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DUO  作者: 一狼
第7章 九尾襲来
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36.その真実は誰が為に

「取り敢えず身動きのできない今だから確認しておくけど、貴女・・・白面金毛九尾の狐・玉藻の前で、いいのよね?」


 デュオのその言葉に少々驚きながらも玉藻の前は複合捕縛魔法に縛れたまま悠然と答える。


「ほう・・・妾の正体を見破っておったか。妾の存在は最早時の彼方へと押しやられていたかと思ったのじゃがのう」


「確かに九尾の伝説は遥か彼方の出来事だけど、貴女は100年前にも少しだけ現れているわ。その時の記録が残っているのよ」


「100年前・・・我が主と神薙の巫女との戦いの事じゃな。我が主は人間に絶望しておった。じゃからこそあの時妾は我が主に仕えることにしたのじゃ。

 じゃが、我が主は敗れてしまった。妾も不甲斐なく神薙の巫女の仲間達に敗れてしまった・・・」


 玉藻の前は100年前の出来事を思いだし身を震わせる。

 その時の悔しさは言葉では言い表せない感情が渦巻いていた。そしてそれ以上に100年前とは比べ物にならないくらい怒り・憎しみが負の魔力と共に溢れていた。


「じゃらかこそ、妾は己の欲望の為他者を平気で排除する下賤な人間を滅ぼすために我が半身を手に入れなければならないのじゃ・・・!」


 目の前の狐人(フェネックス)が伝説の妖狐・九尾の狐だと確認が取れた事によって、デュオは状況が限りなく事態が不利な方向へと向かっているのが分かった。


 玉藻の前が言う己の半身と言うのはほぼ間違いなくクオの事を指してるだろう。

 そしてそれはクオも九尾の狐そのものだと言う事に他ならない。


 半身と言う言葉から、最初は双子もしくは血縁関係にある事だと判断していたが、何らかの理由で九尾の力が2つに分かれてしまったのではないか。

 そしてその片方が目の前の玉藻の前であり、もう片方がクオであると。


 そうすればクオが幼く記憶が無い理由が大体説明できるのだ。

 力が分かれたことにより、クオは生まれたばかりの様な幼い人格しか持ち合わせていなかったのだろう。

 もしかしたら力が分かれた時の状況がことさら記憶・人格の混乱を引き起こしている可能性もある。


 数週間前のアレストの騒動の時に感じていたクオの正体――九尾の狐ではないかと予想していたが、これでほぼ間違いない事になってしまった。

 それはクオのこれからの立場がかなり危うい事になることも意味していた。


 何よりも一番最悪なのは目の前の玉藻の前がクオの力を取り戻しに来たと言う事だ。


「一つ聞いていいかしら?

 貴女の言う己の半身――クオを手に入れると言う事は元々1つだった九尾の狐に戻ると言う事よね。その時の人格はどうなるのかしら?

 元々の九尾の人格が戻るのか、それとも今の貴女とクオの人格が融合して新たな人格が生まれるのかしら?」


「妾の正体を見破っただけのことはあるのう。下賤な人間に全てを話す必要はないのじゃが、その洞察力に免じて答えてもよいじゃろう。

 貴様の言う通り妾と我が半身は元々1つの個体じゃった。じゃがあるに下賤な人間に妾の寝所が荒らされ妾は2つに分れてしまったのじゃ。

 それが妾であり、我が半身じゃ。

 じゃが我が半身は生まれてまだ日も浅い。結果的には妾が我が半身を取り込むことになる。それによって我が半身の人格は妾に飲み込まれて消え失せるじゃろう」


 その言葉を聞いてデュオは予想していた最悪な答えが返ってきたことに足下がふらつくが、どうにか持ちこたえる。

 玉藻の前の目的はクオなのだ。どうあってもクオを狙い続けることになる。

 デュオの取れる手段は目の前の玉藻の前を倒すことしか道は無いのだ。

 伝説と言われた白面金毛九尾の狐に勝つと言う道しか。


「そう、その答えを聞けて良かったわ。ならあたしはクオの為に貴女を倒す!」


「ククク・・・貴様ほどの人間が分からないわけでも無いじゃろう。

 妾を倒して何になる? 妾の半身の正体が分かって下賤な人間と暮らせるものか。下賤な人間は必ずや妾の半身を排除しようとするじゃろう。

 その時貴様は妾の半身を娘として庇うのか? 同じ下賤な人間同士で争うのか? 滑稽じゃ、実に滑稽じゃ!」


 そうなのだ。仮にここで元凶である玉藻の前を倒しても、クオの正体が同じ九尾の狐であれば周囲に危険視され立場が危ぶまれるのだ。

 だからと言ってこのまま玉藻の前にクオを差し出すわけにもいかない。


 何故ならデュオはクオの母親なのだから。


「そんな事、言われなくても百も承知よ! だけど、あたしはクオの母親よ。例えどんなことがあろうと、周りが敵だらけになろうと、あたしは母親としてクオを守るわ!」


「貴様・・・! 下賤な人間がいつまでも我が半身の母親を名乗るじゃと? ふざけるでない!

 もうよい、貴様にはここで死んでもらうのじゃ。これ以上我が半身を我が物顔で扱うのは我慢ならん」


 玉藻の前たちを封じていた複合捕縛魔法が消え去り玉藻の前と風美奈が解放された。


 クオを逃がすために時間稼ぎはある程度できた。後はこのまま玉藻の前を撃退――いや、倒すことに集中するだけだ。

 町中での戦闘ともなれば周囲に被害が及ぶだろうが、この際そのことは頭から追い出しデュオは目の前の玉藻の前に集中する。


 だが、そんな集中をあざ笑うかのように事態は最悪の方向へと進む。


「ククク、貴様がどんなに我が半身を守ると息巻いたところで結果は見えておる。

 ――のう、瑞月よ」


 玉藻の前の言葉と同時に目の前に青色の髪・耳・尻尾をした狐人(フェネックス)の少女が建物の屋根を越えて降り立った。

 その腕の中には意識の無いクオが抱え込まれていた。


「姫様、ご命令通り姫様の半身を連れてまいりましたわ。万が一のことを考えて眠らせております」


「クオ!? そんな、それじゃあハルトさん達は・・・!」


 目の前にクオが居ると言う事はハルト達もただでは済んでいないと言う事だ。

 この時デュオは己の判断が間違っていた事を悔いていた。

 どんなことがあろうとクオから離れるべきじゃなかったのだ。


「御苦労。これで妾の力を取り戻せるのじゃ。

 そして人間――デュオとか申したかの。これが現実じゃ。貴様の母娘の絆とやらはしょせんまやかしじゃ。

 付け加えれば、妾達に時間を与え過ぎじゃ。体は縛られても口はいくらでも動かせるのじゃぞ?」


 気が付いた時にはもう遅かった。

 今まで黙っていたもう1人の狐人(フェネックス)の少女――風美奈が呪文を完成させデュオに向かって放つ。


「トルネード!」


 目の前に現れた巨大な竜巻によって周囲の建物を巻き込んでデュオは体を捻じられながら遥か上空へと吹き飛ばされる。

 デュオは目の前でクオが攫われたと言う事実に動揺してまともに攻撃を喰らってしまったのだ。

 そしてその動揺が後の追撃にも対応出来ないでいた。


「――属性融合魔法陣発動。

 天衣無縫ヘブンリィシンフォニー!」


 玉藻の前が9本の尾で9種属性の魔法陣を描き、呪文を唱えて魔法を発動させる。

 クオが覚醒してソードテイルスネーク亜種を葬った時の魔法だ。


 デュオは上空からの落下に対応する前に、玉藻の前の魔法を受けてそこで意識を失った。




 玉藻の前が放った属性融合魔法により、周囲は更地へと化していた。


「ククク、随分とまぁさっぱりしたものじゃ。とは言え、力が完全ではないから思ったよりも出力が出なかったのう」


「姫様。早急に城に戻って力を取り戻す必要があります」


「そうそう、早く力を取り戻して人間を皆殺しにしちゃおうよ」


「そうじゃの。まずは力を取り戻すことが最優先じゃな。

 炎乃華と地穂を呼び寄せて城に戻るとするかの。――む、地穂が倒されておるじゃと?

 先ほどのデュオとか言う人間も侮れなかったが、まさか他にもそのような人間がおるのか・・・? ふむ、少しは注意しておいた方がいいかもしれんのう」


 2人の狐人(フェネックス)の少女――顕現獣の進言に従い、玉藻の前は早々に城へ戻ろうとこの場を後にする。

 その際、放っていた顕現獣の4人の内1人が倒されて繋がりが消えていたことに懸念し、少しばかり人間に警戒を強めておくことにした。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 デュオが目を覚ますとそこはどこかの施設の中だった。


「ここは・・・?」


 幾つものベッドが並べられた部屋にデュオは見覚えがあった。

 ブルブレイヴ神殿の治療室だ。


 そしてデュオは自分がなぜここに運ばれて来たのかを理解する。

 玉藻の前の襲撃の襲撃によりまんまと玉藻の前にクオを連れ去られたと言う事を。


「何が母親よ・・・何が絶対守るから、よ・・・自分を慕ってきた娘1人護れやしないじゃないの・・・」


 髪をくしゃりとかき上げ自己嫌悪に陥る。


「あ、デュオさん目が覚めたんですか。良かったです。

 デュオさん原因不明の爆発の跡地に大怪我で倒れてたんですよ」


 ブルブレイヴ神殿の巫女が気が付いたデュオに駆け寄って状況を説明する。

 周囲にはデュオと同様に怪我をしたと思われる人々がベッドに横たわっていた。

 おそらくその原因不明の爆発によって怪我をした住人が運び込まれているのだろう。


「ありがとう。迷惑をかけたわね」


「いえいえ、これが私たちのお仕事ですから」


 ブルブレイヴ神殿は勇猛神ブルブレイヴを奉る神殿であると同時に病気や怪我を治療する病院の様な役割も兼ねているのだ。


「デュオっち!」


 声のする方を見ればシフィルが駆け寄ってきていた。


「良かった。目が覚めたんだね。状況は大体把握しているよ。ただ・・・クオを守ろうと頑張ったアリアードっちが毒を受けてね。今ここで治療をしてもらってるよ」


 流石は盗賊(シーフ)であるシフィルはこれまでの騒動の概要を掴んでいた。

 だが、次に出てきた言葉はデュオを更に苦しめるものだった。


「アリアードが・・・!?」


 おそらくクオを必死になって守ろうとしたのだろう。それが返って仇となりアリアードを苦しめる結果となっていた。

 そしてそれを命じたのはデュオだ。その事実が更にデュオに後悔の念を抱かせる。


 玉藻の前を足止めし、クオをアリアード達に預けると言う自分の判断は間違っていたのだと。


「解毒処理の措置が間に合ったから命の危険は無いみたい。ただ完全な治癒まではしばらく時間が掛かるって」


「そう・・・アリアードには申し訳ない事をしたわね・・・」


「デュオっち・・・? どうしたのさ。なんか、らしくないよ?」


 落ち込んでいるデュオをシフィルは心配そうに見るが、デュオはそれに応える気力が無くただ俯いているだけだった。


「そう言えば、ハルトさんは・・・? アリアードと一緒にクオを頼んでいたはずだけど・・・まさか、ハルトさんも・・・?」


「ハルトっちも怪我をしているけど、アリアードっちとは別口だね。詳しい話はハルトっちから聞いた方がいいかも。

 あとそれと・・・デュオっちにはちょっとショックかもしれないけど、もう1つ悪い知らせを言わなきゃならないね」


 これ以上まだ何かあるのだろうか。そう思いながらデュオはシフィルの言葉を待つ。

 そしてシフィルの口から出た知らせとはデュオを更なる悪夢に誘うものだった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「うそ・・・」


 デュオは目の前の半壊したクランホームを目の当たりにして呆然としていた。


 アリアードが必死になって逃げたクランホームに玉藻の前の顕現獣・瑞月が襲い、クランホームに居たメンバーと共に戦闘になった。

 その結果、クランホームは半壊し、アリアードは猛毒を受けてクオを攫われてしまったのだ。


「デュオ、もういいのかい?」


 呆然としている所へ『月下』のNo3であるピノが声を掛ける。

 同じくデュオを見つけたウィルやハルト等他のメンバーも集まってきた。


「デュオ、すまん。任されたのにクオをみすみす攫われてしまって」


「ハルトさんの所為じゃないわ。あたしの判断ミスだったのよ」


「デュオ、あまり思いつめるなよ。お前の所為じゃないんだ」


 ウィルが慰めの言葉を掛けるが今のデュオには届かない。

 だが気落ちしていてもデュオはサブマスターだ。この現状に対してのサブマスターとしての責務を果たさなければならない。


「それで、メンバーの皆には怪我は・・・? そう言えば美刃さんはどうなっているの?」


「メンバーの皆はアリアード以外大きな怪我は無いよ。急に敵が襲来してきて対応できなかったのが逆に怪我が少なくなったみたいだ。

 美刃さんはまだ半壊したホームの中だね。幸い離魂睡眠中だから女神アリスの加護のお蔭で命に別状はないと思う。他の異世界人のティラミスとザックも同様だ。

 あとは早急に瓦礫を退かして3人を救い出す手筈を整えている」


 ピノの言葉を聞いて取り敢えずメンバーが無事で一安心する。

 そしてそこへウィルから今後の事に付いて聞かれた。


「それで、クオを取り戻すメンバーはどうする?」


「・・・え?」


「何呆けているんだよ。クオが攫われたんだろ? だったら取り戻しに行かないと。あいつマーと離ればなれになって泣いているぜ。いつまで泣かせておくつもりなんだよ」


 ウィルにとっては当たり前のことだったが、今のデュオにとってはウィルの言葉は衝撃だった。


(・・・そうよ、何堕ち込んでいたんだろう。攫われたのなら取り戻せばいいじゃないの。

 玉藻の前がクオを取り込むのに時間は掛かるはず。それが直ぐできるなら取り戻した時点でやっている。

 それに、力を取り戻すのに城へ戻るって言ってたわ。

 なら・・・敵地に乗り込んでもクオを取り戻すのよ!)


「そうね、クオを取り戻しに行かないと。

 ただ、相手は伝説の白面金毛九尾の狐よ。一度対峙したハルトさんなら分かるだろうけど、生半可な戦力じゃ返り討ちになるわ」


 先ほどまで気落ちしていたデュオに生気が蘇るのが見えてウィルだけではなく、ピノやハルト、他のメンバーも良かったと喜んでいた。


「そう来なくっちゃ。言っておくが俺は付いて行くからな。あの赤い狐人(フェネックス)にお礼をしなきゃならないんでな」


 聞けばウィルも一度玉藻の前と対峙していたと言う。

 そのことにデュオは驚きつつもそれでも尚クオの為に立ち向かおうとしてくれることにありがたく思った。(お礼云々は照れ隠しだろうとデュオは判断した)


「勿論俺も付いて行くぜ。デュオの命令を守れなかったからな。その責任は取らせてくれ」


 ハルトに関しては不運が重なったとしか言いようが無かったのだが。

 玉藻の前の追っ手との戦闘中に第三者からの割り込みがあったのだ。


 今王都で噂の刀狩りのスケルトンが現れたのだ。

 シフィルの集めた情報によると、刀を持った冒険者・騎士・兵士・コレクションとして所持している貴族など無名有名を問わず無差別に襲い掛かっているらしい。

 そしてそのスケルトンは巫女姿をしており、スケルトンにしては異常なまでの強さを持っていると。

 襲われた人々は為す術も無く刀を奪われてしまうのだ。

 ただ、余程の抵抗をしなければ大怪我を負う事は無いらしい。


 そして刀狩りのスケルトンはハルトを襲い、最近のハルトのメインウェポンの神木刀ユグドラシルをまんまと奪ってしまったと。


 その騒動の所為でアリアードの元に向かう事が出来ず、結果クランホームを襲われることになったのだ。


「分かったわ。ウィルとハルトさんには付いて来てもらうわ。後は他のメンバーは・・・」


「デュオ、やる気でいるところに気を削ぐようで悪いが、名指しで冒険者ギルドのギルドマスターから招集がかかっている。

 今回の事件の真相を知りたいと言う事らしいが、どうもきな臭い。何か裏があるように感じる」


「どちらかと言うと、冒険者ギルドより王宮の方が怪しいね。デュオっちが今回の騒動を引き起こしたと事件の犯人として身柄の引き渡しを要請しているみたいだね」


 ピノがそう言えばと、冒険者ギルドからの出頭要請が来ていたことを告げ、シフィルがその裏にはこの事件の責任をデュオに擦り付けようとしている情報を出して来た。


「何だよそれ! 今回の件はデュオは被害者じゃないか!」


 当然そのことにウィルは憤慨するが、デュオにとっては予想通りであり最悪の状況でもあった。


「ウィル、それ以上言うな」


 ピノの強い言葉にウィルは思わず口を閉じる。

 ウィル以外にも他のメンバーも何か言いたげにしていたが、ピノの鬼気迫るもの呑まれ口を出せる雰囲気ではなかった。

 一部のメンバーだけが今後起こりうる事態にデュオの身を案じていた。


「ギルドマスターの招集じゃ行かないわけにはいかないわね。ピノ、悪いけどここの指揮とクオ奪還の準備をしておいて」


「分かった」


 取り敢えずこの場はピノに任せ、デュオは冒険者ギルドへと足を運ぶ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「言えません」


「何ですって?」


 デュオの言葉に冒険者ギルドのギルドマスターは眉をひそめる。


 ギルドマスターは整った顔立ちでありながら目がやや吊り上っており、少しだけ鋭い雰囲気を醸し出している。

 流麗な銀の髪をなびかせ、髪の間から伸びる耳がギルドマスターがエルフだと証明していた。


「デュオ、もう一度言います。今回の事件の原因又は首謀者を答えてください」


「言えません」


 ギルドマスターの強い要望にもデュオは頑として答えなかった。

 そんなデュオにギルドマスターはため息を吐きながらデュオを説得するように辛抱強く言葉を続ける。


「デュオ、いいですか。今回起こった事件である南門の襲撃・南区大通りでの傷害事件・南区市街地での爆発、これらには複数の狐人(フェネックス)が関わっている証言が上がってきています。

 そしてそれ以外にも狐人(フェネックス)達による被害が出ています。

 デュオ達のクランも被害を受けているはずです。そうですね?」


 デュオは答えない。

 あれほど派手に騒ぎを起こしてホームが半壊しているのだ。知られていない方がおかしい。特に盗賊ギルドに情報を掴まれていれば王都中に知られているのと同意義だ。

 だからデュオは特段隠すことでもないが敢えて答えないでいた。


「そしてその爆発の跡地にデュオが居ました。デュオはこの爆発の原因を知っているはずです。

 デュオだけではありません。他のクランメンバーも今回の騒動に少なからず関わっている人たちが居ます。

 デュオは今回の事件の原因・・・いえ、首謀者が何者なのか知っているはずです。答えてくれませんか?」


 勿論デュオは知っている。

 だが、それは答えれない事だった。


 首謀者が伝説の大妖である白面金毛九尾の狐・玉藻の前だと答えるのは簡単だ。

 だが、何故今回の事件が起きたのかと聞かれれば原因は九尾の半身(クオ)にあると言わなければならないのだ。


 今回の事件・伝説の大妖を鑑みれば当然討伐の対象となるだろう。

 そうすればクオの事を隠して玉藻の前の事だけを伝えても、腕のいい盗賊(シーフ)や冒険者はいずれ真実に辿り着くと思われる。

 いや、既に真実に辿り着いている可能性もある。

 盗賊(シーフ)であるシフィルが状況を把握していたことが、盗賊ギルドでも情報を掴んでいると思っていた方がいい。


 だからこそ、デュオは自分の口から原因がクオであると言えないのだ。

 例え周囲で真実に辿り着いていたとしても母親であるデュオはクオの味方でなければならない。


「今回の事件に関して騎士団からデュオの身の引渡しを要請してきています。王宮で今回の事件の責任の所在を明確にするためです。

 このまま黙秘を続けるのであればデュオをこの事件の犯人として責任を負わせられます」


 現在王都は約1ヶ月前に起きた1人の召喚師(サモナー)による魔物の襲撃事件からまだ完全に立ち直ってはいない。

 そこへ『災厄の使徒』の知らせは王都を不安と混乱に陥らせるのに十分だった。

 その上今回の事件が起こり王都住民の緊張は極限にまで達してたと言えよう。


 その矛先を向けるのに生贄(スケープゴート)としてデュオが上げられた。

 大よそであるが王宮も今回の事件の首謀者の正体は突き止めているのだが、これ以上の不安を増大させないためと、王宮派閥による一部の貴族による策略でデュオに白羽の矢が立てられたのだ。


 そのことを冒険者ギルド――ギルドマスターも掴んでいたのでデュオの口から事の真相を聞き出せれば犯人としてしたてられることを防ぐことが出来る。


「デュオが事件の真相を答えてくれるのなら冒険者ギルドはデュオの擁護に回ることが出来るのです。

 これが最後になります。デュオの口からお願いします。今回の事件の真相を教えてください」


 だが、デュオの答えは―――


「言えません」


 その答えにギルドマスターは深い溜息を吐く。


「そう・・・ですか。分かりました。

 ならば冒険者ギルドとしてデュオに今回の事件の責任の一部を負わせることになります。一時的にデュオのA級冒険者の資格の剥奪と、クラン『月下』の冒険者活動を制限させてもらいます」


 デュオが答えてくれない以上、冒険者ギルドとしても王宮の方針に従いデュオへ責任を負わせなければならない。

 不本意ではあるが、ギルドマスターはデュオへ処罰を言い渡す。


「それと、この後騎士団の方々がデュオの身柄を引き取りに来ます。デュオには申し訳ないですがこのまま冒険者ギルドで待機してもらいます」


 デュオは処罰の内容がどんなんであろうと気にしなかった。

 今デュオの頭の中にあるのはクオの救出だけだ。その為どんな処罰が下されようと関係なかっのだが、どうやらそう簡単にはいかないみたいだった。


 デュオは否応なく王宮での審議が行われることになった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「言えません」


「何だと・・・!? 貴様! 名のある冒険者と言え、平民である分際で陛下の質問に答えられないと申すのか!」


 デュオはギルドマスターに答えたように、エレガント国王に問われた今回の事件の騒動の真相に付いて同じように「言えない」と答えた。


 当然国王の面前でのあり得ない答えに一部の貴族より非難の声が浴びせられる。


 今デュオが居るのは謁見の間だ。

 白を基調とした外壁に床には赤い絨毯が王の玉座へと伸びている。

 そしてその玉座にエレガント王国国王カーディナル=エレクシア=ジ=エレガントが座っていた。

 玉座の右側には宰相のワンダ=イターナーが、左側には王太子のカルヴァンクル=エレクシア=ヴィル=エレガントが。

 他には近衛騎士団団長のローゼット=ベルバラード伯爵、黒曜騎士団団長のノーレッド=ノブレージュ伯爵、水晶騎士団団長のオリーシュ=ベルハーニア伯爵、琥珀騎士団団長の女狼人(ウィーウルフ)ルナティアの3大トップの騎士団の団長と国軍兵士軍団長のディードリッド=ハーヴェスタ侯爵が赤い絨毯の片方に並び、その向かいには各大臣の貴族たちが並んでいた。


 エレガント王国王宮には3つの派閥が存在する。

 1つは貴族が民を支配すると言う所謂貴族派又は過激派と呼ばれる派閥。

 もう1つは権力を振りかざさず階級の隔たりを無くそうとする庶民派と呼ばれる派閥。

 3つ目は獣人種族をも受け入れる獣人派の派閥。


 黒曜騎士団は貴族派、水晶騎士団は庶民派、琥珀騎士団は獣人派のそれぞれの代表であり、他の大臣もこの3つの派閥に分れている。

 因みに近衛騎士団は王族直属と言う事で例外的に中立と言う立場だ。


 デュオを非難したのは貴族派の大臣だ。


「よい。A級冒険者ともなれば国に多大な利益をもたらす存在だ。この審議の場とは言えその発言にはそれなりの力がある。

 言えないと言うのであればそれが彼女の答えなのだろう」


「陛下・・・!」


 非難を浴びせた大臣は国王により国王カーディナルに制され言葉を詰まらせるが到底納得できるものではなかった。


「だが、言えないと言う事は今回の事件の責務は冒険者デュオが負うと言う事でいいのか?」


「・・・それがこの審議の場の罰とならば。

 お許しいただけるのであれば、私の為すべきことを為した後に罰を受けましょう」


 カーディナルの問いにデュオは淡々と答える。

 今回の事件はクオが引き寄せたと言ってもいい。原因はクオであると答える訳にはいかなかったが、その尻拭いを母親であるデュオは受けるつもりだった。

 但しそれはクオを助けた後でと言う事だ。

 この場では許可を頂けるとならと言ったが、そんな許可を貰うまでも無くデュオはクオを助けに行くつもりだ。後でどんな罰を受けようとも。


 そしてそのデュオの答えにほくそ笑む人物が居た。

 黒曜騎士団団長のノブレージュ伯爵だ。

 彼は貴族派の筆頭であり、裏では法ギリギリの悪事を働いていた。

 ノブレージュ伯爵にとって貴族が全ての頂点に立つ存在であり、庶民は貴族に搾り取られる家畜でしかなかった。


 その為庶民を蔑ろにし、裏で手をまわして奴隷を奨励したり他の貴族派の庶民への不正をもみ消したりしていた。

 そう言った悪事を悉く潰して回っていたのが庶民派のベルハーニア伯爵やベルハーニア伯爵と繋がりのあるデュオだった。


 ベルハーニア伯爵の後ろ盾の元、デュオは本人さえ知らぬうちにノブレージュ伯爵の企みを潰していたのだ。

 特に奴隷に関してはブラント商会との繋がりもあった為、デュオに邪魔をされ策を弄して庶民を奴隷に陥れようとしたのだがここ最近ではそれも儘ならなくなっていた。


 そこで今回の事件でデュオが関わっていると言う事でそれを利用してデュオを陥れようとしたのだ。


「ふむ・・・カルヴァンクル、お前は今回の事件をどう見る?」


 この謁見の間に於いて皆緊張の面持ちの表情でいる中、唯一王太子だけがにこやかにほほ笑んでいた。


「そうですね・・・責任の所在をハッキリさせると言うのであれば、彼女にはどうあっても真実を語っていただかなければなりません。

 今回の事件で被害が一番大きかったのは南地区の住宅街です。この一帯は謎の爆発で更地になっており、この場にデュオ殿が居たから原因の一因ではないかと我々は疑ってはいるのですが・・・デュオ殿1人でここまでする理由がありません。

 ぶっちゃけ、襲撃者・・・つまり敵と戦った結果でしょ? そうなるとデュオ殿1人にその責を負わせていいものかと」


 最後は王太子としてあるまじき言動だが、王都にお忍びで足を運んでいるカルヴァンクルは庶民派よりだったりする。

 そしてカルヴァンクルはノブレージュ伯爵の裏の行いもおぼろげながら感づいており、今回の件を理由にデュオを陥れようと言うのも分かっていた。


 勿論そのことは国王カーディナルも把握しているが、ノブレージュ伯爵の尻尾を掴みきれないでいた。

 尤もその原因は尻尾を掴む前にデュオが事件を潰しまくっていたからだったりする。


 王宮でも盗賊ギルドの犬――近衛影士を使い、今回の事件の犯人を大よそ掴んではいるが、その為には対峙した者の証言が必要だった。

 何せ相手は伝説級の大妖なのだ。もともと存在すら危うい大妖の起こし事件は国の密偵だけの証言では信憑性に欠けた。

 それ故にA級冒険者の魔導師(ウィザード)として名高いデュオに証言の信憑性を求めたのだが、何故かデュオは答えない。


 デュオの証言を元に危険性を訴え対応策を講じるはずだったのだが、気が付けばデュオの断罪の場へと変わってしまっていた。

 それはノブレージュ伯爵の裏の手引きによるものだが、カルヴァンクル王太子はそれをあっさり覆しデュオの他に敵がいることを示した。


「殿下、何をおっしゃるのですか。この度の事件はここに居る冒険者デュオの単独の行いでしょう。彼女の魔導師(ウィザード)としての実力をもってすれば王都の一角を更地にするのは容易い事。

 目撃証言に獣人が居たと言う事ですが、誇り高い獣人はこのような事を行いますまい。

 それに申し訳ないですが獣人には町を壊すだけの魔力があるとは思えない。

 そうですよね、ルナティア団長?」


「そうだな。あれほどの規模の魔力を放てる獣人はそう存在しないだろう」


 ノブレージュ伯爵はカルヴァンクル王太子の言う襲撃者の存在を否定した。獣人の誇り利用して獣人であるルナティアをも味方に付けた。

 これによりデュオの単独犯であると印象付けたのだが、そこへ謁見の間へ進入してきた人物により再び覆されることになる。


「兄上。すまない、遅れた」


「・・・!? カイン王子!?」


「いや、丁度いいタイミングだったよ。カイン」


 現れたのはカイン第三王子だった。

 デュオが素直に話せば問題は無かったのだが、こうして話さない以上カルヴァンクルはもしもの時の為の切り札を持っていた。

 それがカイン第三王子だ。


 カイン王子の出現にノブレージュ伯爵は今回の策が失敗したことが分かった。


「カイン、待っていたぞ」


「はっ、父上。遅れてきて申し訳ありません」


「早速で悪いが、今回の事件の首謀者と思われる冒険者デュオの真実を見てはもらえぬか」


 カイン王子は国王カーディナルの前で跪き、首を垂れる。

 そのカイン王子にカーディナルは王子の持つ祝福(ギフト)真実の目(トゥルーアイズ)で今回の事件の真相を見るように命じた。


 そう、この場においてカイン王子の祝福(ギフト)は何よりもの証拠になるのだ。

 こういった審議の場においてカイン王子の真実の目(トゥルーアイズ)は何よりも有用なのだが、まだ5歳と言う年齢と人の闇を見抜き過ぎて人間不信になった経緯により使用されることは無かった。

 だが、カルヴァンクル王太子の勧めやこれまでに世話になったデュオを救うと言う事で進んでこの場に駆けつけたのだ。


「それでは、デュオ殿。見させてもらうぞ」


 カイン王子の目がくすんだ茶色から金色へと変わる。

 こうしてカイン王子に見られるのは初めてだったデュオは少しくすぐったいものを感じた。


「父上、今回の事件はデュオ殿の所為ではありません。襲ってきたのは9本の尾を持つ狐人(フェネックス)・・・白面金毛九尾の狐です。

 九尾の狐の魔法により南門は破られ王都の一角は灰塵したのです」


 カイン王子の言葉に謁見の間に居た者達から驚愕の声が上がる。

 獣人でありながら膨大な魔力を持つ白面金毛九尾の狐に掛かれば王都の一角を更地に変えることは容易いのだ。もしかしたら王都丸ごとを破壊することも可能だったのかもしれない。

 そのことを想像して貴族たちは慄いていた。


「して、九尾の狐の目的は?」


「・・・すみません。そこまでは見れませんでした。彼の者の目的を探るとすれば本人を目の前にして見ない事には・・・」


「いや、それで十分だ。良くやった、カイン」


「はっ」


 父親に褒められたことにカインは喜びながら頭を下げた。

 その微笑ましい光景を見てデュオはカイン王子に感謝をする。おそらくカイン王子には玉藻の前の目的も見えていたのだろう。

 だがカイン王子は敢えてそのことを告げなかった。

 これまでのお礼の意味もあるが、デュオには母親として娘を助け出して欲しいと願ったのだ。


「冒険者デュオよ。なればこそ、今回の罪は問わん。しかしながら今回の件に関与したことによって王都に被害が出た事は否めない。

 よって、冒険者デュオには白面金毛九尾の狐の討伐を言い渡す。討伐が不可能な場合は可能な限り封印又はそれに準ずる封じ込めをすること。王都や国に被害が及ばない様にするのだ。

 準備が整い次第討伐に向かう様に」


「はっ」


「騎士団団長・大臣たちは防衛体制を強化せよ。『災厄の使徒』の事案もあるが、だからと言って王都防衛を疎かにしてはならない。

 我々が為すべきことは国の民を守る事だ。よいな」


「ははっ」


 デュオは最悪の事態は避けられたことに安堵し、国王の勅命を受け頭を下げる。

 騎士団団長・大臣たちも命令に従い自分たちの為すべきことのするために謁見の間を後にする。








次回更新は12/28になります。

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