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DUO  作者: 一狼
第8章 神姫降臨
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39.その噂の巫女は巫女神フェンリル

デュオ、九尾の狐玉藻の前と対峙する。

デュオ、クオを攫われる。

デュオ、王宮の派閥騒動に巻き込まれる。

デュオ、九尾の城へ突入する。

デュオ、玉藻の前を倒し、クオとお別れをする。

                       ・・・now loading


 クオが九尾の城で再生水晶に封じられて2日が経過した。


 デュオはその2日間の間に後始末に駆けずり回っていた。

 クランホームの再建及びそれまでの拠点の確保、九尾事件での王国との折衝、デュオの活動を邪魔しようとした貴族の対応などなど。

 それもこれも新たに掲げた目的の為に邪魔が入らないようにするためだ。


 当初エレガント王国から勅命を受けていた大妖狐・白面金毛玉藻の前の討伐又は封印は一応達成されたことになっている。


 報告を受けた王宮内ではこの機会に封印ごと玉藻の前を討てと騒ぎ立てる貴族が居たが、それは悪手だとデュオは告げる。

 玉藻の前の復活は悪意ある冒険者の接触によるものであり、再び封印が解ければこれまで以上の負の感情を携えた玉藻の前が復活すると。そしてもう二度と封印が出来ない事も。

 尤もデュオにとっては安らかに眠っているクオの邪魔をさせないためでもある。


 その証言に信憑性を持たせたのは報告に同行して登城したS級冒険者の『古強者(オールドマスター)』の謎のジジイだった。

 彼の証言により封印された玉藻の前に二度とちょっかいを出さないよう国王の名の元に厳命されたのだ。


 それが面白くなかったのは討伐を主張した貴族――貴族派の大臣、引いてはそれを裏で操っていた黒曜騎士団団長のノーレッド=ノブレージュ伯爵だ。

 今回の九尾の狐事件で自分の利益を悉く潰していたデュオに責任を擦り付ける事を画策していたのだが、カルヴァンクル王太子とカイン第三王子の横やりでデュオに玉藻の前を討伐又は封印に留められてしまった。

 なればこそと、封印を報告してきたデュオを甘いとし、完全討伐の為に危険がある討伐を再びデュオに擦り付け差し向けようとしたのだが、思いもよらぬ『古強者(オールドマスター)』と言う人物の登場にまたもやノブレージュ伯爵の暗躍は潰された。


 これはデュオや王宮の貴族も知らない事だが、エレガント王国の王族は謎のジジイに頭が上がらなかったりするのだ。

 謎のジジイは記録が失われたため何時からかは分からいが、もう何十年も前から謎のジジイと深い関わりがあった。

 時には周辺国の戦争の介入に単身で乗り込んで未然に防いだり、時には当時の国王の暗殺を防いだり、時には王族とは身分差のある貴族の娘との婚姻に協力する為策を授けたりと、エレガント王国の王族は謎のジジイに大きな借りが沢山あるのだ。

 その為、エレガント王国の王族には謎のジジイを敬うよう代々伝えられていた。


 そんな訳で謎のジジイと共に報告に来たデュオの主張は国王の名の元に認められ、ノブレージュ伯爵の恨みを更に買ってしまっていたりする。


 尤もデュオもやられっぱなしと言うわけでは無く、玉藻の前討伐の前にティシリアに依頼していた九尾の狐事件の情報収集でデュオを嵌めようとしていた人物――ノブレージュ伯爵を探し当ててその地位を剥奪させたのだ。

 シフィルやティシリアに協力してもらい盗賊ギルドを通じてノブレージュ伯爵の情報(これまでに裏で行っていた悪事)を集め、コネを使いカイン第三王子の真実の目(トゥルーアイズ)で断罪を行いエレガント国王の前で断罪を行った。

 結果、ノブレージュ伯爵家は爵位を剥奪され取り潰された。

 その裏には庶民派の権力を増す為、カルヴァンクル王太子やベルハーニア伯爵の協力もあったりする。


 そして気が付けばデュオは何故か王宮内でかなりの権力を持つことになっていた。本人の預かりの知らぬことだが。

 王族が逆らえない謎のジジイをお爺ちゃんと親しげにし、カルヴァンクル王太子や真実の目(トゥルーアイズ)を持つカイン第三王子と繋がりを持ち、権力の増した庶民派筆頭になりつつあるベルハーニア伯爵との繋がりもあるのだ。

 尤もデュオがそれを知ったところで「あ、そう。それで?」としか言わないだろう。

 彼女にとっては今は王宮の権力より、目的が最優先だからだ。


 そして王国の勅命を果たしたことにより、冒険者ギルドでもデュオの資格剥奪やクラン活動の制限が解除された。

 それによりデュオは早速目的の為に活動を開始した。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 デュオはこれまでの生活を一変させ、大体はほぼ決まったスケジュールで動く。


 午前中はザウスの森の殺生石を通じて九尾の城へ向かい、狐人(フェネックス)の3人娘と一緒に再生水晶に収まったクオの世話をすると同時に魔力を注いで少しでも復活を早める。


 因みに、3人娘に玉藻の前を倒さないで浄化を優先する要望の代わり条件を付けていたが、その内の一つ、エレガント王国側の監視・管理は行わないことにした。

 その理由の一つとして、玉藻の前なら兎も角、クオを王国側に任せたくなかったからだ。


 もう一つの理由としては殺生石の存在を知られたくなかったと言うのもある。

 討伐時にハルトも言っていたが、殺生石は3つ存在しており軍事目的に使えばこの上ない危険な移動装置になりうるのだ。

 殺生石を通じて炎聖国内に軍を送り込むことは容易くなり、その通り道である九尾の城も軍事利用されたり戦火に巻き込まれたりする。

 それを嫌って敢えてデュオたちは殺生石の存在を王国には報告していない。


 午後からはセントラル遺跡に於いて過去の資料の発掘となる。

 主な狙いは魔導士協会跡地の地下に眠る資料庫だ。


 鬼の能力を持つ謎の冒険者・紫電によると、あそこには魔導技術大全の他に世界の秘密が詰まっていると言う。

 デュオはどうしてもその世界の秘密を手に入れたかった。


 封印される前のクオと謎のジジイの会話によると『彼ら』が今回の九尾の狐事件を仕組んだと言える発言をしていた。

 なればこそ、デュオはその『彼ら』を許せそうになかった。


 『彼ら』は誰なのかは謎のジジイは教えてくれなかった。

 『彼ら』は世界の秘密に迫る存在である故、おいそれと教える訳にはいかない、と。

 謎のジジイはこれ以上の追及はするなと釘を刺して用があるからと言ってデュオの前を去った。


 だからデュオは自力でその『彼ら』に辿り着く必要がある。

 その為のセントラル遺跡の調査だ。

 紫電に協力を仰ぐと言う方法もあるが、生憎と連絡を付ける術がない。

 尤も紫電も謎のジジイと同じくあの時みたいに情報を制限するだろうが。


 デュオの目的はクオの早期復活とクオを陥れた『彼ら』への復讐だ。




「あれ? 今日も城へ行くのか?」


「うん、クオが寂しがるといけないからね」


「・・・無茶はするなよ。諦めるなとは言わないが、世の中どうにでもならない事もあるんだ」


「分かっているわ。でも、心配してくれてありがとう」


 デュオの心配をしてウィルは声を掛ける。

 ウィルも『月下』のマスコットのクオが居なくなり寂しさを感じていたが、だからといてその為に無茶をして体を壊しては何にもならないとデュオに釘を刺しておいた。


 『月下』のクランホームは半壊状態になっているので、今いるのはホーム再建まで用意された仮のクランホームだ。

 前に比べると規模も小さいホームだが、クランメンバーはそれなりに以前より精力的に活動している。

 おそらく賑やかしだったクオが居ないのを紛らわす、又は落ち込んでばかりいられないと思っているのだろう。


 とそこへ、出掛けようとしたデュオにシフィルが声を掛けた。


「あ、デュオっち、ちょっと待った。デュオっちに耳寄りな情報を持ってきたよ」


「あら、何かしら」


「今王都に巫女神フェンリルが降臨しているっていう噂があるのよ」


「え? それって・・・マジ話?」


「マジマジ、大マジ」


 流石にこの噂にはデュオも首をかしげざるを得ない。


 巫女神フェンリルと言えば100年前に6人の仲間と共に魔王エーアイを倒し、神の世界アルカディアに向かい入れられ神となった冒険者だ。

 他にも剣聖神・闘鬼神・時空神・戦女神・天魔神・大賢神と6人の仲間も神として祀られているが、七王神と言えば巫女神フェンリルが有名だ。


 だが、本当に神としてアルカディアに迎え入れられたのか真実は不明だった。

 何せ誰も彼女たちがアルカディアに向かったと言うのを見たことが無いからだ。


 中にはフェンリル達は魔王を倒す為にアルカディアから遣わされた神の使徒ではないかと言う説もある。


 そんな不確定な伝説の七王神の巫女神フェンリルが今になって地上に降り立つと言うのも怪しい話であるのだ。


「・・・それって盗賊ギルドも噂を聞きつけているわよね?」


「それは勿論」


「盗賊ギルドではその巫女神フェンリルがどれくらいの確率で本物と思っているの?」


「盗賊ギルド内ではまだ意見が割れているけど6:4で偽物ではないかって疑っている。

 今後の情報次第では本物の確率が上がるかもしれないけど」


 デュオは盗賊ギルドの見識に驚いていた。


「本物が4割もあるって言っているの? どう考えても偽物としか言いようがないのに?」


 そうなのである。

 神の名や有名人を騙る人物はごまんといる。

 偽物を語る者は大半が直ぐに見破られ追い立てられるが、中には巧妙に偽装し本物に成りすます強者も居る。


 デュオが驚いたのは、不確定な伝説を考えればほぼ確実と言っていいほど偽物である巫女神の降臨を盗賊ギルドが4割もの確率で信じていると言う事なのだ。


「それが調べた限りじゃ強さは超一級品な上、巫女神フェンリルが使っていたと言う神降しが使えるって話しだしね」


「うーん・・・強さは別にして、その神降しはトリックとかじゃないの?」


「盗賊ギルド調べじゃトリックは見つけられなかったみたい。

 祝福(ギフト)とは違うしマジックアイテムとも違う。実際に何人もの盗賊(シーフ)がその神降しを見たりしていたから盗賊ギルド内でも本物説を疑わないみたいね」


 情報の取り扱いに関しては盗賊ギルドは信用のおける組織だ。

 その組織がここまで言うのであれば本物なのだろうか。

 デュオはシフィルの言う事を吟味しながらある事に気が付く。


「あれ? それってあたしのやる事となんか関係あるの?」


「大有りじゃないの。デュオっちは『古強者(オールドマスター)』の言う『彼ら』を追っているんでしょ? その為に古の知識の眠るセントラル遺跡に向かっているんだし。

 もし巫女神フェンリルが本物であれば、神の世界アルカディアで『彼ら』の事を知っているのかも知れないし、セントラル遺跡の例の資料庫への入り方も分かるかもしれないじゃない。彼女は100年前のセントラル遺跡――セントラル王国を知っている人物でもあるんだよ」


 そう言われてデュオはシフィルがこの情報を持ってきた意味を理解した。

 確かに巫女神フェンリルが本物であれば謎のジジイの言う『彼ら』の正体に近づけるのかもしれない。


 そうと決まればデュオはシフィルに更なる巫女神フェンリルの噂の情報を集めてもらい、情報が集まるまで午前中は九尾の城へ赴き、午後はセントラル遺跡で資料室へ入るための手段を捜索する。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 最近の冒険者ギルドは異様な空気に包まれていた。

 緊張・動揺・猜疑心などが混ぜ合わせたような雰囲気が出ていたからだ。

 その原因となる雰囲気を作り出していたのは一人の女性冒険者だった。


 流れる様なストレートの髪に一房だけ纏めた赤いリボン。

 巫女装束に身を包んだスレンダーな体ながらその高身長により凛とした雰囲気を纏っている。

 左右の腰にはそれぞれ刀が下げられており二刀流の使い手と見て取れた。


 その女性は冒険者ギルドの食堂で数人の仲間と一緒にテーブルに付き、軽い食事を摂っていた。

 周りの冒険者はその女性冒険者を遠巻きに眺めながら色んな視線を送り続けていながら誰も話しかけようとはしなかった。


 そんな雰囲気の中、2人の男女の冒険者がその女性冒険者へ話しかけてきた。


「あの! 巫女神様ですよね!? あたし達を巫女神様のパーティーに入れてください!」


「あら? 随分と元気のいい子ね。嫌いじゃないわよ、そう言う子。

 あたしのパーティーに入りたいの? そうねぇ・・・貴女の実力にもよるけど、取り敢えず名前と冒険者ランクを教えてもらえるかしら?」


 女性冒険者――巫女神フェンリルに声を掛けたのは赤みがかった茶髪の少女で、見た目通り活発な感じが見て取れる。

 フェンリルはそんな少女を一瞥した後、取り敢えずと言った感じで自己紹介を促した。


 話が出来たのが嬉しいのか直ぐに答えようとしたところを、連れの男の方が止めに入る。


「おい待てよ。本気でこいつが巫女神だと思っているのか? どう考えたってニセモンだろうよ。

 第一今さら何の用で天と地を支える世界(エンジェリン)に戻って来たんだよ」


「あら、酷い言われようね。

 あたしが何故地上――天と地を支える世界(エンジェリン)に戻って来たのかと言えば、暇だったからとしか言いようがないわね。

 貴方エンジェルクエストは知っているわよね?」


「はい! 勿論です! エンジェルクエストをクリアすることで巫女神様の居るアルカディアに行くことが出来るんですよね?」


 フェンリルが男の方に問いかけたのだが、余程フェンリルに陶酔しているのか答えたのは少女の方だった。


「そう、そのエンジェルクエストで何人かの人がアルカディアに来たのが切っ掛けね。

 彼らから天と地を支える世界(エンジェリン)の話を聞いて懐かしくなってこちらへ降りてきたのよ。

 尤も、天と地を支える世界(エンジェリン)へ来るためにかなりの力を抑えた身体で降りることになったけどね」


「そうなんですか!? でも力を抑えられても巫女神様は強いんですよね!」


「まぁ仮にも神を名乗っているからね。そこら辺の冒険者には負けないわよ」


「ふん、どうだか。どうせ何か裏があるに決まっている。

その強さだって本物だと証明できるわけじゃない。初めに噂をばら撒いて八百長で強さを見せつければ強者のように見せかけることだってできる。

 よく盗賊(シーフ)が使う手だ」


 はしゃぐ少女を抑えながら男は疑わしげにフェンリルを睨めつける。

 そんな男の態度が気に食わず少女は怒ってしまう。


「ちょっと! 巫女神様になんて失礼な事を言っているのよ! フェッツ! 巫女神様に謝りなさいよ!」


「イークフィ、いい加減目を覚ませって。こういうのは99%ニセモンだって相場が決まっているんだよ」


「99%が偽物なら1%は本物だって事じゃない。もしかしたらその1かもしれないんだよ!?」


「ねぇよ。どんな確立だよ、それ。

 お前がどうしてもと言うから目を覚まさせるために来たけど、やっぱ駄目だわ、こいつ」


「巫女神様をこいつとか言わないで! 失礼でしょ!」


 どうやらフェッツがイークフィに現実を見せるためにフェンリルに会いに来たのだが、盲目的に信じてしまっているイークフィには何を言っても通じないようだった。

 イークフィの方も本物を見せれば凄さが分かってもらえると思っていたのだが、フェッツの眼にはフェンリルの名を騙る偽物にしか見えなかったようだ。


「いいわよ、そこまで言うのならあたしと闘ってみる?」


「「え?」」


「そこの彼が言うにはあたしの強さは張りぼてだってんでしょ? なら実際に闘ってみれば分かるかと思うんだけど」


 一緒のテーブルに着いていたフェンリルの仲間はやれやれと言った表情で呆れながらに診ていた。

 そしてフェンリルの声に直ぐに反応したのはイークフィの方だった。


「分かりました! 巫女神様、フェッツをけちょんけちょんにのして現実を分からせて上げて下さい!」


「おい、何を勝手に受けてんだよ。俺のメリットが何も無いじゃないか」


「あら。あるじゃない。貴方が勝てば彼女に自分の意見が正しいって証明が出来るわよ。

 もし何だったら、あたしが負ければ貴方にお詫びとしてこれを差し上げるわ」


 そう言ってフェンリルは宝石の付いたペアの指輪を取り出した。

 リングはミスリルで出来ており、宝石部分はルビーを幾重にもカットした煌びやかな如何にも値打ちがある指輪だった。


 流石にこの報酬にはフェッツも息をのむ。


「よし、いいだろう。受けてやるよ、その勝負。後でほえ面をかいても知らねぇからな」


「心配はいらないわ。だって、あたしは巫女神ですから。負けるなんてありえないわ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 冒険者ギルドには鍛錬を行う為に訓練施設を用意している。

 型を確認する為や瞑想する為の室内の施設に、実際に実践を行うための室外のグランドなどだ。

 一行はグランドの方へと移動し、フェンリルとフェッツは武器を手に取り互いに向かい合う。

 武器はフェッツが了承し、自前の武器を使用することになった。


「巫女神様~! 頑張って~!」


 パーティーを組んでいるはずなのにどちらの味方なのか、イークフィはこぞってフェンリルを応援していた。


 事の成り行きを見守っていた周りの冒険者も結果を見る為にグランドへと集まっている。

 だが、殆んどの冒険者たちは結果は目に見えていた。

 何故なら同じような事がこの数日で何件も起きていたからだ。


 ならば何故止めないのかと言えば、当のフェンリル本人が面白いからと言って敢えて挑戦者を受けて周囲に止めないように周知していたのだ。

 その為、冒険者たちがここに集まったのはフェンリルの実力を探り本当に本物なのか、又はその神の実力を己の糧にする為に参考にする為、見極めようとしていた。

 中にはどれくらい持つのか賭けをしていたりもするが。


「さて、偽物のメッキが剥がれないうちに降参をお勧めするぜ」


 そんなことを知らない――いや、知っててもそれすらフェンリルの策のうちだと思いこんでいるフェッツは最後通牒を突きつける。

 無論フェンリルはそんなフェッツの最後通牒を跳ね除け、己が楽しむために戦闘を開始した。


「御託はもういいわよ。来ないならこっちから行くわよ?」


 フェンリルはそう言いながら左右の刀を抜き一気に間合いを詰めて斬りかかる。

 フェッツは腰の後ろに差したダガーを抜き素早い剣捌きでフェンリルの二刀を弾き返す。

 そしてそのまま短剣戦技の突き技を放つ。


「ヴォーパルスタブ!」


 フェンリルは刀を交差させ二刀流戦技の十字受けで受け流しそのまま舞うように斬撃を浴びせる。


「ちぃっ!」


 先ほどと違い、二刀の連続攻撃に流石にフェッツはバックで間合いを外し距離を取った。


「ふん、二刀流は見かけ倒しじゃないみたいだか。とは言え、対応できない速さじゃねぇな。巫女神ってそんなもんか?」


「あら、言ってくれるじゃない。これでもまだ本気を出していないんだけど?

 そう言う貴方もなかなかやるわね。そのダガー捌きから見るに、短剣士(ダガーマスター)みたいね。ここまでレベルが高いのは見たことが無いけど」


「泣いて謝るなら今のうちだぜ」


「残念だけど泣いて謝るつもりはないからご期待には添えないわね。

 けど、あたしが巫女神と言うのが本当だと言う証拠を見せてあげるわ。

 神の奇跡――そう神降しをね」


 フェンリルは二刀を天に突き刺すように構え、祝詞を上げる。


「我、太陽神に願い祀る。全てを薙ぎ払う猛き(イカズチ)の神を降ろし賜え。

 神降し・タケミカヅチ!」


 すると晴れやかな空に急遽雷雲が立ち込め、一条の雷がフェンリルの二刀へと落ちる。


 突然の落雷によりあわや大惨事かと思ったが、当のフェンリル本人は悠然とその場に佇んでいた。

 雷の衣を身に纏い。


「なん・・・だとっ!?」


流石にこれにはフェッツも驚きを隠せないでいた。


 フェンリルは雷の衣を纏ったまま、ほぼ一瞬で間合いを詰め雷速の斬撃をフェッツに浴びせる。


 フェッツは先程と同様にダガーで捌くが、雷の衣を身に纏ったフェンリルの斬撃も雷撃を帯びており、二刀を弾いた瞬間に電撃に襲われ動きが鈍くなったところを十字に斬られた。


「がはっ・・・!

 くそ、何が神の奇跡だ。ただの祝福(ギフト)雷纏装(サンダージャケット)じゃねぇか」


 フェッツは胸を抑えながら忌々しげにフェンリルを睨みつけていた。


 確かに祝福(ギフト)は女神アリスより授かったもので、神の奇跡とも言えよう。

 だがそれは他の祝福(ギフト)持ちにも言えることで、当然ながらフェンリルの事を巫女神と断定するには少し弱かった。


「あら、それならこれはどうかしら?

 我、太陽神に願い祀る。母をも焼き尽くす荒ぶる業火の神を降ろし賜え。

 神降し・ヒノカグヅチ!」


「なぁっ!?」


 次の瞬間、フェンリルの体から炎が巻き起こる。

 灼熱の炎がフェンリルの体を焼いていくように見えたが、先ほどの雷の衣同様に炎の衣を身に纏っていた。


 これは祝福(ギフト)炎纏装(フレアジャケット)のように見えるが、中身が全くの別物だ。

 女神アリスが定めた事により、祝福(ギフト)は一人一つしか用いえず複数持つことは決してあり得ない。

 それ故フェンリルがこのように二属性の纏装(ジャケット)を持つことはただの祝福(ギフト)とは言えないのだ。そしておそらくだが、その気になれば他の属性の衣――いや、神の力を卸すことが出来よう。

 まさに神の奇跡と言っても過言ではない。フェッツはフェンリルのこの神の力を目の当たりにして呆然と眺めそう思うだけだった。


 そんなフェッツを見つめフェンリルは一言。


「さて、どうする?」









次回更新は2/24になります。

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