35.その妖狐の狙いは幼き狐人
裏小路に迷い込んだデュオとクオの前に現れたのは、金髪の妖艶な女性狐人だった。
衣装は旧セントラル王国の一部の都市に存在したと言われる着物を身に着けていた。
最近は異世界から同様な着物の文化も流れてきているが。
そして何よりも一際異質を放っているのは、獣人の特徴の1つである尾の数が9本だと言う事だ。
そう、己の半身を求めて王都エレミアに現れた白面金毛九尾の狐・玉藻の前だ。
だがデュオはそれ以外にもこの狐人をどこかで見たような気がしていた。
「あの・・・何か御用ですか?」
明らかにデュオたちに用があるように見えるのだが、デュオは敢えて素知らぬ顔をしてこの場を離れようとする。
「ようやっと見つけたのじゃ。さぁ、妾の半身よ、戻ってくるのじゃ」
デュオの問いかけは無視して玉藻の前は抱きかかえられたクオへと手を差し伸べる。
何となくそんな気はしていたが、改めて言われるとデュオは何処か複雑な気持ちになっていた。
目の前の女性狐人の目的はクオだと言う事がはっきりと分かってしまったからだ。
そして何処か見たことがあると思ったら、どことなくクオに似ていたのに気が付いた。
クオが大人になれば目の前の狐人のようになるだろうと言う事に。
そしてそれはクオとこの狐人は血縁関係――母娘ではないのか、と。
だが、手を差し伸べられたクオはデュオにしがみ付いて明らかに拒否の反応を示している。
「やーーー!」
そんなクオを見て、デュオは改めて目の前の玉藻の前を見る。
圧倒的な雰囲気により最早威圧と言って差し支えないオーラを醸し出していた。
だがそれは禍々しくとても母娘の再会を望んでいる風には見えない。
それに――先ほどの言葉の中に会った『半身』、これに引っかかるものを感じたのだ。
「貴女は何者? うちのクオに何の用なの?」
「うちの・・・じゃと? 下賤な人間の分際で妾の半身をうちのじゃと!? お主、何に手を出したのかよく分かっておらぬようじゃの!」
そう言って玉藻の前は右手を振るいデュオを吹き飛ばす。
不可視の攻撃によりデュオは壁に叩きつけられた。
「―――っ!?」
(今のは・・・魔力を飛ばした衝撃波・・・!?)
玉藻の前が放ったのは属性に変化する前の純然たる魔力そのものだった。
「マー! マー!」
デュオに抱えられていた為、クオにはダメージは無かった。
クオは壁に打ち付けられて息を詰まらせているデュオを心配して必死になって声を掛けていた。
そんなクオを見て苛立ちを覚えたのは当のクオを連れ戻しに来た玉藻の前だ。
「マー、じゃと? 下賤な人間が母親じゃと? 妾の半身よ、何を言っておるのじゃ! 妾たちの為すべきことは下賤な人間を滅ぼすことなのじゃぞ!」
「マー! マー!」
「げほっ、げほ。
・・・大丈夫よ。マーはこう見えても強いんだから」
「・・・・・・妾の半身よ、下賤な人間に刷り込まれたのじゃな。無理もない。半身として生まれまだ日も浅いのじゃ。己の拠り所を下賤な人間に求めたのじゃろう。
だが安心するがよい。今からその染みを取り除いてやるのじゃ」
再び玉藻の前は右腕を振り魔力の衝撃波を放つ。
デュオは咄嗟に右腕を付きだし玉藻の前と同様に魔力そのものを前方へと放ち、衝撃波を相殺した。
「なん・・・じゃとっ!? 妾と同じ魔力衝じゃとっ!? あり得ぬ! 下賤な人間如きが魔力衝を放つなどあり得ぬ!」
玉藻の前の言う魔力衝は実際それほど難しいものではない。
人間にも同じように放つことが出来るが、それはそよ風程度でしかなかったりする。
属性へ変化しないままで放つ魔力は変換効率が悪く、常人の魔力では微々たるものでしかないのだ。
だが尋常ならざる魔力を持つ者なら人を吹き飛ばすほどの衝撃を与えることが出来る。
そう、玉藻の前の様な大妖の放つ魔力ならそれを可能に出来るのだ。
そしてそれは同じく尋常ならざる魔力を持つデュオにも可能な事だった。
とは言え、一度見ただけで同じことを出来るのはそれだけデュオの魔法を扱うセンスが高かったから出来た事だったりする。
デュオはそんな驚いている玉藻の前の隙をついて卵の十冠にチャージしていた魔法を使い逃走を図った。
「ストーンウォール!」
デュオと玉藻の前の間に土壁を作り上げ互いの視界を遮った。
デュオはその隙に身を翻して裏小路から脱出する。
「ちっ! 小賢しいのじゃ!」
玉藻の前は9本の尾を槍の様に伸ばし土壁を崩す。
そしてそのまま土煙を尾で払いのけ向こう側を視認するも、既にそこにはデュオたちの姿は見えなかった。
「どこまでも腹立たしい人間じゃの」
玉藻の前は一度クオを視認した為、その魔力の痕跡を逃さずにデュオたちを追いかける。
見事逃げおおせたデュオは商店街通りを通りながら抱きかかえているクオについて考える。
碌に会話にならなかった玉藻の前だったが、彼女の口から出た言葉である程度推測が付いた。
『半身』――それは玉藻の前と同等の存在を意味していた。
かつてソードテイルスネーク亜種からデュオを守った時の姿、そしてクオを追いかけてきた9本の尾を持つ狐人。
それを意味するのは伝説にある白面金毛九尾の狐だ。
もしかしたらとは思ってはいたが、実際目の当たりにするとショックは決して小さいものではない。
だが、今の状況を考えるに、何らかの理由で九尾の狐は2人に分かれてしまっている。
上手くこの事が片付けば、九尾の狐とは無関係にクオはクオのままでいられるのかもしれない。
そう思ったデュオはクオを手放さないようギュッと抱きしめる。
すると真横をエネルギーの槍が通り過ぎ、地面に着弾し爆発の様に周囲を抉りとった。
「妾から逃げられると思っていたのじゃったら流石は下賤な人間と言う事じゃな。滑稽過ぎて憐みすら感じるのう」
いつの間に追いついてきたのか、デュオの背後には玉藻の前が居た。
そしてデュオは己の失態に気が付いた。
追跡を紛らわす為に人気の多い通りを選んだのだが、この瘴気にも等しい負の魔力を放つ玉藻の前はそんなことは関係なしに周囲の人を巻き込んでしまうと言う事に。
「じゃが安心せい。憐みすら感じることなく殺してやるぞ」
素早く呪文を唱え、玉藻の前は頭上に5mもの特大の火炎球を生み出した。
「バーニングフレア」
「ちょっ!? 町中でそんなの使ったら―――!?」
特大の火炎球はデュオのみならずこの辺一帯を火の海に変えるだろう。
クオをも巻き込むが、クオには何かしらの対策があるのか玉藻の前は容赦なく火炎球を振り落す。
「マジックシールド!」
デュオは咄嗟に素早く唱えた絶対魔法防御のマジックシールドで防いだ。
とは言えマジックシールドの効果はほんの1秒弱なので、特大過ぎる火炎球から巻き散らかされる火炎や高熱までは完全に防ぐことは出来ない。
なので続けざまに卵の十冠にチャージしていた魔法で再びストーンウォールを包み込むような半ドーム状で覆い、風属性魔法の強風を巻き起こすウインドブレで弾かれた炎や熱を上空へと逃がす。
「む、猪口才な真似を・・・」
「正に間一髪・・・卵の十冠があって良かったわ。
にしても・・・周囲を顧みないなんて、やばそうなのに目を付けれたわね」
「マー・・・」
「大丈夫よ、クオ。ちゃんとマーが守ってあげるから」
「ちっ、いちいち妾の前で母娘の真似事をしおってからに・・・気が変わったのじゃ。憐みで一思いに殺そうと思ったが、下賤な人間の分際で妾の半身に手を出したことを後悔させてやるのじゃ」
玉藻の前は魔力を両手に集中させ、衝撃波ではなく刃として打ち出した。
無属性にすら属さないこの攻撃はおそらく全ての魔法攻撃を防ぐマジックシールドですら防ぐことは出来ないだろう。
そう判断したデュオは、さっきの魔力衝と同様に相殺することを選んだ。
見よう見真似で玉藻の前から放たれた魔力刃を模して、デュオも魔力刃を放ち相殺する。
「・・・っ! また妾と同じ魔力刃じゃと・・・! この人間、他の個体とは違うようじゃの・・!」
流石に町中で玉藻の前を相手にすれば街中はただでは済まないので出来るだけこの場では戦いたくは無かったが、目の前の玉藻の前ではそうはいかないみたいだった。
幸い特大の火炎球の騒ぎにより周囲の住人はこぞって逃げてはいるが、出来ればデュオもこの場から逃げ出したかった。
とそこへ、人が居なくなっているこのエリアに新たな乱入者が現れた。
「おらぁっ!! 刀戦技・桜花一閃!!」
玉藻の前の背後から現れたハルトがその首筋を狙って刀を振るう。
玉藻の前は避ける素振りすら見せずその一撃は確実に首を斬り裂いたかと思ったが、その間に割り込んだ1本の尾がハルトの攻撃を防いだ。
「ちっ! そう簡単にはいかないか」
追撃の尾がハルトを狙おうとするが、さらに後方寄り現れたアリアードが放った矢がハルトへの攻撃を阻止した。
その隙にハルトは玉藻の前と距離を取ってデュオの側へと駆け寄る。
「おいおい、なんて奴を相手してるんだよ。お前はどんなトラブルメーカーだぁ?」
「ちょっと、止めてよ。スティードと一緒にしないで。でも助かったわ、ありがと」
助けに入ったハルトは皮肉を込めながらデュオの前に立つ。
勿論デュオは皮肉だと分かってはいたが、ここのところの事件を顧みればあながち間違いとは言えないのが辛いところだ。
「また邪魔者が現れたのじゃ・・・いい加減、鬱陶しくなってきたのう」
「ああ、だったらとっとと帰ってくんねぇか? 正直あんたみたいなヤバい奴とはやりあいたくはないんで」
ハルトは不意を突いたとは言え、威圧的な負の魔力を放つ玉藻の前を攻撃するのに臆していたのだ。
だが特大の火炎球の騒ぎを駆けつけ、自分のクランのサブマスターが狙われているとあってはビビってはられなかった。
玉藻の前の背後で援護をしているアリアードも同様だった。
「何故妾が引かねばならぬのじゃ。引くのはお主らの方じゃろうて。
まぁ良い。これ以上は面倒じゃ。強制的にでも妾の半身を返してもらおうか。
――顕現召喚、風美奈」
玉藻の前が唱えた魔法により、目の前の魔法陣から緑の髪と耳と尻尾をした1人の狐人の少女が現れた。
「風美奈、そこの3人を始末するのじゃ」
「オッケーですわ」
顕現召喚魔法。それは己の魔力を元にして創りあげた一種のゴーレムである。
分け与えられた魔力の範囲でステータスをカスタマイズできる召喚魔法だ。
だがこの顕現召喚魔法は100年前のセントラル王国滅亡と共に失われている魔法とされていた。
デュオはうろ覚えながら顕現召喚魔法の知識を引出し、目の前の狐人の少女は見た目で判断できるような相手でない事を悟った。
その上でデュオはハルト達にクオを預けることにした。
「ハルトさん、クオを連れて逃げて! あとこの事を美刃さんに!」
「何を言って・・・!?」
「ここであの九尾の狐人を含む少女たちと戦っても周囲に迷惑が掛かり過ぎるわ。
あたしがここであいつらを抑えるからハルトはクオを連れて逃げて欲しいの。あいつらの狙いはクオなのよ」
「マー! やー! 一緒に居るー!」
デュオと一緒に居たいが為暴れるクオをハルトに押し付け素早く呪文を唱え玉藻の前たちに放つ。
「バインド!
フリーズバインド!
チェーンバインド!
――カラミティバインド!!」
土属性の蔦・氷属性の氷・無属性の鎖のそれぞれの捕縛魔法を合わせ、より強固な捕縛魔法で玉藻の前たちの動きを封じた。
「今のうちに早く!」
「ちっ! おい! アリアード、逃げるぞ!」
細かい事情は分からなかったが、確かにヤバい状況だと言う事は分かったのでハルトはデュオを信じクオを担いで逃げ出した。それに続いてアリアードは駆け抜ける。
「デュオさん、後で詳しい説明をお願いしますよ?」
すれ違いの際、アリアードは後でこの件についての説明をしてもらうように告げてハルトを追いかけていった。
「さて、貴女達にはここで足止めを喰らっていてもらうわよ」
流石に3種混合の捕縛魔法は玉藻の前でも破れないらしく、ほんの数分間だが足止めすることに成功した。
「確かにこれでは暫くの間身動きは取れんのう。じゃが、妾がいつ1体しか顕現召喚を出来ないと言った?
――顕現召喚、地穂」
目の前に新たな茶色の狐人の少女が現れた。
「地穂、先ほど逃げたあ奴らを殺し妾の半身を連れてくるのじゃ」
「イエス、マスター」
デュオが止める間もなく地穂は地面を抉りながら駆け出しハルト達を追いかけて行ってしまった。
逃がしてしまったのは痛いが、例え強力な顕現召喚だとしてもハルト達なら1体くらいなら撃退は出来るだろう。
そう判断したデュオは今は目の前の玉藻の前たちを抑えることに専念することにした。
まずは力ではなく、言葉――知恵で。
「取り敢えず身動きのできない今だから確認しておくけど、貴女・・・白面金毛九尾の狐・玉藻の前で、いいのよね?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ちぃっ!」
ウィルは迫りくる火炎球をスレスレで躱しながら手にしたオリハルコンの剣で叩き斬る。
その際吹き上がる爆炎は気合でやり過ごす。
「不可解だ。何故貴様はその人間を助ける? 人間は最優先で己の保身を考える生き物はず」
追撃を避ける為素早く身を起こしたウィルは背後にパーシヴァルを庇いながら剣を目の前の狐人の少女――炎乃華に突き付ける。
「何言ってんだ、お前は。仲間を助けるのは当たり前だろうよ」
主である玉藻の前に命令された通り、ウィルを玉藻の前の元に行かせないため攻撃を開始した。
その過程でウィルが時折不可解な行動をとるので動きを検証した結果、後方で2人の男を介抱し周囲の人間を避難させているパーシヴァルを庇って動いていることが分かったのだ。
それを利用してパーシヴァルや周囲の人間を狙う様にウィルに攻撃を仕掛け、ウィルの動きを封じている。
だが、炎乃華はウィルの行動理由が理解できないでいた。
玉藻の前より与えられた知識により、炎乃華は人間は自分の命が一番大事なのだと認識していたからだ。
「仲間・・・? 人間には仲間はいない。居るのは周囲に悪害をもたらす下賤な人間だけだ。そんな人間が仲間なんて作れるわけがない」
「おいおい、随分偏った考えだな。
確かにそう言う人間も居るが、そんな人間だけじゃねぇよ。ここに居る俺様がそんな人間の1人だよ」
「理解不能だ。人間は何処まで行っても下賤な輩のはず」
「信じたくなきゃ信じなくてもいいぜ。俺のやることは決まっているんだからな!」
ウィルを――人間を否定する炎乃華に分かってもらいたいわけでは無いが、ウィルは自分のやるべきことをやるため炎乃華に剣を差し向ける。
一気に間合いを詰めて振り下ろす剣を、炎乃華は両拳を交差させて受け止める。
普通であれば何の防具も無い拳は斬り裂かれるのだが、炎乃華の拳には炎が纏っておりウィルの剣を受け止めていたのだ。
ウィルは素早く剣を引き、今度は右下段から掬い上げるように振るう。
炎乃華は素早く反応し、左手を向けて掌で剣を受け止める。
それと同時に空いた右手でウィルの脇腹を狙って放つ。
ステップで脇腹の攻撃を躱すも、拳に纏った炎により脇腹を焦がしながら掠める。
剣と拳の応酬が繰り返されるも、どちらも決定打にはならない状態が続く。
そんな状況を打破する為、炎乃華は一度距離を取り両拳を合わせて炎の弾を飛ばす。
ウィルのみならず後方の住人をも狙った攻撃だ。
そのことを先ほどから嫌と言うほど味わっているウィルは、躱そうとはせずにその場に留まって剣を振るって斬り裂く。
斬り裂いた後に起こる爆炎により幾つもの火傷の跡が目立つようになってきた。
「あちち・・・くそ、接近戦はこっちに分があるけど、向こうの炎の攻撃が厄介だな。
つーか、何だよあれ。魔法剣とは違うし、何で炎を纏っていられるんだ?」
そう言いながらウィルは火傷の治療の為、火傷ポーションを頭から被った。
完治までとはいかないが、火傷の跡が目立たなくなる。
「私は主より作られし顕現獣。司る特性は“炎”。この炎の力を持って主の命令を遂行する。
何人たりとも主の者へはいかせん」
「顕現獣・・・? 作られたって・・・お前、狐人じゃないのか?
あーくそ、これだから魔法ってのは・・・悪いが普通の獣人じゃないのなら手加減はしないぜ」
見た目に騙されていたわけでは無いが、殆んど獣人と変わらない姿をしていたのでウィルは意識的に傷物にしない様にしていたのだ。
それが少女の姿であればなおさらだ。
だが、その言葉を聞いて炎乃華は侮蔑されたと思った。
「人間・・・! 主様の顕現獣である私に手加減していただと・・・! 舐めるな! 人間如き私の相手になどなるものか! 消し炭にしてくれよう!!」
両手に纏っていた炎は炎乃華の怒りに呼応し、全身へと及んでいった。
「わぉ、まるで祝福の炎纏装みたいだな。
てか、機械的だと思ったがちゃんとした感情まであるのか。こりゃマジでやり難いな。こっちとしては早くあの狐人のねーちゃんを追いかけたいところなんだが」
ウィルを無視して王都の中に紛れて行った玉藻の前にどことなく誰かの面影があったのが気になったのだ。
(まさか、な・・・)
確かめるにはもう一度玉藻の前の前に立つ必要がある。その為には今目の前に居る炎乃
華をどうにかしなければならない。
炎乃華が怒りに任せて纏っていた炎を撒き散らすのをウィルは周囲に被害が行かない様に斬り裂きながらもこの状況をどう打破するかを考える。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「アリアード、クオを頼む」
ハルトはそう言って横で並走しているアリアードにクオを預けた。
訝しげに思いながらもクオを受けとり何かあったのか問いただそうとしたが、その前にアリアードにも状況が分かった。
ハルト達の後方から猛スピードで追いかけてくる気配を探知したのだ。
「俺が食い止めるからアリアードはホームへ急げ」
「分かりました。気を付けてください」
デュオと強制的に離され泣きじゃくっているクオを抱きかかえアリアードは一路クランホームを目指す。
そんなアリアードを背に、ハルトは神木刀ユグドラシルを抜いて向かい来る敵に構えた。
「エネミー確認。排除します」
スピードを落とさず迫りくる地穂にハルトは容赦なく神木刀を振り下した。
「刀戦技・剛閃!」
ガキンッ!
ハルトの放った戦技は地穂の体を斬りつけたにも拘らず、その手ごたえは大岩を切ったような感触だった。
体を斬り裂かれたにも拘らず、地穂はそのまま両の拳を付きだしハルトを吹き飛ばす。
「ぐおぉっ!?」
進路上からハルトを排除したことを確認した地穂はクオを追いかける為再び走ろうとしたが、立ち上がったハルトを視認すると体をハルトの方へと向けた。
「ってぇー、何だよその体。何で出来てんだよ。思わず刀を取りこぼしそうになったじゃねぇか。
そんなにクオが欲しいのなら俺を倒していきな。じゃねぇとここから先には進めないぜ」
「エネミー生存確認。バトルモードに移行します」
ハルトを見据えた地穂はその体に周囲より砂を呼び寄せ纏わせる。
「ちっ、何だよ、まるで砂纏装みたいじゃねぇか。体が硬い上に祝福みたいな能力まで持ちやがって。
こりゃあデュオには後でたっぷりとお礼を貰わなきゃ割に合わねぇよ」
ハルトの心情はお構いなしに、地穂は砂を纏わせたままハルトへ向かって拳を振るう。
砂の鎧と体の硬さ相まってハルトの攻撃は致命傷にならないでいた。
そもそも地穂にはダメージがあるのかすらその表情からは分からなかった。
初撃の剛閃により地穂の体には大きな傷跡が出来ているが、血は流れずそのダメージの影響すらないように見えるのだ。
故に無数の斬撃を浴びせようとも地穂は平気な顔をして攻撃を繰り返す。
その攻撃は砂を纏わせた拳だけではなく遠距離にも対応していて、砂を鞭のように振るいハルトを襲う。
ただの鞭とは違い、砂の鞭によるはやすりで擦ったような攻撃により、ハルトの肌は血塗れになっていた。
「くそ、こりゃあ本当に分が悪いな。かと言ってここを通すわけにもいかないし・・・」
どうにか対応策を練ろうと頭を悩ませていたが、思いがけない闖入者により状況は一変する。
「がっ・・・! 行動・・・不能・・・機能・・・停・・・止・・・」
突然背後より現れたスケルトンにより地穂は真っ二つに斬り裂かれその場に崩れ落ち、光の粒子となって消え去った。
カタカタカタッ
その崩れ落ちる地穂を見てスケルトンは笑っているように見えた。
流石にこれにはハルトも呆然としてしまった。
王都の中に魔物が居た事に驚いたことも然ることながら、ただのスケルトンが自分が手古摺っていた地穂をあっさり斬り裂いたことに驚愕していたのだ。
状況から見ればこのスケルトンはハルトを助けたように見えるが、いかせん相手は魔物だ。
ハルトは警戒しながらスケルトンを見る。
目の前のスケルトンはただの骨だけのスケルトンとは違い、白と赤の巫女装束を纏っており、両手には刀を携えていた。
ハルトは知らぬことだが、このスケルトンは以前召喚従魔師であるアレストの騒動の時に、魔物に襲われそうになった子供たちを助けた事のあるのだ。
そしてこのスケルトンの正体はかつて『不死者の王』と呼ばれたアンデットの眷属であり、最強のアンデットと言われたスケルトンロードだった。
次回更新は12/26になります。




