5.その頂点に立つのは美しき刃
スティードと猫人の少女ミュウミュウは水の都市ウエストヨルパの案内人ギルドに来ていた。
「よし! ここで竜の巣への案内人を雇おう!」
「にゃんで案内人を雇うんにゃ?」
「簡単な話だ。ウエストヨルパへ来たのはいいが、竜の巣までの道が分からないからな!」
D級冒険者になったばかりのスティードの活動拠点は主に王都エレミア周辺なので、水の都市から行けるのは聞いたものの竜の巣の場所が分からなかったりする。
「それと案内人は案内のスペシャリストであると同時に必ず生きて帰らせる生還者でもあるんだ!」
「にゃるほど」
勘違いされやすいが案内人は道案内が仕事ではなく、依頼者を目的地から生還させるための職業なのだ。
スティードは堂々と案内人ギルドに入って行き、受付に真っ直ぐ進んで竜の巣への案内人を頼んだ。
「竜の巣への案内人を頼みたい」
そのセリフに受付嬢だけではなく、受付の奥にいた事務員や案内人を頼みに来た冒険者たちもざわついた。
竜の巣への案内などどれ程の冒険者なのかと。
「失礼ですがギルドカード等の身分を証明できるものはお持ちでしょうか?
流石に危険度A級の竜の巣への案内ともなるとおいそれと簡単に紹介できませんので・・・」
受付嬢はスティードの身なりを見てそれほどの冒険者ではないと判断した。
まだ駆け出しとも言えるD級冒険者、もしくはC級に成り立ての冒険者ではないかと。
もしそうであれば冒険者ランクを理由に断るつもりだった。
新人冒険者のランクに合わない無謀な挑戦を未然に防ぐことも案内人ギルドとしての役割でもある。
だが受付嬢はスティードの取り出したギルドカードを確認し、冒険者ランクの次の項目を見て驚いた。
「D級冒険者・・・えっ!? 所属クラン『月下』!?」
受付嬢のその一言でまたも周りがざわめく。
A級クランである『月下』はこの水の都市ウエストヨルパでも名を馳せていた。
その『月下』所属である冒険者だ。例えD級であろうとも竜の巣への狩猟も可能なのであろうと判断された。
もしここでスティードの二つ名である『迷惑正義』も聞き及んでいたのなら結果はまた違っただろうが、残念ながら彼の二つ名は水の都市までは届いていなかった。
「大変失礼しました。竜の巣への案内人をお呼びいたしますので少々お待ちください」
その間に料金の支払いなどを済ませるのだが、勿論スティードには払える料金ではない。
だが堂々とクランへ請求しておいてくれと如何にも場馴れした冒険者の様に振る舞う事で周りを納得させていた。
勿論クラン『月下』の影響力である。
そうして紹介された案内人は元盗賊のシェスパと言う男だった。
盗賊と案内人は役割が似ているため、盗賊ギルドを引退した盗賊は案内人に転職することはよくあることだった。
案内人は道案内が主な役割なので戦闘行為はほぼ皆無に等しい。
だが戦闘が出来る案内人はかなり需要が有るので元盗賊の転職は案内人ギルドでは大歓迎なのだ。
「よう、あんたらが竜の巣へ行きたいと言う冒険者か。
俺は地上案内人のシェスパだ。元盗賊だからそれなりに戦闘もこなせるぜ」
「盗賊だと・・・? お前悪者か!?」
シェスパの盗賊の発言にスティードは腰の剣に手を掛ける。
「ちょっ!? 待った待った! 元・盗賊だ。もう足を洗っているよ!」
「そうか、すまない。悪いことは良くないからな。思わず盗賊と言う言葉に反応してしまった」
スティードの発言にシェスパは変な案内人を引受けたのじゃないかと嫌な予感がした。
「ああ~と、そう言えば竜の巣への目的は何なんだ? 危険度A級エリアに行こうってんだ。それなりの目的があるんだろう?」
「ああ、僕は正義の行いをするために竜の巣へ行くんだ!」
「正確には火竜を狩りに行くにゃ」
「そうだ! 正義の行いの為、火竜を狩りに行くんだ!」
「あ、ああ、そうか」
話題変換の為に竜の巣への目的を聞いたのだが、返ってきた予想外の答えだった。
そしてシェスパはこう思った。
ああ、今回の案内間違いなく絶対碌な目に遭わないな、と。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
デュオはまずスティードの起こした騒動の元であるチルの家を訪ねることにした。
事実の確認と、母親の凍結病の進行状況、それと言えに出入りしている冒険者のマディンへの事情聴取だ。
デュオは城壁に囲まれた王都の西区の下層地区――所謂貧困層の住民が住む区域――のチルの家の間に立つ。
(この地区の貧困具合は相変わらずね・・・)
デュオも幼いころ村を失い妹と共に王都の同じ区画にある孤児院に預けられているので、懐かしい気持ちの反面やるせない気持ちでもいた。
現在、A級クラン『月下』のサブマスターとして出世を果たしたわけだが、彼女にできることは世話になった孤児院に多額の寄付をするだけだった。
例え下層区に金をばら撒いたとしても何もならないことは彼女はよく知っているからだ。
「ごめんください」
デュオが声を掛けると家の中から小さな女の事が不審げにこちらを見ながら現れる。
「貴女がチルちゃんね。あたしは君が火竜の血を取ってくるように頼んだスティードのお友達よ」
デュオがそのことを告げると、チルは途端に笑顔になって駆け寄ってくる。
「わぁ! おにーちゃんのともだちなの!? おにーちゃんね、おかーさんのびょうきなおしてくれるってやくそくしたの!」
出来もしないことを簡単に約束して、とそう思いながらも笑顔でチルに接した。
不本意ではあるが、自分も火竜の血を持ってくることを約束して母親の状況を見させてもらう事にする。
スティードが勝手にしたこととは言え、一度契約した以上責任は果たさなければならないと思っているからだ。
チルが幼いからだとか、スティードの暴走だからだとかを理由に契約不履行を行う事はしない。
自分が幼いころに叱ってくれた謎のジジイの様に、相手が幼くても大人の言う事を聞かない子供でも真摯に対応すると決めているからだ。
「おかーさん、おにーちゃんのともだちもたすけてくれるって!」
そう言いながらベットに横になっている母親にチルは話しかけるが、とてもじゃないが母親は返事が出来るような状態ではなかった。
手足の凍結は勿論、それは既に体を覆っていて凍っていない部分は頭と胸くらいだった。
全身が凍結するのに1か月はかかると言われる凍結病だが、実際のところ胸が凍ってしまえば心臓が止まるので生存期間は3週間ほどとされている。
チルの母親の状態は正にその1歩手前の状態だった。
一体どれ程の期間手当を受けれずにいたのか。
チルはどれ程母親の為に駆けずり回っていたのか。
「チルちゃん、大丈夫よ。お兄ちゃんたちが必ずお母さんを助けてあげるからね」
デュオはしゃがみこんでチルの頭を撫でる。
病気になっている者はこの下層地区には大勢いるだろうが、それでもチルを慰められずにはいられなかった。
「チルちゃん、誰かお客さんかい?」
「あ、おじちゃん」
丁度その時、1人の冒険者の男が現れる。
彼がマディンだろう。見たところ20代後半の無精ひげを生やした普通の冒険者のようで、今しがた冒険から帰ってきたようで身なりが煤汚れていた。
デュオの姿を見るなり警戒心をあらわにして視線を強めて訪ねてきた。
「どちらさんで・・・?」
「あたしはクラン『月下』のサブマスターのデュオよ。
チルちゃんがうちのクランメンバーに火竜の血の採取を直接依頼したからその状況の確認とご挨拶にね」
「っ! あの『月下』のサブマスター!? と言う事は『鮮血の魔女』か・・・!?」
デュオの名乗りにマディンは思わずたじろいでしまう。
A級クラン『月下』は王都ではかなり有名なのでマディンのこのような反応はデュオにとって日常茶飯事だ。
ただデュオの二つ名の『鮮血の魔女』にはあまりいい顔をしなかった。
まぁ年頃のうら若き乙女の二つ名が『鮮血』なのだからいい顔出来るはずもない。
「詳しい話は外でお話ししましょう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
いい年した男が年下の女に終始恐縮しながら話す姿は滑稽だったが、聞いた話はシフィルから聞いた話とほぼ相違なかった。
マディンがツンデレ平原で恋を成就させると言われる氷恋花を取ってきて、ファファにプロポーズをしたと言う事。
そして少ししてファファが凍結病に罹ってしまった事。
だが凍結病治療のための火暖薬は在庫も少なく希少であるため高額であること。
同じ下層区にあるチギラギ医院の医者から見てもらい、少しでも症状を遅らせるためにホットポーションを与えてること。
火暖薬を購入する為我武者羅に冒険者ギルドで購入資金を稼いでいた事。
それでも高すぎて薬を買えずこのままではファファの命がもたない事。
「それでつい火竜の血があれば安い値段でファファを治せるのにとチルの前で呟いてしまったんですよ。
まさかそれで本当に冒険者ギルドへ行くとは・・・」
これまでの事情を聴いてマディンは頭を抱えていた。
「成り行きとはいえ、一度受けた依頼なので近日中に火暖薬をお渡しいたします。
とは言え、うちも慈善事業でやっているわけではないので完治してからでも構いません。少しずつでも構いません。火暖薬の代金を返済して頂きたいのです」
「ええ、それは勿論! ファファが治るのであればお金などいくらでも払います!」
デュオはこれまでの必死になるマディンの態度を見てシロであることは間違いないと思った。
だがこの凍結病の裏には何かあるような気がしてならなかった。
デュオは敢えて契約書等を交わさずに(スティードの事だから直接依頼の契約事項等は考えてないないと思われた)マディンたちの良心で火暖薬の代金を払う事を望み、マディンと別れて次の目的地へと赴く。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
デュオが次に赴いたのは錬金術ギルドだ。
幾ら火竜の血が手に入ったところで直ぐ薬が出来るわけではない。
火暖薬の他の材料集めや、作成依頼を第三者に依頼しなければならない。
幸いなことに火暖薬には火竜の血の入手が難しいだけで、他の材料は直ぐに集まる。と言うか錬金術ギルドには大抵の材料が揃っているのだ。
その為、デュオの既知である錬金術師に火暖薬の作製依頼に錬金術ギルドを訪ねたのだ。
冒険者ギルドが冒険者の為の斡旋所であるため市役所っぽいと所に対し、錬金術ギルドは研究所と言ったところだ。
受付に必要なのは小さな窓口と小さな事務所だけで、他はギルド員たちの研究施設ばかりなのだ。
「あら、デュオじゃない。今日はどうしたの?」
「こんにちは、マリーさん。エルフォードはいる?」
「いるわよ。毎日空きもしないで研究室に籠りっぱなしよ」
「相変わらずですね。あいつ」
「まぁね、錬金術バカだからね」
「確かに錬金術バカですね。
錬金術バカをネタにゆっくりお茶でもしたいところですが急いでますんで」
「あら、急ね。いいわよ、いつでも暇な時にいらっしゃい」
デュオは錬金術ギルド受付嬢のマリーに挨拶もそこそこに目的の研究室へと足を運ぶ。
軽くドアをノックして部屋の主からの返事を待つ。
「はいー開いてるよーどぞー」
「エル、いきなりで悪いけど大至急火暖薬の作製をお願いするわ」
研究室の中に居たのは幾度もの研究の為か煤汚れていた白衣を着たエルフの男性だった。
緑色の長髪を無造作に後ろで束ね眼鏡を掛けていて一見理知的な風に見えるが、彼の纏う雰囲気がだらしなさを醸し出していた。
唐突に入って来たにも拘わらずボケーとした表情でデュオを眺めにんまりと微笑んで挨拶をしてくる。
「やぁー久しぶりだねーデュオー
君がこの研究室を訪ねて来るなんて何年振りだろうかー」
「つい1か月前にも来たじゃない。相変わらず時間の概念がおかしいんだから・・・
それよりも火暖薬よ、火暖薬! 大至急お願い!」
「そっかー1か月だっけー
それと火暖薬はー火竜の血が無いから直ぐには出来ないよー?」
「ああ、それは大丈夫よ。近日中に用意するから。
貴方にはそれ以外の準備をお願いしたいのよ」
デュオは火暖薬の作製費として金貨1枚――10,000ゴルドを差し出す。
10,000ゴルドは優に一年遊んで暮らせる額だ。幾ら火暖薬が錬金術の薬とは言え流石に破格の額と言えた。
「わぁおー随分と奮発したねーそれほど急ぎなんだー」
「そうよ。だからあたしが火竜の血を持って来て直ぐに薬の作製に取り掛かれるように準備しておいてもらいたいの」
「んー分かったー、今やってる研究を中止して直ぐに取り掛かるねー」
「悪いわね。折角の研究の邪魔しちゃって」
「構わないよーなんせデュオの頼みだからねー」
2人はお互いが駆け出しのころに知り合いその時からの縁だ。
デュオは冒険者として活動するためにポーションなどの薬を依頼し、エルフォードは錬金術の研究のための素材集めを依頼したりとお互いがお互いを協力し合っていていたのだ。
最近ではエルフォードの研究資金をデュオが出していて頭が上がらない状態だったりする。
デュオの方もエルフォードの研究成果を貰ったりしているので全くの無償提供という訳ではないが。
「それじゃあ後は頼んだわよ」
「はいはいーお任せあれー」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
デュオは最後に火竜を狩るための戦力を揃えに自分の拠点である『月下』のクランホームに戻ってきた。
「よお、スティードがやらかしたって話じゃないか」
クランホームに着くなりデュオと同じA級冒険者のウェルが話しかけてきた。
彼はデュオと同じ孤児院出身で、クラン『月下』の中でも古参の1人でもある。
冒険者ギルドでのことはザック達に聞いたのだろう。ウェルはからかいながら面白そうにニヤニヤしていた。
「やらかしたじゃないわよ。これから大至急スティードを追いかけなきゃ。
それと火竜も狩ってこなきゃだし・・・ああもう、帰ってきた早々竜の巣って・・・」
「大変だなぁ~サブマスター様は」
「何暢気なこと言っているのよ。貴方も行くのよ?」
「は? ちょ!? 待てよ、俺も竜の巣へ行くのかよ!?」
寝耳に水だと言わんばかりにウェルは大いに慌てた。
彼とてA級冒険者である以上ドラゴンとの戦闘は可能だ。
だが竜の巣は様々な種類のドラゴンが犇めく巣窟だ。通常のドラゴンとの戦闘の何倍もの労力が必要になってくることだろう。
出来ればそんなことは関わりたくないのが心情だ。
「そもそもスティードのお目付け役は誰だったかしら?」
デュオは今にでも逃げ出そうとするウェルをその一言で止まらせる。
「あ、いや、幾らお目付け役とは言えいつもべったりとはいかない・・・だろ?
それに今日のお目付け役はミュウミュウに任せたし」
要は面倒は放棄して丸投げしていただけだったりする。
だがスティードと同じD級冒険者である猫人・ミュウミュウにはその役目は全く役に立たない。
それは今日の結果を見れば一目瞭然である。
「スティードの事はミュウミュウに任せてウェルは何をしていたのかしら・・・?
また女の子のお尻でも追いかけるのが忙しかったのかな・・・?」
「げっ、何でそのことを・・・」
「悪いけどウェルには拒否権は無いわ。サブマスターの命令よ。
それとティラミスとアルフレッド、アリアード。この3人にも火竜の討伐に参加をしてもらうわ」
頭を抱えて落ち込んでいるウェルを余所に、デュオは同じA級冒険者の僧侶ティラミス、B級冒険者の魔術師アルフレッド、同じくB級冒険者の弓道士アリアードの3人に竜の巣への同行を指示する。
「まぁティラミスとアルフレッドは向こうの世界の都合が良ければだけど」
ティラミスとアルフレッドは異世界人だ。
それ故異世界の生活もあるため、これから竜の巣へ向かうのに1日やそこらで利かないのでデュオはその心配をしている。
「あ、はい。大丈夫です! ダイガクのタンイはちゃんと取れてますので暫く離魂睡眠をしなくても大丈夫です!」
「あー、俺もニートだから向こうの世界は気にしなくても大丈夫ですよ」
少し聞きなれない単語が聞こえたが異世界の言葉だと理解し、デュオは2人が暫く天と地を支える世界に居てくれるのを安心した。
「それと美刃さんは帰魂覚醒した?」
その言葉と同時に、奥の部屋から1人の女性が現れた。
身長170cmほどで体つきは細身、美人顔でありながらその無表情な顔によりぱっと見、男装の麗人に見えた。
「・・・ん、おはよ」
彼女がこのクラン『月下』のマスターであり、世界で数えるほどしかいないS級冒険者の美刃だ。
「美刃さん、おはよう。目が覚めて早速で悪いけど一緒に竜の巣へ行ってもらいたいの」
「・・・ん、構わない。
いつもデュオには迷惑を掛けているから」
クラン『月下』は美刃とデュオの2人で作ったクランだ。
だが美刃は異世界人でもある。
異世界人である美刃は常に天と地を支える世界と異世界を行き来しなければならないので、常にクランの運営を出来るわけではない。
なので、サブマスターであるデュオがマスターである美刃の代わりに『月下』を取り仕切っているのだ。
2人でクランを作る時に決めた約束事でもある。
「そんなことないわよ。あたしも美刃さんにはいろいろ助けてもらっているから」
「・・・ん、そう言ってもらえると助かる。詳しい事情は竜の巣に行きながら聞く」
「よし、それじゃあ今言われたメンバーは早速準備に取り掛かって!」
「ちょっと待てよ!? この6人で行くのかよ!?」
さっきまで頭を抱えていたウェルはそれを聞いて思わず叫んでいた。
「そうよ、少数精鋭。無理に大勢で竜の巣に向かったって被害が大きくなるだけだもの。
S級が1人、A級が3人、B級が2人、十分すぎるほどの戦力だと思うけど?」
確かにランクで言えば戦力的に十分だ。
だが戦闘配置で言えば、前衛である美刃とウェル、後衛であるデュオ、ティラミス、アルフレッド、アリアード。
明らかに前衛に負担が掛かり過ぎていた。
「お前俺に死ねと言うのか・・・」
「あら、子供のころは「大きくなったらドラゴン退治するんだ」と息巻いていたじゃない。
良かったわね、夢が叶って」
「それは子供の時の話だろう! と言うか、とっくにドラゴン退治は済んでいるわ! お前がよく知っているだろうに!」
以前も今回の様に無茶振りでウェルを連れまわしドラゴン退治に向かったこともあったりする。
「だったらドラゴンの1匹くらい何の問題もないわね。
そうそう、そう言えば子供のころよく世界一の剣豪になるっても言ってたわね~」
「ああ、もう。分かったから、分かったから何も言うな。
火竜でも古竜でも何でも狩ってやるよ」
子供の頃の事を持ち出されてウェルは渋々ながらやけくそ気味に了承した。
もっともウェルはそんなことを言われなくても初めから同行するつもりではいたが。
これまでの態度は半分は面倒くさいのが本当で、半分は照れ隠しでもある。
「デュオさん、準備終わりました!」
そうこうしているうちに他のメンバーは準備を終えていた。
デュオは元々新人研修で遠征をしていて戻ったばかりなので多少の薬剤の補充の準備で済んでいた。
ウェルは元々すぐ何処へでも出れるように準備を備えているので何の問題もなかった。
クランホームの表に出ると他のメンバーが揃っており、美刃は騎獣舎から自分の騎獣であるスレイプニルを引き連れていた。
「・・・ん、繚嵐よろしく頼むね」
美刃の声に応えてスレイプニル――繚嵐はブルルと嘶く。
一行はまずは王城付近に存在する転移魔法陣がある施設へと向かった。
王都から竜の巣へまともに向かえば馬でも6日は掛かる距離だ。
なので転移魔法陣で水の都市ウエストヨルパへと移動し、そこから南の飛竜の渓谷を越えて竜の巣へと向かうのだ。
次回更新は1/1になります。