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DUO  作者: 一狼
第7章 九尾襲来
38/81

37.その挑む先は九尾の城

 デュオは王都に被害を出した罪を問わない代わりに国王カーディナルより白面金毛九尾の狐・玉藻の前の討伐を命じられた。

 だがデュオにとって討伐の命は好都合だった。


 他の者に玉藻の前の討伐に向かわれると、下手をすればクオをもその討伐の対象になりかねないからだ。

 今は露見はしていないが、クオの正体は九尾の狐の半身だ。

 もしクオの正体がばれれば玉藻の前と一緒に討伐されてしまうだろう。


 なので、デュオは玉藻の前が討伐される前にクオを救出するつもりでいたので、これなら他の者に邪魔をされずにクオを救出することが可能だ。


 デュオは早速九尾の狐討伐・・・もといクオを助け出す準備をするためにクランホームへ戻ろうとしたところにカルヴァンクル王太子から声を掛けられた。

 横にはカイン王子も一緒だ。


「すまなかったね。こちらの騒ぎに巻き込んで」


「・・・何のことでしょうか?」


「おや? デュオ殿ほどの者が気付いていないと?」


 無論、デュオはカルヴァンクル王太子の言いたいことは分かっている。

 王宮の派閥争いに巻き込んだことを言っているのだ。

 デュオには誰か画策したかまでは分からないが、今回の責任の押し付けは貴族派によるものだと理解していた。

 だがデュオは敢えて素知らぬふりをした。


「仰る意味が分かりませんが」


「まぁ、そう言う事にしておこうか。

 何か困ったことがあったら僕に言うといいよ。カインが何かと世話になったみたいだからね。

 尤も、暫くは『災厄の使徒』の後始末で忙しいけど」


 『災厄の使徒』による魔物の討伐やら、これまでの分身(わけみ)の調査やら、新たに生まれいずる『災厄の使徒』の探索やらで、総責任者である王太子はここの所休む暇も無く漸く一段落が付いて王都に戻っては来たが、また暫くすれば『災厄の使徒』の調査の拠点であるイートス平原のカルデナ砦に戻らなければならないのだ。


「分かりました。もし何かありましたら王太子殿下にご相談いたします」


「う~ん、堅いなぁ。もう少し砕けた感じでもいいんだけど」


 これにはデュオも苦笑いをするしかない。

 カルヴァンクルにしてみれば庶民に紛れ込んで王都を堪能しているので砕けた口調の方が楽なのだが、流石に王宮の中で王族相手にそんな口のきき方は出来ない。


「デュオ殿。九尾の狐の討伐は厳しいものになると思うが、娘の救出が上手くいくように祈っているぞ」


「カイン殿下・・・やっぱり見えていたんですね・・・」


 カイン王子は真実の目(トゥルーアイズ)で玉藻の前の目的とそれによるクオの正体がはっきりと見えていたのだ。

 だが、これまでのデュオの世話になったことや、デュオとクオの母娘としての繋がりを慮って口にしなかったのだ。


「いや、九尾の狐から目的が見えなかったのは本当だぞ。我が見たのは母と娘が引き裂かれる様だけだ。何故引き裂かれたかまではな」


「カイン殿下、ありがとうございます」


「何、デュオ殿には色々世話になったからな。それに今後も世話になるのに居なくなってしまっては我が困る」


 カイン王子はこんな時にも拘らず、いや、こんな時だからこそデュオに指名依頼をするから死ぬなと言ってくる。


 デュオは2人に討伐の準備等もあるからとこの場を辞する。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 『月下』の半壊したクランホームでは瓦礫の撤去を進めており、中から美刃とティラミスとザックの異世界人組が救出されていた。

 それと同時に中からクランメンバーの品も引上げされており、デュオの静寂な炎を宿す火竜王(フレアサイレント)も発掘品の中に見えた。


 デュオは杖を手に取り、発掘品の中からマジックポーションなどの消耗品や冒険者グッズを揃え、クオの救出へ向かう準備を整える。


「あたしはこれからクオの救出に向かうわ。悪いけど後のことはよろしくね」


 デュオはピノに後の事を頼み向かおうとするが、ウィルやハルト等他のメンバーから待ったを掛けられた。


「ちょっと待てよ、まさか1人で行くつもりなのかよ!?」


「相手は九尾の狐だぞ。幾らデュオとは言え無謀すぎるだろうよ」


 てっきり自分たちも一緒に行くものだとばかり思っていたのでウィル達は大いに憤慨していたし、デュオの身を案じていた。


「あー、うん。だけどあたしはA級冒険者の資格を一時剥奪されているし、『月下』の冒険者活動を制限されているわ。

 あたしが九尾討伐に向かうのは国からの命令だしね。ウィル達には着いてくる権限は無いのよ」


 それを聞いたウィルたちは思いっきり呆れたような顔をする。


「あのさ、それで俺達が納得するとでも? 第一俺達が向かうのは家族を助けに行くことだぜ。冒険者活動じゃない。

 後は俺個人でお礼をしなきゃならない奴がいるしな」


「それに国はデュオ1人に九尾討伐を命じた訳じゃねぇんだろ? デュオが1人で責任を負う必要はないんだぜ。つーか、俺達も一緒に責任が生じていると思うが?」


「そうそう、クオっちを助けたいのはデュオっち1人だけじゃないんだよ?」


 ウィル、ハルト、シフィル、だけでなく、他のメンバーも口を揃えてクオを助けに行くと言って譲らなかった。

 中には家族すら助けに行けない冒険者資格などクソ喰らえなど言う始末だ。


「あんた達・・・もう、後で後悔しても知らないからね。

 でも、だからと言って全員で行くわけにもいかないからクオを助けるメンバーは厳選するわよ」


 デュオは呆れながらもクオの為に必死になってくれるメンバーをありがたく思った。

 その気持ちは嬉しいが、流石に伝説の大妖を相手にE級やD級を連れて行くわけにはいかない。

 C級でも厳しいと思われるので必然的にB級以上と言う事になる。


「行くのはウィル、ハルトさん、シフィル、アルフレッド、ジャドの5人よ。

 いつもの事で悪いけどピノは残りのメンバーを率いて後始末に当たって頂戴。

 ティシリアは盗賊ギルドに行って今回の事件の情報操作と情報収集をお願い。なるべくクオの事が出回らない様にと、あたしを嵌めようとした貴族側の経緯とかね」


 デュオが選んだメンバー達はすぐさま準備に入った。

 ピノはいつもの事だから手慣れた感じで残りのメンバーに指示を出し、ティシリアは情報を探るべく早速盗賊ギルドへと向かった。


「こういう時美刃さんやティラミスがいないとキツイな」


「しょうがないわよ。美刃さん達にも異世界(テラサード)の生活があるんだから」


「・・・それは俺に対する当てつけか? どーせ俺は仕事もしていないニートだよ」


 デュオとウィルが美刃とティラミスの異世界人組が居ない事に残念がっていると、同じ異世界人のアルフレッドが何故かいじけていた。

 その隣ではハルトがジャドに大量の刀を渡し、闇属性魔法のシャドウゲージで収納するように指示していた。


「ハルト殿、こんなに刀が必要なのでござるか?」


「メインウェポンの神木刀が奪われちまったからな。あれほど攻撃力のある刀が無いとなると後は手数で攻めるしかねぇんだよ」


「それにしては数が多いでござるな。二つ名の『百本刀』は伊達ではないでござるな」


「ま、『百本刀』と言っても殆んどがコレクション用の特殊能力のあるだけの攻撃力の無い刀ばかりだけどな。

 この中で攻撃力があって使えそうなやつを持っていかないと顕現獣(あいつら)には敵わねぇ」


 そう言いながら選び抜いた刀をジャドへと渡し、ジャドは影の中へと納めていく。


 全員の準備が整ったところでデュオたちはクオを救出するために出発した。


「って、肝心の九尾・・・クオの居る場所は分かっているのかよ?」


「大丈夫よ。あたしに付いて来て」


 デュオの先導の元、ウィルたちは王都の南門を抜けてザウスの森の奥深くまで歩いて行く。

 因みにクランホームの騎獣舎に繋がれていた走竜(ドラグルー)達はホーム半壊の際に破片などの飛来物により怪我を負ったりしていて暫くは乗ることが出来ないので徒歩での出発となっていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 デュオが目的地としたところはザウスの森の深部、『生きる石』と呼ばれる3m程の巨大な石があるところだった。

 ここは何故か魔物が寄りつかず、緊急避難場所として冒険者たちの間では重宝されている場所だ。


「ここって・・・『生きる石』じゃないか。ここにクオが居るって言うのか?」


「ウィルっちはせっかちだね。黙って見ていれば分かるよ。

 でも、なるほどね。ここの意味はそう言う事だったんだね」


 デュオはクオをここで発見した時から何かしらの意味があるだろうと調べていたのだ。

 今回の件で間違いなくこの『生きる石』が九尾関連であることが分かったのでデュオは迷わずここへ来た。


「ウィル、この脇にある石に刻まれている文字が読める?」


「頭が欠けてて『 生石』って書いてあるんだろ? だから『生きる石』って俺たちが呼んでいたわけだけど」


「そうね、これだけだと『生きる石』ね。

 実はその欠けている部分は『殺』が入るのよ。この石の正式名称は『殺生石』。九尾の狐が封じられていると言われる石ね。

 でも・・・おそらくこれはゲートね。この石は九尾の狐が居る異空間を繋ぐ要石なのね」


 デュオはそう言って『殺生石』に手を当て魔力を流す。

 すると『殺生石』の前に光の渦が現れる。


「はぁ~、まさかこんな仕掛けがあったとは。よく今まで気が付かれずにいたもんだ」


「魔力の流し方に一定の規則があるみたいね。普通は気が付かないわ。あたしが分かったのも九尾の狐がここを通って行った跡があったからよ」


 ハルトが今まで気が付かなかった事に呆れながらも良く見つけたとばかりに感心して見つめていた。

 デュオは時間が惜しいとばかりに早速光の渦に飛び込む。

 それに習いウィル達も続けて光の渦に足を踏み入れた。


 一瞬の浮遊感により足下が覚束なくなるが、再び大地に足を踏みしめた時には森の景色が一変して見渡す限りの町並みが見えた。

 そしてその中央には一際大きな城があった。

 但しデュオ達には見慣れない町並みと城だ。


「ここが、九尾の狐の・・・クオがいる所なのね」


「こりゃぁ、すげぇな。見た事のない造りの町だ」


「結構広いな。これはクオを捜すのに手間が掛かりそうだ・・・ってあの城に居るに決まっているか」


「むむむ、これは盗賊(シーフ)魂が疼くね。今回の件が片付いたら是非とも調べ尽くしたいね」


「なんだか拙者の忍者魂が刺激されるでござる」


「あー、まさかの和風とは。てか九尾の狐ってどっちかって言うと平安じゃなかったっけ? 何で江戸風なんだか」


 デュオ、ハルト、ウィル、シフィル、ジャドがそれぞれ玉藻の前の城下町や城を見て呆気に取られていた。

 但し異世界人のアルフレッドだけが別の意味で感心していた。


 それもそのはず、この異空間は異世界(テラサード)で言うところの和風の造りになっていたのだ。

 家は木材や瓦を使った趣のある造りに、城は白塗りの城壁に明らかにそこら辺の家とは違うつくりの瓦、屋根の天辺には金の(しゃちほこ)がそびえ立っている。

 天と地を支える世界(エンジェリンワールド)の豪華絢爛な造りの城とはまた違う自然と調和した豪華さを兼ね備えた城だった。


「さて、と。目的地は言わずとも分かっているわね」


 デュオの言葉に皆が頷く。

 シフィルを先頭に、ウィルとハルトが続き、デュオとアルフレッドが真ん中を、最後尾をジャドが務め、一同は玉藻の前の居ると思われる城へと向かう。


 城下町を少し進んだところでシフィルが足を止めた。


「何か居るね。気配探知で探ったところ魔物じゃないね。ここの住民か、もしくは九尾の顕現獣か」


「こっちでも探知したわ。でもこの魔力だと顕現獣じゃないわ。おそらく人だと思うわ」


 気配探知に長けた盗賊(シーフ)のシフィルが先頭で進む中、3人ほどの気配を探知したのだ。

 同時にデュオの方でも魔力探知で魔力を探りながら進んでいたので、シフィルが探知したのが魔力の大きさから言って魔物や顕現獣ではないと判断したのだ。


 尤も、それまでこの城下町には魔物どころか人1人居なかったので、異空間(敵地)で初めて会う住人との接触に警戒をしていた。


「あのあの! 助けてくださいなのです!」


「姫様の暴走を止めて欲しいの!」


「このままじゃ姫様、悪者にされてしまいます・・・」


 デュオたちの前に現れたのは3人の狐人(フェネックス)の少女だった。


「姫様って九尾の狐の事? 何か事情がありそうね。詳しく話してもらえるかしら」


 目の前の3人からは敵意が感じられず玉藻の前の関係者であると判断し、デュオは情報を聞き出すためにこちらも敵意が無い事を示し事情を聞く事にした。


「なるほどね。ここの異空間が全てが九尾の狐を浄化する為の装置ってわけね。

 で、長年にわたって浄化し続けたにも拘らず馬鹿な冒険者によって九尾の狐に再び負の感情が生まれてしまったと」


「ですです。あと数年もすれば優しい姫様が目覚められたはずです」


「姫様が元の悪に戻ってしまったのは、あの時の冒険者が姫様を攫おうとして再生水晶を傷つけたのが原因に決まっている!」


「ぁう・・・何とかして姫様を再生水晶に戻して再び浄化したいの」


 デュオは考える。

 デュオの目的はクオの奪還だが、一応エレガント王国からは九尾の狐の討伐を命じられている。

 まぁ、名目上は討伐だが、国に害が無いようにしろとの事だ。


 それに対し、3人娘の願いは再び玉藻の前を浄化したいと。


「いいわ、あたし達としても九尾の狐が封じられるのならそれに越したことは無いから。

 その代わり、こっちの要望も聞いてもらうわよ」


 デュオは3人娘の要望を聞く代わりに条件を付きつける。

 一つ、九尾の半身であるクオの身柄を引き渡す事。

 一つ、今後は九尾の狐の監視、管理をエレガント王国側からも行う事。

 一つ、最悪封印せずに討伐しても決して恨まない事。


 玉藻の前とクオの関係を聞いて驚いていた3人娘だったが、それならば玉藻の前の変化が納得できるものだった。

 これまで浄化して心優しい玉藻の前が再生水晶の中で目覚めを待っていたのだが、件の事件の影響でその心が半身として別れたので、残った体に元の悪の心が蘇ったのではないかと。

 その為クオの引き渡しに難を示したが、また長い年月を掛けての浄化を行う事で納得してもらった。

 その浄化の為にエレガント王国からの人員の派遣を条件としたのだ。(尤もこれは王宮に持ち帰って相談しなければならない事でもあるが)


「姫様は城の天守閣に居るわ! 但し城の中は空間が湾曲していてまともに進めないの。だからあたし達が道案内するから付いて来て!」


 3人娘の1人――テルマが先頭に立ってデュオたちを率いて城下町を駆ける。


「なぁ、お前ら炎聖国から来たって言ってたけど、わざわざエレガント王国の殺生石を経由して来てるのか?」


「いえいえ! この異空間には殺生石が3つあるのです。

 1つは貴方の言うエレガント王国へと、1つはあたし達の村にある炎聖国へと、最後の1つはセントラル大陸の東側にある深緑の森へと繋がっているのです」


 ウィルの問いに3人娘のもう1人――ネリネが答える。

 3つの殺生石を3つの地で空間を繋ぐことにより、この異空間を安定させているのだとか。


 尤も長い年月の間に殺生石を通じて行き来していた人が次第に薄れ、結果として殺生石自体の存在が忘れ去られてしまっていたのだ。

 決定的になったのは100年前の大災害だったりする。


「なるほどねぇ。でもかえって忘れ去られていた方があんたらにしてはよかったかもしれねぇな。これって下手をすれば軍事利用にも使えるぜ」


「どういう事だ?」


「つまり炎聖国や深緑の森に直通路が出来ているようなものなんだね。まぁハルトっちが心配する軍事利用もありだけど、貿易としての使い道もあるんじゃないのかな?」


 ハルトはこれは知らなかった方が良かったと思案顔になる。それを聞いたウィルにシフィルが答える。

 深緑の森側はそれほど価値は無いが、場合によっては炎聖国側には利用価値があるのだ。


「あー、なるほどね。そりゃあお嬢さん方にとっては姫さんと同じくらい大変な事だな」


「あうあう、出来れば忘れて欲しいのです」


「でも、村が豊かになるのはうれしいですぅ」


 ネリネはとんでもない秘密を掴まれたとして焦るが、最後の1人のパルフェが貿易によって村が豊かになるのを想像して喜んでいた。


 と、城へ向かう途中で新たな人影が現れる。

 赤と緑と茶の髪と耳と尻尾をした狐人(フェネックス)の少女――玉藻の前の顕現召喚した炎乃華と風美奈と地穂だった。


 無論、デュオやシフィルは魔力探知・気配探知で潜んでいたのが分かっていたので警戒しながら近づいていた。

 そんな2人を察して残りのメンバーも戦闘態勢に入っていた。


「やはり来たか、人間。貴様の言う仲間の為と言うのなら主の半身を追いかけてくると思った。

 未だに理解不能だが、貴様が己の保身よりも他者を優先することは予測できた。なので、ここで貴様が来るのを待っていたぞ。

 先の戦闘で付けられなかった決着をここで付けよう」


 炎乃華がウィルを見て言う。

 玉藻の前の目的が達成された時点で引き上げなければならず決着が付けれなかったのだ。

 炎纏装(フレアジャケット)を纏いながらもウィルを消し炭にすることが出来なかったことが炎乃華の中では到底許せるものではなかった。

 だがウィルの仲間を思う気持ちが再び炎乃華の前に現れるであろうと予測した。

 玉藻の前に仕える顕現獣でありながらウィルが現れるのを待ち望んでいたのだ。


「へっ、それはこっちのセリフだよ。こっちはてめぇに散々ボコられてハラワタ煮えくりかえっているんだ。

 しかも最後は俺を見逃すかのように消えやがって。舐められっぱなしでいられるほど俺は温厚じゃないんでな」


 ウィルはウィルで炎乃華に見逃されたことに己の不甲斐無さを感じていたのでこのリベンジは望んでいたものだった。


「てめぇ・・・あの時スケルトンに殺されたんじゃねぇのかよ」


 ハルトは目の前に現れた地穂を見て驚いていた。

 横やりではあったものの、確かにあの時刀狩りのスケルトンに地穂は斬り倒されていたはずだ。

 それが何事も無かったかのように目の前に立っている。


「我、マスターの顕現獣。マスターの魔力、無限召喚可能」


「えーと、私はご主人様の顕現獣だからご主人様の魔力があれば何度でも召喚されるって言っているわよ」


 風美奈はわざわざ地穂の断片的な言葉を訳してハルトへと説明する。

 機械的な地穂と違って風美奈は人間臭さがある顕現獣だった。


「ち、メンドクセー相手だな。まぁいい。何度でも蘇るって言うんだったら何度でも殺してやるよ。そうすればその分九尾の狐の力は削がれるからな」


 そう言いながらハルトは腰に差してある刀を引き抜く。

 それと同時にジャドにシャドウゲージから刀を何本か取り出すように指示を出す。


「デュオ、ここは俺達に任せて先に行け」


「だな。俺らは因縁のあるこいつらを相手しておくからデュオは先に行け。

 俺らの目的はクオだろ? デュオはここで余計な消耗をしている暇はねぇよ」


「拙者としては荷物持ちにされているのは不本意でござるが、ここに残ってお二人の援護をしていくでござるよ」


 デュオはウィルたちの言葉に少し考え、ここは3人に任せ先に進むことにした。

 ハルトの言う通りデュオの目的はクオの救出なのだ。ここで余計な戦闘をしている暇は無い。


「分かったわ。けどいい事、決して無茶だけはしないでね。必ず追いついてくるように」


 デュオはそう言葉を残してネリネ達に先導してもらって先へと進んだ。


「さぁて、パーティーを始めるか!」


 ウィルは剣を抜いて炎乃華と対峙する。

 ハルトは地穂と風美奈を相手取り、ジャドはその援護をする。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 城下町を進んでいき、城の門をくぐったところで新たな顕現獣が現れた。

 青の髪と耳と尾を持つ狐人(フェネックス)の瑞月だ。


「よくいらっしゃいました。この場は私がお相手いたします。

 私1人だけと言うのを不審にお思いかもしれませんが、姫様はこの場は私1人で十分と判断しました。努々油断為されない様にご忠告いたします」


「あー、あんたがクランホームを半壊させた狐人(フェネックス)ね。いえ、顕現獣って言った方がいいのかな?」


「おい、その前にアリアードを嬲り者にしたってことを忘れるなよ」


「勿論それは忘れていないよ。アリアードっちが命を懸けてまでクオを守ろうとしたのを足蹴にしたのをどうやって忘れればいいのさ」


 シフィルが目を半眼にし、目の前の瑞月を睨みつける。

 アルフレッドはそれより顕著に仲間のアリアードを危篤状態にまで追い込んでいたことに怒っており殺気をむき出しにする。


 2人はかなりご立腹のようだった。

 何せ目の前でクランホームへの攻撃やらクランメンバーへの蹂躙を目撃しているのだ。

 そしてなりよりも仲間を救う事の出来なかった自分に腹が立っているのだ。


 それ故、先ほどのウィルたちの気持ちも分かった上であの場を任せたのだ。

 なので、ここで2人が言う言葉は先程のウィルたちと同じだった。


「デュオっち、ここはあたし達に任せて先に行って。あちしはこいつに用があるから」


「そう言う訳だ。俺もこいつに用がある。キッチリ焼きを入れておかないとな」


「えーと、結局あたし1人になっちゃうんだけど・・・」


 クオを助けるために皆で来たはずなのだが、結局は1人で玉藻の前に行くことになることに困り果てた。

 尤ももともと1人で来るつもりだったのでそれ程困ってはいないが。


「こっちが片付いたら追いかけるから取り敢えず先に行っとけ」


「そうそう、たった1人であちし達を止めようと勘違いしてる獣を躾けるだけだからすぐ追いつくよ」


「・・・分かったわ。ウィル達にも言ったけど無茶はしないでね。ネリネ、先お願い」


 3人娘はデュオたちの仲間の信頼を目の当たりにして感心しながら城の中へと入って行き、デュオは1人でそれを追いかける。


「あら、私を無視するとはいい度胸ですわね」


 それを阻止しようと瑞月が体に水を纏い、それを鞭のように水を飛ばしながら行く手を遮ろうとする。

 無論そんなことはさせずにアルフレッドが土属性魔法のストーンウォールで防ぎ、瑞月に接近したシフィルが更なる追撃を防いだ。


「おっと、さっきも言ったけどたった1人であちし達を止めようと無謀だよ? 暫くはあちし達を相手してもらうよ」


 デュオはそんなシフィル達を見ながら城の中へと進んでいく。




 九尾の城の中はネリネ達が言った通り空間が湾曲していてまともには進めなかった。

 前を進んでいたと思えばいつの間にやら後ろを向いていたり、右に曲がったと思えば全く別の空間へ繋がったりと3人娘の案内が無ければこの城の中で迷って前へ進むどころか戻る事すらままならなかっただろう。


 そんな3人娘の案内の元、城の最上階である天守閣へと辿り着く。


「ほう・・・よもや再び妾の前に現れようとは・・・余程妾の半身が気に入ったと見えるのう。じゃが残念じゃのう、妾の半身はほれこの通り。今や妾の中に戻ろうとしておる」


 天守閣の奥には水晶と思しき中にクオが収まっていた。

 そしてその水晶には玉藻の前の9本の尾が絡みついて、時折鈍い光を放つ水晶の力を吸い取っていた。


「クオ・・・!」


「あうあう! 姫様、正気に戻るのです!」


「ん? ネリネ、姫様は正気だよ。この場合はいつもの優しい姫様に戻ってって言うのが正しいのでは?」


「ぁう・・・そんな事言ってる場合じゃないの」


 3人娘は負の魔力を放つ玉藻の前にいつもの穏やかな魔力を放っていた玉藻の前に戻るようにと訴えかける。

 そんな3人娘を下がらせるようにデュオは指示を出し、玉藻の前の前に進む。


「クオを返してもらいに来たわ・・・!」


「くくく・・・この期に及んでもまだ妾の半身を取り戻しに来たじゃと? 最早妾の半身が消え去るのも時間の問題じゃ。

 尤もその前に妾の元へと辿り着く事すら敵わんじゃろうがな。

 こうして妾の半身の力を取り戻したことにより新たな僕が呼び出せるからの。

 ――顕現召喚、氷檻(こおり)雷千(らいち)光璃(ひかり)闇離(あんり)


 玉藻の前に4つの魔法陣が輝き中から4人の狐人(フェネックス)が現れた。


 白の髪・耳・尾をした氷を司る氷檻。

 黄の髪・耳・尾をした雷を司る雷千。

 金の髪・耳・尾をした光を司る光璃。

 黒の髪・耳・尾をした闇を司る闇離。


 召喚された4人の顕現獣がデュオを取り囲む。


「愚かじゃのう。実に愚かじゃ。たった1人で妾に勝てると思うておるところが実に下賤な人間らしいのう。

 ――やれ」


 氷檻が氷を纏い、雷千が雷を迸らせ、光璃が光り輝き、闇離が闇を纏いてデュオに襲い掛かる。

 デュオは卵の十冠(デケム・オーブマ)から土属性魔法のストーンウォールと無属性魔法のマテリアルシールドを左右に放ち、一時的に道を一本にし襲い掛かる人数を限定する。

 その上で素早く呪文を唱えその通り道に雷属性魔法の雷の閃光を放つ。


「ライトニング!」


 1mもの太さの雷の閃光が走り縦に並んだ4人の顕現獣を飲み込む。

 だが雷が収まった後には無傷の4人が立っていた。


「残念無念また来週。あっちの前で雷を使うなんてあっちに強くなって下さいって言っているようなもんね」


 先頭に立っているのは雷千。雷を司る彼女には全く持って無効だった。

 それどころかデュオの放ったライトニングを取り込んで己の雷としたのだ。


 雷千が雷を纏ったまま拳を放ち、後ろから追随する氷檻が右側から氷の散弾を放つ。

 左側から闇離が闇の槍を携え、その後方では光璃が背中に光の翼を羽ばたかせ光の羽の散弾を放つ。


 4人の顕現獣の猛攻の前にさしものデュオも追い込まれていた。


「くっ・・・!」


 デュオは血塗れになりながら直ぐに己の特異の血の魔力で直ぐに傷を治していくが、手数が追いつかず防戦一方だった。

 1人1人の強さはデュオにとってはそれほど脅威でもなかったが、それが4人揃っての連携攻撃だと攻勢に回れないでいたのだ。


 デュオは静寂な炎を宿す火竜王(フレアサイレント)を剣と見立て無幻想波流の剣戦技で氷檻の攻撃を弾き、魔法で闇離の攻撃を迎撃するも、その隙を縫って雷千の攻撃がデュオへ届こうとしたその瞬間―――


「ブロークンヘル!」


 突如現れた巨大な黄金のハンマーにより雷千が吹き飛ばされる。


 デュオは思わずそのハンマーを振り下した人物を見る。

 そこには180mもの身長の美丈夫の老人――幼き頃デュオを助けた謎のジジイが居た。


「久しぶりじゃのう、デュオ。よもやこんなところで再会するとは思わなかったぞ」


「おじいちゃん・・・!」









次回更新は12/30になります。

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