に協力を申し出たので正義の書から解放され一部の住民が暴走などを起こしていたが急速に収まるだろう。
そしてその秩序回復にジャクスが名乗りを上げた。
「僕も治安回復や政務統治を手伝いたいです」
「え? それは・・・」
デュオはジャクスの申し出に戸惑う。
正義の書を失ったジャクスは最早一般のアルカディア人と変わらないが、金曜都市の住人にはこれまで金曜創造神の手先として自分たちを支配してきた怨みがある。
ジャクスの申し出は嬉しい事だが、その先に待っているのは誹謗中傷や下手をすればジャクスを排除しようと暴力などが行われる可能性もある茨の道だ。
だがジャクスはそれでもと自分のしてきたことの償いとして身を捧げたいと頭を下げて願う。
デュオ達はそのジャクスの気持ちを汲んで協力を頼んだ。
勿論不必要な非難をなるべく避ける為、常に『AliveOut』のメンバーの誰かと共に行動をすることにしてだ。
そうして手続きなどが一段落したところで当初の目的地である木曜都市へ向かおうと言う事になったのだ。
因みに移動には走竜を借りることが出来、移動時間を短縮することが出来た。
『AliveOut』はゲリラ的クランなため走竜の確保が難しかったのでこの行為は有難いものだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
木曜都市に到着すると早速『AliveOut』のメンバーがアイリスに接触し、クランマスターへの連絡を頼むと同時に『AliveOut』の最近の状況を確認したところ、トリニティ・鈴鹿が来ていると言う情報を手に入れたのだ。
The Hermitがトリニティの蛇腹剣を持っていた事からトリニティの身に何かあったのではと心配していたが、この度もたらされた情報で無事が確認できたのでデュオは一安心と言ったところだった。
『AliveOut』の本拠点である一際立派な屋敷に通されたデュオ達は早速クランマスターへのお目通りが叶う。
と言うよりも既にトリニティ達が集い話し合いをしている最中だったらしい。
デュオ達は本拠地に所属しているクランメンバーに案内され、一室へと通される。
扉を開ければそこにはトリニティと鈴鹿の他、リュナウディとローズマリーも居た。
どうやら2人もThe Towerの後も無事でいたみたいだ。
そしてその他にはデュオには見覚えのある人物が2人、ない人物が3人いた。
見覚えのある人物はフェルだった。
天と地を支える世界に居た時に幾度となくデュオを助けてくれた女性だ。
その強さはS級に匹敵するのではとデュオは思っていたので、エンジェルクエストを攻略して来たのかは不明だが、この場に居たのはとても心強かった。
もう1人の見覚えのある人物はディープブルーだった。
26の使徒・Katanaの攻略に協力して以来で、鈴鹿の探し人でもあったはずだ。
こうして鈴鹿と同行しているところを見ると、どうやら目的は果たせたらしい。
そして見覚えのない1人は黒目黒髪の女性だ。
但しその姿はこの世界では珍しい異世界風のスーツと呼ばれる衣装を身に纏っていた。身長も高めで170cmを越えているだろう。
雰囲気的にも補佐的な立場だと思われた。おそらくサブマスターかそれに準ずる何かであろうとデュオは当りを付ける。
見覚えのないもう1人は幼女だ。
身長は140cmもなさそうで、金髪碧眼の魔導師風の格好をしている。
場の中心にいて、この会議を進行しているように見えた。
見た目からは信じられないが、おそらくこの幼女がクランマスターなのだろう。
見覚えのない最後の1人は巫女だった。
フェルの巫女姿とダブるが、彼女は緋袴ではなく朱色のミニスカなので厳密には巫女とは言えない。その点最後の1人は紛れもない巫女なのだが、その姿は豊満な胸の谷間を存分に晒し、妖艶な雰囲気を醸し出していて巫女と言いうよりは娼婦と言った方が早いかもしれない。
彼女は会議の輪には加わらず隅っこの方で大人しく聞きに徹していることから部外者か協力者か何かだろう。
デュオ達が部屋に入ったことにより、トリニティ達がこちらに目を向ける。
「お姉ちゃん!」
「デュオ!」
デュオはトリニティの顔を見てようやく安堵の表情を浮かべた。
無事を聞いてはいたものの、こうして目にするまでは心配でたまらなかったのだ。
「はぁい。2人ともどうやら無事に生き延びているみたいね」
「お姉ちゃん、あたしを馬鹿にしすぎ。こう見えてもエンジェルクエストを攻略したA級冒険者なんだよ」
「それはこっちのセリフだよ。まさか俺達が心配で神秘界にまで来たとか言わないよな」
デュオの言葉にトリニティは口を尖らせ、鈴鹿は自分を心配して追いかけたんじゃないかと少しばかり不満をぶつけてくる。
「あたし達が神秘界に来たのは別に鈴鹿達を追いかけてきた訳じゃないわよ。
鈴鹿達とは別件で来たんだけど・・・まぁ、色々あった訳よ」
そう、ここまで来るのに色々あった。
謎のジジイの訪問に始まりルナムーン神殿でThe Worldとの戦闘。兄・ソロとの再会に神秘界でのThe Empressとの会合に七王神の1人、戦女神ローズマリーとの出会いに、The Towerでの拉致。そして気が付けば金曜都市にて囚人として捕らわれJusticeとの戦いとイベントの目白押しだ。
そんなデュオを慮って労いの言葉を掛けようとしていた鈴鹿に、突如ベルザが抱き付く。
「鈴鹿! 無事なのね! 何処か怪我してない!? 無茶な事していないでしょうね!?
あぁ、唯姫ちゃんも無事に見つかったみたいで良かったわ」
そう言っては鈴鹿の体に怪我が無いか触りながら、鈴鹿の隣に居たディープブルーこと唯姫を見ては安堵した表情を見せていた。
その様子を見ていたデュオは知り合いか、と思っていたがどうやら様子がおかしい事に気が付く。
鈴鹿がそんな馴れ馴れしい態度をするベルザに戸惑いを見せていたのだ。
「って、待った待った! 何か俺達の事を知っているみたいだけど、あんた誰?」
「そ・そんな・・・鈴鹿が私の事を知らないだなんて・・・」
鈴鹿の言葉にベルザはショックを受けてよろよろと後ずさる。
そこにすかさずフォローを入れるフェル。
「あのねベル、その姿で分かれって言う方が無理だと思うよ?」
「え~~、そこは血のなせる業で気が付いてほしかったわ・・・」
がっくりと肩を落とすベルザにフェルが慰めつつも、同じ七王神であるローズマリーが再会を喜びながら神秘界に来た時の事を語り合っていた。
ベルザとローズマリーが七王神であることは知っているが、それに平然と会話に加わっているフェルを見てはデュオはまさかと思った。
そんなデュオの思惑をよそにとんでもない事実が次々と鈴鹿達の口から語られていく。
「なぁ、親父、まさかとは思うが・・・そのベルザは七王神で、お袋・・・か?」
「うーん、この姿の時はフェンリルかフェルって呼んでほしいわね。
それでベルの正体だけど、鈴鹿の言う通りよ。七王神の1人、大賢神ベルザ。そして貴方の母親よ」
鈴鹿がフェルを父親と言い、ベルザを母親と呼ぶ。
フェルはそれを否定せずに認めると鈴鹿は驚きを顕わにして大騒ぎをしていた。
勿論、デュオも大変驚いていた。
「・・・え? どういう事? ベルザが鈴鹿の母親で、フェルさんが父親・・・?」
ベルザ達七王神が異世界人であるのは以前聞いていたから鈴鹿が異世界では親子であると言われれば理解できる。
まぁ、それでも七王神を母親に持つ鈴鹿にはある種の羨ましさを覚えるが。
そして何より一番信じられないのが、フェルが鈴鹿の父親だと言う事だろう。
「何でもフェンリルさんも異世界人らしく、異世界では鈴鹿の父親らしいよ。
確かに異世界人は天と地を支える世界では女神アリスから身体を与えられるから全く別の性別になる可能性もあるっちゃあるけど・・・流石にこれにはあたしもビックリよ」
トリニティも信じられないけど、と付け加えながらもデュオに説明してくれる。
フェンリル。
トリニティの言葉に間違いが無ければフェルの正体は最強の七王神・巫女神フェンリルだと言う。
そしてデュオはこれまでの疑問に納得がいった。
S級以上に強いとは思っていたが、その正体が巫女神フェンリルであるのなら強いのは当たり前である。
その宿っている精神も男であるのなら強敵にも怯むことなく挑むことのできる果敢な性格なのも頷ける。
中身が男だと言う事実に驚いたものの、デュオに取ってフェンリルは恩人でもあり心を許せる友人であるのだ。
今更どうこう言うつもりはなかった。
そのフェンリルとベルザの血を引きし男・鈴鹿。
なるほど、僅か2ヶ月ほどでエンジェルクエストを攻略するのは当然と言えよう。
何せ最強と万能の2つの七王神の血を受け継いでいるのだ。
「フェルさん・・・巫女神フェンリルだったんですね。あれだけ強いのも納得です」
「まぁ、大っぴらに言いふらすわけにもいかないしね。以前偽フェンリル騒ぎがあった事から分かるようにわたしの存在は天と地を支える世界じゃ大きすぎるのよ」
「確かにそうですね。尤もあの偽物は頂けませんでしたけどね。あんなのが巫女神を名乗っていたのはフェルさんを冒涜してますよ。
あ、だからあの時あの場に居たんですね。偽物に制裁する為に」
「さぁ、どうかしらね」
フェンリルはそう言って流したが、デュオはあの時あの場に居たのはそうなのだろうと思った。
「ねぇ、ちょっと待って。一体誰が誰でどんな関係かわけわかんないんだけど。
あまりにも情報があり過ぎて一旦整理しない? 互いの持っている情報交換も必要だろうし」
デュオとフェンリルの会話は勿論の事、他にも互いの知り合いが再会を喜びながらこれまでの経緯を語り合う状況は正に混沌になっていた。
そこでトリニティがあまりにも状況が混雑してきたため、一旦仕切り直しをしようと提案してくる。
尤も、本来であるのならこの場を仕切るクランマスターが言うべきことなのだが、それに気が付いたクランマスターは少々バツが悪そうしながらもトリニティの提案に乗った。
「そうじゃな。無事な者の顔を見て安堵した者や、久々に会って挨拶を交わしたいところじゃが、今は互いの情報交換を優先じゃ。
特にこれからはお主らの協力が必要になる。互いの協力体制を整えねばならぬ」
クランマスターは場の仕切り直しにこの拠点ではなく、別の場所でもう1人加えながら行いたいと追加提案をしてくる。
デュオ達側は問題が無いので了承したが、どうやら鈴鹿側では問題が生じるらしく少しばかりクランマスターの提案は考慮されたが、スーツを着た黒髪の女性がフェンリルやベルザ、トリニティとディープブルーが居るので大丈夫だろうと言ってきたので、情報交換の為にこの場に居る全員はある場所へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『AliveOut』のクランマスターを先導に連れられてきたところは木曜都市の中心部である木曜創造神が居を構える時枝城だった。
そのままデュオ達は木曜創造神である木原時枝と会わされる。
「初めまして。八天創造神が1人、木曜創造神・木原時枝です」
木原時枝はストレートの長い黒髪に、スレンダーの体形をした何処にでもいるような普通の女だった。
「おい! どういう事だ、ルーベット!」
木原の自己紹介に鈴鹿はこの場に連れて来たクランマスター――ルーベットに食って掛かる。
その表情は明らかに怒りに満ちていた。それも今にも木原を殺さんばかりの殺意を滲ませて。
今は心の整理がついたものの、デュオもクオの事件を裏で引いていた八天創造神には文句も言いたいし、一発ガツンとぶちかましたいものがある。
だが、鈴鹿はそれすらも上回る殺意を孕んだ怒りを向けているのだ。
「ねぇ、トリニティ。何があったの?」
「あ~、まぁ鈴鹿がああなるのは仕方ないと思うの。ユキがあんな目に遭っていればね」
デュオはこれまで鈴鹿と一緒に行動を共にしていたトリニティにそっと尋ねると、返ってきた答えは聞くに堪えない凄惨なものだった。
当初の目的である唯姫の救出に神秘界に来た鈴鹿達は、もう1人同行していたアイとははぐれたものの唯姫の所在を掴むことが出来た。
唯姫の他にも数名の『AliveOut』のメンバーが土曜創造神に捕まっているとこの事だったので『AliveOut』と協力してメンバー数人と救出に向かった鈴鹿達だったが、そこで目にしたのは凌辱による惨劇だったのだ。
捕まった女性たちは神軍や土曜創造神に慰み者にされており、中には気が触れた女性やあまりの凌辱に廃人になった女性すら居たと言う。
そして唯姫も同様に凌辱の嵐の中に居た。それも四肢を失って為すが儘にされ、廃人一歩手前までになっていたらしい。
当然それを見た鈴鹿はキレて、その場にいる神軍や土曜創造神を皆殺しにした。
結果的には唯姫を救出することが出来たが、鈴鹿はそれで納得できるはずがない。
その場にいた土曜創造神は殺すことが出来たが、元々の原因である八天創造神に更なる怒りを向けたのだ。
因みに、唯姫は何故か神秘界の騎士のThe Loversのラヴィが協力を申し出て精神治療を施してもらったおかげで何とか心を持ち直した。
尤も完全に治療できたわけではなく、鈴鹿以外の男性恐怖症と言う心的外傷を負っている。
それを聞いたデュオは流石に同じ女性として憤りを顕わにした。
「それは、鈴鹿がああまで怒るのは無理はないわね」
「あたしも、あの惨状を見てるから鈴鹿の気持ちは良く分かるよ。あんなのを平気でやるのが八天創造神なのよ。
けど・・・八天創造神が全員が全員そうだとは限らないみたいね」
そう言ってトリニティは鈴鹿に掴みかからんばかりに詰め寄られている木原を見る。
トリニティとしては鈴鹿と同じ気持ちだが、どうやら木原は事情や状況が違うみたいだ。
そこで語られるのは、八天創造神の目的、そしてこの世界の成り立ちだ。
八天創造神の正体は鈴鹿達同じ異世界人で、目的である不老不死を叶えるために天と地を支える世界と神秘界を創造したらしい。
そして異世界人をこの世界に招き、不老不死の研究材料にしながら世界を掌握していった。
そんな中で木曜創造神・木原時枝は他の八天創造神を裏切った。
計画に時間をかけ過ぎて心境に変化が生じてしまったのか、望んでいたはずの不老不死に魅力を感じなくなったと言う。
そうしてこの計画を終わらせる者を待っていた。それが『AliveOut』や鈴鹿達だ。
だがそんな事を言われて鈴鹿は納得するはずがない。
「ふざけんな! 裏切ったから許してくれとでも言うのかよ。 今でさえ大勢の魂が弄ばれてそれを見逃せって言うのかよ!」
「だったら止めて見なさい。少なくとも貴方達にはその力があるのでしょう?」
木原はそんな鈴鹿を見て挑戦的に言い放つ。
出来るものならやって見ろとばかりに。
「言われなくても止めてやるよ。そう言うてめぇは何をしているんだよ。てめぇらが元凶だろう。自分で蒔いた種を人に任せているんじゃねぇよ。
そもそも俺はてめぇも討伐の対象なんだぜ。てめぇらが唯姫にしたことは俺は絶対にゆるさねぇ・・・!」
「・・・いいわ。貴方が望むなら私の命を貴方に差し上げるわ。でもそれは全てが終わってから。
それまでは私の命はお預けよ。私は逃げも隠れもしない。ずっとここに居るわ」
「それを信じろって言うのか?」
「さぁ? 信じる信じないは貴方の自由よ。今ここで私の命を奪ってもいいわ。但し、最後まで責任を持ち全てを終わらせること。
当然そこまで啖呵を切るんだから出来ないとは言わせないわよ」
木原の鋭い視線が鈴鹿を突き刺す。
鈴鹿はその冷たい視線に負けじと見つめ返すが、その視線は冷たいと言うよりもどこか乾いているようにも見えた。
「・・・いいぜ。俺が全部終わらせてやるよ。お前ら八天創造神の野望を打ち砕いて。
そして最後にはお前を倒す。お前の命で罪を償ってもらう。それまで首を洗って待っていろ」
「分かったわ。待っている。その日が来るのを」
次回更新は12/24になります。




