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DUO  作者: 一狼
第9章 正体不明
48/81

47.その襲撃で起こるのは各々の戦い

 夜遅くにも拘らず冒険者ギルドには大勢の人が居た。

 とは言っても受付と隣接する食堂に集まっているのが大半なのだが。


 今日も1日の冒険を終え、興を生き延びた事に感謝し明日への英気を養うために冒険者たちは騒ぐのだ。


 そんな冒険者たちを尻目にハルトは受付へ赴き、ギルドマスターへの面会を求めた。


「あら、ハルトさん。どうしたんですかこんな夜遅くに」


「ああ、悪いがギルドマスターはいるか? 緊急を要する事案があるんだが」


「ギルドマスターにですか?」


 今日の受付が終わり残務整理をしていたトリスはハルトから告げられた緊急の事案に訝しむもののギルドマスターへの取り次ぎを行う。


 暫く待っているとトリスが戻ってきてギルドマスターの居る部屋へと案内する。


「ギルドマスター、ハルトさんをお連れしました」


「入って下さい」


 ハルトが中に入ると机で書類作業をしていたギルドマスターのエルレインはその手を止め、机の前のソファーへと座る。

 トリスはそのまま部屋を出て残務処理へと戻った。


「どうしたの? 緊急の件なのでしょう? 座ったらどうかしら」


 エルレインに言われるままにハルトは向かいのソファーへと腰を下ろす。

 類に漏れずエルフであるエルレインの顔はかなり整っていた。

 但しそのやや吊り上った目が鋭い雰囲気を醸し出していて、少しだけ冷たい印象を与えていた。


(まぁ、それだけギルドマスターの仕事がきついんだろうがな・・・)


 エルレインの人なりをよく知るハルトは昔とは違う表情を見せるエルフに少しだけ同情をしながらも、この後話す事案にまた身をやつれさせるだろうなと心の中で謝罪をしながらこれから起こるであろう事を話した。


「何ですって・・・? あの召喚魔物による王都襲撃が再び起きるですって・・・?」


「ああ、しかも質が悪い事に相手は『正体不明の使徒』の任を受けた魔人だ。それも複数の」


 魔人と言う言葉にエルレインは眉をしかめる。

 思い出すのはつい約1か月前の『災厄の使徒』だ。

 あれには王国と合同で冒険者を討伐に派遣したのは記憶に新しい。


「おそらく王宮からも協力要請が来ると思うが、早く動くに越したことは無いからな。今日明日にでも主だったクランを招集しに緊急クエストを発行した方がいいだろう」


「そうね。前回は突発的な事にも関わらず多くのクランが魔物を排除するのに自主的に協力してくれたからね。

 今回は王国の要請ともなれば前回以上に協力者に多大な報酬を支払う事も出来るわ」


 滅多に使うことは無いが、ギルドカードには特定の冒険者に招集を告げる伝言や緊急クエストを発行することが可能だ。

 今回はこの機能を使い主だったクランを招集して協力体制を取り、王都に在住する冒険者には緊急クエストの発行をすることになるだろう。


 魔物の討伐に関してはギルドカードに記録されるので報酬の支払いに関しては何ら問題は無い。

 特に王国との連名での緊急クエストの発行なので、これに勝る信頼は無いと言える。

 ここぞとばかりに王都に住む冒険者たちは召喚される魔物を狩りまくることになるだろう。


「それで『月下』はどうするの?」


「聞かなくても分かるんだろう? 尤も俺達の狙いは召喚魔物よりも『正体不明の使徒』だがな。どうやら向こうさんも俺達『月下』をご指名らしい」


「相変わらず貴方のところのクランは事件の渦中に巻き込まれているわね」


 前回のアレストの召喚魔物騒動と言い、十数日前の妖狐騒動と言い、『月下』は何かしら事件の中心にいるのだ。

 ギルドマスターが呆れたため息を出すのも仕方のない事と言えよう。


「そんなのは向かってくる事件に言ってくれ。俺だって巻き込まれた被害者でもあるんだぞ」


「ああ、そう言えば『刀装の使徒』に任命されたんだってね。ここはおめでとうって言ってあげた方がいいかしら?」


「やめてくれ」


 からかい半分で言ってくるエルレインにハルトは深いため息をつく。


 ギルドマスターとはハルトが冒険者になり立ての頃のパーティーメンバーで、ハルトの若い頃をよく知る人物の1人だ。

 そしてかつての恋人でもあった。


 それ故、ハルトは若い頃にありがちな夢を語る熱血な冒険者として、いつかは英雄として名を馳せると高らかに宣言をしていたこともある。

 それは勿論恋人であるエルレインにも格好つけようとした意味もあった。


 だが現実は残酷で、ハルトはある事件を境に叩きのめされエルレインとも別れる結末に至った。

 それからと言うもののハルトは少し斜を構えるようになり、物事を達観するようになってしまったのだ。


 そんなハルトを立ち直らせようとしていたエルレインだったが、その後は冒険者ギルドのギルドマスターとなり会う機会が減ってしまったのだ。


 ある意味26の使徒に名を連ねることで若い時に掲げていた目標を達成したハルトをエルレインは微笑ましそうに見つめる。


「それじゃあ後のことは頼んだぜ」


 話は終わったとばかりにハルトは立ち上がり、部屋から出て行ってしまう。


「もう、久々に会ったんだからもう少しくらい居てもいいのに・・・」


 少しだけ寂しそうにしていたエルレインだったが、すぐさま『正体不明の使徒』による王都襲撃の対策を立てるべく作業に取り掛かった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 次の日、クラン『月下』のメンバー達は王都を襲撃するであろう召喚魔物を撃退する為自主的に王都の警邏を行っていた。

 クラン『月下』のメンバー以外にも他の冒険者たちも王都を警邏していた。


 勿論王都を警邏しているのは何も冒険者たちだけではない。騎士団や国軍兵士たちも自分たちの住む王都を守るためいつも以上に多めに警備している。


「今のところまだ異変は無いですね」


「だな。それにしてもあのアレストの奴が生きていて再び王都を襲う、か・・・

 まぁ、今回は前回と違い対策する時間が与えられているってのが救いだな」


「ですね。冒険者ギルドでも王宮と連名で緊急クエストを発行してますからね。協力者も前回よりも沢山いますから」


 クラン『月下』のメンバーは今朝ピノに集められこれから起こるであろう王都襲撃の詳細を説明した。

 それに伴い冒険者ギルドから緊急クエストが発行され、クラン『月下』はこれに参加することを決めたと伝える。

 緊急クエストの内容は王都に召喚される魔物を排除し、住民及び建物の被害を最小限に抑える事となっている。

 B級以下のクランメンバーに与えられた任務はこの緊急クエストに参加する事だ。


 行動は常に二人一組(ツーマンセル)又は三人一組(スリーマンセル)で行う事となっており、C級武装法師(アーマービショップ)のハック、D級魔術師(ソーサラー)のリード、同じくD級弓道士(アーチャー)のサラフィが組になって王都を警邏していた。


「それにしても今回はピノさんも出るって珍しいですね」


 リードはいつもならクランホームで留守番をするピノだが、今回は他の幹部と一緒に行動を共にしている光景を思い浮かべていた。


「それだけ今回の事件が厳しいものだって事だろうな。特に俺はアレストの野郎の襲撃を見ているだけにそう思うし」


「そうですね。あれを直に見てるだけにヤバさが分かりますね」


 ハックとサラフィはアレストがクオを狙って『月下』のクランホームに襲撃を掛けて来た時のことを思い出していた。

 次々召喚される高レベルの前に後手に回って苦い思いをしていたのだ。


「しかも魔王信者でしたっけ? その能力もヤバいですけど思考もヤバいですね」


「ああ。まぁその張本人はピノさん達が倒す手はずになっているからな。俺達がやることはピノさん達がアレストを倒すまでに魔物を排除する事だ。気を抜くなよ」


「そう言えば、ピノさん達と一緒に行動している鈴鹿さん達って何者ですかね?」


 トリニティがデュオの妹であると言う事は承知しているが、それを踏まえたとしてもA級クランである『月下』の幹部メンバー達と膝を交えて打ち合わせをしている事を考えるとサラフィは彼らが何者かが気になっていた。


「まぁB級冒険者なのは間違いないな。知ってるか? 鈴鹿達は冒険者になってまだお前たちと同じくらいで2か月も経ってないんだぜ?」


「ええっ!?」


「それでどうやってB級になったんですか!? あたし達まだD級になったばかりなんですよ!?」


 D級になるだけでもそれなりに苦労をしてきたのを考えるとリードとサラフィはとてももじゃないが信じられなかった。


「信じられない事にあいつらは冒険者ギルドの依頼を一つもこなさずにエンジェルクエストだけでB級になったらしい。しかもあと1つエンジェルクエストをクリアすればA級だって話だ」


「それってもう既に19個クリアしてるって事ですか!?」


「あり得ないよ~! だってあたし達と同時期ってことはまだ2ヶ月くらいなんでしょう? どうやったらそんな短い期間でA級になるのよ~?!」


「つまりそれくらい凄い奴らだからデュオさん達と肩を並べて戦えるくらい強いって事なんだろう」


 そう言われてしまえばリードとサラフィはグゥの音も出なかった。

 ただでさえ、エンジェルクエストの最初に攻略する使徒は決まっており、その最初の使徒の『始まりの使徒』は老竜(エルダードラゴン)なのだ。

 幾らエンジェルクエストに挑む力を見る為に手加減しているとは言え、相手はドラゴンだ。

 それすらも突破し、僅か2ヶ月で19個ものクエストを攻略してるともなれば鈴鹿達の力を認めざるを得なかった。


「まぁお前たちはお前たちのペースで力を付けていけばいい。鈴鹿達みたいに無理して体を壊してしまえば何の意味も無いからな」


 衝撃的な出来事に項垂れてしまったリードとサラフィをハックはしょうがないなと慰めに入る。

 ハックとしても鈴鹿達の驚異的にな成長速度に内心羨ましく思いつつも、焦らずに行こうと自分を戒めていた。

 鈴鹿達ほどではないが、生き急いで取り返しのつかない傷を負った冒険者を知っているからだ。


「あ、ハックじゃん。もしかして『月下』も緊急クエスト?」


 そんなハック達に声を掛ける冒険者たちが居た。

 B級クラン『ケモモフ大進行』のメンバーだった。


「おう、アディ。そう言う『ケモモフ』も緊急クエストか? そういや前回も数の利を生かした大活躍だったらしいからギルドから直接お声が掛かったのか?」


「何であんたがうちの事情までしってるのよ。流石A級クラン、その情報精度も侮れないわね」


 アディはハックと同期であり、ハックと同じくC級だ。それ故パーティーを組んで依頼をこなす事が多く、それなりの仲となっている。


 アディの側には従魔師(テイマー)として従えているC級魔物のブラッディベアが控えていた。

 『ケモモフ大進行』はケモモフを愛でる為のクランであり、ケモモフを従えるため全員が従魔師(テイマー)と言う異色のクランだ。そして魔物を戦力として数えることが出来る強みがあるクランでもある。

 特にこういった広範囲にわたって戦場が分散する戦いには大いに活躍することが出来るのだ。


「見たところ既に配置を終えているみたいだな。第四部族はここ北区を担当か?」


「そうよ」


「ふーん、なら俺達はお前らが手の回らない細い路地等を見回ってみるか」


「言ってくれるわね。確かにあたしのクマゴロウは細い路地に入らないけど、あんただってその武装で立ち回りが出来るのかしら?」


 ハックは武装法師(アーマービショップ)らしく、がちがちの金属鎧の防御に身を固め、武器は背中に背負ったハルバードや手にはロングソードを持っていた。


「ぬかせ。狭い場所でも立ち回りが出来るのが武装法師(アーマービショップ)なんだよ」


「へぇ、それじゃあお手並み拝見と行こうかしら?」


 これがハックとアディのお互いの日常のやり取りなのだが、アディと同クランの仲間達は見慣れた光景で微笑ましそうに見ていたが、慣れていないリードとサラフィはおろおろし始めていた。


 そんな折、王都のあちこちで悲鳴が上がる。

 その対応に騎士団や国軍兵士が素早く対処に当たる。


 そしてハック達の目の前にも召喚陣が輝き、そこから無数の魔物が現れた。


「おいでなすったか! リード! サラフィ! 蹴散らすぞ!」


「あたし達も負けてられないわよ! 皆、陣形・狼の楔! クマゴロウ、行くわよ!」


 ハックとアディはお互い競い合うようにそれぞれ仲間を連れて召喚された魔物たちの討伐へと向かった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ハルトは召喚魔法陣から現れたスタンビートボアを切り裂く。

 ティラミスも輪唱呪文を使用し、複数の聖属性魔法のホーリーランスを放ち次々湧きだすブラッドウルフを貫く。


「ちぃ、わらわら湧きやがって! 前はこんな召喚陣じゃなかったはずだぜ!」


「先に召喚陣を潰しましょう。私が援護するからハルトさんお願い」


「分かった!」


 無属性魔法、光属性魔法、聖属性魔法を駆使し、召喚陣周辺の魔物を排除するティラミスの援護を受けてハルトは鬼丸国綱を振るい召喚陣を破壊する。


「おらぁ! 桜花乱舞!」


 召喚陣を破壊されたことにより魔物の供給がストップされたが、既に放たれた魔物は周囲の住民やら建物に襲い掛かっていた。


「ティラミス、後は騎士団や国軍兵に任せよう。俺達の目的はアレストを倒すことだ」


「そうね。彼らには申し訳ないけど」


 襲い掛かる魔物を斬り裂き、あるいは魔法で撃ち落としながらアレストが居ると思しき建物を目指すハルトとティラミス。


 無数の魔物が屠られる中、2人の隙をついて襲い掛かる魔物の1匹がいた。

 だが、寸でのところで通りすがりの少女の冒険者がその魔物を弾き飛ばす。


「ギュウッ!!」


「や、危なかったね。こいつ等弱いくせに数だけ多いからね~

 しかも小さいし。殆んど小動物と変わらない魔物だから尚更厄介だしね」


 少女の冒険者が言うように、ハルト達に襲い掛かったのは灰色鼠と言う大きさは小型犬ぐらいの大きさの魔物で力はそれほど強くは無い。

 だが鼠の特性を持つ魔物らしく、数で補う強さを持つ魔物だ。

 一度食いつかれたら離さず、仲間を呼び寄せて物量で襲掛かられたらベテランの冒険者と言えど命の危険さえ伴う。


 少女の冒険者が他に灰色鼠がいないか周囲を警戒しているが、ハルト達は少女そのものを警戒する。

 何故なら、その少女は頭に角を持つ獣人・麒麟(ジェラフィン)だったからだ。


「えっと、何のつもり? 助けてあげたのに恩を仇で返されると流石のボクでも怒っちゃうよ?」


「とぼけるのもそこまでにしな。こっちはちゃんとてめぇの情報も入ってんだよ。

 2方式(ツーバイモード)を使う『合成の正体不明の使徒』のジェニファー・・・だろ?」


「あれれ~? 何で・・・って、あ、そっか! 鈴鹿が一緒に行動してたんだっけ、『月下』には。

 あちゃぁ~、それだったら冒険者の振りなんかしないで影衣(かげころも)を使って黒ずくめで襲い掛かればよかったなぁ~」


 麒麟(ジェラフィン)の少女の冒険者――ジェニファーは失敗したとばかりに頭を抱える。


「悪いけど、貴女を相手している暇は無いので他をあたってもらえる?」


「ダメ。ビギニングからあんた達を相手するように言われているから。要は足止めだね」


 どうやらジェニファーは余程口が軽いらしい。

 鈴鹿にも自ら口を滑らせ情報を与えたらしく、鈴鹿はジェニファーからアレストや他の『正体不明の使徒』の情報を聞き出していたのだ。

 今もまた余計な事を口走っているのに気が付いていない。


 おそらくジェニファーに指示を下したビギニングとやらがリーダー格らしいと当りを付ける。

 ハルト達はこれ以上の情報が引き出せないか思考するが、それより前にジェニファーが行動を起こす。


「と言う訳で、いっくよー! 昨日は鈴鹿に逃げられたからね。君たちでボクを楽しませてよ!」


 ジェニファーは素手でハルトに接近し、その拳を唸りを上げて突きつける。


 鈴鹿の情報だと、ジェニファーはモード究極の使徒とモード拳撃の使徒を併せ持つ使徒・UltimateKnuckleと、モード剣技の使徒とモード達人の使徒を併せ持つ使徒・SwordMasterを使うと言う。

 他にも別のモードの掛け合わせがあるのかもしれない。

 そのことに注意しながらハルトは繰り出される拳目がけて鬼丸国綱を振り下ろす。


「刀戦技・五月雨!」


 戦技を付け加えた斬撃はジェニファーの拳を斬り裂いたかに見えた。

 だが驚いたことに結果はハルトの方が押し返される事となった。


「なん、だとっ!?」


 バランスを崩したハルトにジェニファーが今度は剣を携え襲い掛かった。


「剣戦技・トライエッジ!」


 どうやらUltimeateKnuckleからSwordMasterへ切り替えたらしく、麒麟(ジェラフィン)の膂力から繰り出される斬撃がハルトに襲い掛かる。


「マテリアルプチシールド!」


 だがティラミスが割り込んで放った幾つもの小さな光の盾がハルトの前に展開しジェニファーの斬撃を弾き返す。

 ハルトはその隙に腰に差してある3本の刀を『刀装の使徒』の能力・自在刀(エアリアルブレイド)で操りジェニファーへ放ち、体勢を整えるための間合いを開ける。


「あわわ。3本も同時に操るなんて、Kの使徒の証の特殊スキル・・・じゃない。え? もしかして『刀装の使徒』の自在刀(エアリアルブレイド)

 何それ、聞いてないんですけど。ハルトが『刀装の使徒』? ええー? ちょっと面白すぎるよ、それ!」


「こっちも出し惜しみしてらんねぇからな。全力で行かせてもらうぜ!」


「伊達にA級クランじゃないってところを見せてあげるわよ」


 ハルトが自在刀(エアリアルブレイド)で3本の釵斬を操り、後方ではティラミスが援護兼遠距離攻撃を仕掛ける。

 それをジェニファーは嬉々として迎え撃つ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 一方、ピノとシフィルの方でも『正体不明の使徒』が襲い掛かっていた。


 2m30cmもの巨大な戦斧を振り下ろし石畳を打ち砕く。

 その戦斧を操っているのは全身黒ずくめの体格のしっかりした子供だった。


 だが子供の身で巨大な戦斧を操る怪力は圧巻の一言に尽きるが、その巨大さ故に攻撃方法も限られ殆んどが薙ぎ払うか打ち下ろすかの2択だ。

 その分かり切った攻撃をピノとシフィルが避けられないわけがない。


 ドゴォンッ!!


 何度目かの振り下ろしの攻撃が石畳を砕き、そこら中に戦斧が穿った穴が開いている。


「悪いがその攻撃は当たらないぞ。動きが単調すぎる」


「だね。もう少し工夫をした方がいいと思うよ。それとも武器を作るだけで扱うのは苦手かな? アムルスズっち」


 シフィルが言った一言で『正体不明の使徒』の動きが一瞬止まる。

 が、何事も無かったかのように再び戦斧で2人ごと薙ぎ払う。


 ガキンッ!


「その怪力は脅威だが、何もお前の専売特許と言うわけでは無い。お前も知っていると思うが私の怪力も目を見張るものがあると思うぞ」


 『正体不明の使徒』の横薙ぎの一撃はピノの突き立てたグレートソードにより阻まれる。

 そして動きの止まった一瞬の隙をついてシフィルが死角からダガーで『正体不明の使徒』を切り裂く。


 そして黒ずくめの姿が剥がれ、中から子供――いや、強面のドワーフがそこに居た。

 先ほどのシフィルの指摘のあった通り、アムルスズの火鎚屋(武器屋)の店主・アムルスズだ。


「ちっ、一撃で影衣(かげころも)が剥がれるだと・・・? シフィルめ、遠慮なく急所を付いてきやがったな」


 シフィルの言によれば、『正体不明の使徒』の正体がアムルスズだと知った上で急所を狙って攻撃してきたのだ。

 流石は盗賊(シーフ)と言ったところか。

 アムルスズはシフィルのその遠慮なさに驚嘆しながらも厳つい顔を綻ばせながら戦斧を構える。


「何故俺だと分かった? これまでこの影衣を纏ってばれたことなど一度も無かったんだがな」


「見てれば分かる。動きの1つ1つにお前の癖が滲み出ている」


「あ~、それ分かるのピノっちだけだと思うなぁ。

 ま、そもそもその身長で戦えるとなる人物と限られてくるから。人間の子供った場合名前が知らない方がおかしいし、後そうなるとドワーフくらいしか居ないんじゃん。

 後は王都に居るドワーフを消去法で検索すれば一発だね。

 と言うか、今までばれなかった方が信じられないんだけど?」


 シフィルの指摘にアムルスズは深い溜息を吐く。


「影衣はそう言った認識もずらす効果があるんだよ。余程の観察力が無い限り見破られることなどそうない。

 まぁ、ジェニファーのように獣人の特徴がはっきり見えてしまえば別だがな」


 とは言え、影衣をほぼ一発で見破ったピノとシフィルは流石A級と言ったところか。

 そう内心で感心しながらもアムルスズは次の一手を披露する。


 手にした巨大な戦斧を霧のように消し、次に現れたのはピノの持つグレートソードを上回る3m級のジャイアントソードだった。


「モード刀剣の使徒・Blade、カテゴリ:コモン:ジャイアントソード。

 言っておくがさっきの鉄製の戦斧とは違い、今度のこの剣は軽くて丈夫なオリハルコンで出来ている。取り回しの速度や扱い方は別格だと思え」


 振り下ろされる一撃は確かに先ほどの戦斧とは違い、鋭く圧倒的な一撃だった。

 しかも巨大剣は叩きつけられるのではなく、曲線を描くように円の軌道で次々にピノとシフィルに襲い掛かった。


「俺は武器の創造を司る『錬成の正体不明の使徒』アムルスズ! 俺の無限に創造される武器の前にどこまで立ってられるか見せてみろ!!」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「おい、『月下』ぁ!! 奴は何処に居る! あの召喚しか能がねぇクソッたれアレストの奴は何処だっ!!?」


 召喚陣から現れる魔物を倒していたアルフレッドとウルミナの前に1人の冒険者が現れた。

 そしてその冒険者をアルフレッドとウルミナは知っていた。何故アレストを捜しているのかも。


「ゴウエン・・・お前もう大丈夫なのか?」


「アレストに強引に調教(テイム)されて心身ボロボロだったはずじゃ・・・」


 そう、1か月前にアレストに心の隙を突かれ人間でありながら調教(テイム)されてしまったクラン『梁山泊』のゴウエンだった。

 強引に調教(テイム)されてしまった影響で、アレストが倒された後も心も体もボロボロになっていたはずだった。


 だがゴウエンはそれをリハビリを繰り返しそれを乗り越えた。

 そして今目の前で起こっている騒動の原因がアレストだと知ったゴウエンは自分をあんな目に合わせた張本人にリベンジをすると気炎を吐いていたのだ。


「そんな軟な鍛え方をしちゃいねぇよ。それよりも奴は何処に居る! 一発お見舞いしてやらねぇと気が収まらねぇ。

 あの時はデュオにやられたと聞いてリベンジの機会が失ったと思ったが、まさかこうしてまた現れるとは。今度は俺様が自分の手で引導を渡してやる・・・!」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 時は召喚陣から魔物が現れる前に遡る。


「ウィル、そう言えば鈴鹿から何か貰っていたよね。何を貰ったの?」


「対『正体不明の使徒』の切り札になる武器だそうだ。その、何だ。お前らを守るために使えって寄越したんだよ。

 因みに貰ったわけじゃないぜ。預かっただけだ」


 トリニティに問われ、ウィルは鈴鹿から預かった武器を見せる。

 それを見たトリニティは確かにこれなら複数の能力を使う『正体不明の使徒』に対しての切り札になると思った。


「呆れた。自分だって『正体不明の使徒』と戦うのに、切り札になる武器をウィルに預けるなんて。

 それともお姉ちゃんやあたしを信用していないのかしら?」


「デュオは兎も角、トリニティじゃ信用にならないんからじゃ?」


「ちょっ、ひどーい。お姉ちゃん、こんな事言ってるよ。これは帰ったらウィルだけど鈴鹿も折檻だね」


 確かにデュオの実力を考えれば余計なお世話なのかもしれない。

 デュオはついでで、本当にトリニティを守るためのお守りとして渡したのかもしれない。

 ウィルはそう推測するが、ウィルから見た鈴鹿はトリニティは信のおける仲間としてしか見ていないように感じるのだが。


(トリニティもこれは苦労しそうだな。尤も戦いに身を置いてまでディープブルーを助けに異世界(テラサード)から天と地を支える世界(エンジェリンワールド)へ来るくらいだからな。最初から勝ち目は薄いか)


 ウィルもトリニティの心配をしている暇はないのだが、妹分としてのトリニティの事を思えば何とか応援をしたくはなる。

 それが実るかは別としても。


「それで、お姉ちゃん。ソロお兄ちゃんは本当に現れるの?」


「現れるわ。昨日のソロお兄ちゃんは本気だった。本気であたし達を倒すために現れるわ」


 現在、デュオ、ウィル、トリニティの3人はソロを倒すために行動をしている。

 特に探すわけでも無く、タダ王都を練り歩くだけなのだが。


 ソロの昨日の言葉を信じれば、王都で騒ぎを起こし、それを阻害しようとする冒険者――特に『月下』のメンバーを各『正体不明の使徒』が妨害すると。

 そしてデュオの相手をするのが肉親であるソロだと。


「どうやらデュオのいう通りみたいだな。あれ、だろ。デュオの兄さんってのは。見るからに(オーラ)が違うのを感じるぜ」


 そう言ってウィルが見据える先にはソロが居た。

 何処にでもいる普通の青年が町中に溶け込むように佇んでいるように見えるが、その実、内側から発せられる気や魔力は尋常じゃないくらい鋭く感じられた。


「本当に逃げなかったんだな・・・俺としては相手をしたくは無かったんだが」


「昨日言った筈よ。王都を襲う問いのならあたしはそれを止めるって」


「・・・分かった。お前がその覚悟があるのなら俺は全力で相手をするだけだ」


 ソロはデュオを見据え、その覚悟を感じ取る。

 そしてデュオの隣に居るトリニティへと視線を向ける。


「トリニティも元気そうだな。あんなに小さかったのに立派になって」


「ソロ・・・お兄ちゃん? ごめんなさい。あたしあまり小さい時のことを覚えてないの」


「まぁ、それは仕方がないさ。あれだけ酷い目に合っていればな。寧ろ覚えてない方がいい。

 さて、トリニティもここに居るってことは、デュオと一緒に俺の相手をするって事か?」


「そうよ。王都が襲われると分かっていて黙っている訳ないじゃない」


「・・・そうか。言っておくが例え相手がトリニティであろうが手加減は出来ないからな。それでもいいんだな」


「ええ」


 流石に鈴鹿達と一緒に世界を回りエンジェルクエストを攻略してきただけあって、トリニティの覚悟は言葉だけじゃないように見えた。


「そしてクラン『月下』のA級冒険者の『蒼剣』ウィルか。デュオの剣であり盾でもあるデュオの良きパートナー。S級冒険者の『絶剣』美刃を除けば最良の布陣だな」


「デュオやトリニティには悪いが、あんたが王都を襲う魔人であるのなら俺はあんたを倒す。それが2人の兄でもな」


「良い目だ。願わくば最後までその目を保っていてほしいものだ。俺の相手は生半可な気持ちじゃ簡単にへし折れてしまうからな」


 勿論ウィルはそう簡単に折れるつもりはない。

 最悪その身を盾にしてでもデュオの攻撃の隙を作るつもりだ。


「さて、早速相手をしてもらおうと言いたいところだが、ここじゃ周囲に迷惑が掛かる。場所を移動させてもらうぞ」


 そう言ってソロは呪文を唱える。

 デュオたちは咄嗟にそれぞれの武器を構えた。

 場所を移動すると言っておいていきなり魔法攻撃は無いと思うが、警戒するに越したことは無い。


 だが、その警戒は必要なかった。

 別の意味での警戒が必要になったが。


 ソロが呪文を唱え終え魔法が発動すると光が4人を包み、光が収まると周囲は先程の王都の町中ではなく4人は草原のど真ん中に立っていた。


「うそ・・・」


「え?」


「は?」


 周囲の突然の変化に驚くトリニティとウィル。

 デュオだけは何が起こったのか大よそ見当が付いていた。付いていただけに今身に起こった現象がとても信じられなかった。


「ここなら思う存分やれるな」


「ちょっと待て! ここは何処だよ!? さっきまで俺達は王都に居たはずじゃ!?」


 そう言って戦いを開始しようとするソロにウィルが吠える。

 確かにここなら周囲に被害は無いが、いきなりの事で状況が把握しきれないでいた。


「ここはイートス草原だよ。王都とガルデナ砦のちょうど中間地点の当りかな」


「え、だってありないでしょ。どうやったら一瞬でイートス草原のど真ん中に来れるのよ」


 当たり前のように語るソロにトリニティは信じられない物を見る目で自分の兄を見た。

 一瞬で移動する魔法なんて、まるで―――


「ソロお兄ちゃん。これは時空魔法の瞬間移動――テレポートよね。唯一七王神の時空神だけが使えたと言う伝説の属性魔法。

 どういう事か説明があるとありがたいんだけど」


「流石はデュオだな。普通は目の前で起こった現象を見ても信じられない奴が多いんだが・・・さっきの呪文詠唱と合わせて判断したか。

 改めて自己紹介をしておこうか。

 俺は時空魔法の他にも鬼神化や神降しなどの能力が使う事が出来る七王神の能力を司る『最強の正躰不明の使徒』・ソロだ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 アレストは王都中に巧妙に隠された召喚陣から次々魔物を召喚していく。

 前回使用した召喚陣をそのまま使うのもあれば、今回設置した一度召喚すれば際限なく魔物を呼び出す永続召喚陣の起動も始めた。


 新たな召喚陣を起動しながらも呼び出した魔物の視界を共有して王都の状況を確認していく。

 前回の騒動よりも騎士や兵士、冒険者の大勢が冷静に召喚魔物に向かっているのを見て些か対応の速さに疑問を感じたが、召喚される魔物の数を鑑みて問題ないと判断する。


 粗方魔物を呼び出し終えたアレストは王都中に広がる魔物の気配を感じとり、喜悦を浮かべた。

 自分の呼び出した魔物が人々を襲い魔王への供物と化す。そしてその供物が更なる魔物を生み出す。

 場合によってはこの王都を蠱毒法の製造場としてもいい。


 そう思いながら呼び出される魔物、倒される魔物、敵を倒す魔物、力を付ける魔物を感じ取っていると、そこへ自分が召喚していない魔物が紛れているのを感じた。


「なんだ、これは―――」


 その魔物の保有する魔力が桁違いだったのだ。自分が呼び出した魔物が蟻のように感じるほどの。


 だがアレストはこれはチャンスだとも感じた。これほどの魔物を調教(テイム)すれば途轍もない戦力になるのではないかと。

 或いはこの魔物を元にすれば魔王として再誕することが出来るのではないかとも。


 そう考えたアレストはその魔物へと向かう。








次回更新は4/30になります。

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