34.その目覚めし妖狐は滅びを望む
デュオ、奴隷商の護衛をする。
デュオ、勇者と出会う。
デュオ、奴隷解放戦線と戦う。
・・・now loading
「~~♪ ~~♪ ~~♪」
狐人の少女――パルフェは澄んだ声で歌を歌いながら部屋の中を掃除する。
ここは異界にある九尾の城、その最上階に位置する部屋である。
最上階の部屋には再生水晶が安置されており、その中に大妖狐――白面金毛九尾の狐・玉藻の前が復活の為力を蓄えていた。
パルフェは城の維持管理、玉藻の前の復活を促すための再生水晶に力を注ぐ役を負っている。
パルフェの他にも2人の狐人の少女が仕えている。
彼女たちは異界の外、3つある殺生石の入り口の1つ――炎聖国にある狐人の村から派遣されていた。
この村はかつて玉藻の前に仕えた者が興した村であり、代々九尾の城の維持管理や再生水晶に力を注ぐために生きている村である。
その中で今代の世話係として選ばれたのがパルフェら3人の少女であった。
今日のパルフェは再生水晶の部屋の掃除と力を注ぐ当番であった。
部屋の掃除が終わり後は再生水晶に力を注ぐだけであった。
力を注ぐと言っても僅かばかりの力だけを注ぐだけだった。
一度に大量の力を注いで負荷が掛からないようにするためだ。
かつては負の感情に支配された玉藻の前は討伐された後もその力を発揮し、復活のための再生水晶に身を包まれた後も水晶から負の魔力を滲み出させていた。
だが長い年月をかけ負の魔力は次第に治まっていき、遂には玉藻の前本来の神々しい魔力を発揮するようになっていた。
「・・・姫様、今日もお力を注ぎしますね」
パルフェは再生水晶にそっと手を添え力を注ぎこもうとしたが、その前に再生水晶から思いもよらぬ負の魔力が噴出した。
それに伴い再生水晶にひびが入り、その亀裂は大きくなり遂には砕け散ってしまう。
「きゃぁ・・・!」
パルフェは砕けた水晶に弾かれ床へと転がる。
そして砕け散った水晶の中から周囲に威圧を与えるかのように九本の尾をぴんと伸ばした玉藻の前が居た。
「・・・ようやっと忌々しい封印から解放されたのじゃ。妾のこの怨みどうやって晴らしてくれようか」
パルフェは目の前の負の魔力を纏った玉藻の前に委縮し怯えていた。
彼女にとっては玉藻の前は神々しい魔力を放つ姫であり、このような負の魔力を纏っていること自体が過去の昔話にしか過ぎないのだ。
「ふむ、妾を裏切ったグランシェの子孫か。本来ならあ奴の子孫を皆殺しにするつもりであったが、妾の世話をしていた事に免じて命だけは助けてやろう。
さっさとわらわの前から消え失せるがよい!」
パルフェに負の魔力を浴びせ部屋の外へと叩きだす。
パルフェは必死になってこの事を伝えるために仲間の2人の少女の元へと駆け出した。
あまりのあり得ない事態にパルフェは混乱していた。
このような前兆は無かったし、このまま順調にいけば遠からずに心穏やかになった玉藻の前が蘇るはずだったのだ。
――いや、前兆は無くとも事件はあった。
約1か月前、己の欲望の為に玉藻の前を攫いに来た冒険者がいた。
その時はもう1組の冒険者がパルフェ達を助けに来てくれて助かったが、もしかしたらその時の悪徳冒険者の悪意に触れたのが原因ではないのか?
だとしたらこれまでの数百年仕えてきたことがたった一度の悪徳冒険者の所為で不意になってしまったのだ。
パルフェはこれでは玉藻の前でなくとも怒り憎しみに捉われてしまいそうになるのも分かる気がした。
だがパルフェは今はその理不尽な感情を抑え、ただひたすらに走る。
去って行ったパルフェを気配で確認しながら玉藻の前は蘇った己の力を確認する為、手を握りこんだり尾に力を込めたりする。
「思ったよりも力が減っているのう・・・やはり半身が抜けたせいじゃな。ならばまずは半身から探すことにするのじゃ」
玉藻の前は身を翻し、窓から九尾の城の外へ飛び降り半身が居ると思われる地へ繋がる殺生石を目指した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はい! マーにこれあげる! クオの手作りだよ!」
そう言ってクオが差し出したのは銀のプレートのペンダントだった。
クラン『月下』のクランホームでデュオは久々にクオの相手をしていたのだ。
そこでクオはデュオにプレゼントがあると言って差し出したのが銀のペンダントだった。
「まぁ、ありがとう。大切にするね」
銀のプレートは表面が滑らかな楕円形の形をしており、そこには“大好きなマーへ”と文字が刻まれており、裏には“byクオ”とあった。
銀のプレートは市販されているものと遜色が無く、デュオはてっきり手作りだと言うから厚紙とかで作られた子供の工作の様なものだと思っていた。
勿論それでもデュオはクオからの贈り物なので大切にするつもりではいたのだが、初めてクオから贈られた物が思いがけずに完成度が高かったことに驚いていた。
「え? これ、クオが作ったの?」
「うん! そうだよ! マーにあげたくて作ったの」
「デュオさん本当ですよ。クオちゃんが作ったペンダントです。あたしも一緒に作ったから間違いないですよ」
デュオとクオの様子を見ていた同じクランメンバーであるC級冒険者の狼人のウルミナが銀のペンダントの作製が間違いなくクオだと言う事を証言する。
「ほら、家庭でも出来る手作りアクセサリーキットがあるじゃないですか。それで作ったんですよ」
家庭でも出来る手作りアクセサリーキットは火にかける事によって硬い金属へ変化する粘土金属と言うのを使っており、これをこねまわして好きな形を作りペンダントや指輪・腕輪などを作成できるキットだ。
大抵は手作り感がありありとしたアクセサリーが出来るのだが、クオが差し出した者は市販の店で出しても問題が無いような作りになっていた。
「え? でもそれってこんなに綺麗に出来るものなの?」
「まぁ、普通は手作りになればもう少しいびつになるものなんですが、クオちゃんは粘土金属をのべ棒で薄く延ばしてから型貫をして作ったんですよ。
あたしもその作業を見ていたんですが、何度も作り直してデュオさんに納得いくのを作っていたみたいで」
直接見ていたウルミナからその時の状況を聞くが、とても信じられないものだった。
クオは生まれが不明で狐人としては特異な部分があるが、まだ子供だと思っていたのだ。
それが僅か一・二週間ほどでここまで成長を遂げていた。
デュオはその成長が恐ろしくもあり嬉しくもあった。
「そっか・・・クオはマーの事を思って一生懸命作ってくれたのね」
「うん!」
「じゃあ、とても大切にしなきゃね」
そう言いながらデュオはペンダントを首にかける。
その様子を見ていたクオは嬉しくなってデュオへと抱き付いた。
「急に抱き付いたりしてどうしたの?」
「ううん、何でもないの。マーとこうしていたかったの」
デュオはふと思い出す。
ここの所事件やら仕事やらが続いていたせいでクオの事をあまり構ってやれていなかったのを。
クオの事は『月下』のクランメンバーにもお願いはしているが、クオにとっての一番はやはり母親であるデュオだろう。
そう思ったデュオはクオに少し申し訳なくなり、今日一日はクオの相手をすることに決めた。
「ねぇ、クオ。今日はマーは休日だからずっとクオと一緒に遊んであげる」
「ホント!? やったー! 今日はマーと一緒!
ねぇねぇ、じゃあクオと一緒にお散歩しよう」
「あら、散歩でいいの?」
「うん! マーと一緒にお散歩したいの!」
「そうね、のんびり散歩もいいかもね」
ウルミナに留守番を頼み、デュオはクオの手を繋いで早速王都の町を散歩に出かけた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ねぇねぇ! マー、あれ何?」
「ああ、あれはソフトクリームね。異世界からの輸入の冷たいお菓子よ」
「食べたい!」
「そうね、マーもアレを食べてみたいから買いに行こっか」
デュオたちは露店が並ぶ通りを散歩しており、クオはあれ何これ何と興味津々でデュオに尋ねていた。
デュオはその都度クオに丁寧に説明し、時には実際に購入してクオに与えて知識欲を満たしていた。
ソフトクリームもその1つで、最近天と地を支える世界で広まってきたお菓子だった。
「はいよ、お嬢ちゃん達。冷たいから急いで食べると頭がキーンってなるから気を付けな」
「ありがとう。頭がキーンってなるって何?」
「ははっ、食べてみれば分かるよ」
デュオは露店の兄ちゃんからアイスクリームを2つ受け取り1つをクオへ渡す。
その際、食べ方に注意を受けたのだが、デュオ達にはよく意味が分からなかった。
アイスクリームを食べながら再び2人は散歩をしながら露店通りを歩いて行く。
「わぁ、冷たい~~♪」
「あ、ほんと。冷たくて美味しい」
初めて食べる味にデュオとクオは顔を綻ばせる。
そしてもっと味わいたいと大量にアイスクリームを頬張ると、突然頭が締め付けられるような頭痛に襲われた。
「あぅぅぅ、マー、頭がキーンってなるぅ~~」
「あ、つぅ~。これがキーンってなる事なのね」
「うん、キーンってなったぁ~」
「キーンってなったね」
デュオとクオはお互い顔を合わせ笑いあう。
デュオはここの所色々あった所為か、こうしてクオとのんびり歩いているのに心が癒された。
クオもデュオと一緒に居ることで大いにはしゃいでいた。
露店通りを抜けて今度は店を構える商店街を歩き、目に付いた洋服屋でクオをおめかししたり、魔法のアイテムを扱う店ではクオに新しい杖を買ったりして散歩を楽しんだ。
「あら? どうしたの、急に立ち止まって」
そうして太陽が頂点に差し掛かろうとした時、突然クオが歩みを止めある一点を見つめながら震えていた。
「マー、あっち行きたくない・・・」
「あっちに何かあるの?」
「分からない・・・でも、何か嫌な感じがするの」
クオは首を横に振り怯えながらデュオにしがみ付く。
デュオはクオを抱きかかえながらその方向を見つめた。
クオのこれまでの出来事を考えれば今のクオの様子を無下に扱う事は出来ない。
何があるか分からないが、ここはクオの助言に従ってそちらの方向へは行かない方がいいだろう。
と、そう判断したのだが、デュオの視界の隅に赤と白の衣装――巫女装束の影が角を曲がるのが映った。
とりわけ巫女と言うのはそれほど珍しい存在ではない。
冒険者の中にも巫女姿で戦う者も居るので世間一般には受け入れられている職業でもある。
とは言え、その数は多いとは言い難いので見かけるのは稀だ。
そしてデュオにはその巫女姿には見覚えがあった。
約1か月半前に孤児院の子供たちとこの国の第三王子の救出に力を貸してもらった女性――フェルが居たのだ。
さっき見かけた巫女装束はその時のフェルの衣装に似ていた。
そう思ったデュオは思わず追いかけていく。
「マー?」
「クオ、ちょっとゴメン。マーの知り合いが居たみたいなの」
デュオはクオに言い訳をしながら巫女を追いかける。
角を曲がるとさらにその先の角を曲がる巫女が居た。
追いつきそうで追いつけない。
デュオが巫女を見失うのにそれほど時間は掛からなかった。
「見失っちゃった・・・」
「居なくなっちゃったの?」
「そうね。居なくなっちゃったね。
王都に居るんだったらまた会えると思うけど・・・あ、クオごめんね。今日はもう帰ろっか」
ぼんやりとフェルとの再会の事を考えていたが、強くしがみ付いたクオにより意識を引き戻された。
クオの様子や、フェルを見失った焦燥感から今日はこれまでと思い帰ろうとクオに促したのだが、クオからの反応は無い。
クオを見ればある一点を見て固まっている。
その視線の先には1人の狐人が居た。
鮮やかな金髪の妖艶な女性だ。
だがその狐人の尾は9本生えていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時は少し遡る。
異界より殺生石を通って訪れたザウスの森に玉藻の前は居た。
玉藻の前は殺生石前で残る魔力の痕跡を感じとり、己の半身の行方を辿る。
「ふむ、北の方のようじゃな。
どうやら向こうには町があるみたいじゃのう下等な人間の分際で栄華を極めようとするとは愚かじゃな・・・そんなところに我が半身はおるのか。一刻も早く見つけなければ」
玉藻の前は迷うことなく針路を北に取り進んでいく。
大抵の魔物は九尾の狐である玉藻の前の魔力の前に恐れをなし息を潜めていたが、中にはその凶暴さゆえ恐れを抱かず玉藻の前に襲い掛かる魔物も居た。
玉藻の前はそんな魔物もものとはせずに殆んどが9本の尾より放たれる攻撃により骸と化す。
何の障害も無く王都エレミアの南門に辿り着いた玉藻の前は、門を警備する衛兵に足止めを喰らっていた。
「身分を証明できるものの提示をお願いします」
「下等な人間の分際で妾に指図するとはいい度胸じゃ」
余りの横柄な態度に衛兵は訝しがる。
そしてもう1人の衛兵が隠そうともしない玉藻の前の9本の尾に気が付いた。
「・・・っ! おい! こいつただの狐人じゃないぞ!」
「魔物っ・・・!? いや、でも殆んど人と変わらないぞ!?」
慌てふためく衛兵を余所に、玉藻の前は己の道を邪魔する2人を尾を使って払いのける。
「邪魔じゃ」
弾き飛ばされた2人は体を強打して身動きが取れなくなるが、辛うじて緊急事態を知らせる笛を鳴らすことが出来た。
その笛の音を聞きつけた衛兵たちが詰所から出てきて玉藻の前を囲む。
それと同時に南門から入ろうとしていた他の旅行者・商人などは慌てて散っていく。
唯一、入場待ちをしていた冒険者たちは衛兵に協力し玉藻の前を抑えようとしていた。
「ふん、下等な人間が妾を止めれると思っておるのか? 憐れじゃな」
玉藻の前は9本の尾にそれぞれ9属性の魔法陣を灯し南門ごと周囲を吹き飛ばす。
決して大きな魔法ではなかったが、それでも攻撃を受けた者は地にひれ伏し中には致命傷を負っている者も居た。
そうして遮る者が居なくなった南門を玉藻の前は悠然と進んでいく。
玉藻の前が暫く歩を進めていくと、声を掛けてくる男2人が居た。
先ほどの南門の攻撃時の騒ぎを聞きつけ野次馬が集まっている中、そんなのは関係ないとばかりか、集まってきた野次馬の中の女性を目当てにナンパする目的で近づいてきた男達だった。
「ひゅー、彼女美人じゃん。良かったら俺達といいことしないか?」
「ばっか、それじゃ俺達がそれ目的で声かけてるみたいじゃん。
あっと、な。変な事じゃなくてふつーにお茶とか食事しないかって事だよ。どう?」
「何いい子ちゃんぶってんだよ。どーせやることは決まっているんだ。だったら下手な口説きはいらないだろ」
「何言ってんだよ。こういった下地があってこそだろうが。いきなりぶっこんで落ちる女はいないだろ」
目の前で堂々とナンパ講釈をしていて落ちる女性も居ないのではないか。もしくはそれすら込みでのナンパなのだろうか。
そんな男2人を余所に玉藻の前は容赦なく払いのける。
「目障りじゃ」
玉藻の前が右腕を一振りしただけで男共は容赦なく吹き飛ばされた。
集まってきた野次馬の中に冒険者が居たのか玉藻の前の行為を諌めようと近づいてきた。
「おい、街中で何やってんだ! 街中での武力行為はご法度だぞ!」
「妾には下等な人間のルールなど関係ないわ。邪魔立てするのなら容赦はせんぞ」
同様に右腕を振るうが、冒険者は辛うじて玉藻の前の放つ魔力の衝撃波を背負っていた盾で受け止める。
「・・・っ! あんた何考えているんだよ! って、何だその尻尾は・・・狐人じゃない・・・?」
「ほう、出力を抑えていたとは言え妾の魔力波を防ぐか。下等な人間にしては中々やるのう。
ふむ、そう言えば今の時代の冒険者の強さはどれくらいじゃ? まさか100年前の時の様な者共が溢れかえっている訳ではあるまい。
どの程度か確かめてみるか。どれ妾が直々に相手してやるからかかって来るがよい」
「舐めるな! 少々特殊な生態をしているが所詮は狐人! 『聖騎士』・パーシヴァルの実力を見くびるな!」
パーシヴァルは剣を抜き、盾を構えて玉藻の前を見据える。
玉藻の前はそんなパーシヴァルを目の前にして今の冒険者の実力を計ろうとしていた。
パーシヴァルは最近冒険者ギルドでも名を馳せ、たった2ヶ月でC級冒険者に上がるほどの新進気鋭の若手のホープだった。
普通の戦士ではあるものの、剣と盾を堅実に使いこなし攻めるときは攻め、引くときは引く質実剛健を体で表している冒険者だった。
しかも聖属性魔法や治癒魔法を使いこなすことにより職業的騎士とは別に付けられた二つ名が『聖騎士』だ。
そんなパーシヴァルは目の前で起こった出来事に目を疑った。
先ほどと同様に玉藻の前が右手を振り抜くと触れてもいないのに何故か盾ごと斬り裂かれていたのだ。
「・・・っ! うそ、だろ・・・!? たった一撃、かよ・・・!」
胸から大量の血を流しパーシヴァルは崩れ落ちる。
辛うじて意識はあり治癒魔法を使おうとするが、目の前の玉藻の前はそれを見逃してくれるとは思えなかった。
「ふむ、この程度か・・・? これならば然程心配することも無いじゃろう。安心して半身を捜せるのう」
そう言いながらまるで道端の石を退かすかのように、再び右腕を振るう。
パーシヴァルは止めを刺される光景を脳裏に浮かべ最後の時を覚悟していたが、いつまでたってもその時は訪れなかった。
なぜならば、パーシヴァルの前に新たな1人の冒険者が立ち塞がっていたからだ。
「おいおい、何なんだこりゃあ。南門で事件があったと思ったら今度は往来のど真ん中で戦闘かよ。
つーか、パーシヴァルが負けるほどの相手がだれかと思えば女とは・・・いや、ただの女と思わない方がいいか」
「ウィルさん!」
パーシヴァルは自分を助けた相手がウィルだった事で歓喜の声を上げる。
「パーシヴァル、自分の治療を終えたらそこに倒れている奴らと周囲の人々の避難を頼む」
ウィルは倒れているナンパ男2人と周囲で遠巻きに推移を見守っていた住民をざっと見渡してパーシヴァルに指示を出す。
これがただの喧嘩なら殴って終わりなのだが、目の前の狐人もどきから発せられる魔力が尋常ならざるものだとウィルの勘が告げていたからだ。
「次から次へと面倒じゃな。これでは半身を捜しには行けぬ。どれ、手数を増やすか。
――顕現召喚、炎乃華、瑞月」
玉藻の前の前に魔法陣が浮かび上がり、その中から髪・耳・尻尾が赤と青の狐人の少女が現れた。
「炎乃華、お前はそいつらの相手をするのじゃ。一歩たりとも妾に近づけさせるでないぞ。
瑞月は妾と別に妾の半身を探すのじゃ」
「御意」
「了解ですわ」
炎乃華かと呼ばれた赤い髪の狐人の少女がウィルの前に立ちふさがる。
玉藻の前と瑞月は既にウィルに見向きもせずに己の半身を捜す為この場を去っていく。
顕現召喚。ウィルはこの召喚方法に心当たりは無かったが、目の前に立つ少女が玉藻の前同様尋常じゃない事に気が付いていた。
それ故、黙ってこの場を去る玉藻の前たちを追いかけることが出来なかったのだ。
「ったく、勘弁して欲しいぜ。ここんところ面倒な戦いばかり続いているのは気のせいか・・・?
まぁ、嘆いてばかりいてもしょうがないか。取り敢えずは目の前の敵を倒すことに集中だ」
ウィルは目の前の赤髪の狐人の少女を前にして剣を構えた。
次回更新は12/24になります。




