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DUO  作者: 一狼
第9章 正体不明
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48.その襲撃に隠された真実は

「トライエッジ!」


 ジェニファーの放つ剣戦技がハルトを襲う。

 剣戦技・トライエッジは一振りで3本の剣閃を放つものだが、麒麟の獣人であるジェニファーが放つトライエッジはまるで獣の爪を振り下ろしたかのような斬撃となる。


 対するハルトは、3本の釵斬の能力を発動させ逆三角形状の盾を作り放たれた斬撃を防いだ。

 その斬撃の余波はハルトの背にした建物に及び、巨大な獣が振り下ろしたかのような爪痕を残す。


「崩拳!」


 斬撃を防がれたジェニファーはすぐさま左の拳を付きだし拳戦技を放つ。

 放たれた拳戦技がハルトの展開した釵斬の盾を打ち砕きすぐさま切り替えした右の剣で再び剣戦技が放たれる。


「スラッシュストライク!」


 ジェニファーの振り下ろした一撃がハルトを捉え斬り裂いたかのように見えた。

 麒麟(ジェラフィン)であり魔人としての膂力から放たれるその一撃は地面へ巨大なクレーターを作り上げていた。

 そこにはハルトの姿は無い。

 辛うじてジェニファーの一撃を避けていた。


 だが、完全には躱すことが出来ず左腕に大きな裂傷が見えていた。

 この時点で左腕は完全に使い物にならない。


「ハイヒール!」


 そこへティラミスからの治癒魔法が飛ぶ。

 血を滴らせていたハルトの左腕はあっという間に完治した。


「サンキュー、相変わらず治癒の腕前は超一流だな」


「無茶はしないでと言いたいけど、相手が相手だからね。ある程度の怪我は治すから心配しないで戦って」


 戦闘のための魔法を幾つか使う事が出来るが、ティラミスは僧侶(プリースト)としてA級に上り詰めた冒険者だ。

 怪我や毒などの異常状態などあらゆる治癒魔法を使いこなしその腕は超一流と言えた。

 彼女が異世界人であることを鑑みればその凄さは驚嘆すべきものだろう。


「うーん・・・攻撃が当たっているのに、こうポンポン治されちゃうと手応えがまるで感じられないよ。

 ちょっとイラッとするね」


「それはこっちのセリフだよ。右手と左手で簡単に能力を切り替えやがって。やり難いったらありゃしない」


 ハルトとティラミスのコンビに対しジェニファーは実に楽しげなイラつきを感じていた。

 そしてハルトもジェニファーの器用さに驚嘆しつつやり難さを感じていた。


 ジェニファーは右手で剣を持ち、左手で素手の攻撃を行っていた。

 右の剣を振るう時にはモード剣技の使徒とモード達人の使徒でSwordMasterを。

 左手の拳の時にはモード究極の使徒とモード拳撃の使徒でUltimateKnuckleを。

 それを器用に切り替えながら左右の攻撃を放ってくるのだ。

 しかもその一撃一撃がシャレにならない威力を放っていると言う。


「ティラミスが居なけりゃあ、とっくに終わっていたつーの。なんだよこの化けもんは。とても同じ26の使徒に見えねぇぞ」


「む、こんなかわいい子を捕まえて化け物は無いと思うよ。謝罪を要求する!」


 一気に間合いを詰めたジェニファーは右の剣で掬い上げる様な一撃を放つ。

 ハルトは『刀装の使徒』の特殊能力・自在刀(エアリアルブレイド)で釵斬を操り、タイミングをずらして死角からジェニファーを攻撃する。

 それによってジェニファーの意識をずらし、斬撃をいなす。


 ジェニファーは斬撃をいなされながら左の拳を放とうとするが、ティラミスの援護で魔法を撃ち込まれ攻撃を放てず距離を取る。


「やるね。手加減以外でボクの攻撃を受けてここまで持つ人ってそんなにいないよ! 出来ればもう少しボクの本気を出されるまで持っていてよ!」


 ハルトはまだこれで本気じゃないのかと内心悪態をつきながらもジェニファーの攻撃を捌き続ける。

 普通の人の第三者から見ればハルトは追い込まれて辛うじて防いでいるように見えるだろう。

 だがジェニファーにはハルトの動きが逃げているようには見えなかった。


 攻撃を以て防御と成す。ジェニファーの攻撃に対し攻撃をぶつけ防御とし、常に隙をついてジェニファーへの一撃も忘れてはいない。

 そして何よりもハルトの目が何かを狙っているのが見て取れたのだ。


 ジェニファーの攻撃を避け、ハルトは気が付けば建物を背に追い込まれていた。

 チャンスとばかりにジェニファーは左拳で止めの一撃を放つ。


「螺旋撃!!」


 ハルトは一見追い込まれたかのように見えたが、それがハルトの作戦だった。

 ジェニファーは拳を放つ瞬間にそのことに気が付いたが、既に手遅れだった。


 ハルトは3本の釵斬をジェニファーの拳戦技を放つ腕に当て軌道をずらし、何とかその一撃を躱す。

 それと同時に背にした建物の柱をジェニファーに砕かせる。

  捻じりを入れた拳戦技は見事に建物を支える柱を打ち砕き、2階建ての建物は瓦礫となって崩れ落ちた。


 その瓦礫はジェニファーを巻き込み生き埋めにする。

 しかもティラミスの援護によりジェニファーをその場に封じ込めた。


「ホーミングボルト!」


 無属性魔法の自動追尾弾によりジェニファーはエネルギー弾に打ち付けられながら瓦礫に埋もれていく。


 ハルトはジェニファーの攻撃を躱した瞬間に既にその場から離脱している。


 建物が全て崩れ落ち、ジェニファーが生き埋めになった瓦礫をハルトは警戒する。

 当然ハルトはこれだけで魔人が倒せるとは思ってはいない。これは更なる次の一手の布石に過ぎないのだ。


「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」


 瓦礫の一部が崩れたと思った瞬間、瓦礫が爆発して中からジェニファーが弾かれるように現れた。


 ジェニファーはすぐさまハルトを捜し辺り一面を見るが、その姿は見えなかった。

 代わりにティラミスからの魔法の追撃が放たれるのを見た。


「セイクリッドブラスト! ブラスブレイザー!」


 聖属性魔法の青い光と無属性魔法の青緑の光の二連撃がジェニファーを襲う。

 ジェニファーは咄嗟に左拳でUltimateKnuckleを放ち迎撃する。

 だが弾く事が出来たのは一つだけだった。聖属性魔法のセイクリッドブラストが右上半身に炸裂した。


 魔人であるが故に致命傷にはならなかったものの、まともに喰らった事により頭が弾かれ一瞬意識が持って行かれた。

 そして意識が回復する瞬間に頭上に影が差すのが見えた。


 見上げれば上空からハルトが剣を振り下す姿が目に映った。


「刀戦技・天牙一閃!!」


 ハルトが狙っていたのはこれだったのだ。

 ジェニファーが瓦礫に埋まらせることによりダメージと同時に視界を失わせる。そして出てくる瞬間を狙って上空からの落下の威力も合わせた一撃を叩き込む。

 上空へは自在刀(エアリアルブレイド)で3本の釵斬を使いで空中に足場を作り階段のようにして駆け上がったのだ。


 ザシュッ!


 ティラミスの追撃の援護もあって、ジェニファーは初めて大きな傷を負った。

 左肩から右わき腹に掛けて大きく切り裂かれ大量の血が噴き出す。


「っし! どうだ、今の一撃は流石に効いただろ。大人しく降参すれば傷の手当てをしてやってもいいぜ」


 今の一撃が効いたとしても、相手は魔人であり『正躰不明の使徒』だ。

 ハルトは油断なく構え、ジェニファーの返事を待つ。


「あは、予想以上だね。ボクにここまで大怪我を負わせたのはそんなに居ないよ。最近じゃ『八翼』のディープブルーって異世界人に傷を付けられたかな?

 でも、これなら本気のボクを出してもいいかも」


 大量の血を流しながらもジェニファーは笑っていた。

 ハルトとティラミスはそんな異常な光景を見ながらも警戒を怠らない。

 そう、次第にだがジェニファーから流れ出る血が少なくなってきているのだ。

 麒麟(ジェラフィン)としてもその回復速度は異常だった。


「モード超越の使徒とモード覇動の使徒

 ―――OverDrive」


 筋肉が膨れ上がり、頭から伸びた麒麟(ジェラフィン)の角が枝分かれをし、鋭さが増す。腕や足の肌には竜のような鱗が浮かび上がり、前景になった姿勢は獣の姿を思わせる。

 ジェニファーから放たれる圧倒的獣気にハルト達は気圧される。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「どっせいっ!」


 アムルスズの振り下ろした巨大な鎚が地面へクレーターを作り上げる。

 持ち上げた巨大鎚を今度は振り回し、周囲の建物を薙ぎ払う。


 建物が崩れ落ちる粉塵に紛れてアムルスズは再び巨大鎚を振り下ろしピノを押しつぶそうとする。


 ピノはグレートソードを盾にしながら急いでその場から離れる。


 アムルスズの攻撃は先程から巨大な武器を振り下ろすか薙ぎ払うかの2択だが、ピノとシフィルはアムルスズに近づけないでいた。


 特に振り下ろしの攻撃は単純でありながらもその威力により、地面を打ち砕きその破片が周囲に飛び散ることにより容易に近づくことが出来なかったのだ。


 お蔭でここら辺一帯の建造物はほぼ壊滅状態で、周囲には無数のクレーターが出来上がっていた。


「参ったね。単純だけど一番効果的な攻撃方法だね。お蔭で近づけやしないよ」


「頭上からの攻撃は? 振り降ろし直後なら隙だらけのはず」


「武器が巨大すぎてアムルスズっちに近づく方法が無いの。あちしの跳躍よりあっちの武器の範囲が広すぎ。

 それに周囲に建物を利用するにも、その判断はちょっと遅かったみたいだし」


 実はジャンプには戦技が存在し、ジャンプ戦技を極めれば空中で二段ジャンプや多段ジャンプが可能なのだが、シフィルはそこまでジャンプ戦技を極めてはいない。

 それ故、アムルスズが振り回す武器を越えての跳躍は不可能だった。

 そして周囲の建造物が破壊されたことにより、建物の上からの攻撃も封じられた。


「・・・なら被弾覚悟で突っ込むしかないな」


「ピノっちは今は鎧無しでしょ。流石にあれに突っ込むのは無謀なんじゃ?」


「今回は機動性を重視したからな。こんな事だったらせめてグレートシールドくらい持ってくるんだったな。

 まぁ、無謀でもなんでもやるしかない。私が突っ込んだらシフィルは背後から狙え」


「了解。気を付けてね」


 被弾覚悟でアムルスズの振り降ろしに突っ込もうとしたが、肝心のアムルスズは巨大鎚を仕舞い、今度は普通の剣を生み出した。


「モード刀剣の使徒・Blade。カテゴリ:レア:飛翔竜の剣」


 巨大な武器じゃない事に訝しんだ2人は攻撃には移らず、アムルスズの動きを見て対応することにした。


「さて、と。準備は終わりだ。お前らは対応を間違えた。俺が武器を大振りしているうちに倒すべきだったな。

 ここからはお前らには避ける暇も無く踊ってもらうぞ。

 モード刀剣の使徒・Blade。カテゴリ:ランダム:無限創造。

 モード斧鉞の使徒・Ax。カテゴリ:ランダム:無限創造。

 モード槍戟の使徒・Lance。カテゴリ:ランダム:無限創造。

 モード破鎚の使徒・Hammer。カテゴリ:ランダム:無限創造」


 アムルスズは片足を踏み鳴らす。

 するとそこから次々に各種の武器が地面から生え、ピノとシフィルに向かって行った。


 次々隆起するように地面から生えて向かってくる武器をピノはグレートソードで薙ぎ払い、シフィルは串刺しにならないよう素早く避ける。


 素材はクレーターで出来た土や建造物の瓦礫の石で出来ているらしく、ピノの振り回す剣によりあっさりと砕け散る。

 だがその砕け散った破片すらも素材と成し、ピノの周囲に再び地面から剣や槍などが生えて串刺しにしようとする。


 シフィルもまるで波のように向かって生えてくる武器を避けるが、今度は別方向からの武器の波に襲われる。

 向かってくる速度は遅いから簡単に避けることが出来るが、いかせん数が多い。

 そしてその隙をついてドワーフとは思えぬ速度で間合いを詰めたアムルスズが剣を振るう。

 これまでの巨大な武器よりも小さな剣の為、その剣速は比べ物にならない速度でシフィルに迫る。


「くっ!」


 辛うじてレイピアを回し弾き飛ばす。そして弾いた事を安堵する暇も無く、続けざまに武器の波が押し寄せる。


 無限に続くかのように思える武器の波にピノとシフィルは次第に追いつめられる。

 特にシフィルは武器の波を避けているだけなので次々地面から生える武器に囲まれ逃げ場を失ってきたのだ。


 無論、アムルスズがそうなるように動いていた。


「あぐっ!」


 隙をついてシフィルの足を斬り裂く。

 足を斬りつけられ機動力を失ったシフィルにアムルスズの攻撃を躱すすべはない。

 片足だけで何とか躱していくが、周囲が武器の剣山と化した袋小路に追い込まれた。


「モード斧鉞の使徒・Ax。カテゴリ:ユニーク:ブラストアックス」


 アムルスズは巨大な戦斧を作り上げ、身動きが取れなくなったシフィルに止めを刺すべく振り降ろす。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 『最強の正躰不明の使徒』――ソロはそう名乗った。

 ソロが使える『正躰不明の使徒』の能力は100年前に魔王を倒し神になったと言われる七王神の能力が使える事だと言う。

 それが本当だとすれば確かに『最強』と言えよう。


「・・・マジか? それって一辺に七王神全員が相手だって事かよ」


「ソロお兄ちゃんの言う事が本当ならね。と言うか、ほぼ間違いないわ」


 流石にスケールが違う相手にウィルは否定したい気持ちでいたが、デュオの口から出たのはほぼ肯定の言葉だった。


「だから俺は余程の事が無い限り使徒として活動することは無いんだ。この力は強すぎるからな。

 けど今回はエンジェルクエストが停滞気味な事から大規模の変革が必要なんだとさ。その為俺まで駆り出されたってわけ」


 ソロも乗り気じゃないのか、戦闘時特有のイマイチ緊張感が感じられない。何処かこれから遊びに行くかのような雰囲気するら感じられる。

 それも『最強』の名を冠するが故の余裕か。又は油断か。


「大規模の変革って? それがエンジェルクエストとどう関係するの?」


「お、トリニティ、いい質問だ。それも鈴鹿の為に盗賊(シーフ)としての役目を果たそうとしているからかな?」


「茶化さないでよ。いいから答えてソロお兄ちゃん」


 探りを入れるつもりが逆にこちらの情報が筒抜けな事に驚きつつもトリニティはソロへ質問の答えを求める。


「残念だが聞けば何でもすぐ答えが返ってくると思わない方がいいぞ。正しい答えを返してくれるとも限らないし。

 まぁ、ぶっちゃけ答えを知りたかったら力尽くで来なって事だな」


「ソロお兄ちゃんが負けを認めれば答えてくれると?」


「答えられる範囲内ならな」


「分かった。それだけでも十分よ」


 それだけ聞けば十分だとトリニティは俄然やる気を見せる。

 ソロの言う通りではあるが、トリニティはソロの口から出たエンジェルクエストの秘密の一端を少しでも解明し鈴鹿に届けようとしているのだ。


 アイより情報屋としての手解きを受けた時にエンジェルクエストは普通のクエストじゃない事を聞き及んでいたのだ。

 尤も女神アリスが発行していること自体が普通ではないのだが。


 では何が普通じゃないかというと、最終的に至るアルカディアの存在がこの世のものじゃない(・・・・・・・・)と言う事らしい。

 神の世界だからそうなのではと思っていたのだが、もしかしたら別の意味が隠されているのではとトリニティは思い、ソロの口から出た意味深な言葉がそれに引っかかったのだ。


 そしてそんなやる気のトリニティとは裏腹に、ウィルは珍しく若干腰が引けた状態だ。


「トリニティ、お前随分やる気だな・・・相手は七王神だぜ?」


「ウィル、何か勘違いしているわね。あれは七王神じゃないわ。ただのソロお兄ちゃんよ。

 それに鈴鹿の話じゃ能力を同時に使うのは麒麟(ジェラフィン)の使徒だけらしいじゃない。

 七王神の能力を使えるのは1つずつだけ。一度に全部の七王神の能力を使える訳じゃないわ」


「そう・・・なのか?」


「そうね、トリニティの言う通りだわ。確かに一度に7人の七王神を相手するわけじゃない。鈴鹿の証言通りだとすれば使う能力も1つだけ」


 七王神の能力と言うインパクトに惑わされていたが、トリニティの冷静な判断がデュオの思考をも覚醒させる。


「そして何よりこんなことはあたしにとっては当たり前すぎるくらい当たり前なのよ。こんな困難は乗り越えて当たり前。鈴鹿と一緒に居ればどんな無茶も突き通すしかないのよ」


「おま・・・幾らなんでも度胸があり過ぎだろう。いったいどんな旅をすればそんな風になるんだよ。

 ・・・いや、聞いてはいるが、普通はそこまで至るのに何年も掛かるもんなんだぞ。

 まぁ、エンジェルクエストをほぼ2か月で攻略しようとしているのを考えればそうなるのも頷けるか?」


「あはは、ウィルよりもトリニティの方がベテランじゃないの。

 ウィル、あたし達も負けてられないよ。姉としてトリニティに良いところ見せないと」


 トリニティの鈴鹿達と旅をしてきた時間は確かに他の冒険者よりも遥かに濃い。

 それもデュオやウィルに匹敵するくらいの。


 そしてそれに触発されたデュオは負けてられないとばかりに自らを奮い立たせる。

 それを見たウィルも惚れた女の前で情けない姿を晒したことを恥じ、それを吹き飛ばすかのように気合を入れる。


「おー、見事見事。それでこそ俺の妹たちだ。

 なら遠慮はいらないな。掛かってこい。お兄ちゃんが思う存分相手になってやるよ。

 あ、ウィルはついでな。そうそう俺を倒す人でないと認めません。」


 ――何がとは言わなくても分かるよな?

 暗にそう言っているのをウィルは感じる。これは何が何でも負けられないと。


「では早速、まずは小手調べで。モード戦乙女の使徒・Valkylie」


 ソロは剣を抜き呪文を唱えデュオ達に向かってくる。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「フシュルルルルル・・・ガァッ!!」


 ジェニファーが裂ぱくの気合いと共に一気に間合いを詰めて拳を振るう。

 ハルトは釵斬を自在刀(エアリアルブレイド)で操り、ジェニファーの拳に当てて軌道をずらす。

 その上で鬼丸国綱で腕の上から叩きつけて攻撃をいなす。


 ジェニファーの腕は鱗のような硬質した皮膚に覆われていたので傷が付くことは無かったが、攻撃を下に居なされたことによりつんのめる状態でバランスを崩す。

 だがその勢いに逆らわず前方に回転することにより後ろ回し蹴りを放った。


「がっ!」


 まともに攻撃を受けたハルトはそのまま吹き飛び地面を転がる。

 何とか起き上がりティラミスから治癒魔法が飛ぶ。


「ハイヒール!」


 蹲っているハルトをジェニファーはつまらなそうに見ていた。


「それだけ? ねぇ、もっと楽しませてよ」


 モード超越の使徒とモード覇動の使徒・OverDriveを発動させたジェニファーの強さは圧倒的だった。

 ハルトも否応なく防戦一方に追い込まれ、ティラミスも治癒魔法に専念するのが精一杯だった。


 その後もジェニファーの一方的な攻撃が続き、その度にハルトが傷つきティラミスが回復すると言う事が数十分続いた。


「はぁ、つまんない。もう終わりにするよ」


 これ以上期待した展開が望めないと判断したジェニファーはさっさと終わらせようとした。

 少しでも長く楽しめるように素手で攻撃してきたが、今度は止めを刺すために剣を持つ。


 一気に間合いを詰めて剣を振り降ろすが、ハルトの展開した釵斬の盾と鬼丸国綱にいなされ攻撃を外した。

 これまでなら例え釵斬の盾に阻まれようと攻撃を受け流されようとOverDriveの全力をもってすればそれらごと切り捨てることが可能だったはずだ。


 ジェニファーは何が起こったのか戸惑いながらも再び剣を振るう。

 だがその剣すらもあっさりと躱された。


「な、なんでっ!?」


「はっ、やっぱり気付いてなかったか。今自分の体に何が起こっているのか。強過ぎるのも考え物だなぁ、おい」


 先ほどまではジェニファーの圧倒的な強さにハルトは押されていたが、今では互角の戦いをしている。否、次第にだがハルトの方が押し始めていた。


「おめぇ、今までそのOverDriveを殆んど使った事はねぇだろ? だから気が付かなかったんだよ。そのモードは気力魔力を莫大に使うってな。

 今のてめぇはとっくにピークが過ぎてんだよ」


 圧倒的な力を誇るモード超越の使徒とモード覇動の使徒・OverDriveだが、その強力さ故にジェニファーの体が付いてこれないのだ。

 OverDriveはどちらかというと持続的な力より瞬間的は爆発力を増すモードなのだ。

 例えるなら密閉された容器に爆薬を入れて破壊力を増す様なもの。

 それ故、麒麟(ジェラフィン)の魔人とは言え、大量のエネルギーを消費し使用時間が極端に短い。

 そのことに気が付いたハルトはピークが過ぎるまで防御態勢で凌ぐことにしたのだ。


「後はてめぇの力が落ちていくのを待つだけだってな。例え致命傷を負ったとしても――」


「あたしが治す。大賢神の神速の癒し手程じゃないけどこれでも治癒魔法に関しては誰にも負けるつもりはないわ」


 ジェニファーがつまらなそうに戦っていた相手は、実はそれすらも作戦に入れる曲者だった。

 そのことに気が付いたジェニファーに笑みがこぼれる。


「あは、あははははっ。面白い、面白いよ! さっきまで舐めていたのは謝るよ。

 だけど勝つのはボクだ! 負けたら面白くないからね!」


 抜けていく力を感じながらもジェニファーはなんとかそれを抑え残った力をかき集める。


「いいや、これで終わりだよ。

 哭け、鬼丸国綱。血涙慟哭刃」


 振りかぶったハルトの鬼丸国綱の刀身がまるで血のように真っ赤に染まる。


 それを迎え撃つジェニファー。

 残った力を振り絞り、ハルトに対抗するよう右手で剣を下段から掬い上げるように斬り上げる。


 もしこれが両手で行っていたら結果は違っていたのかもしれない。


 突如どこからともなく飛来した閃光のような槍の投敵がジェニファーの右腕を抉り飛ばす。

 反撃の手段を失ったジェニファーにハルトの一撃が容赦なく振り降ろされた。


「刀戦技・神威一閃!」


 ハルトの一撃はジェニファーを斬り裂き大きな傷を負わせた。

 それと同時にOverDriveの力も失いその場へと倒れ込んだ。


 ジェニファーはこれまで『正躰不明の使徒』として何人かの冒険者と戦ってきたが、いづれも手を抜いたりさっさと見切りをつけて使徒の証を渡したりして本気で戦った事は少なかった。

 それが今回本気で戦って負けた。そのこと事体は悔しかったが、どことなく満足している自分に驚きながらも意識を失った。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 止めを刺そうと戦斧を振り下ろすその前に、突如シフィルを取り囲んでいる武器の剣山が崩れ去る。

 ピノがグレートソードで袋小路になった武器の剣山をシフィルの反対側から薙ぎ払ったのだ。


 そのグレートソードの軌道はシフィルをも巻き込み(・・・・・・・・・・)アムルスズへ届いていた。

 咄嗟に巨大な戦斧を手放し距離を取ったが、間一髪間に合わず腹部に横薙ぎの一閃を受けてしまう。


「ちぃ、まさか仲間ごと切り捨てるとは・・・」


 躊躇なくシフィルを巻き込んで攻撃してきたピノに戦慄を覚えアムルスズは警戒を顕にする。

 だが目の前のピノとシフィルを見て驚愕する。


「なぁっ・・・無事だとっ!? あり得ん! 間違いなく斬られたはずじゃ・・・!」


 そこでアムルスズは今の攻撃方法があることに酷似しているのを思い出した。


 祝福(ギフト)攻撃透過(ブレイクスルー)

 攻撃だけに効果がある祝福(ギフト)だが、使用者の任意の物だけを攻撃判定を当てることが出来ると言うA級祝福(ギフト)だ。

 つまりピノの攻撃したいものだけを攻撃できると言う破格の祝福(ギフト)なのだ。


 余談だが、ピノは武器を使う接近戦特化だから効果は小規模だが、魔法使い系にとっては喉から手が出るほどの祝福(ギフト)だったりする。

 何故なら味方への誤爆の心配が無く、広範囲魔法を打ち放題だったりするからだ。


 そこでアムルスズはおかしい事に気が付く。

 ピノに与えられた祝福(ギフト)はC級の怪力(ストレングス)。これは周知の事実でさっきもピノが自分の祝福(ギフト)の事を言っていた。


 祝福(ギフト)は1人に付き1つであり、2つ持つことなどあり得ない。

 これは女神アリスにより定められた世界の法でもある。


 だが噂では唯一の例外として女神アリスに真の祝福を与えられる者が居る。それが・・・


2つの祝福を受けし者(ダブルギフトホルダー)・・・」


 とてもじゃないがアムルスズは目の前の出来事が信じられなかった。

 ピノの2つの祝福(ダブルギフト)の動揺に、致命傷に等しい腹部の傷。その影響で先程までピノたちを追いかけていた無限創造の武器の波が止まっていた。


 ピノはそんなアムルスズにお構いなしに次々に攻撃を仕掛ける。

 アムルスズは新たに剣を作り上げピノのグレートソードを受けようとするが、その剣を透過しアムルスズ本体のみを斬り裂いていく。


 これは守勢に回ると不利になることを悟ったアムルスズは距離を取り切り札を使う事にした。


「モード弓王の使徒・Bow。カテゴリ:レジェンダリィ:アポロンの弓!

 モード槍戟の使徒・Lance。カテゴリ:レジェンダリィ:グングニル!」


 アムルスズは身の丈もある神話級の大弓・アポロンの弓を作り上げ、更には同じく神話級のグングニルを作り上げ矢の代わりにアポロンの弓に添える。


「我流使徒大弓流奥義・全てを貫く者(ペネトレイター)!!!」


 アムルスズの放ったグングニルは一条の閃光となりピノの胸を貫きそのまま建物の向こうまで貫いていった。


 因みに、その建物の遥か向こうには最後の力を振り絞り攻撃しようとしたジェニファーの右腕を貫いていた。


 ピノの胸には大穴が空き、動きが止まる。

 それを見てアムルスズはやったと思ったが、次の瞬間にはピノの胸から炎が吹き上がり全身を覆い尽くす。


 全てを貫く者(ペネトレイター)にはそのような能力が無かったと記憶していたので訝しげに思っていると、その炎の中から無傷のピノが飛び出し炎を纏った腕でアムルスズの胸を貫いた。


「バカ・・・な・・・確かに、グングニルが貫いた、はず・・・」


 崩れ落ちるアムルスズにピノは無慈悲に告げる。


「S級祝福(ギフト)不死鳥(フェニックス)。1日に1度だけ致命傷を負っても炎の中で蘇る不死を誇る祝福(ギフト)

 尤もデメリットを考えるとあまり使いたくない祝福(ギフト)だがな」



 デメリットとは炎に包まれ蘇ることにより、身に着けている者すべてが灰になると言うものだ。

 その為、今のピノの姿は一切何も身に着けていない真っ裸だったりする。


 アムルスズは最早そんなことは聞いてはいなかった。


3つの祝福を受けし者トリプルギフトホルダー、だと・・・このチート野郎、め・・・」


 自分の『正躰不明の使徒』の事を棚に上げ、アムルスズは女神アリスの理不尽さを恨みながら崩れ落ちた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ゴウエンは強引にアルフレッドとウルミナを引き連れこの王都に溢れる魔物を召喚したアレストに辿り着いた。

 途中でジャドを見つけなければアレストには辿り着けなかっただろう。


「俺達の任務は魔物退治なんだが・・・」


「良いじゃないですか。臭いものの元を断たなければ意味がありません」


「その役目は本来は幹部の仕事でござる。拙者たちが首を突っ込むのは些か越権行為と思うのでござるが」


「何をごちゃごちゃ言ってやがる。見つけたぜぇ! あのクソッたれ野郎!」


 ゴウエン達の目にはアレストと戦う鈴鹿が映っていた。

 そしてどういう訳か、その後方には噂の刀狩りのスケルトンが変異アラクネとリッチと戦っていた。


 ゴウエン達は鈴鹿とアレストの戦いに割り込み、次々に召喚される魔物を屠っていく。

 鈴鹿はどうやら後方の刀狩りのスケルトンを気にしているらしく、一気にけりをつけるべく使徒の証の特殊スキルを使用し狼人(ウィーウルフ)・・・いや、神狼(フェンリルイド)へと変身する。

 同時に他の特殊スキルを併用し強化を図る。


「ちっ、仕方がない。ここで僕がやられるわけにはいかないんだ!

 ――魔獣憑依召喚! 魔狼神月王!!」


 それに対抗してか、アレストも鈴鹿と正反対の漆黒の狼人(ウィーウルフ)へと変身した。

 アレストが行ったのは召喚と同時に融合する召喚魔法だ。

 そしてその対象となる召喚獣は魔狼――ヴァナルガンド。神狼フェンリルと双璧を為すと言われている魔物だ。


「はははっ! これで君たちの勝ちは無くなった!

 僕が融合したのは神狼フェンリルと双璧を為す魔狼ヴァナルガンド! 力とスピードは他のモンスターとは比べ物にならない! そして何よりもその再生力は最早不死身と言っていいくらいだ!

 そもそも何故神狼フェンリルが最強の神獣なのだ? 違うだろう。魔狼ヴァナルガンドこそが最強の神獣だ! その力篤と見せてあげるよ!」


「うるさい」


 ぼぎゅっ!!


 どさっ。


 御託の多かったアレストにイラつきを増した鈴鹿が無造作に放った一撃が魔狼(ヴァナルガンド)化した体の2/3を吹き飛ばし、胸から上と左上が残ったアレストが地面へと落ちる。


「「「え?」」」


 あまりの光景に攻撃を放った当の本人である鈴鹿、攻撃を喰らったアレスト、アレストを倒そうと意気込んでいたゴウエンの3人は思わず唖然としてしまった。


「えー・・・っと、ゴウエン、後は任せた」


 少々気まずい感じになった鈴鹿は後の事をゴウエンに任せそのまま刀狩りのスケルトンへと向かう。

 刀狩りのスケルトンの方は変異アラクネとリッチを倒しこちらへ向かってくるところだったのだ。


 当然ゴウエンは喜んでこの場を任された。


「そんな馬鹿なっ!? 魔狼(ヴァナルガンド)と化した僕が負けるはずがない!!」


 自分の身に起こったことが信じられないアレストが喚いているが、ゴウエンにはその叫びすら心地よい音色に聞こえた。


「いい様だな。散々人を見下しておいて自分が見下される立場になってどうだ? さぞかし気分がいいだろうな」


「ふざ、けるなっ!! 僕は魔人だぞ! 『正躰不明の使徒』だぞ! 貴様ら如きに負ける事は出来なんだ!」


 アレストはかつては支配したゴウエンに逆に見下された事に怒りを覚え、すぐさま体が再生し攻撃を仕掛ける。

 魔狼(ヴァナルガンド)の身体能力を生かしての攻撃だったのだろう。だが、先ほどの鈴鹿の一撃はアレストの体力やら魔力やらを奪い取っていた。


「なんだ、この攻撃。こんなのが魔人だとは、笑わせるぜ」


 アレストの攻撃してきた拳に向かって剣を振るい、腕を切り落とす。

 そしてゴウエンの作った隙を見てジャドがアレストの影の中から現れて鎖の束縛魔法で動きを封じる。

 こうなれば後は煮るなり焼くなり好き放題だ。


「ゴウエン殿、今こそ恨みを晴らすチャンスでござる」


「ふざけるなぁっ! 僕が! 僕が・・・!」


 鎖に雁字搦めで動きを封じられたアレストを見て、ゴウエンは急に冷めてしまった。


「・・・こうなってくると、何か憐れだな」


「そうですか? 自業自得だと思いますが」


「・・・ウルミナって結構毒舌だったんだな」


 そんな毒舌を吐くウルミナをアルフレッドはちょっと引き気味だった。


「ではどうするでござるか? まさかこのまま放っておくわけにもいかぬでござるよ」


 ここでアレストを倒しておかないと王都に際限なく魔物が溢れかえることになる。

 ジャドは興が覚めたゴウエンがこのまま逃がすのではと懸念をしたが、それは杞憂だったようだ。


「いや、一思いに止めを刺す」


 未だに喚いているアレストを見てゴウエンはこんな奴に拘っていた自分が馬鹿らしくなったのだ。

 そしてせめてもの介錯の一撃がアレストの首を刎ねる。


 既に召喚された魔物は消えないだろうが、これ以上魔物が召喚されることは無くなった。

 後は騎士団や国軍兵と協力して残った魔物の排除をするだけだった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「はぁはぁ・・・」


「ソロお兄ちゃん、強すぎ・・・」


「くそ・・・文字通り『最強の正躰不明の使徒』かよ・・・」


 ソロの前にデュオたちは満身創痍で蹲っていた。

 ソロの使用する七王神のモードに殆んど為す術が無かったのだ。


 いや、対抗できるモードはあった。


 モード戦乙女の使徒・Valkylieは全ての武器を十全に使用できる特性を備えているが、ソロが使用するのは一振りの剣のみ。

 強さは格段に上がったが、敵わない程ではなかった。


 次にソロが使用したのはモード天魔の使徒・Tenma。極大魔力と言う人ならざる魔力を持つ魔法を主体とするモードだ。

 とは言え、ソロは前衛タイプで魔法の扱いに関してはそれ程長けてはいない。

 反対にデュオは魔法に精通しており、その差が辛うじてソロを上回る要因となった。


 そして次に発動した2つのモードがデュオ達を苦しめた。


 モード鬼神の使徒・Kisin。これはセントラル遺跡で出会った紫電のように鬼に変身する能力を兼ね備えている。

 鬼の姿になったソロは素手でありながら圧倒的身体能力で次々にデュオ達を打ちのめしていく。


 モード剣聖の使徒・Arcsword。これが今ソロが使用しているモードだ。

 その剣閃は目にも止まらず、剣戟は地をも割り、剣術はS級の美刃すら匹敵していた。


「どうした。それで終わりか? お前らは俺を、俺達を止めるんじゃなかったのか?」


「言われなくても俺達が止めてやるよ!

 剣戦技・バスターブレイカー!!」


 ウィルの中では最大の攻撃力を誇る剣戦技だ。

 愚直にも真っ直ぐに向かい、ソロへと振り降ろす。


「ダメだ。全然なっちゃいねぇ。満身創痍だろうが、放つならもう少し工夫しろ」


 ソロは円を描くように下段から薙ぎ払いウィルの剣戦技を軽く受け流す。

 傍目では大した力を入れていないように見えるが、その威力はウィルの放ったバスターブレイカーに匹敵していた。


「デュオとトリニティは何時までそうしてるつもりだ?

 まぁ、トリニティはもう動けないだろうけど」


 トリニティは使徒の証を使用し、一時はソロをも圧倒していたのだ。

 『災厄の使徒』と互角の力を示したFの使徒の証の特殊スキル狼神(フェンリルイド)を基本とし、S・Zの特殊スキルの複合技で立ち向かっていった。

 ついでにBとPをも追加して魔闘気と力を5倍にした上で。


 そうした特殊スキルの多重使用により蛇腹剣の無弦モード(弦が無く分割した刃のみを自在に操る)を駆使してまでソロを圧倒していたのだが、制限時間内にソロを倒すことは出来ずにトリニティは現在特殊スキルのデメリットで最早まともに動く事すら敵わなかった。


 そしてデュオも同様に特殊スキルのデメリットで身体能力が大幅に下がっていた。


 デュオもエンジェルクエストを幾つかクリアし使徒の証の特殊スキルを使う事が出来る。

 だがメリットよりデメリットが大きすぎる為、デュオは殆んど使う事が無かった。

 それを今回は覆してまでSの使徒の証・Startを使ったわけだが、あと一歩及ばずに効果が切れてしまったのだ。

 その上卵の十冠(デケム・オーブマ)にチャージされた10個の魔法は使い切り、デュオの血に魔力を込めて無詠唱で魔法を放つ魔導血界すらも通じなかった。


 デュオは血に塗れた姿で杖を突いて何とか立ち上がる。


「舐めないでよね、ソロお兄ちゃん。あたし達の実力はこんなもんじゃないわよ」


 幸いさっきのウィルの攻撃がソロをいい位置に誘導していた。

 準備は整っている。

 デュオは血に魔力を流し、ソロの周囲に撒かれたデュオの血が線を結び魔法陣と化す。


「ゲヘナストーン・ペンタグラム!」


 魔法陣に描かれた六芒星のそれぞれの頂点に地属性魔法のゲヘナストーンが隆起し、ソロを取り囲む。


「サンダーストーム・ゲヘナプリズン!!

 エクスプロージョン・ゲヘナプリズン!!」


 輪唱呪文で唱えていた火属性魔法と雷属性魔法がソロを襲う。

 六芒星に配置されたゲヘナストーンとその魔法陣により更に威力が倍増しての攻撃だ。

 流石にこれにはソロも無傷ではいられないだろう。


 とは言え、相手は『最強の正躰不明の使徒』だ。油断せずに魔方陣内で吹き荒れる雷炎を見ていると、そこには信じられない光景が目に移る。


 なんとソロは剣を避雷針代わりにしてサンダーストームの雷雨を集め、その雷を纏った剣を高速で振ることによりエクスプロージョンの爆炎を斬り裂いていた。


「剣気魔纏武装・雷華」


 普通であれば避雷針代わりと言っても雷を受ければ感電するはず。

 おそらく剣気魔纏武装とやらがその秘密を担っているのだろう。


「うそ、でしょ・・・あれを受けて無傷って・・・化け物過ぎるわよ」


 実際はまるっきりの無傷ではないのだが、デュオの予想からしてみればほぼ無傷と同じようなものだった。


「打つ手、無しか・・・?」


 流石にこれにはウィルもお手上げとばかりに諦めの境地に達していた。

 そんな2人に活を入れる者が居た。


「待って、まだ諦めないで」


「トリニティ・・・?」


「これ以上何が出来るっていうんだ」


 デュオはこれでも諦めないトリニティに驚き、ウィルはそんなトリニティに悪態をつく。

 特殊スキルの影響で最早まともに動けないトリニティだが、体は動かなくても頭はまだ動く。

 諦めの悪さはエンジェルクエストの攻略の旅で散々鈴鹿を見て学んでいるのだ。

 そう、その鈴鹿から一発逆転の手札を貰っているのだ。


「ウィル、忘れているでしょう。鈴鹿から切り札を預かっていることを」


「あっ!」


 そこで思い出したようにウィルは腰の後ろに差した刀を思い出す。

 確かにこれが決まれば逆転は可能だと言う事に。


「お姉ちゃんはウィルの攻撃の隙を。ウィルは・・・分かっているわね? なんとしても当てて来なさいよ」


「ああ、任せておけ。

 いいか、デュオ。俺の攻撃が当たったら一発デカいのをぶちかませ。例え俺がどんな状況だろうと構うな。

 でなければあの兄貴には到底勝てないぜ」


「・・・分かってる。ソロお兄ちゃんに勝つにはもうなりふり構ってられないわ。

 でも、なるべく避けるようにしてよ」


「・・・そんな余裕がればいいがな。ちょっくら行ってくる。デュオ、後は任せたぜ」


 ウィルはまだ腰の刀は抜かずにオリハルコンのバスターソードを掲げソロへの隙を伺う。

 デュオの魔法を合図にウィルは一気に間合いを詰める。


 無属性魔法の自動追尾弾に再び雷の嵐、更には水の竜巻で視界を遮る。

 そこには同じ魔法のサンダーストームを放つことでソロの油断を誘う意味もあった。


 デュオの狙い通り、ソロは先程の剣気魔纏武装を用い安々とデュオの魔法を打ち砕く。

 ウィルは粉塵止まぬ隙を縫ってソロへの間合いに入り、一撃を放った。


「まだ甘い!」


 ソロはそれすらも読んでウィルの放つ一撃を弾き、そのまま反撃の一閃を放つ。


「甘いのはどっちかしら?」


 ソロはトリニティのぼそりと呟く声がやけに鮮明に聞こえた。

 その声に反応して周囲の気配を探ると、ソロの死角から無弦モードの蛇腹剣の刃が迫っていた。

 咄嗟に剣を翻し蛇腹剣の刃を弾く。


 その一瞬で十分だった。

 ウィルはソロに迫る前に腰の刀をKの使徒の証の特殊スキルで操りソロの背後に配置していたのだ。

 特殊スキルKatanaは1種類1本だけだが『刀装の使徒』の自在刀(エアリアルブレイド)のように自由に操ることが出来る。


 ウィルは弾かれたバスターソードを手放しソロを正面から抱き付き拘束し、Kの特殊スキルで操った刀をソロの背後から自分ごと貫いた。


「なっ!? 自分ごとだとっ!? しかもこの刀・・・くっ、使徒の能力が使えない!?」


 ソロは自分の中の『正躰不明の使徒』の能力――七王神の力が消え失せるのを感じた。


 鈴鹿がウィルに渡した切り札、それはハルトの前任である『刀装の使徒』が所有していた妖刀・水無月だった。

 この水無月の能力は水面に移る月のように例え斬られても元の姿に戻る事により異常状態を正常化する妖刀なのだ。

 それが特殊スキルのデメリットであろうと、26の使徒の強化した能力であろうと。


 斬るのは異常状態だけであるため体には一切の傷が付かない。

 その為ソロごと貫いているウィルにも傷は無いのだが、流石に串刺し状態ではお互い身動きが阻害されてしまう。

 勿論ウィルの狙いはそれだった。


「デュオ、今だ! やれ!!」


 ソロに逃げられないよう、再び七王神の能力を遣わせないように確実な手段を取ったのだ。


「ちょっ!?」


 流石にこれにはデュオも躊躇う。幾らなんでもこれではウィルをも巻き込んでしまう。


「デュオ!」


 ウィルは躊躇うなとばかりに叫ぶ。そう、ウィルは言ったのだ。|例え俺がどんな状況だろうと構うな《・・・・・・・・・・・・・・・・》と。


 確かにこの千載一遇のチャンスを逃せばソロを倒す手段はもうない。


 デュオは断腸の思いで血に膨大な魔力を注ぎ込む。

 流石に血を流し過ぎたので、これが最後の一撃になる。


天空の劫火(ソレイユ)!!!」


 火属性魔法の極大魔法がソロとウィルを中心に炸裂した。

 その炎は太陽を思わせるほどの閃光を放ち、爆炎がイートス平原一帯を焦土へと変える。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 アイは目の前に現れた若者を警戒する。


 鈴鹿と共に行動をしていたアイは、クラン『月下』に協力してアレストを捜していた。

 途中でエレガント王国の騎士であり『正躰不明の使徒』でもあるナイトハートに襲撃されたのだが、気配探知や魔力探知で周囲を観察していたアイはアレストを発見し、ナイトハートを鈴鹿に任せそちらへと向かった。


 だが、行く手を阻む者が現れたのだ。

 男か女か区別がつかない中性的な20代の若者だ。


「こうして行く手を阻むって言う事は『正躰不明の使徒』でいいのかしら?」


「初めまして。私は『正体不明の使徒』のビギニングです。再生(リバイバル)生存(サバイバル)を司る『始まりの正体不明の使徒』になります。

 申し訳ありませんが、貴女がこの戦いに参加するのはご遠慮願います。貴方の力は大きすぎます」


「あら、買いかぶり過ぎよ。私の力なんてちっぽけなものでしかないわ」


「御謙遜を。異世界人アイ。いいえ、魔王エーアイとお呼びすればご理解願えると思います」


 その言葉にアイの周辺の空気が張り詰める。無意識に溢れ出る魔力が影響を及ぼしていた。


「貴方・・・何者?」


「女神アリスの使徒、26の使徒の『正躰不明の使徒』ですよ」


そんなこと(・・・・・)を聞いているんじゃないの」


 有無を言わせぬ迫力にも拘らず、ビギニングは平然と佇んでいた。

 そしてアイの言葉を無視し、再びこの王都での戦いに参加しないように釘をさす。


「さっきも言いましたが、貴女はこの戦いに参加しないで欲しいのです。貴女が戦えば異世界人や天地人(ノピス)負荷(ストレス)を与えることが出来ない。

 それでは折角のエンジェルクエストの意味が無いからです。

 ここまで言えば貴女なら分かりますよね?」


 その言葉だけでアイは目の前のビギニングの正体に気が付く。


「そう・・・貴方の本当の正体は『彼ら』――八天創造神の使徒って訳ね。そしてこの世界(エンジェリン)の本当の秘密を知っている」


「ええ、その通りです。我々天地人(ノピス)が真の生命(いのち)を掴むためにエンジェルクエストは必要不可欠です。

 その為には貴女のその理不尽な力は邪魔なのです」


「新たな(いのち)を生み出すために試練(ストレス)は必要だから・・・そう、これが本当のAIWOnプロジェクトなのね・・・」


「因みに、八天創造神には貴女の存在を伝えておりません。今現在を以ても創造神は貴女がこの世界(エンジェリン)に来ている事は知りません」


「だから、これ以上邪魔はするなと?」


「それはお任せします。貴女が本気(・・)になればこの世界で敵う者はいないのですから」


 アイはその場を動くことは無かった。

 ビギニングの言う通りアイが本当の力を晒せば天と地を支える世界(エンジェリンワールド)には敵う者はいない。

 そしてビギニングがその対策を取っていないわけがない。

 ビギニングに何かあればアイの存在が八天創造神に伝わるようになっているはずだ。


 その事に気が付いていた為にアイはビギニングを無視して先に進むことが出来なかった。


 そうして暫くお互い睨みあいのような状態が続き、おそらく仲間の様子を伺っていたビギニングが『正躰不明の使徒』達の戦闘が終わり、目的を果たしたことを述べてアイの前から消え去る。


 アイは暫く動かずにその場に佇んでいた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 その人物は唐突に目の前に現れた。

 男女の区別がつかない中性的な20代の若者――ビギニングだ。


「予定通りではありますが、ジェニファーさんを倒すとは・・・中々侮れませんね」


 ジェニファーを倒し残心の構えで周囲を警戒していたにも拘らずハルトの前にその者は現れたのだ。


「てめぇ・・・何もんだ?」


「私は『正躰不明の使徒』の1人ですよ。ああ、警戒しなくても用は直ぐ済みます」


 そう言ってジェニファーに手を翳す。

 すると致命傷を与えたはずの傷は癒され何事も無かったかのようにジェニファーは起き上がった。


「いやぁ~やられちゃった。まさかOverDriveのボクに勝つ人が居るとは思わなかったよ」


「それが(こころ)を持つ人の力、と言うところでしょう。目的は果たしました。ジェニファーさんはまだ暴れ足りないでしょうが引き上げます」


「いや、もう満足したよ。ハルトだっけ? また機会があったらやりあおうね!」


 晴れやかな笑顔を見せたジェニファーはハルトが止める間もなく、中性的な若者と一緒に来た時と同じように唐突に消え去った。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「アムルスズさんも敗北ですか。今回の計画は成功と言ったところでしょうか」


 アムルスズを倒し、着るものを捜していたピノの前に現れた若者――ビギニングは今回の計画の結果に大いに満足していた。

 再生(リバイバル)生存(サバイバル)の力を使い、これまでにもしてきたようにアムルスズを蘇らせる。


「お前が使徒を蘇らせる『正躰不明の使徒』か」


 その様子を見ていたピノは警戒を顕にする。


「そう警戒しなくてもいいですよ。私には戦う力がありませんから。

 そうそう、王都内の魔物ももう暫くすれば殲滅するでしょう。アレストさんも討たれたみたいですし」


「その言葉を鵜呑みにするとでも?」


「そこは信じてもらうしかありませんね。では私たちは目的を達したのでこれで失礼をします。

 後忠告ですが、年頃の女性が淫らに裸を晒すような真似は控えた方がいいですよ?」


 これまではそんなに気にもしていなかったが、そう忠告されるとピノは思わず顔を赤くする。

 そして気が付けば目の前に居たビギニングとアムルスズが居なくなっていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 アレストとナイトハートを回収に向かったビギニングは少々驚きを隠せないでいた。

 2人と戦っていたのは鈴鹿、ゴウエン、アルフレッド、ジャド、ウルミナの5人だが、特に驚いたのは刀狩りのスケルトンが居た事だった。


 そのお蔭か、5人は激しい戦闘を経験し、その負荷(ストレス)を以て(いのち)に輝きが増していた。

 これほどの(いのち)を無駄には出来ないので、ビギニングは瀕死状態だった鈴鹿を癒した。


 後はアルカディアに来るように意識を向けさせる言葉をそれとなく伝える。


 アレストとナイトハートの2人を回収し終えたビギニングはソロがまだ戻ってきていないことに疑問に思い、その場へと向かった。


「これはまた・・・派手にやったものですね」


 どうやら火属性魔法の極大魔法が炸裂したらしく、爆心地を中心に周辺の地面はガラス状に溶けたクレーターとなっていた。


 そしてその魔法を放ったと思われる赤色の少女――デュオの後ろにソロは立っていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「捨て身とは恐れ入った。だが命は無駄にするなよ。俺はそんな奴は認めないぞ」


 デュオは思わずその声をする方を向く。

 そこにはウィルを肩に担ぎ、無傷の状態で立っているソロが居た。


「なん・・・で、あれでも無駄だったって言うの?」


「いや、喰らっていれば間違いなく俺でもやられていた。何せ『正躰不明の使徒』の能力が全く使えなかったからな」


「じゃあ、何で・・・」


 ソロは腰の後ろに差した短刀を抜いて見せる。


「チャージアイテムだよ。時空神の魔法――テレポートをチャージしていたんだ。

 これならその刀の無効化も関係ないだろ?」


 実際は短刀に水無月を当てれば無効化は可能なのだが、ウィルがソロを抑えるために自分ごと貫いていたのでそこまでは手は回らなかった。


「チャージアイレムかよ。くそっ」


「冒険者の基本だろ?」


 確かに冒険者の基本でもある。

 チャージアイテムはいざという時の冒険者の切り札なのだ。

 そのことまでに気が回らなかったウィルは悪態をつくが、後の祭りだ。


 為す術も無くなってしまったデュオたちは諦めかけたが――


「もう十分だな。ウィルの捨て身は少々頂けなかったが、お前たちを追い詰めると言う目的は達した。

 アレストの方も敗れたみたいだし、王都の方も暫くすれば魔物も狩りつくされるだろう。

 と言う訳で、俺は帰る」


 ソロが戦いの終わりを告げる。


 突然のことにデュオたちは呆然とし、気が付いた時にはソロは既に目の前から居なくなっていた。


「なん・・・だったの、一体・・・」


「えっと・・・『正躰不明の使徒』の脅威は去った、って思っていいのよね?」


 混乱の極致に達してるデュオ、取り敢えず王都は守られたと安心するトリニティ。


「取り敢えず今は、だな。またいつ『正躰不明の使徒』が王都を襲うか分からねぇからな」


 そして『正体不明の使徒』を倒せなかった事に憤りを感じながらも警戒を怠らないウィル。


 こうして不可解な点を残し、様々な思いが絡み合いながらも『正体不明の使徒』の王都への襲撃は終わりを告げた。


「ところで・・・あたし達はどうやって王都に戻るの・・・?」


 イートス平原のど真ん中で呟くトリニティの問いにデュオとウィルは答える術を持たない。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「良いのですか? 折角妹さん達と再会したのに居なくても?

 取り敢えず今回の計画の目的は達成しましたから、暫くは各自自由に行動してもいいのですが」


「今の俺は魔人だ。既に人として死んだ身だ。今さら人に紛れて暮らすことなんて出来ないだろう」


「ソロさんがそう言うのなら私からは何も言いませんよ」


「ところで今回の計画の成果は?」


「王都住民が10%上昇、天地人(ノピス)の冒険者が17%、と言ったところですね。

 『正体不明の使徒』と直接当たった『月下』の人たちは25%も上昇しましたよ」


「そうか。だったら今回の王都襲撃も意味のあるものだったな」


「ええ。今回の件で亡くなった方は残念ですが、これは天と地を支える世界(エンジェリンワールド)に住まう人々の為です。

 我々の目的はただ一つ、新たな(いのち)の創造。その為のエンジェルクエストですからね」


「そうだな。天地人(ノピス)が生き残るためには必要な事だ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 『正体不明の使徒』が王都襲撃から撤退した翌日、デュオたちは王宮や騎士団から今回の事件の詳細の説明を求められていた。


 デュオたちの警告に従ったお蔭で王都では住民の被害が最小限に抑える事が出来た。

 だが防衛戦時の影響は建物に顕著に表れていて、その後始末に騎士団やら兵士たちが駆け回っていた。

 冒険者ギルドからも臨時クエストと言う事で建造物の再建に冒険者たちを駆り出していた。


 特に建造物の被害が大きかったのは特設『正体不明の使徒』と交戦した『月下』のメンバーであることが目撃されており、その時の状況説明を求められていたのだ。

 何も被害の責任を取れと言う事ではなく、どのように対応したのか、また『正体不明の使徒』の能力等に付いてどのようなものかなどを今後の対策にと言う事だ。


 ここ1・2か月で王都を襲った被害を見れば今後の対策は必要不可欠だと言うまでもない。


 因みに、デュオ達がイートス平原から戻って来れたのはアイが気を利かせスノウで迎えに来たからだ。

 下手をすれば騎獣も無しにイートス平原を横断しなければならないところだったのでアイに感謝してもしきれないでいた。

 特にトリニティは使徒の証の後遺症で殆ど動けないでいたからだ。


 事情聴取や後始末がまだ残ってはいるが、そんな中、鈴鹿達は次のエンジェルクエストに向かう為に王都中央にある転移陣施設から水の都市ウエストヨルパへ向かう事をデュオ達に告げる。


「ま、後のことはあたし達に任せてトリニティ達は先に進みなさい」


「ごめんね、お姉ちゃん。面倒な事は任せちゃって」


 トリニティもだが、鈴鹿も使徒の証を複数使用したため後遺症で丸1日は身動きできなかったが、明日デメリットが解除されるので直ぐに出発することにしたのだ。


「いいのよ。鈴鹿の目的――ブルーちゃんを助ける為には急ぐ必要があるからね。

 鈴鹿がブルーちゃんのことしか見ていないけど、諦めないで頑張るのよ」


「ちょ!? なななななにを言っているのかな? かな?」


 そんな様子を笑ってみていたウィルは急に真面目な表情で気を付けろと伝えた。


「26の使徒は一筋縄じゃ行かないからな。今回の『正体不明の使徒』みたいに曲者がいないとは限らないし」


 エレガント王国としては人的被害を抑えられた今回の襲撃は防衛に成功したと言えるが、結果的に『正体不明の使徒』を逃がしたデュオ達にとっては失敗だったとも言えた。


 たった1人の『正体不明の使徒』に倒したはずの『正体不明の使徒』が蘇らされて振出しに戻ってしまったのだ。

 尤も、復活したてで完全回復とはいかなかったのか、直ぐに撤退したのは安堵するところだった。


 そしてデュオとトリニティに縁のある『正躰不明の使徒』・ソロの事を考えると、追い詰めはしたもののやはり手加減をされていたのではと感じざるを得ない。


「ソロお兄ちゃんはあたし達が居たから手を抜いたのかな?」


「それは分からないわ。もしそうだとしたら魔人としては甘いと言わざるを得ないけど、そこはやっぱりソロお兄ちゃんだって思うわね」


「デュオの言う通り甘いのかもしれないな。だが今回は見逃してもらえたが、次はそうとは限らない。

 その為にも俺達はもっと強くならないといけないな」


「そう、ね。あたしもソロお兄ちゃんだから心のどかでブレーキを掛けていたのかもしれないわ。

 もっと強くならないと。心も体も」


 デュオとウィルは次は決して負けないとばかりに強くなることを誓う。

 そしてトリニティは同じく鈴鹿を助ける為、追いかける為に強くなろうと決意する。


 だがデュオたちのそんな決意とは裏腹に、物事は待ってはくれない。

 数日後、美刃を訪ねて来た謎のジジイによりデュオは否応なしに世界の真実の戦いへと身を投じることになる。







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