60.その塔の道標は分かれ道を示す
神秘界の騎士・The Towerの夢現の塔の中にある奈落の間。
そこは塔の最下層に存在し、光を一切通さない闇黒に包まれた部屋。
だが今はその暗闇の中で一点だけ淡い銀色の生き物が佇んでいる。
最強の七王神である巫女神フェンリルの騎竜、そして今は異世界人・鈴鹿の騎竜として天と地を支える世界を駆けた白銀騎竜のスノウだ。
スノウはただ1匹だけThe Towerに奈落の間へ落されたのだ。
「グルゥ・・・」
真っ暗で先が見えない部屋にも拘らず、スノウは一切の不安を感じさせず堂々と天を見上げる。
だがその闇黒の天は何も映さない。
スノウの動きに呼応するように闇黒の中で何かが蠢く。
奈落の間に生息する、闇黒に同化し闇黒を武器とし闇黒に迷い込む生き物を喰らう竜――闇黒竜。
それも1匹だけではない。数十・数百もの闇黒竜だ。
「グルゥ!」
スノウの叫びと共に周囲に無数の光の玉が出現する。
光属性魔法によって生み出された明かりだ。
スノウの銀の鱗も相まって、周囲は闇を払い闇黒竜を怯ませた。
当然闇黒を住処とする闇黒竜はスノウの放つ光を排除しようと闇を操りスノウへ襲い掛かった。
同時に闇黒に紛れ闇黒竜もスノウへと襲い掛かる。
それでもスノウは怯まず、堂々と天を見上げ冷静に――いや、これまで鈴鹿が見たことも無いくらい興奮して震えていたの。
それは夢現の塔に入った瞬間に嗅ぎ取った懐かしき匂い、かつて100年前に旅を共にした仲間の臭いを僅かながらも感じ取ったからだ。
「グルァァァァァァッ!!」
邪魔をするなと言わんばかりにスノウは周囲に更なる光を生み出し解き放つ。
光属性魔法によるレイブラスト、レーザーキャノン、シャイニングフェザー。
無数の光球弾に、極太のレーザー砲、光の羽による散弾が闇を、闇黒竜を打ち払う。
生き残った闇黒竜はあまりにも強大な光を放つスノウを恐れ闇黒に潜みながらもスノウの次なる行動を伺う。
スノウは周囲が大人しくなったことにより再び天を見上げ、口を大きく開け、そこに光を集い始めた。
スノウのオリジナルであり、最大最強の光属性魔法・ルクスルプスブレス。
集う光はどんどん光度を増し、その眩い光は太陽を思わせるほど光量と熱量を伴っていた。
「グルゥァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」
スノウの咆哮が天を衝く。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「生意気な女共だ。現実と言うものを理解していないみたいだな。もう一つついでに言っておくが、はぐれた仲間が都合よく助けに来ると思わない事だ。
お前らの仲間はそれぞれ鏡像の間、巨像の間、虚像の間に閉じ込めている。今頃そこの守護者にボコボコにされているだろうな。
仮に守護者を倒したとしてもこの部屋同様、俺の許可なく出入りは出来ない様になっているし、壁を壊しても空間自体が他の道と繋がってないからな」
「あら、仲間の助けが無くても貴方の事を倒すのは容易い事ですし、そもそも仲間の事は心配しておりませんわ。デュオたちほどの実力者であれば心配して差し上げるのはかえって失礼に当たりますわ」
「そうだな。デュオ達には及ばないが、フレンダ達も『AliveOut』のれっきとした攻略部隊の一員だ。お前のような悪魔の配下には遅れは取らないだろう」
The Towerは悪魔である自分を前にして尚生意気な口を利くローズマリーたちを絶望させるために仲間の情報を与えたのだが、効果が無かったこと知り歯がゆい思いをする。
こうなってはThe Towerも悪魔のプライドに掛けてどうやっても2人を絶望に叩き落としたくなってきた。
「ふん、何時までその虚勢が保ってられるかな? 直ぐにお前らの絶望した顔を拝んでやるよ」
そう言いながらThe Towerは背中の翼を広げ、両手に魔力の塊を生み出す。
「もういい加減御託は沢山ですわ。まずはその行動で示したらいかがですか?」
ローズマリーに言われたからなのか、生意気な口を閉ざさせるためなのか、ローズマリーの言葉を皮切りにThe Towerは両手の魔力――魔属性魔法のデモンブリットを解き放つ。
それに対しローズマリーは意図も容易くデモンブリットを大盾で防ぐ。
「あら、魔属性魔法とは変わった魔法をお使いですのね。それとも流石悪魔と言ったところかしら?」
「ほう、この属性魔法を知っているのか。ならばその威力も知っているだろう。生半可な防御じゃ防げないと思え。
――エビルウィップ」
今度は両手に魔力の鞭を作り上げピシリと地面を打つ。
そしてそのままローズマリーとリュナウディアに向かって振るう。
ローズマリーは盾で弾き、リュナウディアは拳の連打で弾き返す。
だがThe Towerは巧みに魔力の鞭を操り四方八方から2人を襲う。
最初はゆっくりと、次第に速度を上げて高速に、そして鞭の数を1本から2本へ、そして3本へと数を増やし、反撃の隙を与えずに絶え間なく攻撃を仕掛ける。
「はははっ、流石にこの速度・この数じゃ手も足も出まい」
防戦一方の2人の姿を見てThe Towerは気を良くし、所詮七王神もこの程度だと侮っていた。
この時The Towerはもう少し2人の様子を観察するべきだったのかもしれない。
そうすれば2人は焦った様子も無く、平然と鞭を捌いていたことに気付いていただろう。
「ここで止めだ・・・っと、殺してしまったらダメじゃん。姐さんにシバかれる。
となれば大怪我をしない程度に倒さないと。うーむ、面倒くさいな」
ただの人間を圧倒できる己の実力に酔っていたThe Towerは、もう既にローズマリーたちは敵ではなく、どうやって殺さないで確保するのかを思案していた。
取り敢えず意識を奪うために雷属性魔法で痺れさせて身柄を確保しようとする。
「ブリッツスパーク!」
両手で魔力の鞭を操りながら、来ようにも背中の翼を起点に雷属性魔法を放った。威力を抑え目にして。
だが、放たれた雷閃光はローズマリーに届く前にかき消されてしまった。
「シールドバッシュ!」
「サンダーシールド――閃拳!」
ローズマリーはブリッツスパークをシールドバッシュで攻撃し相殺する。
リュナウディアは属性魔法を軽減する盾魔法を拳に纏わせ、最速の拳戦技・閃拳でブリッツスパークを打ち払う。
「なっ!?」
まさかブリッツスパークを防がれるとは思ってもいなかったThe Towerは驚きを顕わにした。
しかも未だエビルウィップが襲い掛かる中での出来事だ。
その驚きの隙を突かれ、気が付けば目の前にローズマリーが居た。
「シールドチャージ!」
最速のシールドチャージで一瞬で間合いを詰め、そのまま大盾ごと体当たりを加える。
The Towerは慌てて両手の魔力の鞭を切り、無属性魔法のマテリアルシールドでローズマリーの攻撃を辛うじて防いだ。
が、何時の間に間合いを詰めていたのか、背後より現れたリュナウディアの攻撃がヒットする。
「二連旋風脚!」
蹴り戦技の二連続旋風脚がThe Towerの背中と脇腹を突き、押し出された反動でローズマリーの方へ突っ込む形になった。
そこで待ってましたと言わんばかりにローズマリーも剣戦技を放つ。
「スクエア!」
菱形の形を作るような4連撃がThe Towerを襲う。
The Towerは両手を交差し翼で体を覆い、何とか致命傷だけを避け、慌ててその場から離れる。
「ぐぅうぅ・・・なんだ、こいつら。人間は俺ら悪魔にも劣る生き物じゃなかったのかよ。
ええい、くそ、人間は人間らしく嬲られていろ!
――シャドウバインド!」
思わぬ反撃にあった事で焦るThe Towerは闇属性魔法を使い、2人の足下から伸びる陰で束縛する。
2人はシャドウバインドにより身動きを封じられ、その隙にThe Towerは距離を取り体勢を整えようとする。
「ははっ、流石に身動きを封じられちゃあどうしようもないな。
ここからは俺のターンだ。さぁて、どうしようかな? さっきは手加減して痺れさせるだけのつもりだったが、ここは俺に逆らった罰として腕の1本でも頂くか?」
The Towerは大人しく縛られているローズマリーたちを見て余裕を取り戻し、鬱憤を晴らすためにどの手段を取るか考え始めた。
その様子を伺っていたローズマリーは呆れた顔をする。
「束縛魔法1つで満足するとは・・・追撃もお座なりですし何よりも敵を舐めきった態度が全てを損なっていますわね。
神秘界の騎士と言ってもこんなものなのですわね」
「これならまだエレナーデの方が手応えがあったな。ローズマリー殿、言っておくがこいつは神秘界の騎士の中でもかなり下の方だと思った方がいい」
そう言いながら、ローズマリーとリュナウディアは縛っているシャドウバインドを気合いもろともあっさりと打ち破る。
あっさりとシャドウバインドから抜け出した2人を見てはThe Towerは目を丸くしていた。
「恐らくですが、この塔を作り上げることに特化した神秘界の騎士なのかもしれませんわね。
だとしたらそれ程戦闘力が無い事も頷けますわ」
ローズマリーの推測通り、The Towerはこの塔を作り上げ維持するのに殆んど力を使っていたので戦闘力は普通の冒険者程度しかなかったのだ。
The Towerも正面切っての直接戦闘ではなく、塔の特性を生かしゲリラ戦の様に閉じ込めた部屋に断続的に罠を放り込んだり魔物をけしかけたり、壁の無い無重力状態のような闇の空間に放り込んだりすれば勝機はあったのだ。
実際、これまでの戦闘は全てそのような間接的な攻撃で勝利を収めていたThe Towerだったりする。
ローズマリーの前にも1つ七王神を捕獲していたのだが、それに気を良くし無謀にも真正面からの戦闘を仕掛けてしまったのだ。
「くそっ! くそっ! くそっ! お前らは大人しく俺に嬲れていればいいんだよ!
――アビスブラスト!!」
やけになったThe Towerは魔属性魔法の高位魔法を唱え、漆黒の巨大なエネルギー球を作り上げローズマリー達に向かって放つ。
「フルラージシールド」
盾戦技のフルラージシールドにより、ローズマリーの大盾が一瞬巨大な光の盾に展開し、The Towerの放ったアビスブラストを難なく防ぐ。
「そん・・・な・・・魔属性魔法の最高魔法だぞ・・・って、あれ・・・? なんだ、力が・・・」
自分の最高魔法を防がれたショックか、The Towerは急に力を無くしその場にへたり込んでしまった。
「貴方、何も知らないのですわね。魔属性魔法はMPではなくHP――この場合は生命力と言った方がよろしいのかしら? その生命力を使って放つ技ですもの。そんな大技を放って倒れない方がおかしいですわよ」
ローズマリーの言葉にそんな話は聞いた事も無い、とそれこそショックを受けるThe Tower。
ここまでくれば認めざるを得なかった。
自分は決して強い存在ではなかったと言う事に。
だが勝敗は別だ。要は勝てばいいのだ。
そう、自分本来の戦い方をすればそれでいいのだ。そうすればこちらから一方的に嬲ることが出来る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「む、この、中々やるわね。あたしと同等の魔法を放つなんて、流石あたしと同じ姿をしているだけのことはあるわ」
デュオの放った魔法が、デュオと同じ姿をした敵が同じ魔法で相殺する。
同じく、ミュリアリアの放った魔法も同じようにミュリアリアの姿をした敵が相殺していた。
「んー、やっぱ、これかなぁ~? 下手な小細工もないし、完全に物真似・・・うん、だったら攻略方法も簡単ね」
目の前の自分の姿をした敵を相手していたアイリスは確かめるように数合打ち合いをしてから距離を取る。
「デュオ、ミュリアリア、もう相手しなくてもいいわよ」
そう言いながらアイリスは剣を下げ、デュオ達の方へと駆け寄る。
「ちょっと、何を言っているのよ、アイリス。そんなことしたらこっちが攻撃の的になるじゃないの」
「そうだニー、向こうもやる気満々だニー。隙を見せたらダメだニー」
向こうの側にも偽アイリスが近づいて守りを固め、敵意をむき出しにしてそれぞれの杖を構えていた。
「デュオ、あんたそれでもA級なの? あのね、よく見なさいよ。向こうの敵はあたし達と同じ動きしかしていないのよ。
つまり相手はただの鏡、あたし達がやっている事はただの体力魔力の消耗をしているだけなのよ」
そう言いながらアイリスは剣を上下に動かすと、向こう側の偽アイリスも剣を上下に動かす。
それを見たデュオとミュリアリアは目を丸くする。
同じように向こう側の偽デュオ、偽ミュリアリアも驚いた表情でこちらを見ていた。
「ええ~~、何これ。あたし達すっごくバカみたいじゃないの」
デュオは自分のやっていたことに赤面し片手で顔を覆う。
思っていた以上にデュオは自分が動揺していたことに気が付かされたのだ。
「アイリス、よく気が付いたニー」
「まぁね、異世界じゃ似たような話がよくあるから気が付いただけよ」
全く同じ動きをしていたからこそ気が付いたのだ。
とは言え、完全に動きをトレースする鏡だとは限らない。
こちらが動きを止めたことにより、別プログラムが働いて襲ってこないとも限らないのだ。
「ま、これ以上戦う必要もないけど、警戒だけは怠らない様にしておかないとね。」
「それで、これどうするの? 戦う必要は無くなったけど、決着もつかないわよ?」
部屋を出る手段が無いのでそれを捜さないといけないのだが、無害だと分かったが完全にも無視できない敵の前でそれを行う事は出来ない。
デュオは警戒を怠らずにどうするのかアイリスに倒し方を求めた。
「ぶっちゃけ、あいつらを倒す手段は第三者の介入が必要になるわ。つまり仲間の助けが来るまで待ちましょうって事になるわね。
この部屋から出るのもそれに期待しましょう」
だがアイリスの口から出た言葉はなんてことは無い、ただの他力本願だった。
「ええ~~・・・何かあたしの性に合わな過ぎるわ・・・それ」
これまで圧倒的な魔力で敵を倒して来たデュオに取って、目の前の敵は相性の合わないやり辛い相手だったようだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
振り降ろされたその拳は地面を穿ち破片を周囲に撒き散らす。
「うぉっと! 今のはちょっと危なかったな」
ゴーレムの攻撃をギリギリまで引き付けていたウィルは危うく掠めるところだったらしい。
それもそのはず、既に周囲の地面ははゴーレムの攻撃により穴だらけ、瓦礫だらけの状態だったからだ。
ゴーレムの攻撃は単純で、決められたルーチンの如く拳をウィル達目がけて打ち下ろすだけだ。
その巨体から繰り出される拳はそれだけで一撃必殺なのだが、動きが単純故に躱すのも至極簡単だ。
ただ、攻撃が続くことにより、地面が荒れて躱すための足場が悪くなると言う結果に繋がっていた。
「おーい、アルベルト、そっちは大丈夫かぁ~?」
「こっちは大丈夫だべ! ルーナ様には指一本触れさせないだ!」
アルベルトはルーナと青水晶のクォーツタススクを背後に庇って部屋の隅で控えていた。
これほどの巨体のゴーレムとなると攻撃方法も限られており、たった3人で倒すとなるとほぼ不可能と言っても良かった。
なのでウィルが取った行動は、戦力外のルーナにアルベルトを護衛に付け、ウィルがひたすらゴーレムを引き付けると言う戦法だった。
だがもちろんそれだけでゴーレムが倒せるわけではない。
ウィルの狙いは他にあった。
「さぁーて、そろそろかな?」
何度目になるか、ゴーレムはウィルを狙い拳を振り下ろす。
が、その前に何かに躓いていきなり前のめりに突っ伏した。
「よっしゃ! 来た来た!」
なんてことは無い、ゴーレムは自分で開けた地面の穴に躓いてこけたのだ。
ウィルはゴーレムが倒れるのを狙って穴に誘導しながら攻撃を躱していたのだ。
ここまで巨体なゴーレムにもなると倒すには原動力は胸か頭にある核を狙うしかない。
立っている状態だと足を狙うしかなかったが、今の倒れた状態だとどこでも狙い放題だ。
ウィルは起き上がる前にオリハルコンの剣で外装を削り出し核を攻撃する。
完全に破壊する前にゴーレムは再び起き上がり攻撃を断念せざるを得なかったが、これで攻略方法は確定した。
後はひたすら核を削り出す作業になるだけだった。
「何かこうなるとゴーレムも憐れだべ。ただひたすら命令を実行するだけで何もできないだ」
「ゴーレムに命があればそう思うかもしれませんが、あれはただの人形です。アルベルトさんが憐れむ必要はありませんわ。
まぁそこがアルベルトさんの良いところでもありますが」
「ルーナ様・・・」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ソロたちの相手の魔物は見た目はThe Towerと同じく悪魔なのだが、そこには実態を持たないただの虚像だった。
それ故に虚像に攻撃をしたところで攻撃はすり抜けるだけだった。
そして虚像の攻撃はそれに合わせて夢現の塔が虚像の間に攻撃を生み出していた。如何にも虚像が攻撃を繰り出しているかのように。
「ミス・フレンダ。まだ攻撃は耐えられそうですか?」
「勿論よ。この程度の攻撃ならまだ十分耐えられるレベルよ」
「それは良かった。それでは反撃に入ります。敵の反撃も予測されますので今以上の攻撃もあり得ます。十分注意を」
「了解」
ソロは『最強の正躰不明の使徒』の能力――七王神・時空神の力で目の前の敵が幻で、攻撃が空間自体で行っていることを突き止めていた。
わざわざ虚像に合わせて攻撃すると言う手間をしているので今のところ致命傷を負うような攻撃は受けていない。
だが、これからソロが行う反撃は空間そのものに攻撃を仕掛ける。
虚像と言うか、この部屋そのものがそれにどう反応するか今のところは分からない。だからフレンダには十分警戒するように注意し、ソロは反撃を開始する。
「モード勇王神の使徒・Brave! ゴルディオンクラッシャー!!」
ソロの手にした剣が光りに覆われ、巨大なハンマーの形を作り上げる。
そしてソロは何も無い空間をその巨大な黄金のハンマーで打ち砕く。
それに合わせて目の前の虚像も苦しみ悶え始めた。
「ギョェェェェェッェェェェェェ!!」
慌てて反撃に出る虚像――もとい虚像の間。
だがソロは巨大な黄金のハンマーで反撃を一蹴する。
そして容赦なく空間に降り注ぐソロの攻撃。
その光景を目の当たりにしたフレンダは呟く。
「・・・ソロさんが私の時の『正躰不明の使徒』でなくて良かったわ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あら、苦し紛れの反撃・・・かしら?」
「見たいだな。どうやら奴は私等の攻撃に碌に反応できなかったところを見ると、攻撃されることに慣れてなかったみたいだな」
ローズマリー達は突然何も無い真っ暗な空間に漂っていた。
そこには地面も天井も無い、上下左右があやふやな無重力のような空間だった。
『ははっ、お前らはこれで終わりだ。ここからは俺が一方的にお前らを攻撃するだけだ。
俺はお前らとは別の空間に居るからお前らは一切手出しができない。謝るのなら今の内だぞ?』
「子供か」
あまりの稚拙さにリュナウディアが思わず呟いた。
その呟きを聞いたThe Towerは怒りを顕わにする。そこに居ないにも拘らず顔を真っ赤にしているのが目に浮かぶ。
『貴様ぁ・・・余程死にたいらしいな。俺が姐さんに命じられたのは七王神を連れてくることだけだ。貴様は死んでも何の問題は無いのだぞ』
「やれるものならな」
その言葉に合わせて何も無い空間から無数の矢がリュナウディアに向かって降り注ぐ。
リュナウディアは少しも慌てずに拳を連打し、列脚を放つ。
「拳蹴り連動戦技・烈閃光龍撃」
The Towerの攻撃はリュナウディアに傷一つすらも負わせることが出来なかった。
その結果にThe Towerは呆然としてしまう。
「発想が貧困すぎるな。これほどの能力を持ちながらやる事と言えば武器による攻撃か」
『ええい、幾ら竜人の身体能力と言えど、無限ではあるまい。お前の体力が尽きるまで一方的に攻撃させてもらう!』
「あら、一方的な攻撃とはいささか気が早いですわよ?」
そう言いながらローズマリーは何も無い空間に向かって剣を突き刺した。
その剣は切っ先が消失し、空間そのものに刺さっているように見えた。
『ぐぁぁ・・・何故・・・だ?」
ローズマリーが剣を引き抜くと、そこからズルりとThe Towerが現れた。
「何故ですって? それは簡単ですわ。
ここは塔の中であって塔の中でない。貴方はそう言いましたわ。ならば答えは簡単ですわ。この部屋は貴方の居ない部屋であって貴方の居る部屋でもある。あとはイメージだけ。ここから貴方の居る場所へ繋がるように剣を突き立てれば貴方に届く。イメージ効果理論の応用ですわね」
「馬鹿な・・・だからと言ってそう簡単に出来るものか・・・!」
「人間成せば成る、ですわよ。
・・・あら、わたくしそれっぽい事を言いましたわね。かっこよかったかしら?」
「・・・ローズマリー殿。遊んでないでThe Towerから情報を引き出そう。後はフレンダ達の合流とこの塔からの脱出だな」
己の身に起きた事に信じられないThe Towerにローズマリーはドヤ顔を決める。
七王神も案外人間臭い事に呆れていたリュナウディアだったが、今は優先させるべきことをしようとする。
だがその前に、何も無いと思われていた空間に亀裂が入った。
「・・・なっ!? 馬鹿なっ!! この部屋・・・いや、この塔そのものを貫くだとっ!!?」
The Towerが慌てているところを見るとこれは彼の予想外の事であったようだ。
次の瞬間、The Towerを巻き込んで地面から天に向けて(上下左右の概念が無いが感覚的に)眩いばかりの閃光が貫いた。
それはデュオの居る鏡像の間やウィルの居る巨像の間、ソロの居る虚像の間をも貫いて夢現の塔の天辺を撃ち抜いた。
光が収まると、そこにはボロボロになったThe Towerが居た。
足元には緊急避難口のカードキーが落ちている。
リュナウディアはカードキーを拾うとThe Towerに寄り、状態を確かめた。
まさに虫の息同然で、生きているのすら怪しい状態だった。
「おい、今のは何だ?」
「ぐふ・・・まさかこの俺がこんなところで死ぬとは・・・
今のはお前らの仲間の攻撃だよ・・・まさかこの塔ごと打ち砕く力を秘めていたとは・・・完全に予想外だ・・・」
リュナウディアはその言葉に誰の事か考えるが予想が付かなかった。
デュオならあり得そうだが、夢現の塔を貫くほどの力があるのかと言えばデュオの実力を把握していないリュナウディアにはそこまでの考えは付かなかったようだ。
「お前ら・・・こんなところでのんびりしていいのか? この夢現の塔は何処にでもあり何処にでもない塔だ。
このまま空間崩壊に巻き込まれると何処に飛ばされるか・・・下手をすれば一生出られない虚無の空間に飛ばされるかもなぁ・・・」
The Towerの言葉の通り2人の居る空間にあちこち亀裂が入り、空間自体が歪み地響きを立て始めた。
「拙いですわね。早く脱出しないと」
「おい、The Tower。早く仲間達の合流と脱出を」
リュナウディアがThe Towerの胸ぐらを掴み詰め寄るが、The Towerの放つ言葉は。
「やなこった。せめててめぇらをここで道連れにしてやる」
それが最後の言葉となりThe Towerはだらりと力が抜け命を失った。
そしてそれと共により一層空間が軋み始めガラスが割れる様な音と共に辺り一面光に包まれた。
次回更新は10/26になります。




