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DUO  作者: 一狼
第6章 奴隷勇者
32/81

31.その計画を企てるのは奴隷解放戦線

 獣人王国首都ビーストロア。この町は大きな川より東と西に分断されている。

 面積の多い東を大東都、小さい方を小西都と呼ばれていた。


 大東都の南部には大きな市場がある。

 但し扱っている商品は物ではなく人――奴隷だ。


 デュオは今その奴隷市をフェルトと共にスレイとアイヒの護衛として歩いていた。


「こうしてみる奴隷の扱いも奴隷商によって様々だね」


 フェルトは周囲を見渡しながら嫌悪を顕にしながらそう呟く。


 綺麗に着飾った女性奴隷や健康だと言うアピールをしながら笑顔を振りまく奴隷はまだマシな方で、中には鉄格子の牢に入れたまま放置したと思われる奴隷や体中に傷跡を隠そうと乗せずに晒しっぱなしの奴隷が居たりするのだ。


 そうした奴隷たちは目が死んでおりとても精神状態がまともと呼べるものではなかった。


「そうね。こうした扱いの悪い奴隷をスレイ会長は救おうとしているのよ」


「そんな大層なものじゃないですよ。ただの自己満足ですから」


 スレイは自嘲気味に笑いながら目を付けた店舗に入り奴隷商へと話しかける。

 その奴隷商が扱っているのは如何にも扱いが悪い奴隷であり、奴隷商そのものも如何にも悪徳商と言わんばかりの成りをしていた。


 鉄格子の牢に入った奴隷は薄汚れた布きれに身を包み生きる気力を失った少年奴隷だった。

 スレイは奴隷商と交渉をするのだが、そこは悪徳奴隷商らしくかなりの値段を吹っかけてくる。


「おいおい、この奴隷は若いんだ。それぐらいのはした金じゃとてもじゃないが売れないぜ」


「この状態になるまで放っておいて正規の値段を要求すると? ふざけないで頂きたい。あなたも商人なら商品の状態を保つ努力でもしたらどうですか?

 この少年の金額は精々正規の値段の3割がいいところですよ」


「おいおい、ふざけているのはどっちだよ。それじゃあこっちは商売あがったりなんだよ」


「でしたらもう少しまともな扱いをしてあげる事ですね。場合によっては奴隷法違反で国に訴えてもいいんですよ?」


 スレイの態度に苛立ちを覚えた奴隷商は店の奥から数人の強面の男達を呼び寄せた。


「このおっさんはお前らとお話しをしたいそうだ。念入りに話をして来い。

 ・・・黙って言う通りの金を出してれば痛い目会わなくて済んだものを」


「おや、それはこちらも同じですね。黙って大人しく売っていれば通報されることも無いですよ?」


 奴隷商は男達に目で合図をしながら店の奥に連れて行くように指示をするも、スレイが背後のデュオたちに目をやると男達は露骨に動揺を露わにした。


「せ・『鮮血の魔女』!? もしかしてあんたがブライト商会の会長か!? ・・・って、げ! あの『勇者』も居るじゃねぇか!?」


 男達の声に奴隷商も思わずスレイを見る。


「ちょっ、待った待った! 俺が悪かった。あんたの言い値で売るからこれ以上の騒ぎは勘弁してくれ」


 奴隷商は手のひらを返したかのように急に下手に出てスレイへ言い値で売るように懇願してきた。

 スレイはこの1~2年と短い期間でありながら不当奴隷を買いあさる奴隷商としてこの業界では有名になっていたのだ。

 中には何処から調べたのか奴隷法違反の証拠を突きつけてある奴隷商を国際的に捕まえたり、暴力に訴えてくる者には護衛のデュオや『月下』が徹底的に潰したりと、真っ当でない奴隷商にとっては目を付けられたくなかったので穏便に済ませたかったのだ。


 その後はアイヒが少年奴隷の売買の手続きをし、スレイを奴隷の首輪の契約の主人へと変更をする。


 奴隷の首輪は女神アリスが天地人に授けた祝福(ギフト)の1つで、首輪の取り付け取外しはAlice神教の神官にしか出来ないことになっている。

 無論、Alice神教神官全てが出来る事ではなく、極限られた一部の神官のみの技法だ。


 それ以外の主人の変更などは神官を必要なく、首輪に触れれば可能だ。


 因みに奴隷の首輪には白色と黒色の2種類があり、白は労働奴隷用、黒は犯罪奴隷用となっている。

 黒色の奴隷の首輪は命令を強制することが出来、それに逆らう事は首輪の祝福(ギフト)により死に至るのだ。

 白色の奴隷の首輪には特には命令を強制する機能は無いが、余りにも命令拒否が多ければ白色から黒色へと変化し、罪が課せられ犯罪奴隷へとなってしまう様になっている。


 その後もスレイは何人かの少年少女奴隷を奴隷商から多少強引ではあるものの保護し宿への帰路へと向かう。


「あんなやり方じゃあちこちに恨みを買っているんじゃないのか?」


 未だに目に力が無い少年奴隷たちを見ながらフェルトは今日の出来事を振り返っていた。


「まぁね。こうした帰り道なんか襲われることはしょっちゅうだったわよ。今はブライト商会の名やあたしの二つ名が広まっているからそんな事をする輩は減ったけどね」


「それでも襲ってくる輩は居るのか・・・人を人と扱わず人権を無視するくせに、己の権利だけを主張するとは人間の業とは欲深いものだな」


「寧ろああいった輩にこそ人権は無いようなものだけどね~」


「言えてる」


 デュオは冗談の様に悪人に人権は無いと言うと、フェルトもそれに賛同して軽い笑いを浮かべる。


「それでこの子たちはこの後どうなるんだ?」


「まずは栄養を付けて健康になってもらわないと。その後はちゃんとした扱いをしてくれる貴族とかに売ることになりますね。

 ああ、大丈夫ですよ。名目上は奴隷ですが、扱いは下働きなどの労働者として雇う事になるはずです」


 フェルトの疑問にスレイが答える。

 今回は少年少女と若い奴隷を買ってきた訳だが、全員が労働奴隷だ。

 犯罪奴隷を買う事もたまにあるが、犯罪奴隷は買い手がなかなか付かないのでその場合は流石に貴族とかに卸すわけにもいかず(中には奇特な貴族も居るが)、スレイの所有する鉱山で働く事になっている。

 無論、扱いは鉱山者と同様になっており衣食住は完備して他の奴隷商との扱いが違う事で逆に鉱山労働へ志願する奴隷も居たりするくらいだ。


 取り敢えず今日の予定は消化し、明日の奴隷市最終日に備えてスレイ達は宿で休むことにする。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「え? ウィルの奴まだ帰ってきてないの?」


「ええ、珍しいですよね。ウィルさんは遊んでいるように見えて仕事はきちんとこなす人なんですけど」


 デュオたちが数人の少年少女奴隷を連れ宿に戻るとまだスティードからウィルが戻ってきていないと報告を受けた。

 ウィルだけではない、フェルトのパーティーのアリッサも戻ってきていないとの事だ。


「もう、護衛はこれからが本番だと言うのに。

 しょうがないわね。取り敢えずウィルが戻るまであたし達でローテーションを組むわよ。

 ウィルは戻ってきてからお仕置きね」


「すまないね。こっちもアリッサには戻ってきてからきつく言っておくから」


「まさか2人でいちゃついている訳じゃないわよね・・・?」


「ふむ、アリッサとウィルが・・・あり得ないわけじゃないけど、仕事を放ってまでと言うのはどうだろうか」


 デュオは戻ってこない2人を思わずくっ付けて想像したが、フェルトの言う通り仕事を投げ出してまでと言うのはまず有り得なかった。

 そうなれば、戻ってこないと言うのは何か事件か事故に巻き込まれたのか。

 それともただ単に遊びほうけて時間を忘れいてるのか。


 どちらにせよ今優先されるのはブライト商会の護衛だ。

 デュオは護衛を最優先し、ウィルの事は後回しにした。


「仕方がないか。今俺達は護衛の任に付いていますからね」


 フェルトもアリッサの事を心配はしているが、護衛が優先されることに納得する。

 まずはデュオとミュウミュウが最初の護衛に付いて、ジェイクとペンテル、スティードとフェルトとローテーションを組む。


 スレイ達はすぐには心を開かないだろうが、少年少女奴隷たちに清潔な服と温かい食事を与え心を研ぎ解していく。

 デュオたちも護衛をしながらその手伝いをする。


 そうして夜が更けていった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 時間はデュオたちが宿に戻る前に遡る。


「くそ、思ったよりも人数が多いじゃないか」


 ウィルは襲い掛かる襲撃者たちを撃退しながら大通り――人気の多いところを目指して進んでいたのだが、無論襲撃者たちもそうはさせないとばかりに巧みに人を配置して更に裏路地へと追い込まれていた。


「思ったよりはこっちのセリフね。流石はA級クランかしら。これだけの人数を使っても仕留められないとはちょっと自信を失っちゃうね」


 アリッサはウィルの真正面に立っているものの、実際に襲い掛かるのは陰に隠れた冒険者たちだ。

 何処に潜んでいるのかとウィルが行く先々で現れるのだ。

 奴隷解放戦線のどれだけの人数がこの首都に来ているのだろうか。


 巧みに誘導されたウィルは袋小路に追いやられ、背後にはフェンス越しにビーストロアを分断するアローナ川が流れている。

 数日前まで天候が悪かったのか、アローナ川は今は水嵩が増し激流になっていた。


「出来ればこのまま自信を失って諦めてくれれば助かるんだが?」


「残念、それは出来ないわよ。計画の事を知っちゃあこのままにしてはおけないよ」


「はっ、言っておくがそんな杜撰な計画は失敗が目に見えているぜ」


「あら、そんなことないわよ。こっちはかなり前から用意周到に準備を進めて来たんだから。

 この町に集まる奴隷、奴隷商、町の警備、騎士団の数、宿の数と警備、護衛の冒険者等それらの情報はすべて掴んでいるわ。後は集まった全ての奴隷たちを解放するだけよ。

 これはあたし達にしかできない事なの。だから邪魔をされると困るのよ」


 ウィルはアリッサの会話を盗み聞きしただけで計画の内容を全て知っている訳ではないので、如何にも知っているかのようにカマをかけてみたのだが思ったよりもあっさり引っかかった。

 そしてその内容を聞いて流石に驚いた。


 全ての奴隷を解放する。

 言うは簡単だが、それを実行するのは殆んど不可能な話だ。


 だがアリッサの言う通り全ての情報を把握して、騎士団に匹敵するほどの大人数を投入すれば不可能ではない。


 即ち奴隷解放戦線にはそれを可能にする人数が揃っていることになる。

 国際奴隷保護法に真っ向立ち向かうテログループにそれほどの人数が揃っていることにウィルは信じられない面持ちでアリッサ達を睨んでいた。


 計画が実行されれば奴隷商だけではなく、何の関係も無い大勢の住民も巻き込まれることになる。

 ここは何としても逃げ延びてこの事を獣人王国の騎士団に連絡を取らなければならない。

 ウィルは覚悟を決めて正面突破を試みようとオリハルコンのバスターソードを強く握りしめる。


「へぇ、ヤル気みたいね。さっきまでの逃げ腰とはちょっと違うみたい。いいわよ、あたしが直々に相手して上げるわ」


 アリッサは抜き放ったショートソードを逆手に持ち小刻みにリズムを取りながらタイミングを伺う。

 そうしてアリッサは自分に意識を向けさせておいて上から弓道士(アーチャー)による狙撃を命じる。


 ウィルはそれを体半身ずらすことで避け、同時に腰から抜き放ったダガーをアリッサに向けて投擲する。

 アリッサは狙撃が避けられることを想定していたので慌てることなくダガーを弾く。

 それと同時に目の前に迫っていたウィルの剣を隠し持っていたショートソードで防いだ。


「ちぃ! お前もしかして暗殺者(アサシン)か!?」


 防がれたことはそれほど驚かなかったが、アリッサが何もないところからショートソードを取り出したことに驚いた。

 盗賊(シーフ)もその器用さから突然手に獲物を携えることはあるが、アリッサのそれは遥かに群を抜いており、且つその戦闘力からウィルは暗殺者(アサシン)だと予想した。


「ご名答。暗殺者(アサシン)が真正面から挑むのは愚策なんだけどね。元シクレット暗殺者ギルド・サブマスターに殺されるのを誇りに思いなさい」


「ちょっ、マジかよ・・・なんで元暗殺者ギルドのサブマスターがこんなことをやっているんだよ・・・」


「あら、女には色々あるのよ」


 ウィルは呆れと驚きが入り混じった表情でアリッサを見る。

 これまで奴隷解放戦線のリーダーや幹部の情報が出てこなかったのもアリッサが裏で情報操作をしていたからだと判断した。

 元暗殺者ギルドのサブマスターであればそれくらいは朝飯前だろう。

 無論、アリッサは全てを語る気はないようでウィルの質問にはあっさりと流す。


 お互いに軽口を言い合いながらも2人は切り結ぶ。

 その合間合間にアリッサの仲間が攻撃をするが、ウィルはそれを紙一重で避け続ける。


「・・・ちょっと、どんな化け物よ。このあたしや仲間の攻撃をこうも躱すなんて普通じゃないわよ」


 流石にこれほど長く自分の攻撃を躱し続けるウィルにアリッサは奇異の目を向けた。

 アリッサの仲間も決して腕が悪いわけじゃない。冒険者ランクで言えばB級上位とも言える集団だ。

 それをこれまでの追跡やこの場での追込みにも拘らずウィルは紙一重で避け続けているのだ。


「こっちは最強の剣士と最強の魔法使いに訓練を受けているんでね。お前らごときじゃ掠るのが精一杯だろうよ」


 ウィルの挑発を受けたアリッサの仲間が指示を無視して影から迫るように剣を突き刺す。

 暗殺者(アサシン)の如きその一撃をウィルは少し後ろに引いて躱して剣を突き立てる。

 そしてそのまま男の影に隠れるように剣を突き刺したままアリッサに向かって突進(チャージ)を掛ける。


「ソードリニアー!」


 男越しに剣戦技の突き技が刺さる手ごたえを感じてそのまま振り抜くが、男の向こう側に居たのはアリッサではなく、別の男だった。


「残念♪」


 気が付けばウィルの死角にアリッサが居た。

 アリッサはそのまま逆袈裟で×字にショートソードを振るう。


「クロスエクスエッジ!」


 ウィルは咄嗟に下がるもアリッサの放つ短剣戦技がウィルの革鎧を斬り裂いて十字の傷跡を付ける。

 更なる追撃を掛けるアリッサから逃れるように連続バックステップで下がるも、その背後にはフェンスに塞がれて攻撃を躱しきれなかった。


「がっ!」


 左腕と右足に更なる傷を付けられウィルはフェンスを背に追い込まれていた。


「これで終わりね」


「それはどうかな?」


 ジャリィン!


 止めを刺そうとするアリッサにウィルは意味ありげに言い、背中のフェンスを斬り裂いてフェンスごと激流の川に落ちて行った。


 アリッサは下手に追いかけず、ウィルが川に完全に飲まれるのを確認してから川の様子を伺う。


「ふぅん、思い切った逃げ方をしたわね。この荒れた川に落ちたら助かる見込みは低いけど、万一の可能性に賭けたのかしら。

 まぁいいわ。あたしはこのまま計画の実行に移るから、2名ほどウィルの捜索にあたって頂戴。生きていたら完全に止めを刺して。

 それとペンテルは宿に戻ってフェルト達に連絡を。あとはあたしとウィルの事を上手く言っておいて」


「貴女ともあろうものが獲物を逃がすとは珍しいですね。まぁ良いでしょう。彼もあれほど傷ついていれば例え助かったとしても思ったようには動けないはずです」


 一番後ろで事の成り行きを見守っていたペンテルはアリッサの言う通り計画を遂行する為、宿へと戻っていく。

 他の仲間はウィルに斬られた男を痕跡を残さないようにして処理していた。

 そんな仲間たちを見ながらアリッサは口元を釣り上げて獰猛な笑みを浮かべながら呟く。


「さぁて、祭りが始まるわよ。奴隷解放と言う名の祭りがね」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 デュオは唐突に目を覚ました。

 首筋に冷たい気配が流れ思わず目が覚めたのだ。


 今は真夜中でもう数時間もすれば夜が明ける時間だ。

 デュオは何やら嫌な予感がして部屋の外へと出る。


 今の時間だと護衛はフェルトとスティードで、依頼主の部屋の前に2人は佇んでいた。


 部屋は3つの大部屋借りており、一部屋にはスレイと従者1人と4人の少年奴隷、もう一部屋にはアイヒと従者1人と3人の少女奴隷、最後の一部屋には護衛の冒険者――デュオたちが詰めていた。


「あれ? デュオさん、どうしたんですか?」


「何か変わったことは無い?」


「いえ、何も無いですよ」


 デュオは何やら不穏な空気を感じ周囲を警戒しながらスティードに様子を伺ったが、どうやら何も無いようで返ってきた答えは異常なしだった。


「どうしたんだい? 何やら顔色が良くないみたいだけど」


「ええ、ちょっと嫌な感じがしてね。夢見でも悪かったのかしら」


 フェルトがこちらを心配して声をかけて来るが、デュオは大丈夫だと返すものの何かがおかしいと警戒を緩めなかった。


「まだ夜が明けるまで時間があるからもう一眠りしたらどうだい? 何だったら店主に言って温かいミルクでも貰ってこようか?」


「ありがとう。でも大丈夫よ。ちょっと気になって起きただけだから。

 そうそう、今の時間が一番警戒が緩む時間だから油断しないようにね」


 デュオはフェルトにお礼を言ってスティードに一言注意を呼び掛けてから部屋に戻ろうとした。

 そこで自分たちが泊まっている部屋にミュウミュウ以外居なかった事に気が付いた。


 その時、部屋の外に2つの気配が生まれた。

 正確にはデュオには2つの魔力が感じられた。


 スレイとアイヒが寝ているそれぞれの部屋に窓をけ破って外から侵入者が入り込んだのだ。


「スティード! フェルト! スレイ会長の方を!」


 デュオはそう言いながらアイヒの居る方の部屋へ向かう。

 無論2人も窓をけ破る音を聞いて直さま反応し、スレイの居る部屋へと駆込む。


 デュオがアイヒの居る部屋へ突入するとそこには黒ずくめの男が今まさに凶刃をアイヒに振り下そうとしていた。


「エアスラッシュ!」


 デュオは夢幻想波流により杖で剣戦技のエアスラッシュを放ち襲い掛かろうとしていた男を吹き飛ばす。

 アイヒも賊の侵入に目を覚ましており、男が吹き飛ばされると同時にシーツを持って捕縛する。


「にゃ! なにごとにゃ!?」


 丁度その時騒ぎで目を覚ましたミュウミュウが部屋へ駆け寄って来た。


「ミュウミュウ、その男を縛り上げておいて。

 アイヒさん、大丈夫ですか?」


「ええ、デュオさんのお蔭で間一髪でした」


 そう言いながらアイヒは騒ぎで目を覚ました少女奴隷たちを落ち着かせていた。

 そして隣の部屋ではまだ戦闘が続いているらしく、スティードの声が聞こえてくる。


「ミュウミュウ、この部屋は任せたわよ!」


 まだ暴れようとする賊を杖で思いっきり殴り黙らせ、ミュウミュウにアイヒ達の事は任せ隣部屋へと向かった。


 そこには奇妙は光景が広がっていた。


 窓際には黒ずくめの男が、それに立ち向かう様にスティード、そしてその背にはスレイや少年奴隷が庇われていた。

 もう1人の護衛であるフェルトは何故かスティードと向かい合っている。


「デュオさん、来ちゃだめだ!」


 そこでデュオの存在に気が付いたスティードが警告を出すも、目の前の光景により反応が一瞬遅れた。

 丁度戸口のところで武器を構えていたフェルトはデュオが現れると同時にデュオに向かってその刀を振り抜いた。


 デュオは辛うじて杖を盾にして直撃を防ぐも、フェルトの刀はデュオの脇腹を斬り裂いていた。


「流石はデュオだね。僕の不意の一撃を防ぐとは」


「・・・どういう事か説明してもらえるかしら?」


 デュオは脇腹を抑えながらフェルトへと責めるように問いかける。

 その間にもデュオは卵の十冠(デケム・オーブマ)を使い、チャージしてあるヒールで脇腹の傷を治す。


「どうもこうも、見たままだね。内部から手引きして侵入者を呼び込みスレイ会長を襲っている」


「だから何故そんな事をしているのか聞いているのよ。

 貴方は『勇者』じゃなかったの? 貴方の言う『勇者』はこんな真似をするの?」


 はぐらかす様なフェルトにデュオは更に言葉を強め問い詰める。

 そんなデュオにフェルトは少し自嘲気味に答えた。


「あー、『勇者』ね。確かに僕は周囲の人からは『勇者』って呼ばれているね。

 ただその周囲の人って言うのは普通の一般市民じゃないんだよ。僕を『勇者』と呼ぶ人たちは皆奴隷なんだ。つまり奴隷にとっての『勇者』。

 僕は奴隷化法戦線のリーダー、『奴隷勇者』のフェルトなんだよ」









次回更新は10/28になります。

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